化かし103 返事
聖母を送ったのち、オトリは再び害意に支配された。
だが、取り逃した邪仙の魂魄も、この送りの一幕を鑑賞していた月神の姿も、もうなかった。
「逃げたね。多分、向こうからはすぐには来ない。連中は追って来るのをどこかで待つはずだ。追い掛けるのより、先にやりたいことがある」
ミズメは意味を失った白き鳥を抱いたまま言った。
それから、オトリの返事を待たずに引き返し始めた。
――なんなの?
オトリはまたも置いてけぼりであった。
視線は家族を失ったばかりの娘の背へ向け、霊感は離れゆくふたつの仇へと向け、“こころ”はそのあいだを彷徨った。
結局、敵が自身の本気の探知の範疇から消え失せるまで逡巡を続け、相方も視界から喪失してしまった。
ミズメは焼けた屋敷を越えて、更に上、月山の頂を目指して登って行ったようであった。
こんな時であるからこそ、少々理解のできない行動を取ろうとも、そばに寄り添い続けなければならないのはオトリも理解をしている。
だが、ずっとそばで相方の魂を感じ続けてきたぶんには、ミズメが家族の死に大した動揺を抱いていないこともまた明白であった。
黒焦げの屋敷。戻ればギンレイの作った里は全てが焼けたわけではないことに気付く。
オトリは火の手を逃れた小屋をひとつ見つけ、嬉々として飛び込んだ。
食糧庫、この高原で生きるには必須のものであったが、それを必要とする者たちは死んだ。
……ひとの気配は無し。
子供たちや姑獲鳥が寝起きをしていた離れ。
これは半焼。だが、無事だった部分も無人。
オトリは溜め息か卑屈笑いか分からぬものを喉から出し、今一度、自分たちのかつての幸せの場へと足を運んだ。
火は消え、いまだ煙が燻ぶり続けるも、雪が全てを塗りつぶし始めていた。
そして、嗅覚を殺すほどの吹雪の中でも感ぜられる悪臭は本能に危険を告げ、死穢に慣れているはずの巫女の胸をえづかせた。
普段ならば、墓所や打ち棄てられた遺体の清めは己の範疇であった。
だが、それが親愛なるものの作った穢れであると思い出すと、途端に忌避すべきものに思えた。
――皆、死んじゃったんだ。
すでに全て過ぎ去ったはずなのに、直視が叶わない。興奮と恐怖が胸を高鳴らせ、足を煤と雪にまみれた床に縛り付ける。
それでもオトリは手近にあった丸いもの……猫の耳を持つ幼子の頭部を拾い上げた。
心は烈しく拒絶するも、身体が勝手にそれが本物であるかどうか検めた。
――やっぱり本物……。
巫女のオトリがもう一度、小娘のオトリへと絶望を突き付けた。
肉体と肉体が、魂が二つに分かれたような気分であった。
屋敷を去り、相方を求めて高原をあとにする。
最後にもう一度だけ振り返り……。
「全て焼けてしまったのね」
言霊に事実を預ける。
――違う、まだ残ってる!
即座の否定。最後の抵抗が彼女に気づきを与え、疾らせた。検めた小屋の数が合わない。
目視から逃れ見落としたものが一件。やや窪地に建てられていたそれは新雪に沈んでいる。
雪や壁が覆えば、霊感の探知からも逃れやすくなる。
だが、近付けば分かる。
小屋の中には多くの“いのち”の気配。
――ギンレイ様は無策じゃなかったはず!
