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化かし127 来訪

 ミズメの蘇生が施されていたころ、下手人(ゲシニン)である帶走老仙(ダイゾウロウセン)は退治された。

 邪仙は真人たるミズメの残骸を持ち去り、それを己の新たな器に仕立て直す気だったらしく、姿を隠し、虎視眈々とその機会を窺っていたという。

 だが、ミズメの落下後に姿を現したところ、(ヒサギ)少年が乱入、老爺にこぶしの一撃をお見舞い。

 その後、蘆屋道満(アシヤノドウマン)の“奥の手”に滅多打ちにされたのち、厳重に封印が施された。

 滅することも試みられたが、ツクヨミの加護か、魂を無に帰してもしつこく復活を繰り返すありさまで、封印して管理下に置くほかに手が無かったのだ。


 邪仙は最期まで共存共栄へ妥協することはなく、またヒサギやドウマンからも提案はなかったという。



 かくして、此度の難事は解決を迎えた。

 あの時、あの場では確かに全ての者が力を合わせた。

 二ツ岩団三郎フタツイワノダンザブロウが率いた物ノ怪たちは、ダンザブロウが化けた天鳥船(アマノトリフネ)に乗って銘々(メイメイ)の住まいへと引き上げて行った。


 しかし……人間と死の国の使いは争いを再開した。


 この戦いは二日以上も続き、三日目の夜にしてようやく、優勢であったはずの黄泉側が引き上げることで決着となった。

 醜女たちが地上から手を引いた理由は定かではない。


 そののちに飛鳥の跡地にて発見された八尺瓊勾玉(ヤサカニノマガタマ)はシマハハにより回収され、天照大神の歯によって粉々にされた。

 月讀命の荒魂は、和魂側の勾玉にまとまることで、調和と混沌の均衡を取り戻し、スメラギ主導のもとに奉じられることとなった。

 月の裏面を滅ぼすことなく、ミズメもまた一度は死したものの五体満足であり、これでようやく万事解決となった。

 なお、勾玉を回収したシマハハはそれを引き渡すさいに、朝廷となにかの交渉をしていたようだったが、その詳細は不明である。



 そして、ミズメは数日のあいだはオトリと共に霧の里を根城に畿内をふらふらしていたが、出逢いと旅立ちから二年を目前として、単身で里を出立した。



「お爺ちゃん、居る?」

 鳥人は洛外の妙桃寺(ミョウトウジ)へと降り立ち、今や驚くこともなくなった小僧どもに訊ねる。


「いらっしゃりますよ。丁度、ヒサギさんの剃髪をしていらっしゃります」

「剃髪?」

 ミズメは首を傾げる。


 案内されてみれば、つるつるに剃り上げた美少年と和尚の姿があった。


「全部剃っちゃったんだ?」

「尼削ぎで落ち着いていたんですが、お爺様の封印に立ち会ったら、こっちのほうが良いような気がしてきて。本格的に仏門へ入ろうと思います」

 少年は微笑む。容姿が中性から男性的に寄ったせいか、声も少し低くなったような気がした。

「これはこれで似合ってるよ。前のでも今のでも、横に侍らせたくなるくらいさまになってる」

 ミズメは歯を見せ笑ってやった。

「何を言ってるんですか!」

 ヒサギは声を上げる。

「あたしは男と女の両方だからね。危うくかたほう取られちゃうところだったけど」

「ミズメさんは初めにあった時は、女性のかただと思っていました」

「見た目はそっちに寄ってるからね。そのほうが色々と便利だったんだよ。実際は男のほうが生きやすいんだけどね。あたしは“化かし”をするから」

 笑う天狗たる娘。


 ミズメは世に向けて、自身が半月(ハニワリ)であることを明かした。

 あの告白が行われたのは混乱のさなかであったため、ひとびとには忘れ去られたのか、受け入れられたのかは定かではなかったが、特段この件について触れてくる者はない。

 ミズメもまた、これまでと同じく、容姿通りの女として振る舞いつつ、男の領分に首を突っ込んで遊ぶ姿勢を崩さずにゆくつもりである。

 ミナカミに肉体を織りなおして貰うさいにどちらかに決めたほうが、世間体は良かったかもしれなかったが、この数日のあいだ遊び歩いてみて、矢張り相方の判断に感謝をしていた。

