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魔法のスイーツ店  作者: 緋色唯
2/6

2話 反抗期・思春期クッキー

2話目もごゆっくりお楽しみください。

とある曇りのお昼。1人のお客様が入ってきた。

腰パンにギラギラベルト、ツンツンな茶髪にピアスがずらりと並んだ、いかにもヤンキー要素満載の高校生がやってきた。

時間帯からすると、校舎外に無断で抜け出してきたらしい。

でも、どうしてこのスイーツ店にやってきたのでしょうか。


「いらっしゃいませ。初めて見る顔ですね。」


「ちーす!!気になったから来てやったぜ!!

なぁ、まじ店長、聞いてくれよぉー。実はさー、おれんちのババアが最近マジでうるせぇんだわ。

だから、ストレス発散になるよーな、すかっ!!っとするようなスイーツくれねぇかなぁ?」


少年は初めて会った人なのに、足を立てて、偉そうに注文してきた。

店長はそんなことも気にせず、口を開いた。


「なにか気に障るようなことでも言われたんですか?」


「あぁ?何言われたも何も、俺にいちいちどうでもいいことで話しかけてくるんだよ。

こんな時間までなにしてるの?

学校行ってないみたいだけど、なんで?だの、

ほんと、うぜぇ。関係ねぇだろってな。」


「お母様はあなた様のことをとても心配してらっしゃるご様子ですね」


「心配!?!?まじ、心配とかされたことねぇから。俺はほったらかし。あいつにはイラねぇ存在ってなわけ。」


「…いつからそうなってしまったのですか?」


「あぁ???…チッ

おせっきょうかよ。もーいーわ。気分わるくなったわ。

もし次来た時時は俺に説教とかすんなよ。

じゃあな。」


うるさい足音を立てながら、戸の前まで来たとき、店長はボソッと少年に話した。


「明日またいらっしゃってください。その時は是非、長居してくださいね。」


「…あぁ。気ぃ向いたらな。」


少年はゆっくり戸を開け、店を後にした。



次の日の夕方、約束通り少年はこの店にやってきた。


「いらしてくれたのですね。」


その言葉に少年は不貞腐れたような態度をしながら言った。


「べ、別に暇だったから来てやっただけだし。」


「そうですか」


少年はコーヒーを頼みカウンターでお行儀悪く飲んでいた。


コーヒーを飲み終えた少年は、しばらく携帯をいじり、んじゃまた来る。と言って店を出ようとした。


「もう少し待っていただけませんか?」


店長は少年の足を止めた。

少年は不思議そうに、振り返った。


「あぁ?なんだよ。

今から友達と会うんだよ。」


「その約束、断ってください。」


「はぁ?なにいってっ…!」


「お願いです。今日はあなたにお見せしたいものがあるので…」


少年はチッと舌打ちをして、お店の奥の角の席に座った。


それからしばらく、まるで止まったような時間が過ぎた。

外はとっくに更けてしまっていた。

さすがに待ちくたびれたのか少年は店長に大きな声を張り上げた。


「おい!店長!!!

俺をいつまで待たせるつもりだゴラァ!」


「もうすぐですよ。

今から何も喋らないでくださいね。」


「て、てぇめぇ!!」


「シッ…!」


店長は、口に人差し指を添えた。

少年はつい黙ってしまった。その時、


「キィィ…」


お客さんが来た。こんな夜遅くに来る人はどんな方でしょうか。


「…か、母さん…。」


少年はその場に立ち尽くした。


母親は慣れたようにカウンターに座った。多分、そこが定位置なのだろう。


「こんばんわ。また来たのですね?

また話してくれませんか?あの話。あなたはまた同じことで苦しんでいる。」


「…えぇ。」


少年は只々、自分の母親の弱った後ろ姿を見ていた。

そして、ツバを何回も何回も飲みこのんだ。


母親はこの店によく来る常連らしい。年齢の割りには少し老けているようにも見える。

白髪混じりの長い髪を後ろに一つ束ね、口角は下がり、くまもできている。手は水仕事を、よくするせいか、小皺が目立っている。



ー 少年は、4歳の時に父親を交通事故で亡くしている。



それから母親はシングルマザーとして、休むことなく働き、家事もこなしてきた。疲れが溜まり、病院通いになることも多々あった。

しかし、そんな姿は子供に見せられるわけない。

母親の強さというものか、息子の前では、教育熱心な厳しい母親で居た。


だが、ずっとこのままで生活できるわけがない。

仕事先で倒れたのだ。

それからか、笑顔を見せることは無くなってしまった。

息子はそんな母親が嫌だったのかもしれない。


中学2年生になった頃から、連む人が変わり、その影響でみるみる少年は変わっていった。

しまいに、高校では家に帰らないことも増えた。

少年が悪さをするたび、母親は何度も何度も頭を下げた。

そのあと、何も言わず仕事場に戻る。

それを繰り返すたび、母親は息子の目を見なくなった。

会話も無くなった。

…笑顔も無くなった


母親は、カサカサの唇をゆっくり開いた。


「息子は…あんな子じゃなかったんですよ? いい子でした…。

息子がまだ小学3年生…9歳になってない頃だったかな…

私にギュッと抱きついて、


かぁちゃんは僕が守るんだ!!

