ラスボス戦
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──ラスボス戦
「クッハハハハ!」
ルドヴィカが急に高笑いを始めたのに、全員がそろって彼女を見た。
「輪廻転生すること何千万回。ついにこの時がやってきたのだ。勝利の時が」
ルドヴィカはそう告げて、その瞳でこの場にいる全員を見渡した。
「貴様らに何度葬られたことか。私が何度この戦いをやり直してきたか。貴様らには知る由もないだろう。貴様らはそれを観測する手段を有していなかったのだからな」
「ルドヴィカちゃん? どうしたの?」
ルドヴィカがそう告げるのにディアがそう尋ねた。
「クラウディア。クラウディア・クリスタラー。貴様には何度も、何度も、何度も、屈辱を味わわされてきた。今こそ、その報復を行う時だ」
「屈辱? 何のことなの?」
ルドヴィカの言うことをディアは全く理解できていない。
「いいから、黙って死ぬがいい!」
そう告げてルドヴィカは魔剣“黄昏の大剣”をディアに向けて振るった。剣先から波動が生じ、それがディアに向けて迫る。
「待った!」
そこをオットーがディアを押し倒し、ジークが波動を斬撃で打ち消す。
「何のつもりだ、ルドヴィカ君」
「貴様らにも報いを受けてもらわなければな。私が何度苦汁をなめさせられたと思っている。何千万回もだ。この支配者として生まれた私が支配することができず、何度貴様らを前に倒れたことか」
ルドヴィカはそう告げる。
「私はルドヴィカ・マリア・フォン・エスターライヒ! エスターライヒ王国の正当な王位継承者にして、この世の支配者なり! そして、支配者というものは──」
ルドヴィカが魔剣“黄昏の大剣”を構える。
「力によって全てを支配する。そこに同情など無用。そこに慈悲など無用。私は力を以てして全てを支配する。この世を黄昏の時代へと導こうではないか」
ルドヴィカはそう告げて残忍な笑みを浮かべた。
これまで一度も浮かべたことのないような笑みだ。
「エーレンフリート。こいつらを始末しろ」
「しかし、陛下! 先ほどまでこの者たちとともに戦われていたではありませんか!」
ルドヴィカが命じるのに、エーレンフリートがそう返す。
「そうか。貴様も私に逆らうか。ならば、死ね」
ルドヴィカはそう告げて魔剣“黄昏の大剣”をエーレンフリートに向けて構えた。
「やらせねえ!」
そこでオットーがルドヴィカに向けて矢を放った。
矢じりの部分に装着されていた爆薬が炸裂し、ルドヴィカを煙が覆う。
「フン。馬鹿らしい。この程度の力で私をどうこうできるとでも思ったのか?」
「思ってないからやったんだよ。あんたは俺たちの仲間だったんだからな」
ルドヴィカが吐き捨てるのに、オットーがそう告げて返す。
「エーレンフリートの兄ちゃんもあんたのために戦ってきたんだぞ。それをいきなり殺そうとするなんて、あんたいったいどうしちまったんだ?」
オットーは心底困惑した様子でそう尋ねる。
「分からぬか、小僧。私が求めるのは支配だ。支配のためならば、なんだろうとする。そして、力による支配こそが永続する支配だ。故に私は力を振るう。恐怖を振りまく。その先にあるのがアルゴスの言うようなただの殺戮に過ぎないとしても私に残された目的はそれだけだ」
ルドヴィカはそう宣言して魔剣“黄昏の大剣”を構える。
「ルドヴィカちゃん。本当にそんなこと思ってるの? ルドヴィカちゃんは私たちと一緒に邪神うむるあとあとを倒すためにここまで来たんじゃ……」
「それは私の中のもうひとつの人格が勝手にやったことだ。貴様を欺くための偽りの人格がな。貴様らとお友達ごっこをして、貴様らを弱体化させ、今度こそ私の支配は完成するのだ。全てはそのためのものにすぎん」
ディアが震える声で尋ねるのに、ルドヴィカがそう告げる。
「真の支配者に友人など不要。全てを力によって叩きのめすのみ」
ルドヴィカはそう告げて斬撃をディアに向けて放とうとする。
ジークはしっかりと地を踏んでディアを守ろうとし、オットーが矢をつがえる。
「ルドヴィカ……」
「陛下……」
そして、その様子をジルケとエーレンフリートが不安そうに見つめていた。
「降り注げ。無垢なる刃!」
その時、詠唱が響いた。
ルドヴィカの声ではない。別の人間による詠唱だ。
「くうっ……!」
その攻撃を前にルドヴィカの斬撃がキャンセルされた。
「ミーナちゃん!? 今のは!?」
「よく分からないけど私にも使えるようになったわ、エーテル属性の魔術!」
攻撃を放ったのはミーナだった。
「みんな、ルドヴィカは誰かに乗っ取られているのよ。それなら、私たちの手でぶっ叩いて、元のルドヴィカを取り戻しましょう!」
「ミーナちゃん。本当にそれでいいの?」
「いいに決まってるでしょ」
ミーナの提案にディアが恐る恐る尋ねる。
「さあ、勝負よ、ルドヴィカ! あんたを正気に戻してやるから!」
「私は完全に正気だ、戯けが。だが、やろうというならばいいだろう。やってやる」
ミーナが宣言するのに、ルドヴィカが小さく笑った。
「ルドヴィカちゃん! ちょっと痛いかもしれないけれど我慢して!」
そこですかさず高性能樽爆弾をディアが投擲する。
「くっ……! だが、この程度!」
そして、ルドヴィカとディアたちの戦いが始まった。
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「あれ……?」
私は気づくとよく分からない場所にいた。
どこかのお城のような場所。