 やれ女だ、やれ男だと、面倒なことがあろうと、「そのほうがしっくりとくる」のである。


「僕は、男の時は武術の稽古や芸事の稽古で悩みましたし、尼削ぎの時は随分と言い寄ってくるかたがいらしたので……これで少しは静かになるといいですね」

 くすぐったそうに頭を撫でるヒサギ。


「いや、そうでもないんじゃなかろうか」

 口を挟んだのは桃念和尚(トウネンオショウ)である。


「頭を丸めた僧侶のほうが、尼よりも“需要”があるからのう……。おぬしほどの美男となれば、求めはより一層苛烈となるじゃろうな」

「ええっ、そうなんですか!?」

「お爺ちゃんの言う通りだよ。むしろそっちの世界のほうが“深い”かも知れないよ。あたしも“どっちも”の身体で、気持ちの上でも相手がどっちでもいけるくちだしね」

 ミズメはヒサギの手を握り、秋波を送ってやった。


「……こ、困りますよ。僕はお爺様と犯した罪と、お爺様に手を上げた罪を償うために仏門に入ったんです。それの妨げになるようなことは……」

 言いつつも頬を染めて手は振り解かないヒサギである。


「冗談冗談、あたしにゃ相手が居るからね。そこまで節操無しじゃないよ」

「懐かしいのう、わしも若いころは節操が無かったものじゃ」

 和尚も意地悪く笑う。

「お爺ちゃんは今でも節操がない気がするけどね。術も教えもごちゃまぜだし」

「そうかの? (サチ)に行き着くのであれば、寄り道をして様々な景色を見るのものもまた面白きことじゃし、輪廻(リンネ)(ゴウ)だと先のことを考えるより、今の生のために生きるのも大切なことじゃよ。ヒサギもあまり償いばかり見つめ過ぎぬようにの」

「はい、トウネン様。でも、僕みたいな“感無し”がちゃんと仏道を歩んでいけるんでしょうか?」

「仏道の本質はこころのありようじゃからな。法術や霊力は確かに便利の良いものじゃが、無力の苦難に験されるのもまた精進のうちじゃ。なまじに法術に長けるよりも良いゆきさきが待っていると思うぞ」

「ところで、神実丸(カムヅミマル)はどうしてるの? 姿が見えないけど、実家に帰った?」

「あやつはまた御仏の導きを受けて難事の解決に向かって行ったわい。帰りに実家に顔を出すとは言っておったが、来月までには戻るじゃろう」

「そっか、それなら良かった。お爺ちゃんも、そろそろ慣れてきた?」

「うむ、御仏の使いが見守ってくださるからの。心配もあまりせんくなった。いっそもう少し痛い目に遭ったほうが良いかもしれぬと思うくらいじゃ。この前なんぞ、御使い様とあやつの至らぬ点についてあれこれ話し合った。御使い様も苦労しておられるようじゃの」

