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龍はどこだ(エンシェントドラゴンの血液を求めて)

……………………


 ──龍はどこだ(エンシェントドラゴンの血液を求めて)



 私たちは前情報なしでドーフェルの探索マップに突入。


 ドーフェルの森から捜索を始める。


「いませんね」


「おらんな」


 ドーフェルの森、空振り!


 気を取り直して次に行ってみよー! 次はドーフェルの山!


「いませんね」


「おらんな」


 ドーフェルの山、空振り!


 き、気を取り直して次に行ってみよー! 次はドーフェルの大洞窟!


 洞窟の中を私たちは用心しながら進む。


「いませんね」


「おらんな」


 ……本当にこの方法で見つかるのだろうか。そこはかとなく疑問に思ってきた。


 ゲームの時はどうやってエンシェントドラゴンを探したっけ? ゲームの時も虱潰しにやってたっけ? 街の人に噂話を聞いたりしなかったっけ? そういうイベントもあったような、なかったような……。


 ええい! そういうイベントがあろうとコミュ力の低い私には無理無理!


 ひたすらに体力に任せて、探索マップを駆け巡るのみだ!


 探索マップのいずれにかにはいるのだ。そして、時間はまだある。この強硬手段はまだまだ通用するはずである。通用しなかったら困る。『エンシェントドラゴンの血液は任せろ〈キリッ〉』とやっておいて、やっぱりエンシェントドラゴン、見つからなかったよでは済まされないのだ、


 なんとしても見つけ出す。私のプライドにかけて!


 次はドーフェルの湖!


 もう見るからにして、エンシェントドラゴンっぽいシルエットはないが、突入して調べるのみ! 私たちは私の作ったショートカットルートを利用して、ドーフェルの湖の最深部に突入せりっ!


「いませんね」


「ええい。どこにいるのだ」


 ひょっとしてディアちゃんが探しに来ないとフラグが立たないとか? そんなゲーム仕様が今更になってそのまま残ってたら怒るよ。


「気を取り直して次だ!」


 こうなったらドーフェルのダンジョンまで探す勢いで駆け巡れ!


 次はドーフェルの神殿跡地。


 ……今は観光客に解放されているはずなのに、入り口には立ち入り禁止の看板が。


「これは見つけたかもしれんな」


「ええ。強者の気配を感じます」


 私が不敵に笑うのに、エーレンフリート君が頷いて返した。


「いよいよ?」


「いよいよだ。準備をしておけ、ジルケ。どう転ぶか分からんからな」


 ガチでバトルになるか、交渉で終わらせられるか。


 行ってみなければ分からない!


 私たちはドーフェルの神殿跡地に突入!


 思えばこれまでの探索マップではいろんな冒険があったな。ドーフェルの森ではレッサーグリフォンを相手に私の魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”が火を噴き、ドーフェルの山ではジルケさんが重傷を負って、ドーフェルの大洞窟ではミーナちゃんが毒を受けて、ドーフェルの湖ではそれを治療するために大急ぎでショートカットして。


 ドーフェルの神殿跡地も、そんな思い出の場所だ。ガーディアン相手に苦戦して、私がズババッとやっつけてゲームバランスを破壊し、ここでジークさんの鎧が壊れたから、ディアちゃんがジークさんの鎧を作るために頑張って……。


 もうここはただのダンジョンなんかじゃない。思い出の場所だ。


 そして、私たちはドーフェルの神殿跡地の本殿に出た。


「ぬ。人間かにゃー?」


 妙に猫っぽい声で鳴く生き物が目の前に。


 西洋のドラゴンとは違って、東洋の龍を思わせる外見のドラゴンがふよふよとドーフェルの神殿跡地を漂っていた。視線は私たちに向けられているが、興味はなさそうだ。ならば興味を持ってもらうことにしよう。


「魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”」


 私がその黒書武器を抜くと、エンシェントドラゴンの様子が変化した。


「それは悪名高い魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”かにゃ。お目にかかれて光栄だにゃ。その持ち主は碌な奴がいないともっぱらの評判だからにゃ。それで、その物騒な黒書武器の持ち主がこの私に何か用かにゃ?」


 猫なのかドラゴンなのかはっきりしてほしいです。


「貴様の血液を寄こせ。抵抗せぬならば痛い目に合わせんぞ」


 血液を分けてくれないでしょうかって言いました!


