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寒天風情が(突然変異種来襲!)

……………………


 ──寒天風情が(突然変異種来襲!)



 ドーフェルの山のレッサーバシリスクが討伐されたことで、ドーフェルの山の麓では温泉工事が活発に行われるようになり始めたそうだ。


 というのも、伝聞だから。私たち自身は温泉工事にはかかわっていないのだ。


 私とエーレンフリート君とジルケさんはひたすらにクエストの日々。


 農家の害獣退治をやっていると農作物のお土産やハーブが貰えたりしてお得。使えそうなハーブはディアちゃんのところに持って行って、錬金術の材料にならないか尋ねている。もちろん、私の魔王弁が素直にディアちゃんに素材を渡すはずもなく『貴様のためではないぞ。私の戯れのためだ』などと恥ずかしいツンデレセリフを吐いている。


 は、恥ずかしい。


 今日日、アニメのキャラでもこんな典型的なツンデレキャラなんていないよ。コテコテ過ぎて、逆に冷めちゃうよ。


 しかし、私の魔王弁を止められるはずもなく、私は魔王弁を吐き続けるわけであった。どうにかしてほしい。


 それはそうと今日はジルケさんと約束があるのだ。


 エーレンフリート君を置いて、ふたりでクエストを受けようという約束。


 この間の穴埋めだ。ジルケさんもハルバードが戻ってきたのでバリバリ戦えるぞ。


 ハルバードは流石はイッセンさんが鍛えなおしただけあって、ジルケさんも驚きの鋭さになっていた。軽く指を当てるだけで血が出てくる感じ。これはある意味物騒だ。


「……ルドヴィカ」


「ジルケ。私を待たせなかったことは褒めてやろう」


 遅れてごめんなさいと言いました。


 というのも、エーレンフリート君がどうしてもついていくと言い張って、それを抑え込むのに苦労したのだ。エーレンフリート君が私のことを心配してくれているのは分かるけれど、今日はジルケさんとの約束があるのだから仕方ないのだ。


「エーレンフリート。主命に従えぬのであれば、去れ」


「……畏まりました、陛下。どうかお気をつけて」


 結局命令に従ってくれないなら仲間外れにするヨと言って納得してもらった。


 ということで、今日はジルケさんとふたりでクエストだ。ジルケさんがこの間のことで機嫌を損ねていると困るから、九尾ちゃんに頼んでお弁当も作ってもらった。今日は朝から夕方まで万全の体制でクエストに臨むぞ!


「ジルケ。受けた依頼はなんだ?」


「これ」


 ジルケさんはそう告げてクエスト受注書を見せる。


 何々。最近、家畜がいなくなっています。泥棒かもしれないですし、魔物の仕業かもしれません。どうかこの問題を解決してください、と。


「家畜攫いか。魔物の仕業であれば面白いのだがな」


「……うん。腕の見せどころ」


 人間の泥棒だったときってやっぱり捕まえないといけないだろうし、いろいろと面倒なことがありそうなので、魔物の仕業の方がありがたい。


「では、行くとするか」


「……牧場はそっちじゃなくてこっち」


 牧場は初めて行く場所だから仕方ないよ。


……………………


……………………


 牧場に到着。


 まずは牧場経営者の人に話を聞く。


「つまり、朝はそのままの数なのに夕方になると数が減っていると?」


「そうなんです。ずっと見張っていてもみたんですが、途中で眠くなってしまい」


「牧場をやる気はちゃんとあるのだろうな?」


 見張りぐらいちゃんとしようよ……。


「とにかくお願いします。これでは廃業になってしまいますよ」


「分かった、分かった。解決してやろう」


 牧場経営のおじさんの適当さもあれだが、こういう依頼をこなすのも冒険者の仕事だ。どうにか解決して見せよう。


「ジルケ。まずは見張りだ。何が起きているのか把握するぞ」


「……うん」


 私がそう告げるのにジルケさんがちょっと身を寄せてきた。


 ジルケさんってパーソナルスペース、広い方かと思ったけれどそうでもないのかな?


