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化かし096 天女

 昼前。ふたりは月山の高原を出立した。


「下りは楽で良いや」

「ミズメさん独りなら上りも楽でしょうけどね」


 天狗たる娘は自前の翼がある。

 一方で人間の水術師は山の水で編んだ羽衣を身につけて浮かんでいた。

 並翔するミズメが風の術を繰って相方を運び、ふたり揃って地形を無視しての下山である。


「翼があるつもりで水術をやってくれれば、あたしが運んであげれるんだけど」

「上手くいったのはあれ一回だけでしたね」

 オトリが水術による肉体強化を“想像の翼”へ行い、それをミズメが真似をすれば力強く羽ばたける。

 常用できれば便利であったため、彁島(・シマ)での使用以降も何度か験していたが再現はできていなかった。


「それにしても、空って寒い……くしゅん!」

 相方が“くさめ”をする。

「だから冬場はあんまり出掛けないんだよね。どこかに籠ってるか温泉でふやけてる」

「良いですね。私もふやけたい」

「今朝も二度も入ったんでしょ?」

「ずっとふやけていたい……くしゅん!」

「オトリも風邪?」

「引きそうです。もう少し下を飛べませんか?」

「自然の風を利用できないと、あたしじゃ長距離は運べないよ。羽ばたくのも疲れるし……っくし!」


 ついうっかり。くさめの衝撃で相方を運ぶ風の操作が切れた。


「あ、あのなんか流されて……落ちていってませんか?」

「うん。くしゃみしたらずれた」

「肝が冷えるのでやめてくださいね」

「生理現象だよ。っていうか、オトリのほうも術を切らしたらそのまま真っ逆さまでしょ」

「その時はちゃんと捕まえてくださいね。落ちたら死んじゃうので」

「落っこちてるのを捕まえたら肩が外れて翼も折れるんじゃないかな」

「あとで治してあげるので!」

「治されても痛いのは変わらないし」

「慣れですよ、慣れ」

「痛いのは生理現象だって。オトリこそ高いところを飛ぶの慣れてよ」

「寒いのだって生理現象ですよ……へっ、へっ……」


「「へくしゅん!!」」


 ふたり揃って盛大にかます。

 ミズメが目を開けると相方の姿が消えていた。



 さて、辛くも麓の人里へ降りるふたり。穴熊の男覡“クマヌシ”を訪ねて神木を祀る村へ。


 下降する姿を捉えたか、数人の村民がこちらへと駆けて来る。

「人が集まって来ましたよ」

「“天狗”や“鳥人”は珍しくないけど、オトリみたいなのは珍しかったのかもね」

「髪の毛が……」

 オトリは慌てて乱れた髪を整えている。


「あたしはご存知、天狗の水目桜月鳥」

 村民へと挨拶をする。

「なんじゃ。噂の鳥娘な。またおひゃらがしに来たんでねが?」

 相変わらずクマヌシとの不仲時代の風評が残っているらしい。

「化かしたりしないって。こっちはあたしの相方のオトリ。前に一度来てると思うけど」

天女(テンニョ)のオトリです」

 オトリが何か言った。彼女はいまだに水の羽衣をくっつけたままだ。

「ありゃ、ミズメさんはともかく……、天女さんは“違う天女さん”だっげ」

 ほかの村民が首を傾げる。

「違う天女?」

「ほんだじぇ。クマヌシ様はまだ帰らんが? よぼ良い天女様と出てっだんだげど」

 村民は心配顔だ。彼らは口々に天女がどうしたとか、クマヌシがどうしたと言い合っている。


 村民たちに話を聞く。


 つい数日前、この村に天女が現れたらしい。

 天女は今のオトリと同様に天からふわふわと降りて来た。

 その容姿は形容しがたいほどの美女で、長く艶やかな黒髪を持ち、身につけた羽衣も着物も美しく、彼女の歩く後の空気を吸えば幸せになるほどの芳香がするので、村の男たちは鼻の下を伸ばして彼女のあとを付いて回った。

