この街には屑しかいないのか(冒険者ギルド本部にて)
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──この街には屑しかいないのか(冒険者ギルド本部にて)
あれから私たちは衛兵さんたちが駆け付ける前に逃走した。
衛兵さんに捕まったら黒書武器とかの話もしなければいけなくなる。それは不味い。
臆病者とでもなんとでも罵ればいいさ! 私は安全第一なんだ!
そして、やってきました、冒険者ギルド!
なんというか……豪華!
ドーフェルのちんまりとして寂れた酒場みたいな雰囲気ではなく、立派な市役所みたいな建物である。中に入ってみると、受付カウンターが10か所もある! 流石は王都だ! 伊達に人間が多いわけじゃない!
それでは早速、行方不明者の捜索願が出ていないか調べよう。
「エーレンフリート。任せるぞ」
「はっ」
調べようと言ったが、調べるのはエーレンフリート君だ。
私は待つのみ。というのも依頼の掲示板は明らかに堅気じゃないお兄さん、お姉さんがたむろしていて近づきにくいのだ。魔王になって、少しは人見知りも解消されたけれど、やはりこういうのはダメです。
「ありました、陛下」
「ふむ」
エーレンフリート君が持ってきた依頼書は4枚。
どれも行方不明になっているのは14歳から20歳までの未婚の女性。行方不明になった時間はおおよそ日没後。行方不明になったのはここ2週間程度の間。
うん? 2週間程度の間?
つまり、私たちがここに来た事とは無関係なのでは?
私のせいじゃないのでは?
なーんだ。なら、わざわざ、ヴァンパイアハンターする必要ないじゃん。
というわけにもいくまい。相手は魔王軍にも関わっているわけだし、やっぱりこれは討伐しなくちゃダメだよ。魔王としてこれを放置するのは無責任すぎる。
やります、やります。魔王としてヴァンパイアハンターします。
「さて、どうやってこのものたちを探したものか」
「ピアポイントを連れてくれば臭いで追えたのですが……」
だが、残念なことにピアポイントさんには留守番を任せている。ここにはいない。
「ないものねだりをしてもしょうがない。我々だけでどうにかするぞ。幸いにして、我々には吸血鬼の専門家がいるだろう?」
「はっ、尽力いたします」
こっちにだって吸血鬼はいるのだ。犯人の思考は読み取れるぞ。
「では、まずは吸血鬼の潜みそうな場所を探さなければならないな」
「それでしたら心当たりがいくつかあります。吸血鬼は風水における鬼門の方角を好みますので、北東の方角。そこにある廃屋の地下が怪しいかと。自分がこの王都で騒ぎを起こす吸血鬼ならば、そこを選びます」
「分かった。では、その方向で探すとしよう。貴様の知識、当てにしているぞ」
しかし、吸血鬼も風水やるんだ……。
「おいおい! こんなところにちびっ子がいるぞ!」
私たちがそんな会話をしていたときだった。
見るからな荒くれものが、私の方向を嘲るような視線で見ている。
これはあれか。定番イベントか。
ドーフェルの冒険者ギルドではこういうことなかったけど、流石は大都会。こういうお約束イベントも完備──しなくていいよ!
「失せろ。貴様に興味はない」
今取り込んでいますので……と言いました。
「んだと。てめーみてえなガキが冒険者ギルドに何の用だ?」
ここで決闘とかになって、私が実力を示して流石です! されるのがイベントの流れだろうが、正直こっちは吸血鬼問題のことで頭がいっぱいで関わる気になれない。
「仕事だが、何か不都合でもあるのか?」
「てめーみてえなガキがどんな依頼を受けるっていう──」
まだ荒くれ者が絡んでくるかと思ったが、その声が途絶えた。
見れば、荒くれ者の2倍はある警備用ゴーレムが起動しており、冒険者ギルドの受付嬢さんがニコリと笑って荒くれ者の肩を叩いていた。
「い、いや、はい、すみませんでした」
「冒険者ギルドでのトラブルは冒険者資格剥奪にもつながります。注意してください」
荒くれ者が一瞬で静かになった。冒険者ギルド、怖い。
「そちらの依頼、受けられますか?」
「そうだな。受けさせてもらおう。エーレンフリート、手続きを」
受付嬢さんが尋ねるのに私はそう答えた。
手続きはなんと15分で終わった! 奇跡的な時間だ!
ドーフェルの冒険者ギルドもどうにかならないかなー……。
私たちはそんなことを思いつつも、まずは衛兵さんたちに行方不明者についての話を聞きに行くことにした。
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王都の衛兵団本部はやはり城壁の塔に位置していた。
私たちは冒険者カードを提示して、衛兵団本部に足を踏み入れる。
「何の用だ? 酔っぱらいの釈放手続きか?」
開口一番これである。
日本のお巡りさんはもっと親切だぞ!
