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手のかかる小娘だ(治療薬のために)

……………………


 ──手のかかる小娘だ(治療薬のために)



 ドーフェルの湖は美しい場所として有名らしい。


 私たちもこういう状況でなければ景色を楽しみたかったけれど、状況が状況だ。そんな余裕はない。大急ぎでユニコーンを撃破して、ユニコーンの角をゲットしなければならないのである。


「ワン!」


 そして、定番のご当地ポチスライム。


 今度のポチスライムは水陸両用ポチスライムだ。このポチスライムは泳ぐのである。


 まあ、そんなことは今はどうでもいい。


 私は魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”をぶんぶん振りまわして、ポチスライムから何まで吹き飛ばしながら前進する。セーフモードなんてせこいことはしていない。フルパワーモードだ。なので周辺の地形が変わるくらいの打撃を相手に与えている。


「もうすぐ太陽が沈んじゃう」


「医者は1週間はあると言ったが、状況が急変せんとも限らん。可能な限り急ぐべきだろう。夜になってもこの辺りならば道に迷うことはない」


「ルドヴィカちゃんが迷わないって言っても信用性ないなあ」


 うぐ。確かに私の方向音痴はもはや才能の域だけどさ。


「……ミーナちゃん。これで冒険者辞めちゃうかな」


 ディアちゃんがそうポツリと告げた。


「そうかもしれんな」


「じゃあ、もうミーナちゃんと一緒に冒険できないんだ」


 キメラの毒を受けたことで冒険者という職が如何に危険なものなのかは分かった。ハインリヒさんももう自分の娘を危険な目には合わせたくないだろうし、冒険者は辞めさせようとするだろう。


 そうなるとパーティーからミーナちゃんが消えちゃうな。


 ミーナちゃん。明るい子だったし、寂しくなる。何より親友であるディアちゃんが一番寂しくなるのは間違いない。


「貴様はあの小娘に冒険者を続けてもらいたいのか?」


「もちろんだよ! って言いたいけれど、もう迷惑をかけたくないってのもある。私がドーフェルの大洞窟の探索に行こうって言ったせいでああなったわけだし。もう、ミーナちゃんに傷ついて欲しくないよ」


 気持ちは分かる。私だって誰にも危険な目に遭ってほしくない。


 だけれど、それとは別の気持ちもある。


「親友とは迷惑をかけても笑っていられる関係だ。このことでヘルミーナが冒険者を辞めると言い出したならばその意見を尊重するべきだろうが、我々があの娘の進退にどうこう言ってもしょうがない。それは余計なお世話というものだ」


 ミーナちゃんが冒険者を辞めるというならばそうするしかないけど、私たちがミーナちゃんに無理やり冒険者を辞めさせるのは何が間違っているんだよね。


 親友なら彼女の意志を尊重しないと。


「そうだよね。私がミーナちゃんのことを勝手に決めるのは違うよね。ミーナちゃんのことはミーナちゃんが決める。ミーナちゃんが冒険者を辞めるっていいうなら、それを尊重するし、ミーナちゃんが冒険者を続けるっていうなら、喜んでそれを受け入れないと」


「うむ。それでいい」


 ミーナちゃんんことはミーナちゃんが決める。親友であるディアちゃんたちはミーナちゃんがどんな決断を下しても、受け入れてあげなくては。


「でも、ミーナちゃんには冒険者を続けてほしいな。ミーナちゃんと一緒に冒険を続けるのは楽しいから」


「ならば、キメラの毒程度どうにでもなることを示すことだ。あの小娘も危険がないと分かれば冒険者を安心して続けられるだろう。まあ、冒険者とはそもそも危険な職業であるのだがな」


 冒険者って結局荒事をして稼ぐ商売だから危険とは切り離せないものなのだ。農場の害獣駆除ですら命がけの仕事だからね。


「ミーナちゃんと一緒に行ったことのない場所に行きたい。まだ見たことのないものを見たい。そういう気持ちがあるよ。それに今はルドヴィカちゃんとも一緒に冒険したいって気分がいっぱいあるんだからね」


 そう告げてディアちゃんは微笑んだ。


「私は私の道を進むだけだ」


「それでも一緒に冒険はできるでしょ?」


「どうだろうな」


 私もだよと言ったつもりが。


「ルドヴィカちゃんと一緒にまだ見たことのない世界を見たい。みんなと一緒に見たことのない世界に行ってみたい。それが私の今一番の望みだよ」


 そうか。それがディアちゃんの夢なんだ。


 私はその願いに応えられるだろうか?


 魔王なのだ。私は魔王なのだ。いつまで一緒にいられるか分からない。


 でも、できるならずっと一緒にいたい。エーレンフリート君たちとも、ジルケさんとも、ディアちゃんとも。


 だって、私にできた初めての友達なんだから。


「考えおいてやる。だが、私についてくるのであれば、まだ見たことのない世界を見ることはできるだろうな。私はそういうものを知っている」


 私にはゲームの知識があるからね!