 そして天女はそれを咎めず、物腰柔らかく親切にした。

 更に不思議な術を持っており、その術をもって村人へ数々の施しまで行ったのだ。

 そうして天女は一日のうちに村に溶け込み、この村の祀る神木の根元に住む男覡クマヌシにも認められた。


「私にそっくりだ……」

 オトリが何か言った。


 ところが事態は一変。天女が川で水浴びをしているあいだに、何者かが彼女の羽衣を偸んでしまったのである。

 天女はそれで表立って怒ることはなかったものの、羽衣がないと天に帰れないらしく、男覡のクマヌシに相談をした。

 巫覡であれば、お祓いや失せもの探しに通じているのが常だ。穴熊の物ノ怪出身のクマヌシもまた同様で、正義の精神も持ち合わせている。

 村のそばを流れる川で盗まれたのだから、下手人(ゲシニン)は恐らく村民。彼は平謝りに謝り、失われた羽衣を探して卜占やら聞き込みやらを験した。

 しかし、盗人(ヌスビト)は見つからず、失せものも見つからず。


 天女はさめざめと泣き始めてしまった。

「恐らく偸まれたというのは勘違いで、風に飛ばされてしまったのでしょう。村の皆さんを疑って申し訳ありませんでした」

 慎み深さここに極まり。天女は村で暮らし、骨を埋める覚悟だを決めたのだそうだ。

「いやいや。それなら風下のほうを探してみましょう。(オロシ)は常々吹いていますから、少し遠い場所も探しましょう」

 ここで諦めては村の神木の使いの名折れ。クマヌシは天女を伴って羽衣を探しに村を出て行った。


 という具合である。


 それからすでに二日が経過していた。

 クマヌシが所用で村を空けることは珍しくないが、先日に荘園や村の田んぼでの稲の収穫が終わったために、村を佑わう神木へ感謝を捧げる祭りを執り行いたいらしい。

 祭りの音頭を取るのは無論、神職に就く者である。

 村民たちは祭りが行えず、クマヌシの帰りを首を長くして待っているのであった。


「ふうん。これは怪しいですね、ミズメさん」

 オトリは何やら、誰も居ないほうを馬鹿にしたような目で見て鼻を鳴らす。


「天女が怪しい、か……」

 ミズメは曲げた人差し指を強く噛んだ。

 それ自体は妖しげな存在であることは間違いない。

 天女。天界に住むという天人の女で、仙人よりも格上とされている存在である。

 自身が遭遇したのは初めてであったが、天人が気まぐれで地上に降り立ち、性分に従って奔放に行動する話は珍しくない。

 それが行き過ぎて村人が骨抜きになるだの、邪淫の限りを尽くすだのも聞いた話であるが、この村にその様子はない。

 あるのは親切と裏切りに対するクマヌシの申し訳なさだけ。


 仮に悪意のある存在だとして、まず疑われるのは狐狸。

 狐狸のたぐいが人間を化かすさいに美麗な容姿を利用するのは常套の手である。

 だが、そういった術に頼る狐狸の霊力は長続きするものではなく、それを行えるほどの存在なら仙狐級であり、そうなればこんな辺鄙な寒村ではなく、都でも狙うであろう。

 そもそもクマヌシは霊力のある巫覡で、化かしにも通じた穴熊の物ノ怪である。同類を見抜けぬとは思えない。

 