 渋い顔で言うトウネン。

「あはは、仏さんの御使いも愚痴を言うんだね」


「ところでミズメ殿、今日は何用で訊ねて参られた? 珍しくオトリ殿の姿も見えぬようじゃが……」

「喧嘩でもしましたか?」

 ふたりに問われる。

「うんにゃ、オトリは里でだらだらしてるよ。あたしはちょっと用事があって、しばらくのあいだ畿内を離れるから、挨拶をして行こうと思ってね」

「どこへ行かれるんですか?」

「うん、えっとね……」



 ……。



 ミズメは畿内を立ち、出羽国(イデハノクニ)月山(ガッサン)へと向かった。


 夏盛りの高原、緑の風が爽やかに駆けている。

 しかし、今も邪仙襲撃の(キズ)は生々しく、焼け落ちた小屋の柱は黒々と光っていた。触れれば煤が舞い上がる。

 一方で、放し飼いにされた山羊(ヤギ)は数を減らし、残っていたものも多くがミズメの顔を忘れたしまったらしく、声を掛けると驚いて逃げて行ってしまった。

 山羊だけに限らず、畑も荒れて山に呑まれ掛けており、“ひとの痕跡”は全て還ろうとしていた。


 銀嶺聖母(ギンレイセイボ)と二百年以上も共に暮らしたふるさと。


 ほんの半年と少しぶりであったが、まるで千年の時が過ぎ去ったかのように思えた。


――ここにオトリを連れてきたのが、全ての始まりだったね。


 それもまた、たった二年だが遠く儚く……。



「とぶとりの はなつきかぜの まえのちり あおきかほりは ふるすことなく」



 ひとつ詠じれば、風が子供たちのはしゃぎ声を届けた。



 ……。



「と言うことで、今日から皆はここで暮らすように」


 季節居合わせる、仕合せの地。水神(ミナカミ)の霧の里への来訪者。

 鳥獣の要素を欲張った子供たちは、すでに里の者たちと愉しげに会話をしていた。


 ミズメは月山から去ることにしたのだ。

 友人や知人たちに別れの挨拶をし、師の蔵書のある庵を訊ね、それから高原の里に残されていた姑獲鳥(ウブメ)貂華(テンカ)貂丸(テンマル)、ねうこの四名を連れてミナカミの里へと戻った。

 受け入れにはまさかのミナカミの許可(オトリが強引に押し切った)もある。


『か、かわいい……。み、耳と尻尾が……。翼もいいなあ……。オトリ、ちょっと身体を貸して』

 神の声は瀕死のごとくに震えている。


「いやです。皆が帰ってくる直前まで、不気味な物ノ怪だったら退治してやるなんておっしゃってたくせに」

 口を尖らせるオトリはミズメに抱き着いている。


 ツクヨミの件の解決後のふたりの関係は一層、密となっていたが、飽くことなく構うオトリに対して、ミズメは早くも暑苦しさを感じ始めていた。

 ゆえに「出羽と紀伊の往復は空路のほうが便利が良い」と言いわけをつけ、文字通り羽を伸ばす一人旅を堪能したのであった。

 距離を置いたのにはもう一つの企みがあり、それも功を奏していた。

 帰郷からの帰郷の出会いがしらに行われた抱擁はミズメのほうが進んでおこなっている。

 帰りの空から見下ろす長月(ナガツキ)の紅葉の絶景を見た時には、つい口をついてオトリの名を出したほどである。

 要は、日常化した相方との絡みに新鮮な風を送る試みでもあったのだ。


「あの……私もここに住まわせて頂いても平気なのでしょうか?」

 恐る恐る空を見上げるのは羽毛の鬼、ウブメである。


『ウブメさんの鬼化のお話はオトリからすでに聞いています。おつらかったでしょう。ここは決して争いが無く、外と比べて子供が幸せに生まれ育つ里です。あなたの鬼の執着心を遺憾なく発揮なさってくださって結構ですよ。よければ、他の子たちとも遊んであげてくださいね』


