魔眼の使い手
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──魔眼の使い手
ついに私たちは第9階層に到達した。
第9階層の構造はドーフェルの神殿跡地によく似ていた。
ただし、あの神殿の構造とは違って全てがひっくり返っている。
柱の向きも崇める神の石像も全てが上下逆だ。
「来ましたね、魔王ルドヴィカとその仲間」
そして、そこに女性の声が響く。
「貴様は……」
「アルゴスか」
私の言葉をエーレンフリート君が引き継いだ。
「さては邪神の復活を早めたのは貴様か?」
「その通り。生贄を捧げ、我々が神を呼び出しました」
私が問い詰めるのに、アルゴスという赤毛の女性はそう返した。
「ほう。その目的は神頼みか? 私に勝てぬというから、とうとう神に頼ったか?」
「その通り。我々では大悪魔の領域に達したあなたに勝利することはできない。ですが、我々の神であればその結果を覆せる。我々の神はあなたを殺し、葬り去ることでしょう、ルドヴィカ」
げーっ。またしても私のせいでもめ事が……。
この物語、私がいなかったらどれだけ穏便なものだったのだろうか。吸血鬼は王都で暴れ、ミーナちゃんは毒に倒れ、そんでもって邪神の復活ときたもんだ!
でも、私がいなかったらいなかったで、今度は魔王が本格的な問題になってくるのだから何とも言えない。今の私はディアちゃんたちと戦うつもりはないけれど、私が倒した魔王はやっぱり世界征服とか狙ってたんじゃないかな。
「結構だ。その首を邪神への生贄として捧げてやろう。感謝するがいい」
「そうはいかない。私は足止めをする。邪神ウムル・アト=タウィルの完全復活のために。我がしもべたちよ。今一度、僭称者ルドヴィカの足を止めよ」
私の言葉にアルゴスがそう告げる。
それと同時にアークグリフォンからミドガルドシュランゲ亜種までの、この禁忌のダンジョンの階層ボスをやっていた魔物たちが一斉に姿を現した!
「ほう。なかなか面白いことをしてくれるではないか」
第1階層から第8階層までのボスが揃い踏み!
いくらなんでもありえなーい! こんなの卑怯すぎるよ!
「僭称者ルドヴィカ。ここで倒れていけ」
アルゴスがそう告げると同時に魔物たちが私たちに向かって襲い掛かってきた!
「エーレンフリート、ジルケ、ジーク! 前衛は確実に敵を押さえ込め!」
「畏まりました、陛下!」
私の指示にエーレンフリート君たちが応じる。
とは言えど、数は3対8だ。限界というものがある。
「ディア、ヘルミーナ、オットー! あらん限りの火力を敵に叩き込め!」
「りょーかい!」
続いて私はディアちゃんたちに指示を出す。
ディアちゃんは高性能樽爆弾で、ミーナちゃんは魔術で、オットー君は矢でそれぞれ相手を攻撃する。爆風が吹きすさび、魔物たちが悲鳴染みた雄たけびを上げる。
「降り注げ! 無垢なる刃!」
そして、私も敵に向けてエーテル属性の全体攻撃を放つ。
結局、ミーナちゃんがエーテル属性の魔術を覚える機会はなかったが、私が使えるのだから問題ない。ダンジョンに降り注いだ魔術攻撃を前に弱い第1階層の魔物から順に倒れていく。その威力たるや、確かなものである。
「この調子で畳み掛けるぞ! 全員、役割を果たせ!」
「おー!」
エーレンフリート君がマンティコアの首を刎ね飛ばし、ジルケさんが超巨大ムカデの頭を踏み砕き、ジークさんがミノタウロスの心臓を一刺しにする。
ディアちゃんたちは高性能樽爆弾を始めとする高火力攻撃で魔物たちに打撃を与え続ける。それによって他の魔物が倒しやすくなる。
「無垢なる刃!」
私は全体攻撃で皆を支援。
これによって瞬く間にアルゴスの配下の魔物は消滅していき、ぼふんぼふんと白煙が噴き上げる。これで当分は高レベル魔物の素材には困りそうにない。
「なかなかやるようですね。ならば、これはどうでしょうか?」
アルゴスは自分の配下の魔物が倒されていくのを見て、宙に魔法陣を描いた。
その魔法陣から巨大な腕が伸び、それが魔法陣の枠をつかむと、ぐにゃりと全身の姿を見せた。それはヤギの頭を持ち、人間の半身を有するものだった。
「アークデーモンか」
アークデーモン。
本来、この禁忌のダンジョンの第9階層を守護する魔物である。
どうやら、今回はゲームの時と違って、アルゴスの召喚した魔物+アークデーモンという形らしい。いくらなんでも滅茶苦茶だ!