 次に鬼。鬼は隠遁隠蔽に優れるために、術の達人すらもその存在に気付かないことも多い。

 しかし目的に対して実直であり、天女の行動と釣り合わない。


「ミズメさん。分かってるんじゃないんですか? 私はもう、分かっていますよ」

「そうだね……」


 これは、くだんの邪仙の仕業であろう。

 神殺しや神喰いの行いに値するほどの神威を持った神はこのあたりには居ない。

 この村の神木に宿るのも、神か精霊か曖昧な程度の稜威なる存在である。


 だが、邪仙は人か、人を越えた知能と欲求を供えた存在。効率だけで行動はしない。

 まずは仕事に邪魔なクマヌシを村から引き離し、あるいは殺し、それからじっくりと神木に宿るものを奪うだろう。

 力づくでも容易くやれるはずであるが、村民や物ノ怪の男覡の心を掌握する行為が魅力的であるのはミズメでさえも否むことができない。

 直接的な脅威よりも、村の要人の失踪や、密やかに行われる神を(シイ)する行為に右往左往するさまを眺めるのが愉しいのだ。

 不気味なほどの親切と低姿勢も説明がつく。それらの布石であり、その行い自体が愉しいのである。

 騙しを嗜む性分であれば、本目的から逸れようとも非効率でも、快楽を優先して不思議ではない。

 あるいは、この地がミズメにゆかりのある地だと見抜いているのやも知れぬ。


 ミズメが真っ先に疑うべき要素であるはずのところを相方に促されるまで思い消していたのは、矢張り自身の失態から繋がる邪仙の行為に、己の旧知の友人の命が奪われたであろうことを直視しない目的があった。


――もう二日。手遅れだ。


「ミズメさん……。絶対に捕まえましょうね」

 憐憫の目。それから巫女に似つかわしくない幽かな陰ノ気。

「化けの皮を剥いでやりましょう。きっと美人だなんて嘘ですよ。その下はきっとお猿に似たぶさいくですよ」

 少しおどけた物言い。彼女なりの励ましなのだ。

 これまでミズメがしてやった励ましを模倣してくれているのだ。


「ありがとう、オトリ。絶対、仇を討つよ」

 相方の手を取るミズメ。


「ミズメさん、あれ……」

 指をさす相方。その視線は険しい。さては邪仙か。



「ややっ、あなたはおいらが親友水目桜月鳥! お久しぶりです! 神木の根元に棲む穴熊男覡のクマヌシでございます! 一年から引くことのお月さん半欠けぶりですねえ!」



「生きてるじゃん!」

 ミズメは元気に駆けて来る穴熊へ突っ込みを入れた。


「はあ……? 生きてますけども。冬眠は仮死状態ともいえますが。それにしても良かった。今年はもう会えないかと思っていたんですよ。村のお祭りが終わったらおいらは子供たちと冬眠の準備に入りますから。しかしそれも今回は遅らせねばならないかもしれません。じつは、村に非常にありがたい天人様がお遊びにいらしていまして、それは良かったのですが天人様にとても残念なことが降り掛かってしまいまして……」


 まくしたてるように早口の人語を話す穴熊。

 彼は村人から聞いたものと同じ事情と、探索で収穫を得られなかったことを話した。


「……というわけで、一旦切り上げて帰って来た訳です。こちらがその天人様でございます」

 二本足で立ち上がり、前足を振り振り連れ合いを紹介する。


「紹介に与りました天女でございます」

 澄まし顔で頭を下げるのは美女。


 これがくだんの天女であろうか。背が高く、肌は雪のごとき白。長く美しい黒髪は高い位置でひとつ結びにされている。

 肩は強く抱けば砕けそうなほど弱々しく、それに重たそうにぶら下がるふたつの房に、縄で締め上げたかのごとくの腰のくびれ。

 羽衣は話の通り失われたままらしいが、まとった衣は絹に似てなめらかに輝き、不思議なことに半透明に透けて隠すべき身体の全ての陰影を曝け出す妖艶なうつくしさを持つ品であった。

 無論、彼女からは人ならざる者の気配……それも神聖な、神気や仙気に類するものも感じられる。

 更に、そよ風に乗って流れてくる彼女の香りは、春の野山と都の貴人の焚く香を混ぜ、それに昨晩の師の肌を伝う淫靡な……。


「胡散くさっ」

 オトリが何ごとか呟いた。


「えーっと、こちらのかたは確か、おいらの友人ミズメの友人巫女のオトリさんですね?」

「はい。クマヌシさん、お久しぶりです。ところで、こちらのかたはなんですか?」

 クマヌシに礼をし、横に立つ天女を指差すオトリ。その声は低い。


「今ご紹介した通りの天人様でございますよ。羽衣を失くされて天に帰れず困っておられるのです。おいらは失せもの探しの卜占には自信があったのですが、残念なことに力及ばず。宜しければ巫女のオトリさんも卜占で彼女の羽衣をお探しになっていただけないでしょうか? おいらが験したのは“小枝倒し”と“花びら占い”と……」

