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王都の戦い、終結

……………………


 ──王都の戦い、終結



 私とヴラドの剣戟は続いていた。


 だが、圧倒的に不利なのは私の方だ。


 こちらの攻撃は向こうには効果がなく、向こうの攻撃はこちらに効果があるのだ。


 ずるい! チーター! 卑怯者!


「無垢なる刃!」


 唯一通用しているのはエーテル属性の全体攻撃だ。


「やってくれる」


 ヴラドが蝙蝠の姿になりながら吐き捨てる。


「さあ、さあ、さあ、どうした、蝙蝠。いつまでそうやって怯えている? 棺桶に戻る準備でも始めているのか?」


 毎回、毎回、蝙蝠の姿になって逃げるな! と言いました。


「ほざけ、ルドヴィカ。貴様の不利は明白だ。覚悟するがいい」


 そして、唐突にハルバード──魔斧“黄金皇帝(ネロ)”が繰り出される。


 だが、私も日本ではゲーマーだった口だ。アクションゲームもやりこんでいる。すぐさま回避して、反撃に転じる。


「無垢なる刃!」


 よしよし。パターンに入ったぞ。このままエーテル属性の全体攻撃で叩き伏せてしまおう。そうすれば私の勝ちだ。


「これしきのこと!」


 そして、再びヴラドが蝙蝠になる。


「諦めたらどうだ? 今ならば慈悲深い死を与えてやるぞ」


「ハハッ! 貴様が悪魔のなりそこないだったとしても、魔力には限度がある。私の体力はこの墓地に満ちる瘴気で回復するがな。打つ手なしではないか、ルドヴィカ?」


 げーっ! ずるじゃん! 卑怯!


「クハハハハハッ! そうか、そうか。では、私も切り札を使わざるを得ないな」


 私の口が勝手に動く。


「貴様は500人ぽっちを殺しただけで気取っていたが、私は3000人以上の臣民を殺したのだ。その違いを思い知らせてやろう。覚悟はいいか?」


 あのときと同じだ。ディオクレティアヌと戦ったときと同じだ。


 体が勝手に動く。


「消滅せよ。終末(ラグナロク)


 次の瞬間、空から膨大な量のエーテルの刃が降り注ぎ、辺り一面を滅茶苦茶に破壊していく。教会は完全に崩壊し、無事な建物は片手で数えられるほどしかない。


「グヌアアッ!」


 蝙蝠の姿だったヴラドもめった刺しにされて地面に落ちる。蝙蝠の姿から吸血鬼の姿に戻った時は、もはやボロボロであった。


「どうした? まだやるか?」


 ようやく体のコントロールが私に戻った。


「おのれ、ルドヴィカ。こうなれば貴様も道連れにしてくれる!」


 ヴラドはそう咆哮すると、私に向けて魔斧“黄金皇帝(ネロ)”を握って突撃してきた。私は魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を構えて迎え撃とうとするが、体が上手く動かない。さっきのどでかい魔術のせいか、体に重みが発生している。


 ひょっとしてMP切れ?


 不味い、不味い、不味い!


「ルドヴィカァ!」


 ヴラドが魔斧“黄金皇帝(ネロ)”を振り上げる。


「ルドヴィカ君!」


「陛下!」


 そのふたりの男性の声と同時にヴラドの胸から2本の刃が突き出した。


「げぼっ……!」


 ヴラドは口から血を吐き出すと、そのまま地面に崩れ落ちた。


「陛下、陛下、陛下、陛下! ご無事ですか!?」


「何を興奮している、エーレンフリート。私がこのようなものに後れを取ると思うか」


 ひとりはエーレンフリート君だった。彼が魔剣“処刑者の女王(ブラッディ・メアリー)”を手に駆けつけてくれたのだ。でも、来るのが遅いよ。


「無事なようで何よりだ」


「どうして貴様がここにいる、辺境の騎士」


 ひとりはジークさんだった。


「何、この付近で君たちが吸血鬼を捜索していると聞いてね」


 そう告げるジークさんの剣はいつものものではなかった。


「その剣、特別なものだな」


「ああ。特殊な鉱石から作られた破邪の剣だ。吸血鬼から悪魔まであらゆるものにとって有効な武器だ。今回は定期報告とこの剣の鍛えなおしのために王都を訪れていた」


 ほうほう。って、やばいじゃん。私たちに特効の武器じゃん。


 道理でイッセンさんが渋い表情をしていたわけだよ!


