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化かし043 拒絶

 山城国(ヤマシロノクニ)が平安京を出立し、南海道を辿って河内国(カワチノクニ)を南へ。

 生駒山脈を東へ横断して大和国(ヤマトノクニ)へ。

 この近隣には奈良の時代の旧式の結界が生き残っているらしく、大結界からは範囲外となる。

 効力は肌で差を感じるほどに微弱であったが、人々も魔物も興味がないのか、かつての首都であった南都は魔都とは打って変わって、平和な様相であった。


「都と同じくらい広いのに、人は随分と少ないですね。それに、追い掛けられない!」

 緋袴(ヒバカマ)をつまんでひらひらと振るオトリ。

「都ほど厳しくないっていうのもあるけど、けえねの神気のお陰かもしれないね」

「丈夫で汚れにくいし、旅も快適でした」

「あたしはそろそろ衣をどうにかしないとなー」


 巫女は軽快に袖を振っているが、山伏のほうはぼろぼろの泥まみれになっていた。

 都からここへ至るまでに難事が何もなかったわけではない。

 悪霊退治に山賊退治、鬼退治。

 挙句の果てに“俵藤太(タワラノトウダ)に復讐したいが道に迷ったのでとりあえず人里を襲うことにした巨大蜈蚣(ムカデ)兄弟”なるものも退治している。

 加えて、都から下流は水の状況も悪く、水分(ミクマリ)の巫女の本分である水の浄化なども繰り返し行ってきた。

 これまで以上に人々に感謝と安堵を配り歩いてきたが、呼吸や歩調の似てきたふたりにとっては、特に深く語るべき出来事でもなくなっていた。


「大和といえば南都。南都といえば東大寺。東大寺といえば盧舎那仏像(ルシャナブツゾウ)!」

「へっへっへ。楽しみです。一度見てみたかったんですよ」

 陽が沈んで深夜。娘ふたりは連れ立って東大寺へと侵入していた。

 旅で物ノ怪と連れ添い続けた弊害か、善人であったオトリも、誰かが困らなければ天狗の企みを良しとするようになっていた。


「豪華な仏様ですね。でも……」

 オトリは祓えの玉で大仏を照らしてみた。表面の金色は所々が剥げ落ち、醸される気配も体躯ほどには神聖さを感じない。

「百年くらい前かな。大きな地震があってね。一度、頭がもげちゃったんだ。そのころにはもう首都が山城に移っていたから、人手も信心も減っちゃってね。建設当初ほどの加持(カジ)は得られなくなっちゃったんだよ」

「ふうん。できた頃は立派だったんですか?」

「そりゃもうね。近付くだけで悪霊が消えてなくなるほどには。あたしも博奕(バクエキ)で大負けして心が荒んだ時は、よくお世話になったもんだよ」

 大仏を拝むミズメ。

「そんな頼りかたをしたら、ばちが当たりそうですけど」

 苦笑いするオトリ。

「でも、どうしてこんな大きな仏像を作ったんでしょうか?」

 首を傾げる。

「日ノ本が飢饉や謀反で酷く荒れていたからね。それを慮った当時のスメラギが仏の加持にあやかろうとして作らせたんだ」


 大仏の効果は抜群。全国各地から人手や材料を募って作っただけあり、都が悪鬼悪霊に悩まされることはほとんどなくなった。

 しかし、災厄は穢れや不浄だけに非ず。加持の範囲外にある田畑は相変わらず潤わず、大仏建設のために搾取された地域の人々からは反感を買った。

 結局、これで安泰とはいかず、あまつさえ人を護るために人の手で誂えられた仏は、豪族の謀反や荘民たちの叛乱などを招いてしまったのである。


「皆のためにやったことなのに、残念ですね」


 遷都し、この地は旧都となり、祀ろわなかった一族や仏門の一派は新たな都への移住を禁じられ、この地に留められた。

 野心もあったであろうが、日ノ本に仕えたはずの彼らは今もそれを恨みに思い、魔都となった地を嘲笑っているという。

 現在も力のある僧侶や貴族が多く暮らしているが、魔都の危機への助力の要請を拒絶することも珍しくない。

 むしろ、この地が新たな災禍の種となるのではないかとまで囁かれていた。


「ずっと昔のことなのに、仲良くできないのかしら」

「仏を目指してるあいだは所詮は俗物。人間だからね。加持や霊験が確かなものであっても、それを利用するのは結局は人の手なんだ。武器や道具と同じで、使い手の心ができてないと間違った結果を招いてしまうんだろうね」

