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8)見解の相違

周りの近衛兵達が、ロバートを呆れたようにみていた。

「お前、周りの視線に気づいているか」

「殺意をお持ちではありませんが」

アレキサンダーの言葉をはぐらかすようなロバートに、アレキサンダーは苛立った。

「当然だ。おい、お前、思っていることを言ってみろ」

アレキサンダーは、手近な近衛の一人を指した。

「いえ、あの」

突然指さされた近衛は慌てた。

「思っていることをおっしゃっていただいて結構ですよ。予測はつきます。先ほどのような話し合いは、さほど珍しいことではありませんので」

ロバートが穏やかにほほ笑む。その飄々とした様子に、アレキサンダーはとうとう我慢ならなくなった。

「お前、もう少し、自分自身の身も守れ」

「我々近習の役目は、お守りすべき方の盾となることです。私は職務に忠実なだけです」

「私を守って、ついでにお前自身の身も守れ」

「常に善処いたしておりますから、何とか今までこの身も持ちこたえておりますが」

「お前が死んだと思ったのは三回だが、死ぬかもしれんと思った回数は何回あると思う」

「それは私のせいではなく、そのような状況になったためです。あなたのお命を狙う方におっしゃってください」

「お前、数えていないな」

「あの、お二人とも、さすがにお声が」

ヒューバートの言葉でアレキサンダーは我に返った

「あぁ、すまない」

「お騒がせしまして、申し訳ありません」

平然とすました顔をしているロバートが、アレキサンダーはだんだん憎らしくなってきた。


「なぁ、えっと、えらいほうの兄ちゃん」

幌馬車から子供がのぞいていた。リックだ。ここで、王太子と言わないあたり、頭もよさそうだ。

「なんだ、リックか」

「え、もう名前覚えてるの」

「お前を含め、数人だ」

「すげぇ、あ、ところで、のっぽの兄ちゃんって、なんで、あんなに」

「変だろう。お前も変だと思うだろう」

アレキサンダーの言葉にリックが頷いた。子供であっても賛同者はうれしいものだ。


「ですから、私は近習です。あなたの警護も役目です」

ロバートは淡々と返す。

「でも、のっぽの兄ちゃん、リゼと婚約してるよな」

「そうですね」

「じゃあ、のっぽの兄ちゃんが死んだら、リゼが泣くぞ。かわいそうだよ」

うっすらとロバートがほほ笑んだ。


「泣かせたくはありませんが、私一人が生き残ったところで、私はあの子を守ることができません。あなたに生き残っていただければ、あなたはあの子を守ってくださる。違いますか」

ほほ笑むロバートの声は静かだった。

「あの子の命を狙うものは少なくない。今後も増えるでしょう。私では、あの子を守れない。あなたはあの子を守ることができる。せっかく婚約させていただきましたから、そう簡単に手放すつもりはありませんが。万が一のとき、あの子をよろしくお願いいたします」

「のっぽの兄ちゃん、それどういうこと」

「爵位のない私には何の権力もありません。おまけに、あの子を狙われるような方々に対抗しようと思えば、ある程度以上の爵位が必要です。私には到底無理です。万が一のとき、あの子をよろしくお願いします。その時はリック、あなたは証人になってください。この方がちゃんと、私との約束を守って、ローズを守ってくださるか見届けてください」


 ロバートは一息に言うと、軽く馬に鞭をあて、少し前に位置を変えた。近衛の一人に合図をして、先ほどまで自分がいた位置に移動させた。この話はしたくないのだろう。

「なぜ死に急ぐ」


 ロバートをつなぎとめるための枷の期限が近付いてきたとき、ちょうどローズが現れた。つなぎとめるものがほしかった。ロバートが、あの生意気な小娘の代わりに、自分をイサカの町に派遣してほしいといってきたとき、父アルフレッドが喜んだ。初めて主の側を離れることをロバートが望んだ。想い人ができたのなら、きっと生に執着してくれると父は言った。人形遊びのように、ロバートが可愛がっていた小娘が、想い人という父の言葉は信じられなかった。父の言葉通りになったときは驚いた。

 ロバートは、たった一人の乳兄弟、たった一人の腹心、数少ない率直な意見を言ってくれる者だ。 

 殿下をお守りするのが我らの務め。そういってくれるものは多い。だが、身を挺してまで本当に守ってくれるのは、いつもロバートだ。

血を吐きながら、苦痛をこらえながらも、必死で微笑み、いつも言うのだ。

「ご無事ですか」


 無事じゃない。無事なものか。たった一人の気を許せる相手を失うかもしれないという想いをかかえ、無事なわけがない。だが、それをロバートは理解しようとしてくれない。


「なぁ、えらい兄ちゃん。のっぽの兄ちゃん、なんか、大丈夫か」

リックの声に現実に引き戻された。

「お前はどう思う」

「なんか、怖い」

幌馬車の中で、子供達が頷くのが見えた。

「何とかしてあいつに、死にたくないと思わせたいが、お前はどうしたらいいと思う」

リックは首を傾げた。

「わかんねぇな。でも、死にたそうにも見えないけどな。なんか、死にたくないって思ってないというか。なんか、誰かのためならあっさり死にそうで、怖いな。リゼみたいだ」

「リゼみたいとは?」

「だって、あいつ病人看病して、自分が倒れちゃうもん。しょうがねぇよ」

「婚約者どうし、似ているということか」

「えらい兄ちゃんも、大変だね」

「全くだ」

アレキサンダーは、腕白な賛同者の言葉に大きく頷いた。


第五章もお楽しみいただけましたでしょうか。

アクセスを頂いていること、評価やブックマークもいただき、本当にありがとうございます。

大変励みになっています。


第六章も続けて連日投稿です。



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