死にたいメンヘラちゃんの救済法
「死にたい…」
自分でも引くくらいどんよりとした顔をして私はそう口にした。幼馴染のあいつは、そんな私を前にして笑ってこう言った。
「だーめ」
ちくしょう。こいつ、私がこんなに辛そうな顔をして弱音を吐いてるってのになんで慰めの言葉一つもくれないんだ。それどころか軽く笑い飛ばしやがって。悔しい。
「死にたい」ともう一度言ってみる。
「だめ」
「なんで」
彼はそうだなあ、と少し視線を上にやって考える仕草をした後、「だってまだお前テストで100点とったことないじゃん」と笑った。
へー、テストで100点取らなきゃ死んじゃいけないなんて決まりあったんだ。知らなかった。ってあるかっ、そんなの。心の中で突っ込む。
ええそうですよ、私はどうせバカですよ、赤点の申し子ですよーだ。でも、そんな風に言われて本当に100点を取らないまま死んでしまったら、あの世に行っても悔しさでまた死んでしまいそうだったから、今死ぬのはやめた。そんなに言うのなら100点取ってから死んでやろうじゃん。
その日から私は猛勉強をした。そして、その後3回目の定期テストでついに念願の100点を取ったのだった。
あいつに返却されたテスト用紙を見せびらかす。
「へえ、すごいじゃん」と驚く彼に「じゃ、今度こそ私死ぬから!」と宣言するとあいつはまた可笑しそうに笑って、だめだめ、と言う。理由を聞くと「だってお前まだ部活でスタメン入れてないじゃん」。
う、嫌なところをつく。確かに私は女子バスケ部のいわゆるシックスウーマンってやつだけども。わかった、そんなに言うならやってやるわ。スタメンだかブタメンだか知らないけど掴み取ってやる。運動神経はいい方ではなかったけど、その日から死に物狂いで苦手だったシュートを練習した。その甲斐あって、引退試合でついに私は初めてスターティングメンバーとして試合に出場できた。我ながら上出来ね。途中で足がつって交代しちゃったのは、目をつぶるとして。
「見たか!ちゃんとスタメンで出たぞ!」と応援にきてくれていたあいつにドヤ顔で報告すると、あいつは「見てた見てた」と笑った。
「じゃ、今度こそ…」
「いやいや、次は大学合格しなきゃ」
うー、学のない死人は閻魔様に嫌われるってことね。仕方ないから必死に勉強してなんとか志望の大学に合格した。なんか偶然あいつとおんなじ大学だった。キャンパスであいつに遭遇したのでアピールする。
「見たか!じゃ…」
「次はサークル入らないと」
それもそっか。社交性ないと天国でもやってけないだろうしね。
「入ったぞ!これで…」
「恋愛経験もないとなあ」
うー。正論じゃん。どうやったら彼氏ってできるんだろう。
「俺と付き合ってよ」
え、今なんて言った?
付き合うことになった。いろんなところに行って、いろんな思い出を作って、なんだかとても楽しい。時が飛ぶように過ぎていく。ある時、彼とカフェでだべりながら気づく。はっ、これでひょっとして恋愛経験もクリアしたのでは!?
「ねえ!これで恋愛経験もクリアだね!」
「そうだねえ」
気の抜けた声で彼は返事をする。相変わらずつかみどころのないやつ。
「じゃあ…」
「じゃあ、何?」
あいつは私の目の前で楽しげに私の顔を見つめている。
「えーと、じゃあ…じゃあ…」
私は一体何をしようとしてたんだっけ。目の前でニコニコしているこいつに言われるがままにがむしゃらに生きていたら、忘れちゃった。でも、まあいいか。今私はとっても幸せだから。