「陛下、陛下、陛下、陛下! もうこのような危険なことは為さらぬよう! 全ての危険はこのエーレンフリートめが引き受けます故! 陛下は御身を大事になさってください!」


「戯け。この程度、危険のうちにも入らぬわ」


 ありがとう、エーレンフリート君! と言いました。


「ああ。陛下、陛下、陛下……」


「エーレンフリート?」


 エーレンフリート君の様子が明らかにおかしい。目がグルグルしてる。


「陛下!」


 そして、エーレンフリート君が私に覆いかぶさってきた!


 エーレンフリート君の唇が私の唇に……!?


「ああ。陛下ー……」


 そのままエーレンフリート君はダウン。


「何がしたかったのだ、こやつは」


 エーレンフリート君とキスしちゃた! ファーストキスだよ!


 も、もう、エーレンフリート君には責任取ってもらわないと……!


「歩けるかい?」


「私は歩けるが、こやつは無理だろうな。放っておくか」


 エーレンフリート君ってば強引にキスとかしちゃって! 知らない!


「ならば、いろいろと事情を聞かせてもらいたい。この被害を報告書に記さなければならないからな……」


 あー……。街は隕石でも落っこちたようになっている。


 これをどう報告するのだろうか……。


「どう報告するつもりだ」


「王都に出没する吸血鬼を討伐しに行った結果、こうなったとでも報告するしか」


「我々の名は出すなよ」


「分かっているよ。その代わり討伐の報酬も出ないが、いいのか?」


「ここの修繕費用を求められる方が損害が大きい」


 報酬もらってもこれだけ街を破壊したら、修繕費用を請求されちゃうよね。


「ならばそうしよう。勇敢な冒険者は名乗ることはなかった、と」


「それでいい。で、詳しい事情は知りたいのだろう?」


「ああ。ついて来てくれ。そっちの君の仲間は俺が運ぼう」


 そう告げるとジークさんはエーレンフリート君を抱えて、近くの建物に向かった。


 私たちはそこでここまでのいきさつを話した。


 吸血鬼騒動の原因が私たちにあったのではないかと考えて捜索を始めたこと。そうしたらヴラドという強力な吸血鬼に遭遇したこと。奴には黒書武器が通じず、500名の人々が既に被害に遭っているということ。そのために大規模なエーテル属性の全体攻撃で叩きのめそうとしたこと。


 エーレンフリート君も途中から目覚めて説明してくれた。


 エーレンフリート君はカミラという吸血鬼と遭遇したこと。その黒書武器の特性により一時的な狂気状態に陥ってしまったこと。そのため私を助けるのが遅くなったこと。


「つまり、魔王軍内部の争いか」


 ジークさんはメモを取りながらそう告げた。


「そうだ。不届きものたちが私の魔王の地位を狙っている」


「そちら側の戦力は?」


「四天王とピアポイントの人狼たちだけだ」


「頼りないな……」


 まあ、そう思いますよね。


「戯け。四天王は精鋭だ。こうして始祖吸血鬼にも勝利できた。我々が動かなければ、王都は吸血鬼と屍食鬼の巣窟になっていたところだぞ」


「それについては深く感謝する。行方不明者も無事に発見されたそうだ。これで吸血鬼騒ぎは終結するだろう。改めて感謝する」


「せいぜい感謝するがいい」


 いえいえそれほどでもと答えました。


「だが、君たちは急いで王都を離れた方がいいだろう。騎士団でも今回の事件で何が起きたのかの調査を始めるはずだ。私も報告するが、それ以外の調査を行われるだろう。君たちは衛兵に接触したようだし、そこから辿られかねない」