「……エーレンフリートって人は吸血鬼?」


「知っているのか?」


「……前に本で読んだ。エーレンフリート・デア・フリートランデル。吸血鬼の始祖のひとりだって。そうなの?」


「まあ、その通りだ。あいつは吸血鬼だ。もっとも日光や流水など克服しているがな」


 エーレンフリート君っていまいち吸血鬼っぽくないんだよね。朝から起きてるし、日光を平然と浴びてるし、流水とか十字架とかも平気だし。その上、スイーツ男子だし。吸血鬼っぽいところと言えば、血の入ったトマトジュースを飲むことぐらいだ。


「……他の人たちも魔物なの?」


「詳細は私も知らぬ。ただ使える部下たちだということだ」


 ジルケさんが今日はぐいぐい来るなー。


 エーレンフリート君がいないからかな?


「……ねえ、私も仲間にしてくれない?」


「貴様をか?」


 ここでジルケさんが奇妙なことを言いだした。


「私もルドヴィカと一緒にいたい。だから、仲間になりたい」


「戯け。相手は吸血鬼の始祖とそれに比肩するものたちだぞ。人間の貴様が入れるものではない。人間は人間らしく愚かに生きていろ」


 私のその言葉にジルケさんがしょんぼりする。


「それに貴様は既に仲間だ。同じ冒険者パーティーの仲間であろうが。今更、何を言うのだ。我とともに歩むのであろう?」


「……ルドヴィカ」


 そうそう、ジルケさんはもう立派な私たちの仲間だよ。


「さて、まだ何も出そうにないな。何の気配もしない。昼食にするか」


 私はそう告げて九尾ちゃんが作ってくれたお弁当を広げる。


 重箱4段重ね。九尾ちゃん、張り切りすぎだよ。


「流石に量が多いな」


「……一緒に食べよ?」


 中は豪華な和食尽くし。天ぷらから煮物、ご飯は白米ではなく炊き込みご飯がいろいろと、これまた凝っている。私、炊き込みご飯好きなんだよね。


「好きに食え、ジルケ。特別に許可する」


 好きなものから食べていいよと言いました。


「……じゃあ、これもらうね」


 ジルケさんは魚の切り身に手を付けた。


「美味しい」


「だろう? 九尾の料理は誇るべきものだからな」


 私もエビの天ぷらをぱくり。


 うむ。衣はちょっとしんなりしているけど、それがまた美味しい。サクサクの天ぷらもいいけれど、丼もののしんなりした天ぷらなどもそれはそれで美味しいのだ。


 それに何より、外で食べるというのが美味しい。開放感がある。


 そして、そして、友達と一緒に食べるというのもいい!


 大学に入ってからというもの、食事とは孤独であった。家族もおらず、友達もおらず、ひとりでもそもそと食べるご飯はコンビニ弁当。美味しいはずがない。


 だが、今の私には友達がいる! ジルケさんやディアちゃんという友達がいるのだ! もう孤独にご飯を食べることはないぞ! みんなでわいわいとご飯が食べれるのだ! そうすれば美味しさも100倍ってところだ!


「これ、美味しい。食べて」


「ああ。後で食べる」


「食べさせてあげる」


 え?


「はい。あーんして」


 ジ、ジルケさん、またそんな特殊なプレイを……。


 確かに友達と食べるご飯は美味しいと言ったけれど、これは友達のあれとは違うくない? それとも世間一般の友達はこういうことしてるのかな? 私は友達がいなかったから分からないや!


「仕方ない奴だ。ほれ」


 私はあーんと口を開ける。


 ジルケさんはそこにそっと魚の切り身を入れてくれた。


 うむ。塩加減が絶妙で大変美味な魚の切り身だ。お醤油で味付けしてるのかな?


「美味いな」


「……うん。美味しい」


 やっぱり、友達と食べるご飯はいいものだ。


 と、そんなこんなで私たちはお弁当を食べ終えてお茶を飲みながら、牧場の様子を監視していた。今のところ、不審なものは見当たらないが。


 そこで私の心臓にちょっとだけ引っかかるものを感じた。


「気をつけろ。何か来るぞ、ジルケ」


「……分かった」


 私が警報を発して立ち上がるのに、ジルケさんが立ち上がる。


 私は牧場の中に視線を走らせ──。


「あれか」


 見つけたー!


 透明なポチスライムだ! それもでかい!


 本当に透明で、透明で、よく目を凝らしていないと見失いそうなほどだ。


 し、しかし、ポチスライムの主食って砂糖水だよね? 家畜を襲ったりは──。


「モー!」


 わー! 目の前で牛さんがポチスライムに飲み込まれたー!


 巨大化に伴い性格が獰猛化したのか、ポチスライムは家畜を飲み込んでいく。


「ジルケ。やるぞ!」


「……うん」


 こうしてはいられない、ポチスライムの蛮行を阻止しなければ!


「魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”」


 私がその物騒な黒書武器を抜くと、透明ポチスライムの動きが止まった。


「ウオオォォ──ン!」


 透明ポチスライムはポチスライムにあらざる重低音の声で叫ぶと私たちの方に、のっそりのっそりと向かってきたのだった。


「突然変異種か。生け捕りにしたら高く売れそうだな」


「生け捕りにする?」


「いいや。そんな余裕があるとは思えん」


 透明で毛の生えてないポチスライムとかレアすぎて、高値で売れそうだけれど、こんなに大きくてはペットにもならない。まして家畜を食べちゃうんじゃ、完全な害獣だ。害獣退治すべし、慈悲はない。


「周りの家畜に被害がでないようにやるぞ。気を付けて動け」


「……了解」


 私も魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”の威力はセーフモードにして戦うことにする。最近、若干ではあるが魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”の威力をコントロールすることができるようになってきた気がするのだ。


「はあっ!」


 私が剣先から波動が飛び出ないギリギリの威力で透明ポチスライムを叩き切る。これでこのポチスライムもお終い──。


「危ない」


 そこでジルケさんが前に出る。


 透明ポチスライムは倒れてはおらず、その触手を伸ばしてきていた。


 ジルケさんはその触手をハルバードで叩き切る。


「やってくれるな、ポチスライム風情が」


「気を付けて。ただのポチスライムじゃない」


 確かにただのポチスライムではない。内部の核まで透明化しているのか、どこが弱点なのかも分からない。それにこのうねり加減も、水羊羹のようなフォルムを保ったまま行動するポチスライムとは異なっている。


 恐るべし、透明ポチスライム!


 ここは気合入れていくぞ!


「ジルケ。同時攻撃だ。貴様にも支援魔術をかける。それで一気にケリをつけるぞ」


「分かった」


 私の言葉にジルケさんが頷く。


加速(アクセラレーション)


 私はジルケさんと自分にバフをかける。


「では、一気に片付けるぞ」


「……うん!」


 私の言葉にジルケさんが力強く頷く。


「では!」


 私とジルケさんは先程の2倍以上の速度で透明ポチスライムに迫る。


 透明ポチスライムは確かに巨大だし、動きも危険だが、いかんせん鈍い。


 敵がこちらに触手を伸ばしている間にこっちは別の地点に移動完了だ。


「はあっ!」


「ていっ!」


 そして、透明ポチスライムの背後から打撃を加える。


 私とジルケさんの攻撃で透明ポチスライムが三枚おろしにされて、ぼとぼととその寒天のような体が崩れていく。だが、まだ核が破壊できていないのか、透明ポチスライムは崩れ落ちた自分の体を回収して、修復していく。


 くそう。これじゃきりがないぞ。


「ルドヴィカ」


「なんだ、ジルケ」


「……みじん切り作戦」


 私が尋ねるのにジルケさんがそう告げる。


 なるほど。もうそれしか手はないか。


「では、やってやろう。この魔王ルドヴィカ・マリア・フォン・エスターライヒがポチスライム程度に後れを取ることなどあってはならないのだ」


 私はそう告げて魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を構える。


「行くぞ、ジルケ!」


「……了解」


 私たちは再び加速した速度で、ぐるりと透明ポチスライムの背後に回り込み、次は何度も、何度も、何度も、魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を振り下ろす。ジルケさん命名『みじん切り作戦』だ。


 みじん切りにすれば核もどこかで破壊できるはず。やってやろう!


 斬る、斬る、斬る、斬る!


「キューン」


 すると、ポチスライムが情けない鳴き声を上げて、ぼふんと白煙を吐いた。


 残されたのは透明ポチスライムの素材。


「やったな、ジルケ」


「……うん。私たちの勝利」


 私が告げるのにジルケさんが嬉しそうに微笑んだ。


「我々が勝利するのは朝日が昇り、また沈むように確実なものだった。驚くには値しない。我々は常に勝利する」


 私たちって案外いいパートナーだよねと言いました。


「では、この依頼を終えたことを伝えよう。それから風呂にでも入って帰るか」


「……そうしよう」


 というわけで私たちは透明ポチスライムの素材を証拠として依頼達成を依頼主に伝え、クエスト達成書を受け取ると、のんびりと夕方の街を銭湯に向かったのだった。


……………………

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