 もっとも、既におぼろげだけれども……。


「うん。ミーナちゃんがよくなったら、お弁当持ってこの湖に冒険に来ようね。きっといろんなものが見つかると思うな」


「ああ。そうだな」


 ミーナちゃん。彼女が助かるかどうかがカギだ。


 そのためには何としても解毒剤を作って、治療しないと。


 私たちはなんとしてもユニコーンの角をゲットするのだ。


 私たちはドーフェルの湖を駆け抜け、探索マップボスのいる場所を目指す。


 ドーフェルの大洞窟もマップが左右に分かれていたり、行き止まりがあったりしたけれど、ここは強行突破である。ドーフェルの湖の最終到達地点は西部湖畔。なので、湖畔の木々を叩き切りながら進めば、簡単に到達する。


 些か景観は損ねるかもしれないが、今はそんなことまで考えている余裕はない。


 とにかく、進むべし、進むべし。一心不乱に進むべし。


 私たちが西部湖畔に近づくにつれて馬の嘶く声が聞こえてきた。


「近いぞ、ディア」


「うん。準備はできてるよ」


 心臓が引っ張られる感覚。探索マップボスであるユニコーンの反応だ。


 ここら辺の探索マップボスならまだ魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”でどうにかなるはずだ。基礎攻撃力作中最強は伊達じゃな──。


 そこで私は気づいた。


 キメラは流石に魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”でも一撃で屠るのは難しかったはずだと。あれはHPが1万以上あったはずである。何せ、ラスダン──一歩手前のダンジョンの中ボスなのだから。


 だが、私の魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”は一撃でキメラを屠った。


 思えばディオクレティアヌスが攻め込んできたときも、グレートドラゴンという規格外な敵と戦って魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を数振りしただけで勝利できている。これが意味するのは──。


 この魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”は既に最終段階まで強化されている?


 ルドヴィカがディアちゃん以外の錬金術師に頼んで、魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を最終段階まで強化して貰ったとか、そういうことだろうか。ううん。そもそもルドヴィカはどこで魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を手に入れたんだ?


 分からない。こういうときにステータスが表示されないのはつらい。


 だが、ひとつだけ分かるのは今の私ならばユニコーン程度、軽く捻れるということである。ミーナちゃんのためにもユニコーンにはご退場願って、ユニコーンの角だけ残していくといいですよ。


 馬の嘶きが聞こえる。かなり近い。


「いた」


 湖の湖畔にユニコーンが──2体。


 え? 2体?


 ドーフェルの湖の探索マップボスって2体だったっけ?


 うーん。記憶があいまいだ。


 確かに2体いたような気がしなくもない。


「いるね。ユニコーン。あれを倒すの?」


「そうだ。馬刺しにしてやる」


 やっつけよう! ということで私たちはゆっくりとユニコーンに近づく。


 ユニコーンは絵にかいたようなユニコーンで白い毛並みに、額から角が突出している。それが2体で湖畔をぐるぐると駆け巡っていた。


 私たちがある程度近づくと、ユニコーンはこちらに気付いたようだが、別段敵対するような様子は見せなかった。魔物なのに静かだな。


「これってあれかな。私たちが清い乙女だから敵対してないとか?」


「そういうことか」


 というか、それなら男性陣以外誰が来ても敵対しないじゃん。男性陣も女装すれば全然平気だし。多分。けど、ベアトリスクさんはどうかな……。いやいや、仲間の女の人に失礼な想像をしたらダメだよ。


「まあ、それはそうとして角はいただいていくがな」


 私は魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を構え、ユニコーンたちの方を向く。


 そのことで敵対スイッチが入ったのか、ユニコーンたちが私たちの方向を見て、その額の角を向けてきた。後ろ足は土を蹴り、いつでもこちらに突撃してこれる体勢だ。流石の魔王でもあの角で刺されたら死ぬだろう。


「いくぞ、獣ども。盛大に死ぬがいい」


「いっくよー!」


 私がユニコーンに向けて突進し、ディアちゃんが巨大樽爆弾を投げつける。


 巨大樽爆弾はユニコーン2体を吹き飛ばしたが、ユニコーンは姿勢を整えなおして私たちに突撃してくる。


「いかせはせん」


 ディアちゃんに向けて突撃しようとしたユニコーンに向けて私は斬撃を放つ。剣先から生じた波動がユニコーンを真っ二つにし、波動は湖面を引き裂きながら対岸まで飛んでいった。我ながらとんでもないな。


「残り1体」


 残り1体は私に向けて突撃してくるように見せかけてフェイントを仕掛けてくる。左右にステップし、なかなか狙いが付けられない!


「もう1個! 巨大樽爆弾!」


 ディアちゃんは纏めて吹き飛ばしてしまえと巨大樽爆弾を投げつける。


 盛大に炸裂した巨大樽爆弾の効果で、ユニコーンの動きが鈍ったが、まだうざったいステップは継続中だ。こうなったら奥の手を使う!


「降り注げ。無垢なる刃」


 私の詠唱とともに空からユニコーンに向けて白い刃が降り注ぐ。


 エーテル属性の全体攻撃魔術。これからはいくらステップを踏んでも逃げられまい!


「ヒヒィンッ!」


 ユニコーンは最後にそう嘶くと、白い刃でめった刺しにされて地に倒れた。


 そしてぼふんと白煙を噴き出し、素材だけを残して消え去る。


「ディア。素材は回収できたか?」


「ばっちり。ユニコーンの角も2個ゲットできたよ。失敗したときの保険になるね」


「失敗はするな。確実に成功させろ」


 これで探索マップボスのユニコーンは討伐された。


 1週間後からユニコーンの素材が市場に出回るようになるのがゲームの設定だけど、1週間後にはミーナちゃんは死んでいる。ここで手に入れた素材でなんとしても成功させなければならない。


「責任重大だぞ。だが、気負いすぎるな。いつものようにやれ」


 ディアちゃん、緊張しすぎないでねと言いました。


「任せて。必ず成功させるから」


 私とディアちゃんはユニコーンの素材を手にドーフェル市に戻った。


 太陽はすっかり沈み、暗闇の時間が訪れている。


……………………

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