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化かし098 風習

 さて、天女は斃されて……。


「すっかり手柄を持って行かれちゃったね」

「うう、脱がされ損ですよ」

 消沈するミズメとオトリ。広場のすみに佇み、酒気を帯びたまま祭りの仕度をする村民たちを眺める。


 村の広場では邪仙から神木を護った英雄が称えられていた。

 英雄とは神木の枝から削り出した棒で邪仙の後頭部を殴り付けた村長のことである。

 ちなみに、村長の活躍の補助をしたということで、ふたりの名前もおまけ程度に称えられている。


「んで、あとはこいつの処遇だけど……」

 ふたりの前には、水気に霊気を通した草蔓で縛られた天女が転がっている。

 さいわい、村長の不意打ちは常人のそれであり、気絶には至らしめたものの命までは奪ってはいなかった。

 そして寛大なる村長は、村人たちが唱えた天女死刑の提案を制し、全権をふたりへ任せたのである。


「ちょっと! この蔓をほどきなさいよ!」

 天女は元気に身をよじった。


「動くと締まりますよ」

 巫女がにこりと笑う。


「本当、良い感じ!」

 一層暴れる天女。草蔓の縄が我がままな肉へ喰い込み、縄のあいだから零れた大きな乳房が苦し気に揺れている。

「黙っててください。それにしてもびっくりしました。化けじゃなくて天然でこの姿なんて。邪仙っていうから、てっきり老人の姿をしているものかと」

「今更だけど、磐梯山の邪仙も、老人なんて一言も言ってなかった気がするね」

「誰がじじばばになんて化けるもんですか! 私は永遠の若さが欲しくて仙人を目指したのよ。いいこと? 私はありがたい仙人なの! 毎日おっきくなるように胸と尻を揉み続け、もっと大きく見えるように腰は縄で絞って、余分な肉をつけないために霞だけを食べて山暮らしをする苦しい苦しい苦行を重ねたんだから!」

「何がありがたい仙人ですか。揉むと大きくなるって本当ですか?」

 オトリがなんぞ訊ねる。

 あまつさえ、天女の薄い衣を突き破らんばかりのそれを鷲づかみにした。


「確かに本物の感触。ギンレイ様のよりもすごい……」

「痛いってば!」

 声を上げる天女。

「む、濡れてます……」

 揉まれた天女の衣の胸の先っちょが湿っている。オトリはそれを指先でなぞっている。


「オトリは変態なの?」

 思わず問うミズメ。


「お乳が出るということは、お子さんがいらっしゃるんですか? 良かったですね、村長さんに殴り殺されないで済んで」

 問い掛けは無視された。

「子供なんて産むわけないじゃない。老けるわよ。これはね、仙薬の効果なの。私の調合した薬を飲めば、女らしい身体を手に入れることも、よぼよぼの爺さんの摩羅を大蛇にすることだってできるのよ」