かぁちゃんをもう泣かせない!!

ぼ、僕がかぁちゃんを笑顔にさせるんだぁ!!!って…


…言ってくれたんですよっ…

ほほっ…懐かしいわねぇ…

でも、いつから…変わって…しまったのかしら…私が…悪いんだわ…きっと…私が…こんなんだから…」


母親は膝の上で拳をギュッとにじりしめ、ボロボロと涙をこぼした。

母親は、誰にも相談できず、苦しんでいた。しまいには、精神病を患った。その時、この店と出会ったらしい。


少年は、こんな母親を初めて見た。

自分のことしか考えてなかった、自分さえよければいい、と思っていた自分が醜い、酷い人間だと感じた。

母親はいつも少年の事を考えていたのに…

自分は間違っていたと…

母親は家に1人、いつも何を考えていたのだろう。何をしていたんだろう。泣いていたのだろうか、

少年は、そう思っただけで胸が苦しくなった。

だけど今更…どおしたらいいんだ…

と悩んでいた時、


「そこのあなた。なにか甘いものでも召し上がりになりませんか?

こちらへいらしてください。」


少年は、すぐには動けなかった。

久しぶりに見る弱った母親の元へ行くなんて…


「…!

…ユウト…あんたなんでこんなところに…」


振り返った母親は動揺を隠し切れていなかった。


「…お2人はお知り合いですか?親子でしたか。

ユウト…さん。というのですね?

ユウトさん。どうぞこちらに。」


少年は母親の隣の隣の席に恐る恐る座った。


「…どうぞ。店長スペシャルのクッキーを。」


と言って、店長は、少年と母親の前に同じ種類、同じ枚数のクッキーを差し出した。


「クッキーは、生地を作る際、バターと卵を乳化させる工程があるんです。

ちゃんとしないと卵とバターが分離してしまうんです。味も触感も落ちます。

水と油のようなものですね。

まるで、生地が反抗期や思春期のようです。厄介ですね。

しかし、ちゃんと混ぜてあげれば生地もゆうことを聞いてくれます。そこにはちゃんと、卵とバターが混ざるように、混ぜる側と生地がわかり合わなければならないのです。

分離すれば、何らかの原因があったということになりますね。

クッキーは、簡単と思われますが、意外と繊細で難しいです。

混ぜ方が違うだけで、味、香り、触感、全て異なります。

ですが、やはり作るのに1番必要なものは、

…愛ですね。

これは、クッキーに限らずですね。


…今、ユウトさんは葛藤し分離しています。

そこで、あなたがユウトさんと分かり合い、愛を込めて、乳化できるよう混ぜてあげてください。きっと、大丈夫です。」


2人はしばらくうつむいていた。

何から喋ろうと考えているようだった。


すると急に少年はクッキーを一枚、手に取り早々と口に入れた。

噛んだ時、少年の表情が変わった。

触った時には硬かったのに、

歯と歯に挟まるかどうかのところでほろりと口の中で砕け、素朴な甘さが口一杯に広がった。


少年は飲み込んだ後に、ゆっくり喋り出した。


「か、母ちゃん…俺、間違ってたよ。母ちゃん…俺のこと嫌いになったのかと勝手に思って、

母ちゃんの無理矢理作ってる表情見たくなくて、居づらくなって、忘れるために刺激をすぐ求めて…

俺、もう許されないことばかり…しちゃってたって今気づいて…

それでっ…!」


「もぅ…いいわよ…」


息子の言葉を優しく抱き込むかのように母親は語り出した。


「私にも悪いことはたくさんある。どんどん変わっていくあなたを見て、悲しくって悲しくって…

でも、今気づいたわ…

私も逃げてたんだと…あなたと同じく。自分の息子から…


…ふふっ

…お父さんに…天国から怒られちゃうわねっ…」


母親は無理矢理笑いながら涙をボロボロ落とした。しかし、その笑顔はどこかしら幸せそうにも見えた。

少年は、目の奥が、熱くなった。

うつむき、そっぽを向きながら母親の手を優しく両手で握った。


店長は小さな声で、サービスです。と、言いながら、二人の並んだクッキーの横にクッキーに合う紅茶を添えた。



それから数日が経った日のこと、

この店に真面目そうな青年がやってきた。

そう。あの、ヤンキーだった息子だ。

ピアスの穴はまだ残っているが、見違えるような立派な青年になっていた。

その後ろには母親も。


青年の話によると、母親の病気を治すため、精神科専門の病院に通わせることになったらしい。

しかしそこは、ここから遠く離れた都市部だった。だから、引っ越しをするらしい。それを期に学校を辞め、母親のために働くと凛とした表情で話してくれた。


そこで、引っ越しをする前にこの店に足を運んでくれたらしい。


青年は深々とお辞儀をし、にっと笑顔を見せた後、母親の背中を支えながら店を後にした。


扉がしまった後、店長は二人が使ったコップを眺めていた。







2話目もご覧いただきありがとうございます!


3話目もよろしくお願います。^_^

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