数月前、「邪仙が来た時の対策は立ててある」と言っていたではないか。
この不自然なほどの吹雪が答えだ。この山の支配者は“ふたり”なのだ。
肉的、人的な支配者であった銀嶺聖母と、霊的、自然的な支配者の山の女神。
長らく月山で居を共にしていた“ふたり”が結託していないはずがない。
オトリは「私の馬鹿」と頭を小突き、一瞬、己が家族のひとりを寿いだ事実をも忘れた。
それから、ぴたりと足が止まった。
近付けばより鮮明になる小屋の中の気配。
これは人間が勝手に決めた基準であるが……小屋の中でひしめき暖め合っている魂は“ひと”よりも下等なものであった。
雪を退け戸を開ければ、獣くささと喧しい合唱が歓迎をした。
中に居たのは、山の女神の怒りから退避させられていた山羊であった。
オトリはようやく最後の希望を打ち砕かれ、子供のように泣きじゃくりながら、荒れ狂う死の世界の中を歩き始めた。
絶望の高原をあとにすれば、不思議なことに吹雪がぴたりと止んだ。
それはかえって山の女神の意地悪に思えた。
オトリにとっては、ギンレイの骸を抱いたまま山頂を目指して消えた相方の背を追うことは、酷く恐ろしいことに思えたからである。
吹雪は登頂を諦めるには絶好の言いわけであった。
オトリにはミズメが分からなかった。
冷静の範疇を超えた行動。日ノ本を救うために宿敵を追うことよりも優先すべきこととは何か。
単に亡骸を埋葬するのを最優先としたいのならば話は分かる。
霊魂を重んじる巫女でさえも、“魂がもう去ったという事実”だけでは遺された者の気持ちの整理がつかないことは知っている。
だが、繰り返し述べた通り、ミズメの魂から感じる気配は弔いにも混乱にも相応しくないものであった。
共同生活のすえに手に入れた阿吽の呼吸と、巫女の魂の読みを合わせても見抜けぬ真意。
それでも追うしかあるまい。オトリは身体に霊力を漲らせ、雪と気温が手足の先を殺そうとするのに抗いながら登山を続けた。
「きゃっ!」
悲鳴を上げた。心臓を締めあげられ、姿勢を大きく崩す。
雪で覆い隠されていた傾斜。その先は奈落のごとし。危うく足を滑らせるところであった。
無策の登山は相方の気配を辿っているだけであり、整備された道を歩いているわけではない。
――気を抜くと落ちてしまう。
連想されるのは死。帯を締め直し、袂をきつく合わせ、再び歩き出す。
――私にも翼があったら。
翼があれば果たして登頂は楽であろうか。当の鳥人は「冬場は飛んでいられない」と言った。
いつしか雪山で凍えたさいに身を挺して護ってくれた彼女の翼は硬く凍り付いていたではないか。
先を行くミズメもまた、死と隣り合わせで進んでいるはずであった。
――どうしてこんな、死にに行くような危険な真似を?
何を置いてまですべきことなのか。埋葬であれば、意味や思い出のある地にやりたがるのは分からなくもない。
だが魂が違う。何より、それがギンレイの弔いであるならば、自分が置いてけぼりを喰らうはずなどないのだ。
――私を置いてけぼり……ギンレイ様の死体を持って……死にに行くような真似……。
「“真似”じゃない!」
膝をも埋める雪の中、霊気を練り上げ、僅かな土の精霊の気配を頼りに地面を確かめ、オトリは山を早駆けで登り始めた。
――急いで、急がないと。あのひとが……死んじゃう!
爛漫で胡乱な性分のミズメ。
生い立ちに生き地獄をかかえながらも、三百年近くずっと忘れたふりをして笑い続け、最近になってようやく乗り越えてみせた彼女。
おおよそ自死とは結び付かない存在ではあったが、彼女の歩んだ人生の中心には長きに渡り“銀嶺聖母”という大黒柱がそこにあった。
去年の春だったか、それの揺らぎが彼女を大きく動揺させしめ、師と邪仙を同一と疑わさせしめ、生存していた己の仇を無理に赦そうとする言葉まで吐かせしめていた。
「……ふふっ」
オトリは誰も居ないのを良いことに少し笑った。声に出して笑った。
ミズメとは唯一無二の友人関係であることは自負している。相手もそう言ってくれている。
だが、それでも自分は、彼女をこの世に縛り付ける命綱と成りえないのだ。
――何を勘違いしていたんだろう。
二年前は互いに存在を知らなかった仲だ。
三百年近い連れ添いの死と比べること自体が烏滸がましい。
――だけど、私にとっては、あのひとは……!