「違う。行方不明者の捜索をしている。情報が欲しい」
そう告げてエーレンフリート君がギルドの依頼書を受付に広げる。
「ああ。この事件か。特に新しい情報はないぞ」
「では、今ある情報について教えろ」
受付の衛兵がそっけなく告げるのに、私がそう尋ねた。
「それなら情報料を払ってもらわないとな」
「情報料だと?」
「お前さんだって冒険者だ。分かっているだろう。こういうのはただで手に入れられるわけじゃない。俺たちの仕事に感謝を示してもらわないと──」
衛兵が嫌味な感じでそう告げていたとき、その頭がテーブルに叩きつけられた。
「貴様! 行方不明者の捜索には全力で力を貸すようにと言っておいただろうが!」
「申し訳ありません、軍曹殿!」
受付の衛兵の頭をテーブルに押し付けているのはエーレンフリート君も上回る巨体の持ち主だった。まるでゴリラだ。
「部下が失礼した。俺はギルベルト・ゲルデラー。その行方不明者の捜索を担当している。全面的に協力しよう」
ギルベルトさんはそう告げて、私たちを奥の部屋に通した。
「さて。どの辺りまで掴んでいる?」
ギルベルトさんはそう尋ねた。
「吸血鬼が怪しいと見ている。今日もゾンビ騒ぎがあっただろう」
「ああ。屍食鬼だな。取りすがりの人間が退治して、大事はならなかったようだが」
はいはい。その通りすがりって私たちです。
「決定的な証拠はまだどこにもないが、吸血鬼が怪しいことは我々も掴んでいる。屍食鬼騒ぎは今日に始まったことじゃない。行方不明者が出始めてから数件起きている。それにいなくなったのは若い未婚の娘だ。どう考えても吸血鬼が怪しい」
吸血鬼は処女厨。エーレンフリート君もなのだろうか。
「それで、どの辺りを探すつもりなんだ? それはまだ決めてないか?」
「吸血鬼は鬼門の方向を好むという。故に北東の区画を捜索するつもりだ」
「なるほど。風水か」
私もさっき知ったばかりの知識をどや顔でギルベルトさんに告げる。
「北東の区画で何か騒ぎは?」
「いや。北東の区画は寂しい場所でな。王都でも一番静かな場所だ。墓地があり、寂れた教会があり、年寄りばかりの暮らす住宅街が広がっている」
ふむふむ。墓地か。ますます吸血鬼がいるっぽいな。
「捜索は行ったのか?」
「いや。あそこでトラブルは何も起きていない。だから、捜索する意味はないと思っていた。だが、あんたたちの話を聞くと一度調べた方がよさそうだな」
未だに捜索していない地域と。これは確実かな?
「捜索は我々が行おう。こちらは対吸血鬼戦のエキスパートだ。素人がやるより遥かにいい。素人を連れて行ってゾンビに変えられたら寝覚めが悪い」
「言ってくれるな。だが、確かに俺たちは吸血鬼との戦い方を知らん。聖水や十字架、流水は効果があるそうだが」
「まやかしだ。どれも有効ではない」
エーレンフリート君、どれも平気だもんね。
「まあ、我々に任せておけ。ただ、捜索中は住民を避難させたい。協力できるか?」
「ああ。吸血鬼がいるかもしれないって言ったら全員が喜んで逃げ出すだろう」
問題はその逃げる群衆に紛れて吸血鬼まで逃げないかどうかだ。
「吸血鬼は我々が始末する。だが、そちらも油断はするな」
「分かっている。相手が相手だ。用心するに越したことはない」
私の言葉にギルベルトさんが頷いた。
「では、決まりだな。いつ始める?」
「なるべく早い方がよかろう。明日からでも始めるべきだな」
ギルベルトさんが尋ねるのに私がそう告げて返す。
「分かった。明日に住民を避難させよう。他に必要なことは?」
「ない。下等な貴様らに期待することなどさしてない」
ここは任せておいてくださいと言いました。
「分かった。余計な手出しはしない。その代わり行方不明者のこと、頼んだぞ」
「ああ。私の世界で好き放題してくれている連中を叩きのめしてやろう」
というわけで、吸血鬼捜索作戦が開始されることになった。
ディアちゃんたちには内緒だ。ちょっと危険かもしれないからね。
ジルケさんには私から伝えておいた。ジルケさんも吸血鬼捜索作戦には参加するとのことだ。ジルケさんほどの実力者なら大丈夫だろう。
さて、明日は無事に吸血鬼を見つけることができるだろうか?
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