なるようにしかならん(鎧を作ったそうです)
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──なるようにしかならん(鎧を作ったそうです)
ドーフェルの採掘場跡地のランドドラゴンには確かに懸賞金がかけられており、私たちは思わぬ収入をゲットすることになった、
40万ドゥカート。討伐に貢献してくれたディアちゃんと分けるとしても、ひとり10万ドゥカートだ。これだけの報酬があれば、ディアちゃんもさらに街を活性化させてくれるだろう。
というわけで、報酬を分けにディアちゃんのお店へ。
「ディア。邪魔するぞ」
「あ。ルドヴィカちゃん。いらっしゃい」
うむ? 心なしかディアちゃんに元気がない?
「どうかしたのか?」
「えーっとね。ジークさんのために鎧を作ったんだけど、どうやって渡そうかなって」
ディアちゃんが頬を赤らめてそう告げる。
「普通に渡せばいいのではないか?」
「それはちょっと無理。頼まれてもないのに勝手に鎧作って、面倒くさい女だって思われたらいやだし……。何かスムーズに渡す手段ってないかなー?」
ううむ。私も思いつかないよ。
というかシンプルにプレゼントするのはそんなにダメなことなのだろうか。直接、思いを伝えて、プレゼントすれば好感度はうなぎのぼりだとおもうけど。
「それはそうと、この間のランドドラゴンの討伐の報酬だ。均等に分けて10万ドゥカートを貴様に与える。受け取っておけ」
「ありがとう、ルドヴィカちゃん。しかし、どうやって渡そうかな……」
ディアちゃんがまた考え込む。
恋する乙女だね、ディアちゃん。けど、私はストレートに直接渡した方がいいと思うよ。その方が好意が伝わるからね。
「ならば、こうしてみてはどうだ?」
「なになに? 何かアイディアあるのかな?」
私はディアちゃんに私の考えを伝えた。
「そ、それはそれで恥ずかしいかな……」
「では、どうやっても渡せんぞ。覚悟を決めろ」
私も恋愛経験はないので何とも言えないが、今のままではディアちゃんはジークさんと前に進めない。この間のクッキーの件で脈ありと分かったはずなので、このままの勢いで突き進むのが吉だと見たね。
「分かった! そうする! けど、具体的にはどうやろう?」
「あの騎士は自警団本部で寝泊まりしているのだろう。そこを利用すればいい」
私たちはあれこれと作戦を立てていく。
「よし。これで完璧だな。では、早速挑んでくるがいい」
「了解! 恥ずかしいけど頑張るよ!」
というわけで、ディアちゃんの作戦は決まった。
後は実行あるのみ!
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作戦を提言した本人として、作戦を見届けなければならないと考え、私は自警団本部の受付が見通せる位置に陣取った。
張り込みから暫くして、ジークさんが自警団本部に戻ってきた。鎧は壊れているためか、胸当てをしているだけで、他に鎧は纏っていない。
「おう。ジークさん、お疲れ様。今日はどうだった?」
「周辺に活発化している魔物はいない。静かなものだ。冬が近いせいもあるだろう。温泉までの道のりも見て回ってきたが、特に問題はなさそうだ」
「それはよかった」
ジークさんが職務熱心なのは知ってるけれど、今私たちが知りたいのはそういうことじゃないんだ。早く話を進めてくれ。
「そういえば、ジークさん。あなたに荷物が届いているよ。ほれ」
「ふむ? 誰からだ?」
「それは開けてのお楽しみだそうだ」
ジークさんが怪訝そうに箱を眺めるのに、受付のおじさんはそう告げて笑った。
ジークさんは包装を丁寧にはぎ取ると、その下にあるそれなりの大きさの箱まで到達した。ここまでくればあと一歩!
