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緊急依頼

……………………


 ──緊急依頼



「へへっ。これ、どうかな?」


「ん。ブレスレットか。仕事の邪魔になるのではないか?」


 いつものように私たちがディアちゃんから余剰ポーションを買いに来たら、ディアちゃんが嬉しそうにシルバーのブレスレットを見せつけてきた。


 ちなみに、最近は余剰ポーションも少ない。ランダムお客さんが増えて、売れ行きがいいのだ。このドーフェルももう立派な都会とまでは言えないけれど、田舎とも言えなくなった。人口は倍増し、今は建築ラッシュだ。


 ポーションはそんな建築現場で売れていく。建築現場では怪我をする危険もあり、そして疲れる場面もあり、そんなときにディアちゃんの良質なポーションが売れるのである。疲労回復ポーションなんかは私が地球で飲んでたエナジードリンクみたいなものだろうか。それよりは健康そうだけれど。


 それから行商人や交易商が増えたおかげで冒険者の数も増えた。そして、ついに冒険者ギルドの受付も2つに増設されたのだー! いえーい!


 とは言えど、ディアちゃんのポーションを買い取るために冒険者をしていたわけで、ディアちゃんのポーションが余らなくなったら意味がないんだ。虚しいけれど。


「ルドヴィカちゃーん。ちゃんと見てよ、このブレスレット」


「ふむ。それなりに高価な品のようだな」


「そうなんだ。実を言うとこの間ジークさんと市場に仕入れに行った時、行商人さんが売ってるのを見てね。お互いに贈り合おうってことで私はジークさんに、ジークさんは私にプレゼントしたんだ。ペアなんだよ」


「ほう」


 凄いじゃん! ディアちゃん、ジークさんと滅茶苦茶進展してるじゃん!


 これはジークさんエンドが望めそうですね……!


「私、これつけてからテンション上がっちゃって! 今なら賢者の石だって錬成できそうな感じなんだよ!」


「思い込みの力とは大したものだ」


 それは流石に自信過剰だよ、ディアちゃん。


「ディア。いるかい?」


 そんな時だった。懐かしい声がしたのは。


「カサンドラ先生?」


「ディア。仕事を頼めるかね?」


 カサンドラ先生は慌ててここにやってきたらしく、息を切らせている。


「仕事ってどんな仕事ですか?」


「賢者の石の錬成だ」


 賢者の石!


 も、もう来てしまったのか、そんな時期が!


 ちょっと早い気がするぞ! そりゃ、探索マップボスを全滅させたけれどさ!


「え、え? 賢者の石? レシピとかはあるんですか?」


「ない。現存する賢者の石のレシピは存在しない。あるのはこれだけだ」


 そう告げてカサンドラ先生はテーブルの上に虹色の鉱石の欠片を置いた。


「これは?」


「砕け散った賢者の石の欠片だ。めぼしい錬金術師たちに今、分けて回っている。誰かが同じものを完璧な形で作れないかとね」


 そう言えばこういうイベント、あったな。


 錬金術でこの鉱石を分析──するのは無理なので、太古の言い伝えなどからレシピを探し出すイベントだったと思うけれど。


「ふうむ。綺麗な石だということしか分かりません」


 ずっこけそうになった。


「ディア。今、冗談ではなく、賢者の石が必要になっている。ディアは私が見込んだ弟子だ。ディアならばできるかもしれないと思っている。やってくれるね?」


「頑張ります!」


 状況がのっぴきならない状況になっているということは邪神が復活するのが近いってことなんだろうけど、本当になんだか邪神の復活が早い気がする。


 私が気づかないうちにRTAやっていたからとかいうオチだったら笑えないが。


「では、頼むよ、ディア。私も暫くはこの街にいるからね」


 カサンドラ先生はそう告げて出ていった。


「さてと。何の素材が必要なんだろうね? それが分からないとどうにも……」


「処女の血液、エンシェントドラゴンの血液、ユニコーンの血液、水銀、エリクサーだ。それが賢者の石の材料だ」


 ディアちゃんが頭を悩ませるのに私はそう告げた。


 そう、思い出したのだ! 賢者の石のレシピを!


 今まではぼんやりとしか分かっていなかったけど、今完璧に思い出した。


「そ、それって本当なの?」


「私の言葉を疑うのか?」


 信じてくれない? と言いました。


「ううん。信じるよ! でも、難易度の高い素材だね……」


「うむ。特にエンシェントドラゴンの血液とエリクサーはな」


 エンシェントドラゴンの血液は入手手段があるとはいえ、エリクサーは調合しなければならない。エリクサーはポーション系アイテムの最高峰で、一度使用するだけで体力全回復、魔力全回復、疲労全回復、状態異常治癒という凄いポーションなのだ。


「あ。そうだ。私、ジークさんに薬草図鑑もらってたんだった! 確かエリクサーの錬成方法も載っていたはず! ちょっと調べてみるね!」


 ディアちゃんはそう告げてパタパタとカウンターから去っていった。


「陛下。どうして賢者の石のレシピなどご存じなのですか?」


 エーレンフリート君が不思議そうにそう尋ねる。


「風の囁きがそう告げていたのだ」


「なるほど。そうでありましたか!」


 いや。普通はこんな説明で納得しないよ?