「ふうん……。お子さんは無し、と。ご家族や恋人は?」

「居ないわよ。家族なんて百年前に年老いて死んだし、特定の男に縛られるのなんてまっぴら」

 鼻で嗤う天女。

「いないんですか。今回は未遂だったとはいえ、磐梯山(イワハシヤマ)では沼の神様を殺して呪いを撒いていますし、酌量の余地は無しですね」

 オトリは溜め息をつく。


 神木の標縄(シメナワ)に絡んだ呪いの羽衣は取り除かれ、オトリによるお祓いと彼女の髪を使った魔除けのまじないが施されている。

 大地を佑わう神木が毒の木に変ずれば、土は精霊を失い草木が死に、水も腐り果てていたであろう。

 そうすれば、その地に生きる全ての生物は破滅への道を歩むこととなる。

 私欲のために多くを害する行為は共存共栄の真逆に位置する。

 彼女を唯一無二として必要とする存在もないのなら、居なくなったほうが世のためであろう。


「うーん、死刑にしちゃおうかな?」

 オトリはちらと天女を見た。口の端が笑っている。

「ねえ、取引をしましょうよ! 仙薬をあげる! なんだったら、私みたいになれるように手伝ってあげてもいいから!」

 必死に声を上げる天女。


「……」

 ちらとオトリがこちらを見た。

「いや、駄目だよ」

「そうじゃなくって! どうやって罰するかってことです。悪者とはいえ人間出身の仙人ですし、殺してしまうわけにも、開放するわけにもいかないでしょう?」

「そーだね。それじゃ、お師匠様から貰った道具を験してみようか」


 ミズメは“どこからともなく”、“お札の束”と“こぶし大の丸い玉”を取り出した。


「そ、それで何をしようっていうの?」

「一枚は確定……っと」

 ミズメは転がった天女の衣の腹の部分を裂くと、臍の上にお札の一枚を張った。


「何を貼ったの!?」

「これはお師匠様が作った“呪詛(スソ)返りの札”だよ。これがついてる限りは邪気を扱えば全部自分に返ってくるようになる」

「ふん。こんな札、剥がしちゃえばいいじゃないの!」

「無理無理。あんたは一応は本物の仙人みたいだけど、単純な仙気や術の腕前はうちのお師匠様には遠く及ばないね」

「呪術ができなくなるだけじゃ罰として不十分ですよ」

「だから他のお札も貼り付けようと思うんだけど、どれにしようかなって」


 広げられるお札。それぞれ違った奇妙な書体の漢字が書かれている。

 霊力封印、悪霊退散、運気向上、長命祈願、安産祈願に旅の安全祈願。


「効果あるんですかね?」

「さあ? 霊力の封印は使ってるのを見たことがあるから確実だよ。札を剥がさない限り“感無し”になる」

「かなり危ない品ですね。それを貼ってしまえばいいのでは?」

「駄目だよ。こいつ、霊力を封じられたら腕の細い女だよ。そうなれば山犬一匹にも勝てないよ。山賊にでも絡まれたらおしまいだ」

「そっか。死刑と同じになっちゃいますね。それか、男の人にもっと酷い目に……」

 オトリが天女に憐憫のまなざしを向ける。


「言っとくけど、こいつにとってそれはご褒美だよ」


 ミズメは相方に天女が男どもをそれとなく誘い、村の風習を利用して快楽と精を集めた話を聞かせた。


「私も独りで旅をしてる時に、同じような目に遭いそうになったことがあります。それからは村の手助けをしても、野宿をするか結界を張るようにしていました」

 オトリは表情を昏くする。

「いくら、この人が愉しんでいたからって……。この村のかたのこと、見損ないました」


「村の風習だからね。よそとの交流が少ない村が旅人をもてなして囲い込むのは村を存続させるためだ。やめさせようなんて考えたら駄目だよ」

「知ってますけど。好かないなあ」

「オトリの里にもあって不思議じゃないんだけどね」

「ありませんよ、そんなもの。男女の袖交わしは愛情の上にあって然るべきものです。うちの里じゃそんなことをしたらミナカミ様に消し炭にされますよ」

「よくそれで里を続けられたね」

「そこはミナカミ様の力ですよ。うちの里は霧が護っていますし、親戚で結婚しても赤ちゃんは絶対に健康に産まれてきます。よそでは、そうじゃないようですけど。善行で一番つらいのは、お産のお手伝いです。時間も掛かりますし、場の空気に中てられそうになりますし、ちゃんと産まれてくれないことだって多い……」

 失敗を反芻してか、更に表情を落とすオトリ。


「ふん、子供なんて産まないほうが良いって。産んで老けて育てて老けて。たまったもんじゃないわ! ところであなたたち、私のことを忘れてない? ほっとかれて悦ぶたちじゃないんだけど!」

