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カレーうどん

……………………


 ──カレーうどん



 最後の目的地である九尾ちゃんの大衆食堂についた頃にはちょうどお昼になっていた。今日はここで昼食にしよう。


「いらっしゃいませなのじゃ。おや、主様。エーレンとジルケも一緒ですかの?」


「ああ。他のものたちの仕事ぶりを観察してきたところだ」


 いつものように九尾ちゃんが出迎えてくれるのに、私がそう告げて返す。


「連中の仕事はどうでしたかの?」


「よくやっているようだったぞ。貴様の方はどうだ?」


「錬金術師の小娘が面白い調味料を持ってきたので試しているところですじゃ」


 へえ。ディアちゃんが新しい調味料を。ちょっと楽しみだな。


「どんなものだ?」


「これですじゃ。カレーうどんというメニューになりますの」


 カレーうどん!


 私が好きなうどんを3つ選べと言われたらランクインする代物じゃないか!


 カレーの風味にうどんの出汁が合わさって、口の中が幸せに……。


「では、私はこのカレーうどんにする」


「主様。チャレンジャーですの」


 私が告げるのに九尾ちゃんがにししと笑った。


 新メニューに挑むからチャレンジャー? いや、そんなニュアンスではないな……。


 あー! 今日の私のドレス、白だ! これはカレーのシミが目立つ!


「ナプキンをご用意するので安心してくださいのじゃ」


「頼むぞ」


 危ない、危ない。危うく、ドレスを1着パーにするところだった。


「……私もカレーうどんで」


「はいですのじゃ。では、カレーうどんふたつでよろしいですかの? エーレンは甘いものはいらないかの?」


「む。では、このそば饅頭をもらおう」


 あれ? お蕎麦も出すようになったの?


 蕎麦もいいよね。カレー南蛮とか。


「しかし、ジルケ。貴様もいつの間にか装備を更新しているのだな」


 ジルケさんよく見るとハルバードも鎧も新しいものになっている。


「……うん。クラウディアちゃんが作ってくれた。あの子とも友達なのかな……?」


 ジルケさんはそんなことを告げながら、装備を見る。


「友人でいいだろう。何も友人はひとりでなければならないという決まりはない。友人は多い方がいいともいう。私は私の歩みについてこれるものしか友人にはせぬがな」


 私は人見知りが激しいので、そんなに友達は作れないですと言いました。


「……そうか。でも、私の一番の友達はルドヴィカだよ?」


「勝手にするがいい」


 わー! 一番の友達とか言ってくれたー! これは嬉しい……。


「明日はドーフェルの採掘場跡地を攻めることになる。万全の状態にしておけ」


「……分かった。けど、確かそこには懸賞金の掛けられた魔物がいたような……」


 懸賞金!?


 探索マップボスのことかな。あそこの探索マップボスは確か……。


「お待たせしました、カレーうどん2人前とそば饅頭となります」


 私が何かを思い出そうとしていた時、ヘルマン君が注文の品を持ってきた。


「とりあえず、食べるか。ナプキンはどうした?」


「はい。こちらになります」


 やはりカレーうどんを出すようになってから、それなり以上のカレーのシミに関する苦情がきたようで、ナプキンはきちんとしたものだった。


「では、いただくとするか」


 とは言え、ここではカレーうどんもパスタのようにして食べなければならないのだ。そこまで飛び散ることはあるまい。


「うむ。美味いな」


「……美味しい」


 ディアちゃんが開発した調味料というのはカレー粉のことだろう。私好みのスパイシーな風味にうどんの出汁が合わさってたまらない。


 啜りたくなるのを我慢して、フォークでくるくると巻いて食べる。


「……明日、私もお弁当持ってくるから」


 不意にジルケさんがそう告げた。


「貴様がか? 料理はできるのか?」


「うん。それなりには作れるよ」


 ひょっとして料理ダメダメって私だけなのか?


 こ、これは恥ずかしい……。私だけ女子力皆無……。


「う、うむ。では、任せたぞ、ジルケ。私をがっかりさせるな」


「任せておいて」


 ジルケさんがサムズアップして返した。


 さて、カレーうどんも瞬く間に空になったし、お勘定を済ませて家に帰ろう。


……………………


……………………


 自宅に帰りかけた私はあることに気づいた。


 ドーフェルの採掘場跡地のマップボスについて思い出したのだ。


「不味い」


「どうされました、陛下?」


 私が急に立ち止まるのにエーレンフリート君が怪訝そうに私を見る。


「今からよろず屋グラバーに行くぞ。買うものがある」


「畏まりました」


 ディアちゃんにはあれを作っておいてもらわないと!