 女神は声も気配も柔らかであった。


「ありがとうございます。新しいあるじを得ましたよ、ギンレイ様……」

 鬼女は洟を啜り、羽毛の腕で顔を拭った。


『ところで、コウヅルはどこかしら? ヒヨでもいいわ。早くなでなでしたいのに……』

 姿無き神は何やら独り言をつぶやきながら気配をふらふらさせている。


「ミナカミ様は可愛いものに目がないんですよ」

 オトリが苦笑する。

「あたしは雷に撃たれたのになあ……」

 ミズメはぼやく。


「新しく暮らすところだし探検しとかないとな!」

 テンマルが駆け出した。来訪者を歓迎していた里の男児たちは、すでに森のほうから手招きをしている。

「あっ、こら! 神様のいらっしゃる隠れ里なんだから、勝手に入っちゃいけないところもあるかもしれないよ!」

 テンカが手を伸ばす……が、“もう一匹”が別方向に逃げるのを察知して振り返る。


「にゃあ!」

 猫娘はすでに村のほうへと姿を小さくしている。

 テンカはどちらを追うか尻尾と共に逡巡したようだが、村のほうに見える紅白衣装たちを見止めると丸い耳をぴくりと動かし、村のほうへと駆けて行った。


「まったく。まだ皆さんへの挨拶も済んでないのに」

 ウブメは早速、陰ノ気を醸した。ミナカミの気配は不思議なもので、鬼である彼女を毒していないようだ。

 長く暮らせば、いつぞやのミズメのように染められて物ノ怪らしさを失う日もくるかもしれない。


「ま、子供たちは勝手にやるっしょ」

 ミズメは欠伸をひとつ。


「ね、ね、ミズメさん。帰って来たんですし、構ってくださいよ。里を出て都に行きましょう。飴玉を切らしてしまって」

 相方の甘え声。

「今から? 面倒臭いよ」

「そんなこと言わないで。都が駄目なら手前の稲荷山にしましょう。削り氷はもうすぐおしまいになっちゃいますし。テンカちゃんたちを見てたら、けえねちゃんにも会いたくなっちゃったので」

 袖を引っ張られる。



「稲荷山、か」



 男の声。



 唐突に現れた底知れぬ霊力。空に漂う気配にも緊張が走る。



「ハルアキ様!? なんでここに……」

 オトリは陰陽師を一瞥し、続いて空を見上げる。


『招いた憶えはありません』

 神の返答。



泯滅(ビンメツ)せよと命じられた」

 最強の陰陽師、播磨晴明(ハリマノハルアキ)が言った。



 彼は“いずこからともなく”竹簡(チクカン)を出現させて展開する。


 ミズメもすかさず、“どこからともなく”真巻弓(ママキユミ)を取り出し、弦を引いた。


「……ばん!」


 矢は番えず、空撃ち。


 ハルアキもまた、笑って竹簡を収めた。


「冗談でしょ。霊気はともかく、殺気がないよ」

「殺気はこの地にはもっとも不釣り合いなものだ。何もかもが和んでいる。四季も見事。だが、泯滅の命は嘘ではないのだ」

 ハルアキは溜め息をついた。

「あらら。誰が言ったの?」

関白(カンパク)である東三条(ヒガシサンジョウ)殿だ」

「そんな大人物がどうして……」

 オトリは額に汗を浮かべている。


「それはだな……」


 ハルアキが語る、関白が祀ろわぬ地を焼き討つように最強の陰陽師へ命じた経緯。

 東三条は病を患っていた。それもここ最近で急に悪化し、これをお抱えの術師に占わせたところ、呪術による障りだと判明したのだそうだ。


「東三条殿もまた八尺瓊勾玉(ヤサカニノマガタマ)の管理へ口を出せる人物でな。病が悪化して弱っていたところを、私が強く推して許可を取ったのだ」

「呪いもハルアキ様が?」

「いや、まじないを行ったのは斎院殿だ。彼女の周りや宮中はもっとつまらぬ色恋の相手や政敵が原因だと騒いでおるようだがな」

「そっか、あのかたが……」

 オトリは少し浮かない顔である。


 ミズメは肩に手を置いてやった。

 オトリと斎院のやり取りに関して、ある程度は聞かされている。

 ミズメや日ノ本のために唆したとはいえ、呪術が実行に移されたとなれば気が咎めるのであろう。


「だが、賀茂家に気づかれぬはずはなく、卜占はこの地に原因を見せた。そして私に勅命が下ったわけだ」

「それで、どうするんだい?」

「里は見付からなかったと誤魔化しておく。どのみち、東三条殿も長くはあるまい。陛下からも許可を頂いている」

「斎院様に処罰は?」

 オトリが問うた。

「証拠が霊的なものしか残っておらぬからな。今は適齢の候補がおらぬから、役から下ろせば伊勢に政治の裏を握られる恐れがある。咎めがないどころか、(ヤマ)う力は使えるものと、厚遇を考えておるようだ」