オトリはそれでも登頂を諦めなかった。
そして辿り着いた。最愛のひとの魂がまだこの世にあるうちに。
ミズメは月山の頂上の崖際で、小雪の舞う中、遠く夕暮れの晴れを眺めながら、鴻鵠の亡骸を静かに撫でていた。
撫でるたびに薄紅に染まった羽が散り、ミズメの中でのギンレイの終わりを示しているように思える。
それをする彼女はこちらに鳶色の翼を向けており、夕日の作る光の輪郭に抱かれ、今にも消えてしまいそうに思えた。
「天雲の 別つ雪荒れ ゆきあひて 色だに残せと 桜に散らさんや」
弟子から師へと捧げられる挽歌。
オトリは待った。今はまだ、邪魔をするべきではない。
相方の動きを精査する。腕に抱いた鳥を葬るのか、共に落ちるのかを見極める。
ミズメは腕を伸ばすと、ギンレイの骸から手を放した。
面倒なことはすっ飛ばしてしまう彼女の行う母への葬儀は、とても単純なものであった。
「なにゆゑか 人の世の旅 悩ましき 出逢い別れを いくつ越えども」
続けて詠まれる一首。
ミズメの足が少し動いた。それから、翼が背の中へと消えた。
その玉響のあいだ、オトリは逡巡した。
力づくで止めることに意味があるだろうか。生きてさえいればなんとかなるのか。
命は救われようとも、たましいは救われるのか、こころは救われるのか。そして、自分もそれでいいのか。
答えは膝が出した。
前へは出ない。
その代わりに、オトリは詠った。
「いかにせむ 呟めく鳥が 里馴れる それに根差すは つがふあなたよ」
ミズメの肩が跳ね、動きを止めた。
骨無し、下手糞と嗤われてきたオトリが詠ったのは、出逢いへの感謝を込めた一首。
本当ならば、これを披露するのはお互いに笑顔の時だと考え、卵のようにずっとずっと大切に暖め続けていたのであった。
「なんだ、上手になったじゃんか」
ふり孵ったのは、少しだけ意地悪な笑顔。
「ミズメさん、私を置いて、逝かないで」
絞り出される懇願。
「……ん? 行くって、どこに?」
小首を傾げるミズメ。
「だって、あなた今、死のうとしてたでしょう? こんな所にまで来て!」
「お師匠様を弔っただけだよ」
「嘘! あなたの魂は、ちっとも哀しんでなんかいない!」
ようやく疑念を直接ぶつける。
「ああ、これ……」
ミズメはまぶたを伏せると、ようやく哀しみの陰ノ気を漂わせ始めた。
「だってさ、あたしまでこんな風になってたら、オトリが鬼に成っちゃいそうだったから」
引っ込められる陰ノ気。
オトリの視界が崩れ、膝が雪を掻き分け、固い岩の地面にぶつかった。
――自分に嘘をついていたんだ。
騙しの天才、天狗たる娘は己の魂さえも偽る。
これと似た状況は過去に何度かあった。
「大丈夫? 無理して登るから」
止めようとしたはずの相手が駆け寄って来る。
――それに、私のためだったんだ。
卑しいと思いながらも、喜びが抑えられなかった。
「だったら、どうして私を置いて行ったの?」
もうひとつの疑問。
「流石にきつかったからさ、無理して無心になったから、つい忘れちゃった……」
頭を掻き、まるで悪戯が見つかった時のように笑うミズメ。
つと、その貌が崩れる。
ぼろぼろと雫が零れ始めた。
連れ添ってから初めて見たミズメの大粒の涙。
「だからオトリ、お願い」
言葉足らずの願いに応え、オトリはミズメの身体を抱き寄せた。
しゃくりあげる暖かな身体、哀しみに冷え切った魂。
どちらも愛おしく、己の持てる全てで包み込んでやりたく思えた。
オトリの言葉なき返事は長く、長くそして強く続いた。
日が沈み静寂。ふたりは互いに手を取り合いながら高原まで山を下った。
この間、オトリはミズメからいくつかの“答え合わせ”をしてもらった。
それから、焼け落ちたギンレイの里から少し離れた山肌にある洞穴へと足を運んだ。