 天女が声を上げた。


「忘れてました。そっちの玉は何に使う物なんですか?」

 オトリが指差す玉は紙で覆われており、何やら紐のようなものが一本出ている。

「練丹術で作った物らしいんだけど。なんかね、こっちの札を紐にこすりつけると火が点くんだって。その火が紐を伝って玉まで届くと面白いことが起こるって」

「面白いこと? それじゃあ、罰にはならないでしょうか」


「ちょっと……それは絶対に使わないでよ」

 天女の声が震える。顔まで青ざめ、芋虫のように身体をよじって離れようとまでしている。


「こら、逃げちゃ駄目ですよ。そんなにいやなら、これにしてあげます」

 オトリは玉を手に取ると、火が点くという札を玉から伸びた紐に擦りつけた。


 すると、紐が火花をあげ始めた。小さな火は徐々に玉へと向かってゆく。


「なんで火をつけたの!?」

 天女が一層烈しく身をよじる。


「立場を分かっていらっしゃらないようですね」

 オトリは玉を手の中で弄びながらご機嫌だ。


「馬鹿っ! それをすぐに捨てなさい!」

 天女が怒鳴る。怒りの気に反応したか、天女の腹に貼られた札の文字が赤く光った。

 天女の顔が青ざめ苦悶に歪み、玉のような汗が額に浮かび上がった。


「早速、ばちが当たりましたね」

 オトリは鼻で嗤う。


「いいから捨てて! 誰も居ないほうに向かって投げて!!」

 再度、怒鳴る天女。札もまた反応を示し、今度は胃液を吐き出させた。


「オトリ、貸せ!」

 ミズメはオトリの手から玉を奪うと、空へ向かって放り投げた。更に、速攻で風術を繰り、少しでも離すように努める。


 玉が舞い上がった刹那、それは轟音と共に爆ぜた。


「な、なにこれ……」

 青くなるオトリ。


「火薬玉、“爆弾(バクダン)”ってやつよ。火が点いたら一気に燃えて破裂するの。書物で見たことがあるわ。震旦では採掘やいくさに使われてるそうよ」

 解説をする天女は、口の端から胃液を垂らし苦しげである。


「なんてもんを説明足らずで渡すんだ!」

 月山の師匠に向かって苦情を叫ぶミズメ。

 物音に驚いてか、村民とクマヌシが駆け付けた。ミズメは邪仙が暴れただけだから気にしないでくれと言い訳をした。


「……」

 オトリはじっと天女を見つめている。

「ありがとうございました。助かりました。でも、それとこれとは別です」

 そう言うとお札の束へと向き直った。天女は鼻で返事をした。


「どのお札を貼りましょうか? 御利益のあるもののほうが多くて、あまり使えそうもありませんね」

「そもそも失敗作も多いからね。この辺の吉事を祈願するお札なんか、効果が疑わしいうえに貼った人にしか剥がせないらしい」

「なんでそんな物を……。そうだ、天女さん。霞だけ食べて山籠もりをしたって本当ですか?」

「本当よ。肉は勿論、穀物も木の実も水も無し。口から吸った山の水気と霊気だけで生きるの。だから、出るものも何も出なくなるわよ」

「それを聞いて安心しました。ミズメさん、罰を決めました。このお札をください」


 オトリが選び取ったのは“旅の安全祈願”の札だ。


「そんなのどうするの?」

「こうするんです」

 オトリは天女の前にかがみ込むと、天女の下半身の拘束を解き、がばりとその脚を広げた。


「ちょっと、どこに貼ってるのよ!?」


「これで良し。あなたにはお食事と男性との交わりを禁止します」

 にこりと笑う。

「口でもできるわよ」

 笑い返す天女。

「じゃあ、口にも貼っておきますか?」

「風邪で鼻が詰まったら死んじゃうわよ!」


「では、余計なことはしないことですね。何かしら口にすればそのうち身体から排出されるものですから。出す部分が塞がれている以上、何かを口にすれば身体に毒が溜まって、苦しんで死にます」