 またも始まる長口上。


「ああっ!?」

 それを遮る、雲雀(ヒバリ)のような声。

 天女である。彼女は自身を指差すオトリを同じく指し返していた。


「その羽衣は、私の羽衣ではありませんか!」


「はあ!?」

 オトリは声を上げる。

「これはただの水ですよ。私が水術で風を抱きやすい形にしただけです!」

 オトリがそう言うと羽衣はたちまちただの水へと変じて地面へと零れ落ちた。


「ああっ! 私の羽衣が!」「天女様の羽衣が!」

 悲鳴を上げる天女。ついでに見物していた村の者たちも同様に声を上げた。


「勘違いだよ。これはオトリが作ったもので、天女さんのものじゃないよ」

「そんなはずはありません! 私の羽衣も天帝様から授かったありがたい品で、水で織られているのです。地上の穢れた人間が(イタズラ)に身にまとったせいで、ばらばらにほどけてしまったのでしょう」

 天女はそう言うと、薄い衣の袖で顔を覆って泣き始めてしまった。


「しくしく……」

「誰が穢れてるですって?」

 疑われたオトリは瞼を半分降ろして睨んでいる。


「ミズメさん。この人、怪しいですよ」

 耳元で囁かれる。

「でも、ちょっと妙だ。ヒサギの姿が見えないし、あたしを見つけたら真っ先に逃げそうなものだけど」

 同じく耳元で囁き返す。

「ヒサギさん? なんでヒサギさんが?」

「あいつは邪仙でしょ?」

「あ、ああ。言われてみればそうかも知れませんね」

「へっ……?」

 想定外の返事と風邪のせいで、喉が張りつき思わず咳き込んでしまう。


「ちょっと! 耳元で咳をしないでください!」

「ごめんて」

 手を合わせ咳払いひとつ。


「羽衣、返してください……。クマヌシ様、盗人(ヌスビト)を懲らしめになってくださいまし……」

「私、ひとの物を盗ったりなんかしません!」


 相方はもう完全に天女へ睨視を向けている。

 敵意も敵意であるが、どうも普段悪鬼悪霊に向けているものとは少々異質な気がした。

 若干、気に邪気が混じっている気がする。


――邪仙だと疑ってたんじゃなくって、単に見てくれが綺麗だから妬んでたのか。

 ミズメはがっくりと肩を落とした。


「しくしく、天に帰れない。この人たちのせいで帰れない……」

「しれっとあたしまで混ぜないでよ。あんたちょっと怪しいよ。名前と出身地を教えて。それから正体も」

 早速、踏み込んだ質問を投げ掛ける。


「しょ、正体?」

 天女を名乗る女は半歩後ずさった。顔に涙のすじは見当たらない。


「名前と出身地。私は紀伊国の霧の隠れ里出身の巫女の乙鳥です。乙女の乙に飛ぶ鳥の鳥!」

 詰め寄るオトリ。


「て、天帝様から名乗ることは禁止されておりますので……」

 首を縮め目を潤ませる天女。


「天女様が虐められとる!」

「偽もんの天女はむごうにえがっしゃ!」

 村民たちから文句が出始めた。


「そんな! 私なにも悪いことしてませんよ! 羽衣だって私が出したものなんですから!」

 地面に落ちた水気から再び羽衣を作り出すオトリ。

「返して!」

「どうぞ!」

 羽衣がオトリから天女の手に渡ると、それは水に変じてしまった。

 ただでさえ生地の薄い衣が濡れて透けて全てを曝け出し、見物している男たちに溜め息をつかせた。

「ああん、びしょ濡れ。美女がびじょびじょです……」

 天女が何か言う。どこかで見た乗りである。


『なあ、クマヌシ。オトリは嘘をついてないし。あたしも天女は怪しいと思うよ。村にも無償で親切をしてくれたんだろうけど、何か裏があるかもよ』

 穴熊に音術で声を密かに届ける。

『おいらも疑ったんですけどね。村の外で何か仕掛けて来るかと思ったのですが、特に何もなさりませんでした。何も悪さをしない上に、何日も掛けて何人も騙し続けるなんて狐狸のできることじゃありませんよ。そんな腕前の持ち主が、こんな大したものもない村に来るのも分かりませんし、これは本物の天人様の気紛れではないかと』