「ここって、氷室に使っていた穴ですよね?」
「夏場はね。冬場はかえって、ここのほうが暖かいんだよ」
もうひとつの食料保管庫。師弟は酒や飲料水を取りにここへ来ていたようであったが、オトリにとっては用無しの場所であった。
「誰も居ませんけど」
穴倉の中には酒瓶や水瓶、保存食を入れた袋などが置かれている。
「その棚を触ってみて」
棚のひとつが指し示される。
「何もありませんけど……?」
虚無であるはずの空間。指に何かが触れる。目に見えぬかたまり。それは少し動いた様な気がした。
「何か暖かいものが……」
「それは良かった。暖かいところ悪いんだけど、この水をその棚全部にぶっかけて貰っていい? あたしじゃ重たいからさ」
オトリは水術の大力を当てにした肉体労働の押し付けに少し腹を立てながらも、胸は期待に満ちていた。
指示通りに樽を振り、からに見える棚へ水をぶちまけてやった。
「きゃあ!」「冷たい!」「にゃあ!」
可愛らしい悲鳴がみっつ。
「ミズメ様、もう出て行って宜しいのですか?」
ずぶ濡れの羽毛の鬼もひとり。
「ほんとに生きてた……!」
オトリの目の前、棚の中で丸くなっている子供たちが震えて文句を垂れている。
彼らに滴る水は灰色に濁っていた。
「これがお師匠様の秘策。“隠れ蓑の灰”だ」
天女の動向を探ったさいに使われた隠れ蓑。それは帶走老仙の隠形ノ法を模倣したもので、霊気も音も隠してしまう。
それを焼いた灰を被れば、同じ効果が得られるのだという。
「じゃあ、あの死体は!?」
「あれはー……あたしもはっきりとは聞かされてない。だけど、隠れるだけじゃ不十分だから殺したと思わせるって言ってたし、お師匠様が仙術で用意したもので間違いないよ」
「邪仙や、ツクヨミの罠ってことは?」
「疑い過ぎ。ウブメの死体が“ねうこ”を抱いてたでしょ。あんな風にできるのは本人かお師匠様だけでしょ」
「だって、だって私は騙されたんですよ!? あ……! も、もしかして……」
ギンレイ様も生きているのではないか。邪仙だって何度も殺されては蘇っている。
“尸解ノ法”とやらは仙術である。実質は仙人であるギンレイが扱えても何の不思議もない。
「オトリ」
名を呼んだひとことには、多くの意味が含まれていた。
オトリはそれを全て汲み取り、落ち着き、哀しみ、それから先んじて泣きじゃくり始めていた子供たちとウブメを慰める仕事に回った。
そうしてようやく、自身も本当に哀しむことができた。
「あれ……?」
オトリは身内を慰めながら、異変に気付いた。
「この子たち、寿命が延びてる? それにこの羽毛……」
テンマル、テンカ、ねうこの三名はギンレイに命を救われたのち、物ノ怪の魂を分け与えられ、延命をされていた。
その量は人の一生より短い、十年かそこらの余命に過ぎないものである。
だが、オトリには今の彼らの魂はまだ五、六十年は生きられそうに視えた。
「ギンレイ様はまだ生きています。この子たちの魂魄と共に」
ウブメが言った。
「そっか、死に際のギンレイ様の魂が削れてたのは寿命を分け与えたから。だけど……」
計算が合わない。
ギンレイの寿命もミズメの精によって伸びても、今の子供たちと同じく五、六十年であったはずである。
「私のぶんもお願いしたんですよ」
笑顔のウブメ。彼女の魂の気配は鬼としての長命を失っていた。
しかし、子供たちの面倒を看切るには充分な、絶妙な寿命が感ぜられた。
「わ、見て見て! ギンレイ様と同じ翼!」
テンカの背から白い翼が生える。テンマルのほうはすでに狭い穴倉で飛翔に失敗して顎を地面に打ちつけていた。
ねうこは暢気に顔を洗っているが、同様に翼を隠し持っているのであろう。
「邪仙に気付いた時にやったんだろうね。これもあたしは聞かされてない。聞かされてたら反対してた」
「そっか……」