 巫女の声は冷たい。

「ここから先は、あなたの行いがあなたの命運を決めます。欲に負ければ死です」

「ひ、酷い」

「酷いのはあなたのこれまでの行いです! この村では親切で終わっていますが、前に悪さをした山では神様も殺して、集落では怪我や病気による死人まででているんですよ? 生きられるだけありがたいと思いなさい!」

「何を偉そうに! ご飯も男も駄目なんて、私は不老長寿なのよ!? 退屈で死んじゃうわ!」


「だったら勝手に死ねばいいでしょう!? あなたたちみたいな人たちなんて、嫌いです!」

 声を荒げる相方。彼女は言い終えると、祭りの仕度を楽しげに続ける村民たちのほうも睨んだ。


「まあまあ、あんただって仙人の技で人助けができるんだ。他人に感謝されたり、褒められたりするのは嫌いじゃないんでしょ?」

 ミズメはふたりのあいだに入る。


「大好きよ、気持ち良いじゃない。でも、困ってる姿を見るのも好きだし、悪く言われるのはいやなのよ。だから、やりたいだけやって押し付けて、さっさとおさらばよ」

「そこは我慢しようよ。善行だけに留めておけば、褒められるだけでおしまいだ」

「そうかしらね? 騙そうって気が無くても、あっちからすり寄ってくると思うけど」

 疑う天女の貌には、僅かに憂鬱が見て取れる。

「まあね……」

 そこは否定しようがない。


「あなたには試練を課します」

 オトリが言った。


「お札を貼ったままで、これまで騙してきた人たちのもとへ謝罪と償いに行きなさい。迷惑を掛けた所は、ひとつやふたつじゃないんでしょう?」

「ほんと偉そうに。そんなことして、なんの得があるのよ?」

「お札を剥がしてあげます。あなたが来た道を戻っても善行を続けることができれば、絶対に改心します。改心すれば、お札を二枚とも剥がしてあげます」

「二枚とも? また呪術を使うわよ?」

 挑発的に笑う天女。

「陰ノ気も呪術も使いかた次第です。あなたが本当に良い心に生まれ変わることができれば、その力はきっと世の中のためにも、あなたのためにもなるはずです」


 そう言ってオトリは、天女の拘束を全て解いた。


「私を逃がすっていうの?」

「逃がすんじゃありません。罰を受けに行ってもらうんです」

「善行なんてしないで逃げちゃうかもよ?」

「ではお札はそのままですね。飲み食い無し、男性も無しで長い余生を送ってください」

「分かったわよ。褒められるだけでも無いよりましよ」

 天女は起き上がった。ただでさえいやらしい衣は破れ乱れており、事件のあとの様相となっている。


「ミズメさん、私の最初の衣を出してください」

 ミズメは“どこからともなく”、オトリが水分(ミクマリ)の旅で使っていた古びた巫女装束を取り出した。

「これに着替えてください。その恰好じゃ、男の人に襲われます」

「何この衣。酷いぼろじゃない!」

 天女が声を上げる。

「元は綺麗だったんですけどね。それのほうが修行者みたいに見えると思いますよ」

 オトリは衣を手渡す。天女はぶつくさ文句を言いながらもそれに着替えた。


「胸がきついんですけど」

「邪魔なら削いであげましょうか?」


「遠慮しておくわ」

 古びた巫女装束に着替えた天女。

 衣とはさかしまに、覗く肌や指先はうつくしく、傷一つない。


「手を出してください」

 オトリは自身の髪の毛を何本も抜くと、天女の無名指(ムメイシ)の付け根に結び付けた。

「あなたも呪術をやるの?」

 天女は結ばれた髪のにおいを嗅ぐ。

「これは陽ノ気、呪い除けのおまじないです。私に使った禁術も害意を感じましたので、今のあなたはあれも使えませんよ」

「なんでここまでしてくれるの? 敵に施しをしてるようなものじゃない」

「改心して欲しいの。旅はきっとつらいものになる。この程度でもまだ足りないくらいです。さあ、お行きなさい」