「これは……」
ジークさんが箱を開くと、そこにはディアちゃんが頑張って素材を集めて作ったアダマンタイトの鎧が存在していた。細部まで丁寧に作られた鎧だ。
そして、ジークさんは箱の中にメモと小さな袋が入っているのに気づいた。
ジークさんはメモをじっくりと読み、改めて鎧を見る。
これぞ恥ずかしくないようにジークさんに鎧を渡そう大作戦だ。
直接顔を合わせて渡すのは恥ずかしいというディアちゃんのために、自警団本部の受付のおじさんを介して、ジークさんに鎧を届ける。
箱の中にはメモが入っていて、この間のことで鎧が壊れてごめんなさいということと、新しい鎧を作ったので使ってくださいという旨が記されている。
そして、メモと一緒に中に入れておいた袋には──。
「アーモンドクッキーか」
そう、ディアちゃんの作ったアーモンドクッキーが。
「クラウディア君。ありがとう。大切にするよ」
ジークさんはそう告げると箱を抱えて、自警団本部の奥に姿を消した。
どうやら無事に成功したようだ。何より、何より。
さてさて、後日の反応を楽しみにしておきますか。
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後日。
「失礼する」
私たちがディアちゃんからいつものように余剰ポーションを購入していたときに、ジークさんが姿を見せた。
ジークさんはあのディアちゃんが作ったアダマンタイトの鎧を身に着けている。
「ジ、ジークさん。その、着心地とかどうです?」
「ああ。完璧だ。君の調整は完璧だったよ」
ディアちゃんが恥ずかしそうに尋ねるのにジークさんがそう返す。
「お礼と言ってはおかしいかもしれないが、これを」
ジークさんはそう告げて、ディアちゃんに一冊の本を手渡した。
「ああっ! 最新版の薬草辞典! いいんですか!?」
「君の役に立つものと言ったらこれぐらいしか思い浮かばなくてね」
おお。その辞典って普通に買うと30万ドゥカートはするんだよね。
流石はジークさんだ。プレゼント選びもなかなか。ただ、男女の仲を進展させるなら、もっと違ったプレゼントでもよかったかもしれない。揃いのアクセサリーとか。それはちょっとばかり今の段階では重いかな?
「君はこの街で唯一の錬金術師だ。これからも頼むよ」
「はいっ!」
でも、まあ、ディアちゃんが嬉しそうだし、それでいいか。
「それでは、また探索などに行くときは声をかけてくれ。同行しよう」
「お願いしますね」
ジークさんは最後にそう告げると、ディアちゃんのお店を去った。
「うわあ。ジークさんに喜んでもらえた! 大成功だよ!」
「よかったな」
ディアちゃんが歓声を上げるのに、私がぶっきらぼうにそう告げた。
「これもルドヴィカちゃんのおかげだね。ありがとう、ルドヴィカちゃん!」
「気にするな。これもまた私の戯れだ」
私は私で相変わらず言語野が素直じゃない。
お礼を言われているんだから素直に喜ぼうよ。どうしてそう捻くれてるのかな。
「ちーっす、ディア。治癒ポーション、買いに来たんだけど」
「やっほ、ディア。最近、本当に寒くなってきたね」
そんなやり取りをしていたら、オットー君とミーナちゃんがやってきた。
「聞いて、聞いて。実はね。ジークさんに鎧をプレゼントしたんだけど、お返しをもらっちゃったんだ! この最新版の薬草辞典! エリクサーの作り方まで書いてあるんだよ! それにジークさんからありがとうって!」
ディアちゃんが嬉しそうにミーナちゃんとオットー君に自慢話を始める。
私はこんな日々もいいなと思っていた。
ずっとこんな日々が続けばいいなと思っていた。
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魔王城。
「宴の準備は整った」
そう告げるのはアルゴルだ。
彼女の前には複雑な幾何学模様を描く魔法陣が描かれていた。
「今こそ我らが大いなる神を眠りより呼び出す」
アルゴルがそう告げるのに知性ある魔物たちがひれ伏す。
大いなるものが眠りから目覚めることに畏敬の念を払ってひれ伏す。
「イアイア! イアイア!」
「イアイア! イアイア!」
名状しがたき宴が地上では始まり、これまで眠りについていた邪神が禁忌のダンジョンにおいて目を覚まそうとしている。
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