 ミズメはあたりを見回して誰も居ないことを確認すると、翼を広げて飛び上がった。少々失礼であるが、自身の抜け羽根を用いて大仏の煤を落とす。

「私も」

 オトリも水筒から水を引き出すと、水術を使って大仏を清めに掛かった。


 大仏のお浄めを済ませ、寺の中を歩くふたり。

「大きな柱が沢山ですね。どれだけの木を伐ったんだろう……」

「どのぐらいだろうね。木材に良い杉みたいな木ばかり使うから、杉山は禿げ上がる一方だよ。空から見ると分かるんだ。壊された森はどんどん西に伸びて行ってる。最近は遠いところから船で木材を運ぶことも増えたみたいだ」

「人の暮らしが豊かになっても、そのぶん森が犠牲になっていたら、動物や神様が哀しむわ」

「そうだね。それに、人間の作る豊かさは永遠じゃないんだ。このままだといつか森も無くなる。都だって、造ったらそれでしまいじゃない。今までいくつの都が廃れたことやら」

「どうして都を変えちゃうんですか?」

「理由は色々とあるけど、時の権力者が権力を示すためや、穢れ避けかな。霊的な穢れを祓ったとしても、土や水が使い潰されて汚れてしまってるから、病気や飢饉のもととなって、穢れがいくらでも生まれてきてしまうようになる」

「そういえば、都を流れていた川は酷いものでした。精霊も居なかったし、鼻が曲がりそうでした」

「堀川は荷物を運ぶために作った川だね。自然の川じゃなくって、人が作ったものだ」

「そっか。人が作ったものだから、自然に浄化する力が足りないんですね」

「自然の川を使っても、結局は汚してしまうんだけどね」

「もう少し、どうにかできないのかな……」

「皮肉なことに、人が少なくなれば汚れも穢れも減るし、木々も増え始めるんだ。国破れて山河ありってことだね」

「私たちってなんなんだろう。他の獣とは違うけど……。なんだか拒絶されてるみたいです。自然にとっては、人間は居ないほうが良いのかな」

 表情を昏くするオトリ。

「考え過ぎだよ。なるようになる、やり過ぎなきゃいいってこと」

 明るく言うミズメ。


「……あれ? この柱、穴があいてますよ。しかも、この一本だけ陽ノ気(ヨウノキ)がやたらと強いです」

 オトリが足を止めた。寺を支える大きな柱の一本。その下部には四角い穴が開いている。


「それは“鬼門避け”だね。悪霊はこの方角を通って来やすいから、わざと穴をあけてるんだ。柱に結界を施して、この穴に誘い込んで祓ったり、通った者に護りを与えたりするんだって」