 巫女が天女の背中を押した。


「……後ろから“がつん”ってしないでよね」

「しません。さっさと行ってください」

 手で追っ払うオトリ。天女は歩き出した。


「ちょっと待ってください」


「何よ?」

 顔だけ振り返る天女。


「あなたのお名前は? 私は乙鳥です。乙女の乙に、飛ぶ鳥の鳥って書きます」


「……花子(ハナコ)よ。あんまり好きじゃないのよね、この名前」

「必ずまた会いましょうね、ハナコさん」


 ハナコは鼻を鳴らして返事をすると歩き始め、また足を止めて振り返った。


「べーだ! こんな札、なんとかして剥がしてやるんだからね!」

 舌を出し赤目を見せる天女。


 それから、大きく手足を振って猛然と走り去ってしまった。


「よかったの? あんなこと言ってるけど。本当になんとかして剥がされちゃうかもよ?」

 ミズメは訊ねる。


「そうですね。もしまた悪事をするようでしたら……」

 天女の去ったほうを見つめる横顔。



「赦さない」



 まなざしは厳しい。



――それは、どっちを?



 あえて問わず。ミズメには分かり切っていた。

 相方は女独りでの善行の旅のつらさを知る。流れの巫女の扱いも。

 ことに、悪事を働いた天女が償いとして破壊の軌跡を辿りなおすことは、地獄の責め苦に自ら足を踏み入れるようなものであろう。


 真逆の貞操観念の女に命を救われておきながら、己の善悪の答えを探る行い。

 けだしそれは、未熟な娘が己へ課した試練でもあろう。


 師が寄越したのは欠陥品の札だ。どうかすれば剥がれてしまうこともあるだろう。

 恐らくはオトリもそれを予感しているはず。

 それでも決定した彼女にミズメが最後まで反対をしなかったのは、天女の良心に賭けたからである。


 加えて……。


「へくしょん!」

 風邪のせいである。考えるのすら面倒だ。


「大丈夫ですか? 昨日より顔が赤いですよ」

「やっぱり? 自分では見えないから分かんなかった」

「早く帰りましょうよ」

「蜜を手に入れてないよ。交換用の品は一応持って来たけど、村長にたかってただで貰おう。それに、お祭りだってこれからだ」

「クマヌシさんには悪いですけど、ここの村のかたとは仲良くできそうもありません」


 オトリの視線の先には刈り入れの済んだ稲田が広がっている。

 その中心では夫婦が交わっていた。解放感を肴にした行いではなく、稲の結実と男女の行いを重ね合わせ、来年の豊穣を祈るためである。


「御神木様がお許しになっているので口は挟みませんが」

 空を見上げる巫女。


「クマヌシも苦労してるんだよ。あいつはまあ、割り切りの良いほうだし、獣だから人の習わしに文句はつけない姿勢らしいけど」

「……私も、ひとから見たら変なのかな」

 呟き。


「そうかも。かなりの変わり者だと思うね」

「もう、そこは否定して励ましてくださいよ」

 口を尖らせる相方。


「あたしはそんなところが好きだけどねえ」

 ミズメは笑い掛ける。返されるは赤面。


「ひとのやりかたってのは、そのひとのためにあるもんだ。それは他人にとって都合が悪いことかもしれない。でも、逆に都合が良いことだってあるさ。ここの風習も、悪いことばかりじゃないよ。オトリにもきっと気に入るものがあるよ」


 ミズメは相方の手を引いた。


「変なことに巻き込まれないといいですけど……」

「ここの祭りは、あとは芋煮会をして餅を食べておしまい! 美味しいところだけ貰ってくよ!」

「うーん、それならよし! 行きましょう!」


 娘たちは手を繋ぎ、祭りで盛り上がる人々のほうへ駆け出した。

 秋の田を駆ける上風軽やかに、聞こえて来るは冬の足音。


*****

無名指(ムメイシ)……薬指。

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