 穴熊の音術が返される。どうやら村の男覡も疑いはしたようだ。


「何が美女ですか。化けているんでしょう、その姿に!」

「この身体は自前のものです! あなたこそ狸が化けてるんじゃないですか!?」

 言い争うふたり。


「ふーん……」

 ミズメは推理をする。邪仙であるかどうかはおいて、こいつは怪しい。

 気配も神仙のたぐいである以上、常人ではない。

 今のところは村に害を為す行為はないようだが、露骨なオトリへの言いがかりと、一瞬見せた冗談が気に掛かる。

 他人様(・・・)に迷惑を掛けない範囲でこのようにふざけるような存在、それは……。


「さてはお師匠様でしょ!」

 ミズメは“どこからともなく”錫杖を取り出した。

 勘が外れたとしても、何かが化けているなら気絶させれば暴くに手っ取り早い。

 いやはや、水目桜月鳥は賢い。先の沼の精霊の件からも学習をしていた。


「それ、貸してください!」

 ミズメの手から錫杖が消える。

「正体を現しなさい!」

 錫杖を振りかざすオトリ。流石は相方。以心伝心である。


 がつんと一発。遊環(ユカン)の束が天女の脳天に炸裂した。


「いたぁーい!」

 天女は悲鳴を上げ、涙目で頭を押さえてしゃがみ込んだ。

 姿は変じず。気配も揺るがず。


「なんてことをなさるんですか!?」

 クマヌシが声を上げた。


「あれっ、正体を現さない!?」

「気絶させないと。打ちどころが悪かったんだよ。あたしに貸して」

「いやです! 私にやらせてください! このやろ! このやろ! このやろ!」

「あんっ! いたいっ! いやんっ!」

 再三どつかれる天女。


「こんままじゃ天女様がめじょけねえ、クマヌシ様! この悪巫女と鳥娘を懲らしめてやってけろ!」

 懇願する村民。数名はすでにオトリを取り押さえに掛かっている。

「クマヌシ、皆に言ってやってよ。おかしいのはあいつだって! オトリの羽衣は言いがかりだ。あたしたちを追い出したがってるのが妙だよ」

「おかしいのはおめえらの頭だ! この盗人娘!」

「そりゃ昔の話だって! あたしはクマヌシの友達だよ!」


「いやーん、皆さん助けてください! この人たちこわーい!」

 天女は半笑いである。

「ちょっと、触らないでください! クマヌシさん、この人たちを止めて!」

 オトリは村民たちから逃げ回っている。


「え、ええと。そんなことを申されましても……」

 目を白黒させるクマヌシ。


「分かった。クマヌシにも立場があるもんね。こうなったら……」

「何か良い手が!?」


「逃げるよ!」

「えーっ!」

「あたしたちの負けだよ! 尻尾を巻いて逃げることにしよう!」

 大きな声で負けの宣言。

 それから駆け出し、オトリの手を取るミズメ。


「何かやってから現場を抑えるしかないよ」

 耳打ちをする。


「分かりました……。この、覚えてろよ!」

 振り向き天女を指差すオトリ。


 ふたりは水術の早駆けで遁走する。


「さようなら~、悪い巫女と物ノ怪さん」

 ちらと振り返れば、にこにこを手を振る天女。


「ちぇっ、絶対に一泡吹かせてやるぞ」

「ぜーったいに化けの皮を剥いでやりましょう!」

 ふたり揃って舌打ちをする。


 さてはて、天女の目的と正体はいかに。


*****

おひゃらがす……からかう。

ほんだじぇ……そうだよ。

よぼ良い……よぼは容貌。顔が良いや美人の意。

むごうにえがっしゃ……あっちいけ。

めじょけねえ……可哀想。

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