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激戦、ポチスライム

……………………


 ──激戦、ポチスライム



 ドーフェルの森。


 一番最初に解放される探索地域だ。出てくるモンスターは最弱のポチスライムから運が悪いと野良犬に出くわす。


 けど、街の人も良く散策に訪れるスポットであり、そこまでエンカウント率は高くない。少なくとも森の奥に向かわなければ。


 だけど、ゴーレム作成に必要な粘土質の土はそこら辺でも採取できるとは言え、硝酸と水銀はもう少し奥地まで進まなければならない。機械油に至っては、最奥でしか採取できない。天然の機械油が採取できるというこの世界も大したものだけど。


「相変わらずここは空気が澄んでるよね。ここら辺までならカサンドラ先生とよく遊びに来てたんだ。カサンドラ先生ならポチスライムが出ても簡単に倒しちゃうし」


「その程度のことを誇るな。だが、確かに悪くはない場所だ。将来的には我が領土としてやろうではないか」


 確かにいい感じの場所だよねと言いました。


 私が中学生の時にはまだVR系のゲームなんてなくて、この『クラウディアと錬金術の秘宝』もモニターでプレイしてたんだけど、そのときもドーフェルの森の綺麗さには感動したものだ。だが、現実になるとさらに凄い。


 木漏れ日の光が降り注ぎ、遠くでは鳥が囀っている。空気は大気汚染の進んだ地球のどんな場所よりも澄んでいると言えて、呼吸がとても気持ちいい。


 今の季節は暑くもなく、寒くもなく、ちょうどいい気温であることもいい。


「さてと! まずは粘土質の土から探そうかな」


 ディアちゃんはそう告げてがさがさとスコップで地面を掘る。


「採取完了!」


 ディアちゃん、どうやって粘土質の土の場所、分かったの……?


 この子に特別な才能があるってそういう意味なのかな……。


「これをガラス瓶に詰めてっと」


 ディアちゃんは集めた粘土質の土をガラス瓶に収めると、肩から下げている可愛い意匠のショルダーバックに放り込んだ。


 あれはどれだけでもアイテムが入るという恐るべきアイテムなのだ。鉄鉱石99個だろうときちんと収まり、そしてディアちゃんは軽々とそれを抱えて運ぶのである。さらには中にお肉やお魚などの生ものを入れても腐らないという摩訶不思議なアイテム。


 ……魔王よりファンタジーなものが身近に。


「次は硝石だな。硝石と言うものを知らぬわけではなかろうな?」


「え。知らない」


「貴様、本当に錬金術師か?」


 硝石のこと知らないのは不味いよと言いました。


 硝石とは火薬の材料にもなる代物で、主に洞窟で採取できる。この硝石から銃弾を作ることもできるのだ。銃が装備できるのは限られるけどね。


「洞窟だ。洞窟を探せばあるだろう。確か、この森にも洞窟はあったな?」


「あるよ。ちっさい洞窟だけど。それにあそこはポチスライムが出るんだ……」


 なんというか、ディアちゃん、ポチスライムに勝てないことがコンプレックスになってるな。でも、後半の探索パートの洞窟とかだとポチスライムどころかレッサードラゴンとかでるんだけど大丈夫なんだろうか。


「案ずるな。ポチスライムなど空気のようなものだ。貴様は下がっていればいい」


「うん。お願いね、ルドヴィカちゃん」


 任せといてと言いました。


 言いましたのですが、私ってどこまで強いんだろう?


 魔王ルドヴィカは確かに強かったよ。装備レベルカンストさせてないと倒せないんじゃないかってぐらい強かった。HPは阿呆のように高いし、攻撃は一瞬で体力をごっそり持っていくし、魔術まで使ってくるし。


 けど、今の魔王ルドヴィカは私。


 私は正直なところ、平和な日本で暮らしていただけあって、戦闘のスキルなどあるはずもない。魔術がどういうものかも分かっていないし、剣の振り方だって知らない。そんなへっぽこ魔王では実はポチスライムにすら負けるのでは? という疑問が過る。


「エーレンフリート。貴様は控えておけ」


「はっ」


 万が一の場合はエーレンフリート君に泣きつこう。彼は文句なしで強いはずだ。


「では、洞窟に向かうぞ」


「ルドヴィカちゃん。洞窟はそっちじゃなくてこっち」


 う、うーん。ゲームの時の知識が曖昧なのが露呈しつつある。


 私たちは森の中をサクサクと進み、特に魔物と出くわすことなく洞窟に到達した。


「ここがドーフェルの洞窟だよ」


 洞窟はそれなりの大きな穴のある入り口をしていた。


 だけど、ゲームではちょっと進めば行き止まりだったはずだ。迷子になる心配はない。洞窟で迷子とか笑えないからね。


「では、貴様は硝石を探せ。私はその貧弱な身を守ってやろう」


「助かるよ、ルドヴィカちゃん」


 私が守っている間に硝石探してねと言いました。


「さて、魔物が出ると言うが……」


「さほど強い反応はいたしません。雑魚でしょう」


 エーレンフリート君にとっては雑魚かもね。


「──来たな」


 私は洞窟の暗闇の中で蠢く影を見つけた。


「ワン!」


 ポチスライムが現れた!