「あ、あれが邪神?」
「あれはただの邪神の小間使いだ。この程度でへばってくれるなよ」
そうはいったものの、私自身が既に挫けそうです。
前衛組は体力回復が間に合わず、後衛組もミーナちゃんの魔力回復が間に合っていない。この状況でアークデーモンを相手にするのは酷である。
「エーレンフリート、ジルケ、ジーク。一旦下がっていろ。あれは私が足止めする」
「ですが、陛下!」
「貴様らは体力と疲労を回復させておけ。足手まといを引き連れての戦闘はごめんだ」
エーレンフリート君たちは一時的にだけど、下がっておいて!
「行くぞ、悪魔。貴様のような小間使い程度、本物の大悪魔と交渉した私の足元にも及ばぬわ! ここで葬り去ってくれる!」
私は自分でも分からないままにそう叫ぶと、アークデーモンに切りかかった。
「汝、我々が根底と取引したか。だが、それでも人間では我らには及ばぬ」
アークデーモンはそう告げると、巨大な爪の並ぶ前足で私に向けて攻撃を放ってきた。魔力で身体能力を強化しているのか凄い速さだ!
「どうだろうな、小間使い! 貴様は所詮は劣化品だ!」
私は辛うじてその一撃を回避すると、下がった味方にアークデーモンの注意が向かないように魔剣“黄昏の大剣”の剣先から波動を放って、アークデーモンのヘイトを私に集中させる。
「我々は我々で完成された種族である。我々の根底には及ばぬものの、そこから確かな力を引き継ぎ、己のものとしている。決して我々は劣化などしてはいない。劣化しているとするならば、それはこの世界そのものだ」
「無能ほどよくしゃべる!」
だが、だが、だが、私も不味いぞ。ピンチだぞ。
アークデーモンの攻撃速度に段々体が追い付かなくなっている。
加速を行う暇があればいいのだが、味方を全員下げた状態ではその暇はない! どうにか一瞬でも隙ができれば……!
「てーい!」
その時だった。
後方からディアちゃんの声が響き、アークデーモンの頭が弾かれたのは。
「おのれ。ただの人間の中でも最下層に位置する人種が我に傷を負わせようというのか。ただでは済まさぬぞ」
アークデーモンの注意が高性能樽爆弾を放ったディアちゃんに向けられる。
「貴様の相手は私だ! 加速!」
よっしゃ! 作中、反則級レベルのバフをかけたぞ!
「しまった。これは囮か……!」
「ただの囮なものか。貴様を脅かすだけの脅威ではあっただろう?」
アークデーモンが素早く私の方向を向いて、攻撃の準備に入ろうとするのに私はアークデーモンの懐に飛び込んだ。
そして、魔剣“黄昏の大剣”を振るいまくる。
1発、2発、3発、4発、5発、6発──。
「お、おのれ、流石は我々の根底と取引しただけはある。認めざるをえまい。この場においての強者はそちらであるということを」
「分かればいい。失せろ」
アークデーモンはふんと白煙を噴き上げると、素材を残して消え去った。
「残るはお前だけだな、アルゴス」
「そのようですね」
私がアルゴスに剣先を向けて告げるのに、アルゴスが不敵に笑う。
「何がおかしい」
「あなたの存在そのものがおかしいのですよ。それだけの輪廻を繰り返してきたのに、最終的に至った結論がそれですか。それはあまりにも笑わざるを得ません」
「輪廻、だと」
私はアルゴスの告げる言葉に疑問を抱いた。
輪廻ってどういうことだ? そして、その結論が笑えるものだとはどういうことだ?
「気づいておられないのでしょう、あなたは。だが、あなたの中の本当のルドヴィカは理解している。あなたに物語を託した理由も何もかも」
「訳の分からぬことをぐちぐちと。その首、刎ね飛ばしてくれようか」
私は正直イライラしてきて、アルゴスに魔剣“黄昏の大剣”の剣先を向ける。このまま放っておくわけにもいかないし、どうせこいつは倒さなければならない。ならば、今叩き切るまでだ!
「そこには何もないのですよ、ルドヴィカ。あなたの望むものは何もない。ただただあるのは──永遠の殺戮だけ」
「どうやら本当に死にたいようだな。ならば、死なせてやる」
私は魔剣“黄昏の大剣”を構えると、アルゴスの首を狙った一撃を叩き込んだ。アルゴスの首は刎ね飛ばされ、それは地面に落ちると無数の蛇に姿を変えた。それからぼふんと白煙が噴き上げ、アルゴスの素材だけが残る。
「一体、この女は何が言いったかったのでしょうか?」
「気狂いの妄言など相手にしていても仕方ない。だが、確かなことがある」
私は第10階層に続く、階段を見る。
「この先には邪神がいるぞ。間違いなくな」
禍禍しい空気を放つ第10階層への階段を見て私はそう告げた。
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