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下らん騒ぎだ(観光シーズン到来)

……………………


 ──下らん騒ぎだ(観光シーズン到来)



 夏が終わり、秋が訪れた。


 秋と言えば行楽シーズン!


 このドーフェル市もついに観光地に選ばれるかどうかが試される日がやってきた。


 私にできることはもうない。


 ただただ観光客の皆さんの判断を待つばかりである。かたつむりの観光客には塩をかけろ! おっと前世の癖が。


 ドーフェル市の観光PRはこれまで懸命に行ってきた。主にディアちゃんがお金を出し、ドーフェル市がいかに観光地として優れているかという宣伝は行われてきた。その懸命な努力が功を奏すのか否かだ。


 まあ、私は宣伝活動には全く関わっていないわけですがね!


 基本的にそういう活動はディアちゃんとミーナちゃん任せだ。私が出ていっても『下等な人間どもめ、せいぜい我が領地の湯に浸かるという最期の楽しみに浸るがいい』とかいいそうだしね。中二病と魔王弁には観光PRなどできないのです。


 でも、ディアちゃんも私が余剰ポーションを買い取ったりなどして、資金面に余裕はあるはずなので、立派な宣伝ができたはずだ。


 後は待つだけ、待つだけ、待つだけ……。


 待てないー!


 ゲームでは即効で結果が反映されてたじゃないか! リアルになったせいで絶妙なタイムラグが生じているー! このタイムラグが耐えられないー!


 落ち着こう。宣伝もしたし、観光地も開発したし、商業にも投資している。街の名産物も完成している。この状況から失敗するだろうか? いや、失敗するはずがない。


 そうだよ、そうだよ。大きく構えていて大丈夫。きっと上手くいくさ。


 さて、私は今日は冒険者稼業もお休み。


 観光客の皆さんが到着したか見てこようー!


「陛下。お出かけですか?」


「うむ。あまり興味はないが、観光客の出足を確認しようと思ってな」


「それでしたら、今日の街はよそ者が大勢入り込んでいますよ。ピアポイントと連絡をとりましたが、危険な魔物などではなく、純粋な人間であるそうです。陛下のご懸念もありますので、ピアポイントが一部の部隊をドーフェル市に展開させているようです」


 おお! 大成功!?


「で、あるならばどのような人間どもが来たのかをますます確かめなければならない。不埒な客には退場願わなければならないからな」


「はっ。では、私めも同行させていただきます」


 エーレンフリート君は、まあついてくるよね。


「では、まずは錬金術師の小娘の店に向かうぞ。土産としてあの石鹸が売れているかどうかを確かめてやるいい機会だ」


「畏まりました、陛下」


 というわけで、私たちは朝からディアちゃんのお店に行くことになった。


 迷惑でないといいのだけれど。


……………………


……………………


 驚いたことにディアちゃんのお店には長蛇の列ができていた。


 こんなにランダムお客さんが来るとは大成功では?


 私たちは正面からは入れないので、勝手口から失礼した。合鍵を私に渡してくれてるんだ。私のうちの家の合鍵も渡してある。エーレンフリート君たちは大反対してたけど。


「ディア。いるか?」


 まあ、表に長蛇の列ができるてるんだ。いないはずがない。


「ルドヴィカちゃん! 今手が離せないからごめんね!」


 いやいや。悪いのは忙しいと分かってやってきた私ですよ。


「観光客の土産か?」


「そう! 温泉で使って気に入ったって人がいっぱいいるんだ! 在庫はたっぷりと用意していたんだけど、それだけじゃ足りなくて!」


 ディアちゃんは本当に忙しそうだ。


 ここは邪魔にならないように退散した方がいいのかもしれない。


「私に手伝えることはあるか?」


 私のこの言葉にエーレンフリート君がぎょっとした。


「へ、陛下。このような者の為に時間を使われるのは……」


「もう貴様も分かっているのだろう」


 九尾ちゃんはエーレンフリート君も事情を知っていると告げていた。彼もどうして私がディアちゃんに構うのかを知っているはずだ。


「そ、それはそれなりには……。ですが陛下は……」


「これもまた戯れよ。問題はない」


 相変わらずの戯れ万能説。


「それでしたら、陛下の望まれるままに」


 エーレンフリート君も納得してくれたようだ。


「そうだ! 農家さんのところからハーブをもらってきてくれるかな? この調子だとハーブが足りなくなりそうなんだ」


 ディアちゃん。どれだけ石鹸作ってるの?