「血液をかにゃ? まあ、嫌とも言わないけれどもー……」


 エンシェントドラゴンがチラチラと私たちの方を見てくる。


「血液を分けるわけだし、失った血液の埋め合わせが欲しいにゃ。つまり肉が欲しいにゃ。肉をくれたら喜んで血を分けてやるにゃ」


「ほう。我々を食わせろというのか」


「人間はあまり美味くないにゃ」


 ……食べたことはあるんだ。


「食べるなら牛さんがいいにゃ。牛さんの丸焼きを所望するにゃ。牛さんの丸焼きをくれたら、血液については分けてあげてもいいにゃ?」


 猫っぽいエンシェントドラゴンはそう告げて私たちの方を見る。


「いいだろう。それぐらい簡単に準備してやる」


「交渉成立にゃ。では、楽しみにして待っているにゃー」


 エンシェントドラゴンは猫のような声でそう鳴くとまたふよふよとドーフェルの神殿跡地の周辺を漂い始めた。


 さてさて、牛の丸焼きをなんとしてもゲットしないとな。


……………………


……………………


 牛、牛、牛。


 牛はいるのはいるのだが……。


「うちの牛は食用には適さないよ。農耕牛だからね」


 行く先々でそう言われてしまう。


 ここら辺の牛は農作業に使われるものであって、食べるためのものじゃないらしい。


 牛と言えばミルクを絞るか、お肉として美味しくいただくかという発想の私には衝撃的な話であった。牛は牛でも食べられない牛ってなーんだ? ってなぞなぞだ。


 あの猫みたいなエンシェントドラゴンがグルメとは思えないが、あんまりな品を出すと機嫌を害して、『やっぱり血液あげないにゃ』とかなっても困るので、なるべくなら食用の牛をゲットしておきたい。国産和牛とまでは言わないけれど。


 ここで頼るべき人物はただひとり!


「食用牛が1頭必要、ですか」


 私の言葉にハインリヒさんが顎を摩る。


「うむ。そうだ。我々はエンシェントドラゴンの血液が必要なのだが、そのエンシェントドラゴンが傲慢にも対価を要求してきおってな。我々が買い取るから1頭分の牛の丸焼きを準備せよ。分かったか?」


 相変わらず傲慢なのは私の口調の方だけど、意味は伝わったはずだ。


「牛でしたら牧場で飼っているのを差し上げましょう。ですが、エンシェントドラゴンの血液が必要になる事態とは?」


「今は明かせぬ。だが、いずれ貴様も理由を知る時が来るだろう」


 今は混乱を押さえるために内緒なんだ。ごめんね、ハインリヒさん!


「しかし、エンシェントドラゴンへの貢ぎ物となると、それなりに考えなければなりませんな。私の牧場でもっとも優れた牛を選りすぐって準備しましょう。実物をご覧になって確かめてください」


「う、うむ。そうだな」


 牛の見分け方なんて分からないよー!?


 さも当然のごとく私が選ぶことになってるけど、無理だからー!


「エーレンフリート」


「はっ」


「ただちに九尾を呼べ。奴にしかできぬ仕事がある」


「畏まりました」


 エーレンフリート君がすっと霧になって消えて、この場から消え去る。


「では、どうぞ、牧場の方へ」


「ああ」


 エーレンフリート君、急いで―!


……………………


……………………


「この牛がいい牛ですの」


 九尾ちゃんはギリギリ間に合った。


 私の代わりに牛選びを行ってくれている。


 私は畜産農家ではないので、どれが美味しい牛なのかはよく分からない。ついでに言えば牛の丸焼きなんて作ったこともない。


 あのエンシェントドラゴンはさらりと牛の丸焼きを要求してたけど、正直自分のブレスか何かで丸焼きにすればいいのではと思わなくもない。私たちがわざわざ丸焼きにする必要ってないよね? ドラゴンだし、ワイルドにバクリでしょう?


「では、その牛を頼むとするか。いくらだ?」


「どうやら、街の危機のようですし、無料で構いませんよ。それにあなたには既に無料でアドバイザーをやっていただいていますからね」


 え? あの適当なアドバイスで牛1頭もらっていいの?


 悪い気もするけれど、正直ただでくれるならただでもらってしまいたい。


「なら、もらっていくぞ」


「どうぞ、どうぞ。しかし、エンシェントドラゴンとは。何が起きているのでしょうか。胸にざわめきを感じますよ」


 うんうん。街の危機どころか世界の危機なんだ、ハインリヒさん。


「いずれ明らかになる。明らかになった時、貴様は英雄となるだろう」


「牛を提供してですか?」


 たかが牛、されど牛なのだよ、ハインリヒさん!


「九尾。丸焼きという調理方法はできるか?」


「当然ですのじゃ。ですが、まずは肉を熟成させた方がいいですの」


 肉を熟成? なんじゃらほい?


「死体は死後硬直を経て、柔らかな肉へと変わるのですじゃ。まずはそのドーフェルの神殿跡地とやらに連れて行って、そこで締めましょう」


 私はよく分からないから、九尾ちゃんに一任しよう。


 エンシェントドラゴンも美味しい牛の丸焼きが食べられたら文句は言わないだろう!


 しかし、牛を連れてドーフェルの神殿跡地まで行くのか。


 なんともシュールな絵面である……。


……………………

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