「おい。邪魔するぞ」


「ひゃあっ! い、いらっしゃいませー……」


 散々武力による値引き交渉を図ったせいか、ジンジャーちゃんは私の顔を見ただけで悲鳴を上げてしまった。けど、ぼったくり価格でものを売ろうとする君も悪いんだよ?


「貴様に聞いておきたいことがある。爆弾の新しいレシピは入っているか?」


「ああ。それですね。ありますよ、ありますよ。かの有名な錬金術師──」


「御託はどうでもいい。あるんだな? いくらだ?」


 ジンジャーちゃんは商品に付加価値をつけようと、あれこれと逸話を捏造する傾向があるので、ここは先制して口を塞いでおいた方がいい。実際のところ、ジンジャーちゃんの逸話の9割は嘘なのである。


「お客さん、せっかちですなー。ええっと、新型爆弾のレシピは……」


 ジンジャーちゃんが棚をごそごそを漁る。


「ありました! 『今日からあなたも爆破のプロフェッショナル』って本ですね。お値段は50万ドゥカート──」


 そこでエーレンフリート君がチャキッと魔剣“処刑者の女王(ブラッディ・メアリー)”を取り出して鳴らす。


「40万ドゥカート!」


「20万ドゥカートだ」


「30万ドゥカートでなんとか……」


「20万ドゥカートだ」


 このレシピも後に本屋さんに出回るのだが、その時の価格は15万ドゥカートである。20万ドゥカートはむしろジンジャーちゃんに配慮している方だ。20万ドゥカートなんて冒険者が稼ごうと思ったら、相当依頼をこなさなきゃいけないんだからね。


「分かりました……。では25万ドゥカートで……」


「20万ドゥカートだと言っている」


「どうしてもだめです?」


「どうしてもだめだ」


 ジンジャーちゃんの商売熱心さには感動させられるけれど、それはそれとしてぼったくりはダメだよ。田舎で物流が少なかったころはぼったくれたろうけど、これからは物流も活発化していくんだから、いつまでもぼったくり商売はできないわけだし。


「では、20万ドゥカートで……。はあ、故郷に残した兄弟たちがお腹を空かせて……」


「貴様は一人っ子だろうが」


 そういう嘘には騙されないぞ。説明書を読んでいるんだからな。


「分かりましたよ! 分かりましたよ! 20万ドゥカートで売ればいいんでしょう!」


「そうだ。それでいい。20万ドゥカートだ。これは貰っていくぞ」


 エーレンフリート君が20万ドゥカートを不服そうな顔をしているジンジャーちゃんに手渡し、私は本を受け取るとダッシュでディアちゃんの店を目指した。


「ディア、ディア。いるか?」


「なあに、ルドヴィカちゃん? 今日はもう閉店だよ?」


 私がディアちゃんのお店の扉を叩くのに、ディアちゃんが顔を見せた。


「明日の件だ。明日のドーフェルの採掘場跡地で出くわすだろう魔物を倒すのに必要なものがある。今から錬成しろ」


「ええっ!? か、かなり急な話だね。材料とか足りるかな?」


「恐らくは大丈夫だ。とにかく作れ」


 私はそう告げるとディアちゃんに新型爆弾のレシピを押し付けた。


「ふむふむ。材料は足りてるね。後は上手く錬成できるかだけど……」


「貴様はこれまで数多くの錬成を成功させてきた。今度も上手くいくはずだ。やってみろ。この私が見届けてやる」


 ディアちゃんなら大丈夫だよと言いました。


「よーし。分かった。やってみるよ!」


 ディアちゃんは気合を入れると、倉庫から素材を取り出し、それをヘルムート君に渡すとヘルムート君が素材を加工していき、それをディアちゃんが受け取って錬金窯に放り込んで、掻き混ぜていく。


 そして、ぼふんと白煙が吹き上がる。


「できたー!」


 大きさはノーマル樽爆弾と同じようなもの。


 だが、これは威力が異なる。


「これで明日の探索も上手く進むだろう。それを持っていくのを忘れるなよ」


「了解! でも、これが絶対に必要な魔物ってどんな魔物なんだろう?」


 それは明日分かるよ、ディアちゃん。


……………………

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