私はその城門を潜って中に入る。
お城の中は殺風景だった。飾られているものは何もなく、ただただ無機質な城の構造がむき出しになっている。私はそんな城の中を誰かに導かれるようにして、進み続けた。
「ここは……」
私が巨大な扉を開いて入った先はゲームにあるような玉座の間であった。
「貴様か」
そして、その玉座にはルドヴィカが腰かけていた。
「もう用は済んだというのにまだ私の中をうろついているのか。去れ」
ルドヴィカはそう告げて玉座の上から私を見下ろした。
「用は済んだってどういうこと?」
「そのままの意味だ。貴様には連中の懐に入り込むための役割を果たしてもらった。愚かな錬金術師の小娘とその仲間は今に葬り去られるだろう」
「ええっ!?」
何が起きているのか分からないけれど、ルドヴィカはディアちゃんたちと敵対しているの!? というか、懐に入り込むために私を利用したって……。
「じきに私の時代が来る。黄昏の時代がな。私がこの世を支配し、滅びへと導く」
「そんなのダメだよ! せっかくディアちゃんたちと友達になったのに!」
ルドヴィカが告げるのに私がそう叫んだ。
「うるさい! 真の支配者に友人など不要だ! 貴様は友人面をして、奴らに取り入るという役割を果たすための駒に過ぎない!」
「嘘ばっかり! じゃあ、なんで泣いてるの?」
ルドヴィカは泣いていた。ぽろぽろと涙が零れ落ちている。
「私に友など必要ない。必要ないのだ……」
「ルドヴィカもボッチは嫌だったんじゃないの?」
ルドヴィカがそう呟くように告げるのに、私は一歩ルドヴィカに歩み寄る。
「王とは孤独なものだ。支配者とは孤独なものだ。それを私は理解している。王に友は必要ないのだと。支配者に友は必要ないのだと。だが、どうしてだ。どうして貴様が演じていたあの偽りの私が懐かしく感じる」
ルドヴィカはそう告げて顔を俯かせた。
「それはルドヴィカも友達が欲しかったからだよ。孤独というのは痛くて、冷たくて、苦しいものだから。だから、友達が欲しかったんだよ」
「黙れ!」
私がそう告げるのにルドヴィカはどこから魔剣“黄昏の大剣”を抜いて、思いっきり横なぎに振るった。
剣先から生じた波動が私の頬を僅かに掠めて飛び去って行く。
「黙らないよ。ルドヴィカ。あなたに必要だったのは魔王の地位でも、強力な黒書武器でもない。友達だったんだよ。そうなんでしょう?」
「私は、私は……」
私の言葉にルドヴィカが魔剣“黄昏の大剣”を地面に落とす。
「一緒に行こう。ディアちゃんたちと友達でいられる世界に。あなたに必要なものは間違いなくそれだから。さあ、手を取って」
私は玉座の上のルドヴィカに手を伸ばす。
「私は大悪魔と契約するために3000名ものかつての臣民を殺したのだぞ? それが許されるというのか? こんな人間が友達などになれるというのか?」
「なれるよ。もうそんなのとっくの昔のこと。今の私たちには関係ない」
ルドヴィカがどういう気持ちで3000名もの人間を殺したのかを私は知っている。
臣民たちに裏切られ、どうしようもなくなって怖くて、悔しくて、強い力を手に入れるために大悪魔と契約するために殺したのだ。
それももう100年前の話。とっくに時効だ。
「ルドヴィカ。友達が欲しいんでしょう? 私も一緒だよ。私も友達が欲しい。ずっと欲しかった。それがようやく手に入って嬉しかった。それでいいんだよ」
「それでいいのか……」
ルドヴィカはそう呟くと私の顔を見た。
「貴様に任せる。好きなようにしろ。私は負けた」
ルドヴィカがそう告げると同時に、この玉座の間の空間が崩壊した。
そして、私の意識は暗闇へと落ちていく。
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「畜生。まるで歯が立たない」
私が意識を取り戻すと、いきなりオットー君が矢を放ってきた。
「待て! やめろ!」
「目を覚まして、ルドヴィカちゃん!」
挙句、ディアちゃんが高性能樽爆弾を放り投げようとしている。
「やめろ! 私だ! ルドヴィカだ!」
「ルドヴィカちゃん……?」
私が魔剣“黄昏の大剣”を下して告げるのにディアちゃんの動きが止まった。どうやら私があの城を彷徨っていた間に、ルドヴィカとディアちゃんたちの間で戦闘が勃発していたらしい。
「私は元通り、かつての私だ。攻撃の必要はない」
「ルドヴィカちゃん!」
私がそう告げると、ディアちゃんが私に飛びかかってきた。
「良かったよう、良かったよう! みんなと喧嘩し始めたときはどうなることかと思ったけれど、もう元通りなんだよね?」
「ああ。元通りだ。すまなかったな。心配をかけた」
ルドヴィカ自身は今も影響力が残っているらしく魔王弁はそのままだ。それでも、ディアちゃんたちを攻撃しようとはしていない。
「陛下。やはり私は陛下のお言葉に従うべきでしたでしょうか……?」
エーレンフリート君がそんなことを訊ねてくる。
「私がどのような命令を発したか知らぬが、先ほどまでの私は私そのものの意志で行動していたわけではない。従わなかったといって咎めるつもりはない。むしろ、よく制止してくれた。貴様まで暴走していたら目も当てられなかっただろう」
エーレンフリート君まで暴れてたら、止めるのは大変だっただろう。
「全ては終わった。さあ、ドーフェルに帰ろう」
「おー!」
というわけで、無事に邪神討伐を終えた私たちはドーフェル市へと戻ったのだった。
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