「寿命ぜーんぶあげちゃってさ。でも、満足して逝ってたからね。送ってくれてありがとう、オトリ」
改めて礼を言われる。
「どういたしまして。でも、こんな大事なことだったら、もっと早く教えてくれても良かったのに」
――そしたら、ギンレイ様を死なせずに済んだかも。
これは口に出さずにおく。
「ごめん。お師匠様と決めたことなんだ。こっちでもお互いに隠してたことはあったみたいだけど、オトリには心配させたくなくってさ」
「心配でも、一緒に心配なら、それで良かったのに」
自然と拗ねた口調になる。
「んー……あたしね、こうなるってこと、連中が来ることも、ここが焼かれることも、お師匠様が死ぬことも、ちょっと前から全部夢に見てたんだよ」
「夢に? 前に彁島で言ってたのと同じですか?」
「そう、だから不完全でさ。何が起こるかは視えてたんだけど、いつ起こるかはさっぱりで。明日かもしれないけど、一年先かもしれない。そんなだったから、オトリには教えなかったんだ。それまでは何も知らないで笑ってて欲しかったんだよ」
少し気取ったように言うミズメ。
「私だけ仲間外れですか?」
気遣いに嬉しさ半分、疎外感半分。
「まさか。お師匠様は気付いてたみたいだけど、死ぬことは教えてなかったし、こいつらにはお師匠様がぎりぎりに伝えたはずだ。あたしは都合よく忘れておけるからね。昨日だって、暢気にやってたでしょ?」
そう言って笑う彼女の表情には偽りが見当たらない。
「そっか……。ありがとうございました」
「いいってことよ。それより、朝にはここを離れて連中を追おう。こっちを怒らせて追わせてまだ遊ぶ気だろうから、うかうかしてると引き返してくるかもしれない」
そうなればこの地はふたりにとっての人質となり、全てが水の泡である。
「ふたりで追って、追って追って追い詰めてやろう」
そう言うミズメはどこか愉しげであった。
「皆、必ず戻って来るからね」
オトリは月山の面々にそれぞれ抱擁をした。
「ミズメさんも」
オトリは相方に向かって両腕を伸ばした。
「あたしはさっき充分してもらったんだけど」
渋るのでオトリは強引に抱きしめにいった。
「ずっと一緒ですよ」
「う、うん……」
歯切れの悪い返事と、返されぬ抱擁。
きっと照れているのであろう。オトリにはその曖昧な返事がかえって愛おしく思えた。
相手がしてくれないぶん、自分がしてやるのが私たちの流儀なのだと。
「痛いよオトリ」
いい加減に文句が出る。
オトリは身を離し、帯を締め直した。
「……良し! じゃあ、最終決戦へ行きましょう!」
*****
今日の一首【ミズメ】
「天雲の 別つ雪荒れ ゆきあひて 色だに残せと 桜に散らさんや」
(あまくもの わかつゆきあれ ゆきあいて いろだにのこせと はなにちらさんや)
……雪荒れは吹雪、ゆきあいにはであう、かさなるなどの意味、色だにの色は美しい、趣き、恋、表情、優しさ、色そのものなど様々な意味。
“だに”は“~くらいは”の意。散らさんやは他言するの意味。別れを惜しむ言葉を花びらに見立てた雪へ呟いた一首。
今日の一首【ミズメ】
「なにゆゑか 人の世の旅 悩ましき 出逢い別れを いくつ越えども」
(なにゆえか ひとのよのたび なやましき であいわかれを いくつこえども)
……人生の苦悩は出会いと別れをいくつ越えても……と、何かに聞いている。
今日の一首【オトリ】
「いかにせむ 呟めく鳥が 里馴れる それに根差すは つがふあなたよ」
(いかにせむ つぶめくとりが さとなれる それにねざすは つがうあなたよ)
……いかにせむはどうしよう。里馴れるは人里に鳥が馴れること。根差すは原因。直訳すると人ずれして悩む“とり”が慣れたのはあなたのお陰であるとなる。
感謝のために温めていた一首を返歌とした。