1話 空っぽなシュークリーム
17歳の時に書いた作品です。
不思議なスイーツカフェ店があったそうな
その店長が作るスイーツはただのスイーツではない。
お客さんが抱えてきた「闇」にそっと光を差し込んでくれるという、魔法のスイーツだそうだ
その店長は変わった人で、いつでも仮面をつけている
顔を見られたくないのか…私たちにはわからない
1 空っぽなシュークリーム
ある日またあのお客さんが来た。
1人の女性。学生なのかどこかの制服を着ていた。
その子の目は赤く、腕にはイニシャルが刺繍されたリストバンドをしていた。
「どうなさいました?」
彼女は震えた声でゆっくりゆっくり言葉を吐いた
「あ、あなたのスイーツは人の闇を消してくれると最近聞いたので…学校を休んであらためてまた食べに来ました…初めはただ食べたかったんだけど…最近辛くなってきちゃって…よく効くスイーツくださいませんか?」
「あなた、心に闇をお持ちになっているのですか」
「はい…」
そう彼女はかすれた小さな声で闇を店長に告げた。
ー イジメ。
彼女は普通の高校生活を送っていたが、あれが起こってから彼女の高校生活が一変した。
同学年のリーダー的存在の女子に目をつけられたのだ
理由は、恋愛関係。
リーダーの女子には気になる人がいた。そして勇気を振り絞り告白したらしい
しかし結果は、否。
そして、その次の日に彼女がその男に告白されてしまったそうだ。返事はまだしていない。
それを知った、リーダー女子は妬み、彼女をイジメるようになったようだ…
なんて理不尽な…
そのイジメは2週間以上続いていて、彼女は精神が殺られ、3日目の休日。
親には言えず、学校を行くふりをしてこの店に身を潜めているそうだ
そして今日も、店に彼女はやってきた
彼女の話が終わると、シーンとした空気になった。
彼女はうつむいている。
店長が口を開き
「あなたはこれからどうしたいのですか?」
意外な言葉に彼女は目を少し見開いた。が、すぐしたを向いた
「友達は居ないのですか?」
しばらく沈黙は続き、彼女は重い唇を開いた
「…居ました。」
「居まし た。とは…?」
「いなくなりました。」
「どうしてですか?」
「私と一緒にいると、自分もいじめられるから、私からはなれたんです。
いじめられたばっかりの時は私のこと裏切らないよって言ってくれたのに…」
彼女はまたうつむき、涙を落とした。
「本当にそうでしょうか」
彼女は、はっと顔を上げた
「彼女がそう言ってあなたから離れたのですか?」
彼女は口を一文字に結んで、首を横に振った
「でも、そんなこと言って離れる人なんて居ないよ…みんな私から離れてく…私は1人なの…」
「あなたはその言葉を信じないのですか?裏切らないという、言葉を …」
「信じられるわけないじゃん!!!!
…実際裏切られたし…
急に…無視されるようになったし…目も合わせようとしない…そんなの言われなくてもわかるよっ!!!!」
「…友達は学校であなたと会う時どんな顔をしていましたか?」
「ケイベツ…されたような…」
「…あなたは、裏切られたのではなく、裏切ったのでは?」
「えっ…?」
そう言って店長は彼女にシュークリームを出した
「シュークリームは、生地の空洞にカスタードクリームが入っています。
このシュークリームも初めは空っぽでした。しかし中身がたっぷり入ることにより食べた時にクリームが溢れ、優しいバニラの甘さが口一杯に広がります。私が好きなスイーツです。
…実は先日、あなたの友達がこのお店に来られ、あなたの話をしてくださいました。
その時友達は、リーダー女子の方に、脅されていると話してくれました。
強制的にあなたのことを一人にさせているみたいです…
あと、友達が言っていたことがあります。
あなたが私のことを嫌いになっているかもしれないけど、私はあなたのことを嫌いにならない。絶対に、とね。
…今は無理かもしれないけど、今はあなたの傷ついた空っぽの心を満たしてあげたい気持ちでいっぱいだと…おっしゃっていましたよ。」
その言葉に彼女は顔をくしゃくしゃにして、手で顔を覆い、嗚咽した。
さっきの涙とは違う涙を。
「どうぞ。空っぽの生地にたっぷりのカスタードクリームを満たしたシュークリームを。」
彼女はぼろぼろ泣いた顔のまま、シュークリームをほうばった。
彼女の涙は、まるで闇が綺麗な雫となって目から流れ落ちているようだった。
夕方、やっと泣き止んだ彼女は清々しそうであったがまだ、少し不安そうな顔をしていた
「店長!ありがとうございました!私、友達にあって謝ってきます…ご馳走様でした…!」
彼女は出口を目指し、店を出るため戸を開けた。
その時、目の前に青年が息を荒げながら、彼女を見つめていた。
彼女は気まずそうに目線を外した。
「お前の友達に聞いたら、この店に良くいると聞いたから、学校終わってすぐ来た…。」
青年は両手を膝に置き、肩を上下に動かしながら、優しい目で彼女を見つめていた。
目を泳がせながら彼女は言った。
「…な、なんで…こっ…ぁっ!」
青年は急に彼女を力強く抱きしめた。大切なものを抱きかかえるかのように…
彼女は驚きで固まっていた。
少しして、優しい声で彼女の耳元で喋り出した。
「オレ、返事とか無理に欲しいなんて思ってないし…てか、それにお前があいつらにいじめられてるの…オレのせいだし…
ずっと辛い思いさせててごめん…何もできなくて、そんな自分がマジサイテーだと思って…許せなくて…だからさ…
あの…うん…
責任とらせてくんねぇかな…
オレに…」
青年は不器用ながらも、一生懸命自分の気持ちを吐いた。
彼女が一人ではないと実感した瞬間だった
ずっと一人だと思っていた自分が嫌になった。
次は彼女の方から何も言わず抱きしめ返した。
「オレ…このままにしてやるから…顔見えねぇからさ…
だからさ…あの…さ
…今、好きなだけ泣けよな…」
さっき、あれだけ泣いたのに、また涙が溢れてきた
この涙はこの涙で、先ほどの涙とはまた違う涙だ…
それから彼女はこのお店に来ることは無かった。
そう、学校へ行ったのだ。笑顔で。
まだ、多少嫌がらせは続いているようだが、友達のおかげで力強く生活できているようで、その友達との中は一層深まったようだ。
もちろん、パートナーになった青年ともね。
店長は仮面を外し、独り言をいった。
「実際に魔法なんて、無いんだけどねっ」
そしてスクッと微笑んだ。
第2話もよろしくお願いします!