「ハーブを取ってくればいいのだな。根こそぎか?」


「い、いや、農家の人に迷惑にならない程度で」


 根こそぎと言ったのは私の魔王弁のせいです。


「分かった。今すぐに必要なのだな?」


「うん。そろそろ本当に在庫がなくなりそう」


 ディアちゃんも頑張っているし、私も頑張らないとね!


「いくぞ、エーレンフリート」


「畏まりました、陛下」


……………………


……………………


 私たちは商店街を抜けて農家を目指す。


「だからよお。お姉さん、遊ぼうって言ってるんだよ」


 そこで不審な音声をキャッチした。


「遠慮しますわ。私は忙しいんですの。あなたたちのような馬鹿に構っている時間はありませんのよ。商売の邪魔だからどこかに消えてくださる?」


「んだと!」


 この男たちの声に聞き覚えはないが、女性の方は分かる。


 ベアトリスクさんだー!


 ベアトリスクさんが絡まれているのか。ここはやはり助けに入るべきだろうか。


「しつこい男は嫌われるのですよ。消えなさい」


 ベアトリスクさんがそう告げると、絡んでいる悪漢たちの立つ地面が黒い穴になり、彼らはそこに生じた空間へ落ちていった。


「ベアトリスク。怪我はないか?」


「あら、陛下。ご安心を。あのような低俗なものたちに傷つけられるほどやわではございませんわ。ただ、陛下がご心配してくださるのには感謝いたします」


 ベアトリスクさんはぴんぴんしている。


 問題は暗闇に落っこちていった悪漢どもだ。


「あれは法に触れる行為ではないのか?」


「あら、いやですわ、陛下。向こうから仕掛けてきたのですから正当防衛ですわ。それに法律には異空間に碌でもない男たちを閉じめてはいけないとは記されておりませんもの」


 私の疑問にベアトリスクさんは笑顔で返した。


 べ、ベアトリスクさんも何気に怖いぞ……。笑顔でそんなことが言えるなんて。


「それで陛下はどのようなご用件で?」


「ここに用はない。錬金術師の小娘のためのハーブを取りに行くだけだ」


 私がそう告げるとベアトリスクさんがにんまりと笑った。


「あの錬金術師の小娘と随分と親しいようですね」


「何が言いたい」


 九尾ちゃんの話ではベアトリスクさんも理解はしているはずなのだが。


「大切な存在ならば飼われたらよろしいのでは? 常に手元に置いておけば、心配することもないかと思います」


 このベアトリスクさんの発言に、エーレンフリート君が顔を青ざめさせる。


「それでは意味がない。私は錬金術師として成長し、光を輝かせるあの娘が必要なのだ。飼うようにしてしまえば、その面白さはなくなる」


 そうだよ、そうだよ。私は成長するディアちゃんが見たいのだ。ディアちゃんがいるならばどうでもいいというわけではないのだ。そこら辺を勘違いしてもらっては困るのだよ。というか、友人を飼うって……。


「陛下がそう思われるのであれば、余計な口出しは致しません」


 ベアトリスクさんはニコリと微笑んでそう告げた。


「ペットはエーレンひとりで十分ですものね」


「だ、誰がペットだ!」


 そして、ベアトリスクさんが続けるのにエーレンフリート君が叫んだ。


「あら? 違ったの?」


「貴様、私をコケにしているのか。私は陛下にもっとも信頼された配下だぞ」


「問題児だから手元に置かれているのではなくて?」


 ぎくっ。ベアトリスクさんはエスパーの才能があるのではないだろうか。


「そ、そんなことはない。そうですよね、陛下」


「そうだな。信頼しているぞ、エーレンフリート」


 エーレンフリート君を励ますつもりが、棒読み気味になってしまった。


「よかったわね、エーレンフリート。信頼されているそうよ」


「その信頼、必ずお応えいたします」


 ベアトリスクさんが事情を察したように笑うのに、エーレンフリート君が愚直に跪いて見せた。この子は真実を知らない方がいい。


 だが、エーレンフリート君が信頼できるというのも全くの嘘ではない。エーレンフリート君は戦闘力高いし、いざという時は助けてくれる。


 それに私の純潔を奪った子だしな。責任は取ってもらわないと。


「エーレンフリートよ。ちゃんと責任は取るのだぞ」


「は、はい」


 私たちのやり取りをベアトリスクさんは不思議そうに眺めていた。


「では、今後は悪漢どもに絡まれても、死なない程度に痛めつけるだけにしておけ」


「畏まりました、陛下」


 さてさて、ディアちゃんのために早くハーブを取ってこないと。


 街の中は活気にあふれているし、観光作戦は大成功だったな!


……………………

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