「あった! あったよ、ルドヴィカちゃん! エリクサーのレシピ!」


「うむ。必要な素材はなんだ?」


 ものによっては私たちが調達を手伝えるかもしれない。


「ええっと。樹齢300年を超える大陸楓の樹液。純度99%の魔法水。それからよく太陽の光に照らされた大陸オオミズノタチ……。最後だけよく分からないな……」


「大陸オオミズノタチ……」


 どこかで聞いたような。


「そうだ。貴様が香水や石鹸にしているハーブがそれだ」


「ええ!? これってミントじゃなかったの!?」


 誰も商品名を理解せず販売していたのか。知っていたのは農家の人たちだけだな。


「よし。楓の木は森にあるし、魔法水は蒸留すればいいとして、よく太陽の光に照らされたってのがどれくらうの期間を指しているのか分からないな……」


「乾燥させたという意味だ。乾燥させたものを使用しろ」


 エリクサーの作り方も徐々に思い出してきた。


 このまま何事もなければエリクサーが作れる。


 問題はエンシェントドラゴンの血液だ。


……………………


……………………


 この賢者の石錬成イベントが発生すると探索マップが幾分か変化する。


 探索マップのどこかにエンシェントドラゴンが出現するようになるのだ。


 それはドーフェルの森であったり、ドーフェルの山であったりとまちまちだ。賢者の石イベントは全ての探索マップボスを倒していないと発生しないイベントなので、エンシェントドラゴンがいるのは、探索マップの最深部になる。


 さて、今回はどこにエンシェントドラゴンが出没したかな?


「取りえず、情報収集だな」


「そだね。エンシェントドラゴンがどこにいるのか探さないと」


 私が告げるのにディアちゃんがそう返す。


「貴様はエリクサーの錬成を行え。エンシェントドラゴンは我々が探しておく」


「ありがとう、ルドヴィカちゃん!」


 私はディアちゃんの作業は手伝えないし、エンシェントドラゴン探しに回った方がいいだろう。問題はドーフェルの森からドーフェルのダンジョンに至るまで、あらゆるマップを踏破してこないといけないことだ。


 さらにその上でエンシェントドラゴンの血液を手に入れる。


 エンシェントドラゴンとはガチでぶつかって対決してもいいし、エンシェントドラゴンからの依頼を受けて平和的に血液を譲り受けてもいい。


 今の私だったら、エンシェントドラゴンとガチでバトルしても勝てそうだけど、ゲームがリアルになった今、空を自在に飛び交い、そして有情の生命体を相手に、血液目当てで襲い掛かるというのもどうかなーと思われる。


 なるべくなら友好的な手段で。どうしてもダメならバトルで。


 私の行動方針は決まった。


「ディア。今カサンドラ先生の姿が見えたけど……」


「何かあったのか?」


 そして、ディアちゃんを心配するようにミーナちゃんとオットー君が入ってきた。


「うむ。賢者の石が急遽必要となった。その素材を集めに向かう」


「賢者の石が!? そ、それって邪神の復活が近いってこと……?」


 ミーナちゃんが尋ねるのに私は静かに頷いて見せた。


「やべーじゃん……。けど、ギルドにはその手のクエストは出てなかったぜ?」


「一般人の混乱を抑えるためだろう。この状況で民衆がパニックに陥ることを誰も望んではいないはずだ。そう考えれば不思議ではあるまい?」


「なるほど……」


 まあ、政府の情報開示が一般的な世界で生きてきた私でも、非常事態に置いて政府が情報統制を行うということぐらいは知ってるよ。


 映画とかアニメでな!


「貴様らはどうする? ディアを助けるならば素材集め。私を手伝うならばエンシェントドラゴンの血液集めだ」


「エンシェントドラゴンの血液!? そんなのが賢者の石にはいるの?」


 ミーナちゃんが疑問そうにディアちゃんを見る。


「うん。必要なんだって。けど、ミーナちゃんは無理をしないで。これぐらいのこと私たちでどうにかして見せるからさ!」


 ディアちゃん。それは不味い。


「そんなわけにいくわけないじゃない、馬鹿ディア! 私とオットーはディアを手伝う。ルドヴィカ、あんたにはエンシェントドラゴンの血液を任せたからね」


「任せておけ」


 ふいー。ミーナちゃんたちがエンシェントドラゴンの血液集めの方に来なくて一安心。こちらに来られていたら、ガチでバトルするという選択肢が消えてた。


 私とエーレンフリート君、そしてジルケさんなら、なんとか私がカバーすれば、エンシェントドラゴンともやり合えるだろう。無論、エンシェントドラゴンと正面からやり合わないのが一番いいのだけれどね。


 だが、エンシェントドラゴンの要求はランダムで変わるので、必ずしもエンシェントドラゴンの望む品を準備できるとは限らないのだ。


 場合によってはエリクサーとか要求してくるからな、エンシェントドラゴン……。


 そして、ガチでバトルになるとその名に恥じない戦いっぷりを見せてくれる。エーテル属性の全体攻撃から強威力物理攻撃、各種属性攻撃まであらゆるものを繰り出してきてくれる。面倒なことこの上ない。


 エンシェントドラゴンの血液をガチでバトルして取りに行くならそれなりの準備はしておかないとな……。


「ディア。ここのポーションを全部もらっていくぞ」


「オーケー! 最優先で何でも持って行って!」


 ちゃんとお代は払いますよ。ただでは持っていきません。


 しかし、私たちは本当にエンシェントドラゴンの血液をゲットできるんだろうか?


……………………

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