 ミズメは解説をすると、柱の穴へと身体を入れて、するりと反対側へと抜けた。


「私もやってみようっと」

 穴からオトリの頭が出てくる。


「……あっ」

 オトリが声を上げた。

「どうしたの?」

「お尻……腰が引っ掛かりました! どうしよう抜けない!」

「あーあ。水術でお腹が空くとか言って食べ過ぎるからじゃない?」

 ミズメが嗤う。

「抜けません! 助けて! 助けてー!」 

 手を伸ばし、じたばたと暴れるオトリ。ミズメは握手をしてやった。

「ちゃんと引っ張ってください!」

「あんまり大きな声を出すなって。見つかっちゃうだろ」

 とはいえ、こちらも笑いがこらえられない。


「何者だ!?」

 案の定である。柱の遥か向こうに燭台(ショクダイ)を手にした僧侶が現れた。


「えっ? 誰か来ちゃいました? こちらからは見えません!」

「僧侶が来たよ。早く逃げなきゃまずいね」

 げらげら笑いながら相方の手を引っ張る。しかし抜けない。


「面妖な笑い声。なんだこの赤い物体は?」

 僧侶がやって来たようだ。


「きゃあ! やめて! お尻を触らないで!」

 悲鳴を上げて暴れる娘。


「口を利きおる。さては妖怪変化が鬼門避けに掛かったな。調伏してくれよう!」

 ばしーん、ばしーん。軽やかな打撃音が寺内に響く。

「やだやだ! 叩かないで!」

「あっはっは! 駄目だ。力が入らない」

「きゃんっ!」

 短い悲鳴と共に巫女が引っこ抜けた。


 ふたりは寺院に妖しげな笑いと嘆きを残して退散したのであった。



 南都観光もそこそこに、更に南下。

 紀伊国(キイノクニ)は目と鼻の先となったのであるが、ここである問題が持ち上がった。


「私の里って、どこですか?」

 オトリが首を傾げる。

「なんであたしに訊くんだよ。出てきた時に道を覚えなかったのか?」

「えっと、南に行って海に当たったところまでは。そこから、古来から里とご縁のあった漁村を巡ってお手伝いをして、お船に乗せて貰って西に渡ったんです。そこから先は水分の巫女のことを知らないかたばかりで、よそ者として追い回されて迷子に……」

 しょげ返る迷子の巫女。


「吉野、熊野、日置、日高。聞いたことのある地名は?」

「えっと、全部あります。熊野は里起こしをなさった始祖の一人の出身地ですね。吉野は里の近くって聞いたことがありますけど……」

「うーん。吉野の山は過ぎたよ。それに、紀伊じゃなくて大和の範疇だったような」

「あ、あー……」

 オトリが頭を抱えた。

「何? どうしたの?」

「その、私が紀伊国が故郷って言ったのは、船に乗せてもらったときに、紀伊の海峡を渡るって水夫のかたが仰ってたからで……」

「そもそも紀伊国かどうかも曖昧なのか! もっと早く言ってよ!」

「ずっとそれを頼りに帰ろうとしていたので、てっきり」

 肩を落とす娘。

「初めて里から出たんだから迷子はしょうがないよ。でも、これじゃ年内に辿り着けなくなっちゃうかもね」

「あはは。その時は、次の新年まで一緒に暮らしましょう」

 巫女は笑って誤魔化そうとしているようだ。

「あたしは歓迎だけど、こっちのほうが待ってくれないよ」

 懐から勾玉を引っ張り出す。

 日に日に強くなっている月讀命(ツクヨミノミコト)の気配。彼は一体どのような意思をもってしてこの世に干渉しようというのか。


 今日も里が見つからず、山の中を彷徨うふたり。西の空が茜に染まり始めてきた。


「また野宿だなこりゃ。ま、人が居ないぶん、問題も少なくて良いけど」

「私は森は虫が多いから苦手です……あれ? ミズメさん、あそこを見てください。黒い鳥がいっぱい。何か追い掛けてますよ」

 オトリが空を指差す。


(カラス)でしょ。鷹か(トビ)を追ってるんじゃないかな。鴉は強い鳥を嫌うんだ」

 ミズメは空を見ずに言った。それより寝床に良さそうな場所を探したい。

「強くても一羽を相手にあんなに沢山。弱いもの苛めですよ!」

「鴉のほうも殺してしまうことはないよ。反撃されたら怪我をするからね。縄張りから追い出すだけ。鷹たちも無理に攻撃はしない。お互い、弱いものなりの身の守りかただよ」

「うーん……弱いもの虐めだと思うなあ。……あれ?」

 オトリが首を傾げる。

「鴉なんてほっときなよ。陽が沈む前に夕餉に良さそうな獣を探したいんだけど」

「見てください。追われてるのは鷹じゃないです。同じ鴉ですよ!」

「仲間割れか?」

 オトリの指し示す方角を睨むミズメ。

「どれどれ。秘技、天狗の目!」

 ミズメは指で輪っかを作り、そこから鴉の群れを覗いた。

 この秘技は別に視力が良くなるなどの効能はない。ただ、言ってみただけである。


――本当だ。野山の痩せ鴉たちだな。追われてるのは嘴の太いほうだ。種類が違うからかな?