 ポチスライム。このゲームで最弱の魔物。


 どろりとして、装備を溶かすような苦戦するタイプのスライムではなく、もっさりとした毛玉のようなスライムである。毛玉の下は水羊羹のようになっており、倒すとポチスライムの毛皮や、ポチスライムの核などのアイテムをドロップする。


 そして、ワンと鳴くのだ、このスライムは。


 スライムとはいったい……。


 ちなみに調教されたものはペットにもなるらしく、餌は砂糖水だけでよい。ドーフェルの街が発展するとポチスライム屋さんなどがオープンして、お店のマスコットとして飼育することができるようになる。優れた品種だとランダムお客の数が増えたりもする。


 そんなポチスライムであるが、今は敵だ。


「わわ。出たよ、ルドヴィカちゃん! それも5体!」


「話にもならんな」


 大丈夫だよと言いました。


「行くぞ。我が魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”よ」


 私は期待を込めて魔王ルドヴィカの使用する黒書武器の名を告げた。


 次の瞬間、右腕にずっしりとした重みが加わる。


 黄昏のようにほんのりとオレンジ色の光を宿した黒い刃。その刀身は2メートル余裕であるだろうか。エーレンフリート君の使用する“処刑者の女王(ブラッディ・メアリー)”よりも大きなまさにその名の通りの大剣である。


「哀れな弱者どもよ。この魔王ルドヴィカの前にひれ伏すがいい」


 こんな弱いものいじめの武器持ち出してごめんねと言いました。


 “黄昏の大剣(ラグナロク)”の基礎攻撃力は1万と作中最強。最終強化では5万の攻撃力を発揮して、数値の上の条件としてはジークさんに装備させると邪神ウムル・アト=タウィルを10ターンキルできるようになる。もっともそうはならないようにできてるんだけど。呆気なく倒される邪神様では張り合いがないから。


 黒書武器としてこれもデメリットを持っており、使用者の魂を蝕み、10ターン以上これを装備して行動すると狂戦士(バーサーカー)状態になる。狂戦士(バーサーカー)状態では操作を受け付けず、守備も回復も他のスキルの使用もできなくなるので、かなりの無防備。


 けど、魔王ルドヴィカはそのデメリットの効果を受けないチートキャラなんだ。


 本当にずるいよね。ラスボスの仕様だからしかたないけど。


「ワン、ワン!」


「キューン!」


 最初のマップで雑魚モンスターしてたらラスボスが来たでござる状態なので、ポチスライムたちは混乱している。ぴょんぴょん跳ねて威嚇したり、隅っこで縮まって怯えたりしている。見た目が可愛いだけあって罪悪感が半端ない。


「斬り伏せて、それで終いよ」


 成仏してねと言いました。


 私は“黄昏の大剣(ラグナロク)”をポチスライムたちの群れめがけて思いっきり振りまわす。斬撃が波動を生じさせ、それがポチスライムたちを薙ぎ払った。


 思ったより“黄昏の大剣(ラグナロク)”は軽い。最初のずっしりとした感触が嘘のように振りまわすことができた。これは“黄昏の大剣(ラグナロク)”が軽いのか、それとも私の腕力がゴリラ並みなのか、どちらだろうか。前者であることを祈りたい。


「うわあ……」


 ポチスライムの群れが消滅したのを見て、ディアちゃんが目を真ん丸にしている。


「他愛もない」


 なんとか勝てたねと言いました。


「凄いね、ルドヴィカちゃん! あれだけのポチスライムを一瞬で倒しちゃうなんて」


「愚か者めが。あの程度の下等な存在に苦戦する貴様が弱いのだ」


 今のディアちゃんはまだまだこれからだからと言いました。


「そうだよね。それはそうと硝石、採取できたよ!」


 ディアちゃんの手にはガラス瓶に入った硝石が。


「では、残りは水銀と機械油だな」


「水銀はある場所の噂を聞いたことがあるよ。けど、機械油はどこかな?」


「ふっ。私に教えを乞うか。いいだろう。貴様のような盲目の者にも道を示してやろうぞ。機械油はこのドーフェルの森最奥にあるお化け石から採取することができる。お化け石のことは知っているか?」


「噂には。なんでも凄く昔の遺跡の名残らしいね。けど、あそこにはとても強い魔物がでるって聞くよ。大丈夫かなあ?」


 ドーフェルの森、最奥のマップに位置しているのはお化け石と言われる変わった形の石。機械油はそこで採取することができる。なんでも古代文明の遺産とか言う話だけど、そこら辺の物語の掘り下げはなかったので分からない。


 まあ、野生の機械油が取れるということだけだ。


「貴様、陛下のお力を疑うのか。この森にいる魔物たちなど陛下の手にかかれば、どれも羽虫以下の存在だ。陛下に守っていただけると跪き感謝せよ」


 エーレンフリート君、君はいつも通りだね。


「放っておけ。この者の光はまだ輝きだしたばかりだ。いずれは朝日のような光となり、全てを知ることになるだろう。だが、今はただの小娘よ。風が告げている。まだこの者は目覚めておらぬと。ならば、その朝日が昇るのを待とうではないか」


 ディアちゃんはこれから成長していくから、今はこれぐらいでいいんだよと言いました。完全に中二病になっているのは言語野にインストールされた魔王弁のせいです。


「寛大なお心、尊敬いたします」


 エーレンフリート君はそう告げて頭を下げた。


「では、ディアよ。まずは水銀だ。不老不死の薬と謳われ、その実は猛毒である虚偽の象徴を採取しようではないか。行くぞ」


「ルドヴィカちゃん。水銀が取れるのはそっちじゃなくてこっち」


 ……道案内はディアちゃんに任せよう!


……………………

本日は4回更新です。

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