「良かった……のかな」

「安心せよ。私は賀茂に顔が利く。望むのはそなたと同じ世の平和と笑顔だ」

「ありがとうございます」

 オトリは頭を下げた。

「私もたまには尻拭いをしなければな」


 年齢不詳の男が笑う。


「それと……ここを訪れたのには、もうひとつ用事があってな。畿内の大結界の件だ。解除したものの、在野の陰陽師に封印具の一部を持ち去った者があるらしく、結界が結び直せぬ状況なのだ」


「仲違いかい? ドウマンさんは何やってんだろ?」

「いや、話では無免許の者の仕業と言われているが、実際にはどうか分からぬ」

「相変わらずごたごたしてるね。結界もそのままでいいんじゃない? 神様の力も強くなるしさ」

「朝廷が放っておかぬのだ。賀茂家や伊勢の一部からも反発の声が上がっている」

「賀茂さんは陰陽師だからともかく、伊勢も?」

「あちらも一枚岩ではないのだろう。陛下もここまでの反対には流石に抗えぬゆえ、結界は近く張り直されることとなる」

「そんなことをしたら、また魔都になっちゃいますよ!」

「それはそれで、都さえ守れば他は多少はましになってたからね、悪いことばかりともいえないさ」

「でも、日ノ本の(マツリゴト)を司る地ですよ」

「オトリも言うようになったね。……で、陰陽師さんには考えがあるんでしょ?」

 ミズメはハルアキに笑い掛ける。


「うむ。結界術の改良を行いたくてな。邪気や凶事だけ跳ねつけ、神威や吉事を素通りさせる都合の良い封印を行う結界だ。これまで地下ががら空きだったのも、飛鳥の黄泉路の件を知った朝廷からなんとかしろと言われている。ここの里には面白き結界術が伝わるようで、何か知恵を借りられぬかと思ってな。ちなみに、ここを頼ったのはドウノジからの推薦でもある」


「道摩法師様も……。ミナカミ様、お助け願いませんか?」

 オトリは空を見上げて言う。


『助力は構いませんが、秘伝の術や技に関わることは、もう一柱の神に一任しておりますので、そちらと話をしてください。今日も里のどこかをふらふらと飛び回っているので、自分の足で見つけてくださいね。厳しいかたなので、簡単に返事を頂けるか分かりませんが……』


「返礼にこちらからも技術の提供をするとしよう」


『あのかたは術の研究や蘊蓄がお好きですから、そっち方面で話が弾めばちょろいかもしれませんね』

 共に里を護る神に対して酷い言い草である。


「では、探してみることとしよう」

 ハルアキは一礼し、あたりを見回す。


「守護神の勝手様は緑色の霊魂の姿をしていらっしゃりますから。神気よりも、人だったころの霊気の濃い気配をしていらっしゃるので、それを手掛かりに探してくださいね」

 オトリが助言する。


「あ、そうだ。ちょっと待って」

 ミズメは呼び止める。


「なんだ?」

「尻拭いついでに、ひとつ頼まれごとをしてくれない?」

「構わぬ、なんでも言ってくれ」


「じゃあ遠慮なく……。来月さ、スメラギさんと斎院さんを借りられない?」


「陛下と斎院殿を……!?」

 播磨晴明は口を開き目を丸くした。


*****

今日の一首【ミズメ】

「とぶとりの はなつきかぜの まえのちり あおきかほりは ふるすことなく」

(とぶとりの はなつき かぜのまえのちり あおきかおりは ふるすことなく)


……とぶとりは早い時の流れ、はなつきは鼻突きで出合いがしらの意味。区切り方は、「はなつき」、「かぜのまえのちり」で、風の前の塵は儚いもののたとえ。ふるすは忘れるの意味。ひとつの歌でミズメは三つのことがらを詠っている。

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