 のんびりと観察をしていると、先頭を行く逃亡者がこちらへと舵を切った。

 鷹や鳶でもあるまいに、追われる鴉はこちらに向かって急降下で急接近だ。


「こっちに来た!」

 逃げて来た鴉は減速し、ミズメの胸へと軟着陸をした。

「なんでだよ! ……って、この鴉、足が変だ」


 腕の中の鴉には足が一本しかない。それも不気味なことに、単純に欠けているのではなく、本来あるべき両脚のあいだに一本である。


「生まれつき瑕疵(カシ)があるからって虐めてるんだわ! あなたたち! そんなことして恥ずかしくないの!?」

 鴉の群れに向かって袖を振り上げ怒るオトリ。


 霊気が練り上げられ、彼女の血筋に伝わる光の結界が展開される。


「これで大丈夫!」

 オトリは鬼の攻撃も遮断する壁の中で鼻息荒く言った。

「ただの鳥を相手に大袈裟だな。鳥は羽をぶつけるのを嫌がるから木の下でもなんでも、狭い所に行けば来ないよ」

 鴉たちはしばらく上空でぎゃあぎゃあとやっていたが、そのうちにどこかへ飛び去って行った。


『いやあ、めっさ助かったわ。おおきに』

 腕の中の鴉が何ごとか言った。


「ありゃ? この鴉、口を利いたぞ。物ノ怪だったか?」

「えっ、私には、かあかあ言ってるようにしか聞こえませんけど」

 オトリは首を傾げている。


『今の結界はミクマリの里の血筋の技やんな? 久しぶりに見たわ。やっぱご先祖様同士に縁があると、得するもんやに』

 鴉はどこかのお邦訛りで会話を続ける。

「あたしにしか聞こえてない? それより、今こいつ、オトリの里を知ってるようなことを言ってたぞ」

「本当ですか? 鴉さん、鴉さん。私の里がどこにあるかご存知ですか?」

 オトリが訊ねる。


『自分の家の場所聞くんけ? この人迷子なんけ? ……かかかっ! “あんごし”やな?』

 鴉は嗤った。あんごしとは阿呆の意味である。


「駄目です。せっかく教えてくれてるのに、私にはさっぱり。ミズメさんは鳥さんの言葉が分かって良いなあ」

「いや、いつもとちょっと違うんだけど……」

 確かにミズメには鳥の言葉が分かる。

 それは自身の魂に鳥の魂が混ざっているからであるが、そもそも鳥は化生でなければ単純な感情表現や警告程度の言語しかを持ち合わせない。

 会話が出来るというよりは、ミズメが鳥の意思表示を理解できるというだけの話だ。

 しかし、この鴉は明らかに人語を操っている。稜威(イツ)なる存在の霊声(タマゴエ)であるのなら、霊感に左右されるためオトリにも聞こえるはずなのであるが……。


『里の外に出てる水分の巫女ってことはさ、巫女頭候補やんな? こんな方向音痴が巫女を導こうなんて、二千年続くミクマリ様の里も、とうとう滅亡かいな?』

 酷い言われようである。


「うふふ、何を言ってるのか分かっちゃった。きっと、助けてくれてありがとうって言ってるのね」

 当の“あんごし”はにこにこ笑顔だ。


『のぶとい娘やに』

 鴉が溜め息をついた。


「面白い奴だな。あたしたちは今、その水分の里に帰ろうと思ってこの辺をうろついてるんだけど、詳しい場所が分からなくってさ。分かるなら教えてくれない?」

『しゃあないな。恩人やもんな。さいこ焼いたるわ』

 鴉はミズメの腕の中でふんぞり返った。


 夜が明けてから案内を頼むことにし、焚き火のそばで退屈しのぎに鴉の話に付き合う。

 鴉は矢鱈とオトリを小馬鹿にしていたが、一応は感謝の念を述べた。ミズメは罵倒を省いて通訳をしてやる。