「やれやれ。この国には恩人を街から追い出すのか」


 早く逃げないと! と言いました。


「明日の朝一番に発つといい。それまでは私の方で騎士団を引き留めておく」


「ああ。それではな」


 私たちはジークさんに別れを告げると宿に戻った。


 あれ? 何か忘れているような……。


「むう」


 宿屋に戻るとご立腹のジルケさんがいた。


 ジルケさんも吸血鬼を探していたのだが見つからず、大規模エーテル属性の全体攻撃でようやく私の位置に気づき、やってきたら全てが終わっていたということだ。


「……私も仲間なのに」


「貴様ではあの戦いにはついてこれなかっただろう。始祖吸血鬼との戦いだ。そこらの吸血鬼とは格が違う。貴様は離れていて正解だったのだ」


 ジルケさんがむくれるのに、私はそう告げる。


「……私、役に立ってない?」


「まだまだ貴様の成長はこれからだ。そう急ぐことはない。じきにあの錬金術師の小娘が貴様に新しい武器を与えるだろう。そうなればより強い敵と戦えるはずだ」


 そう告げて私はジルケさんの瞳を見つめる。


「貴様こそ、私とともに歩むのが嫌になったか?」


「……そんなこと、ない」


 ジルケさんがそう告げる。


「……これからも友達?」


「ああ。私とともに歩め」


 というわけでジルケさんのフォローも完了。


 今度はジルケさんも活躍できるクエストを選ばなくちゃ。


 さて、明日は朝一番で出発することはディアちゃんたちにも伝えたし、もう寝るとしよう。流石の魔王体力でも今日は疲れたよ。


……………………


……………………


 翌朝。


 私たちは朝一番に馬車に乗って、王都を出発した。


「ふああ。眠い……」


「私もー」


 ディアちゃんとミーナちゃんは眠たそうだった。


「宣伝の方は上手くいったのか?」


「ばっちり! これでお客さんたちが大勢ドーフェルに来てくれるよ! 石鹸も大好評だったし、温泉地への関心も非常に高いって広告代理店の人が言ってたんだ。最近は健康のために入浴することが推奨されてて、ちょっとしたお風呂ブームなんだって」


「ほう。それは都合がいい」


 ディアちゃんはばっちりと自分の仕事を果たしたらしい。


 しかし、お風呂ブームかー。それなら本当に温泉ブームも来ちゃうかもね。


「それにしても昨日はたくさんの知らない人と喋って疲れたよー。料理とかジュースとかは流石は王都なだけあって美味しかったけれど、食べてる場合でもなかったし」


「あれぐらい普通でしょ?」


「ミーナちゃんはいつもああいうパーティーに出席しているからそう言えるんだよ。私はこういうのは初めてだったんだ。あー。疲れたな―」


 そう言ってディアちゃんは大きく伸びをする。


 そして、私の方を向くとにこりと笑っておもむろに私の膝に頭を乗せた。


「何をしている」


「膝枕。昨日は疲れたから癒して、ルドヴィカちゃん。ふわあ……」


 ディアちゃんってばもー。


 ほら、ジルケさんが向かいから嫉妬の眼差しで見てるからさ。


 とは言え、ドーフェル市のために頑張ってくれたんだから、これぐらいは許してあげないとね。ディアちゃん、お疲れ様!


 それから私が物申したいのはひとり。


「エーレンフリート」


「は、はい、陛下」


 私の言葉に隣に座っていたエーレンフリート君がすくみ上る。


「私の純潔を奪ったのだ。責任は取れ。いいな?」


「は、はい。必ずや腹を切ってお詫びいたします」


「違う」


 ファーストキスを奪ったんだから責任取ってねと言ったんです。


「責任を取るというのは別のことだ。ちゃんと覚えておけ。いいな?」


「はっ、決して忘れませぬ」


 とは言え、エーレンフリート君にどうやって責任を取ってもらおうか。


 エーレンフリート君って意外にいい子だし、ちょっと考えてしまう。


 今は魔王と部下の関係だけど、いずれは、ね?


 私はそう考えてちょっと笑った。


……………………

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