 何やら、この鴉は鴉の姿をしているが鴉に非ず。尊い存在の血を引くものなのだという。

 しかし、その血筋を妬んだ意地悪な怪鳥に襲われて、足を奪われてしまったのだとか。

 彼(?)は敗北と身体の欠損を恥じて本来の任から降り、ただの鴉として生きることを決意。

 ところが、通常とは異なる姿をしているためか、あちらこちらの鴉の群れからも爪弾きにされ、(ツガイ)も作れずに放浪しているのだという。


「それでやっていけるの? 寂しくない?」

『だんないだんない。神鳥としての誇りがあるし、前例もあるからなー。ま、どもならんときは、いじくさらんと、元の仲間んとこに帰るさー』

 からからと笑う鴉。

「いざとなったら、元の仲間のところに帰るってさ」

『武者修行ってところやに』

「これは修行の旅なんだと」

 通訳をするミズメ。

「そっか。私とおんなじね。……はーあ、とうとう帰郷かあ」

 オトリは口をぽかんと開けて上を見上げた。


 すると鴉は、その辺を這っていた小虫を咥え、オトリのほうへと飛んだ。


『ほれ、あーん』

「えっ、なんですか……!?」


 山中に悲鳴が轟いた。周囲に潜んでいた鳥獣が睡眠を妨害されて騒めいた。


「な、なんでそんな酷いことするの!?」

 地面に向かって唾を吐き続ける娘。


「大口開けてたから、雛鳥と間違ったんじゃないの?」

 ミズメが笑う。

『すまんの。阿呆みたいな顔してたから、ついうっかりやに』

 鴉も笑った。


 さて、翌日。不思議で不遜な鴉に導かれ、ミズメとオトリは紀伊の山を歩く。

 代り映えのしない山の風景が続いたが、昼過ぎになってから急に霧が深くなってきた。


「陽が昇ってから霧が酷くなるなんて珍しい……っていうか、神気を感じるね」

 うっすらと漂う神聖な空気。

 こちらが怯まずに更に歩を進めると、瞬く間にあたりが白に沈んだ。

「やったあ! よおく知ってる気配です! ミナカミ様! オトリは帰ってきましたよーっ!」

 喜び飛び跳ねるオトリ。


『案内はここまでやに。ま、縁があったらまた会おな』

 鴉はそう言うと、さっさと飛び去っていった。


「鴉さん、どこかに行ってしまいました」

「案内はここまでだって。また会おうって」

「ありがとうございましたーっ!」

 オトリは空に向かって叫んだ。


「ようやくオトリの故郷が拝めるのか。さてさて、どんな秘境かな……」

「霧と神気の濃いほうへ進めば入り込めるはずですよ」

 オトリの言に従い、一寸先も見えぬような白い闇の中を進む。


 ……玉響(タマユラ)。ミズメはあたりに漂っていた神気が足元へ収束するのを感じた。


「……!?」

 咄嗟に飛び退く。


 耳をつんざく強烈な破裂音。白を塗りつぶすは烈しき白。


 ミズメが今しがたまで立っていた地面は黒く焦げ付き、煙を燻ぶらせていた。


*****

盧舎那仏像(ルシャナブツゾウ)……奈良の大仏で知られる東大寺に鎮座する仏像。今でこそ地色を晒してくすんだ青銅であるが、当時は金で覆われ、螺髪(ラホツ)も鮮やかな藍色であったという。

加持(カジ)……一般的な意味は加護に同じ。仏の加護が民衆に与えられることをいう。

のぶとい……人の話を聞かない人。

さいこ焼く……世話を焼く。

だんない……大丈夫。

いじくさる……意地を張る。

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