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くだらない相手だ〈それって危ない奴では……?〉

……………………


 ──くだらない相手だ〈それって危ない奴では……?〉



 私が冒険者ギルドに差し掛かると随分と建物が騒がしくなっているのが聞こえた。


 何事だろうかと思いながらも私は冒険者ギルドの扉を潜る。


「マジで! マジで見たんだよ! 間違いない!」


「まさか! こんな場所にそんな化け物がでるはずがない!」


 えらく騒いでるな冒険者の人たち。いつもは静かなのに。


「陛下」


「うむ。これは何の騒ぎだ、エーレンフリートよ」


 エーレンフリート君がやってくるのに私がそう尋ねる。


「なんでもミドガルドシュランゲなる大蛇が出たとの騒ぎでして。冒険者ギルドの緊急クエストにその討伐が指定されたようです」


「ミドガルドシュランゲ?」


 随分と強そうな魔物だな。


「大したことはありません。体長500メートルほどで、口から猛毒の牙を突き出すだけの存在ですから。陛下にとっては蛆のようなものでしょう」


 いやいやいや。


 体長500メートルって! それも猛毒の牙って!


 どう考えても危ない奴じゃん! すぐに討伐しないといけない奴じゃん!


「どこで目撃されたのだ?」


「はっ。例の陛下が露天風呂なるものを建設予定の場所であります」


 ……よりによって。


 人狼の臭いで追い払われてくれるものだといいけれど、どうもそれは上手くいかない気がする。これはやっぱり討伐しないとダメか。ダメだろうな。


「エーレンフリートよ。この蛇を仕留めるぞ」


「畏まりました。すぐさまクエストを受注して参ります」


 そう告げてエーレンフリート君はギルドがざわめく中、ミドガルドシュランゲの討伐依頼を掲示板から剥ぎ取り、それを持って──受付の列に並んだ。


 か、格好はつかないけれど、しかたないことだ。それにすぐさまと言ったけれど、あの列の長さ的に2、3時間はかかるな。


「ルドヴィカ?」


「ん。ジルケか」


 私が列に並ぶエーレンフリート君を眺めていると、ジルケさんが現れた。


「……何か騒ぎ?」


「ミドガルドシュランゲなる魔物が出たそうだ。その討伐を引き受けることにした」


 あ。ジルケさんに相談せずに勝手に受けちゃった。


 ジルケさん怒ってないかな。


「……ミドガルドシュランゲ。やっつけようね」


「ああ。我々ならば余裕だ」


 ほっ。ジルケさんは怒ってないみたい。よかった、よかった。


「……けど、どこに出没するの?」


「私が露天風呂を作ろうと思っていたところの傍らしい。全く、迷惑な」


「……露天風呂」


 私の言葉にジルケさんがぽやんとした顔をする。


「……いつ完成するの?」


「我々次第だろうな。ハーゼ交易も危険な魔物が出没するのに、作業員を送れないだろう。我々が討伐すれば作業が始まるはずだ。後は連中の頑張り次第だな。まあ、下等な凡人どもに大した期待はしていないが」


 ジルケさんが尋ねるのに、私たちがこの魔物を駆除しないと作業は始められないんじゃないかなと答えました。


「……じゃあ、急いで討伐しよう。露天風呂、入ってみたい」


「うむ。私のアイディアだ。楽しみにしておけ」


 露天風呂、楽しみだねと言いました。


「……しかし、いつ受付が終わるか分かったものではないな」


 エーレンフリート君が列に並ぶこと1時間。まだ前には3、4人いる。


「……待つしかない。ここのギルドは小さいから」


「立派なギルドが欲しいというあの冒険者の小僧の気持ちがよく分かるというものだ」


 せめて、受付がふたつあればなあ。


 そして、やらたと時間がかかるのに定時にはしっかり終わるから、急げ、急げ、そして待てという軍隊のような状況になっているのだ。利用者からしたらたまったものじゃないよ。改善を要求する!


 冒険者ギルドもここが温泉街として名をはせて活気が満ちれば、大きくなるかな。その時には私は冒険者を引退して、温泉旅館でも経営したいところだけれど。


 イッセンさんとベアトリスクさんのもてなしに、九尾ちゃんの料理。割と完璧な旅館が経営できるのではかろうか。エーレンフリート君には経理でもやってもらおう。常識は通じないけれど、頭はいいみたいだし。


「へ、陛下。依頼を受けてまいりました」


 待つこと3時間、エーレンフリート君が戻ってきた。


「よし。エーレンフリート、ジルケ。この迷惑な蛇にはご退場願うぞ」


「畏まりました、陛下」


 というわけで、私たちはミドガルドシュランゲ退治に出発である。


 毒状態治癒ポーションは一応ディアちゃんが作ったのを持ってるけど、ミドガルドシュランゲの毒にも通じるかなあ……。


……………………


……………………


 戻ってまいりました、露天風呂建設予定地。


 ハインリヒさんたちは既に帰宅している。


 空は黄昏時でそろそろ森の中も暗くなってしまう。


 これは出直した方がいいかな? などと思っていたときである。


 心臓が引っ張られる感覚がした。久しぶりだ。


「近いぞ、エーレンフリート、ジルケ」


「分かります、陛下。地下に潜っているようですね」


 地下から来るのか。また面倒な相手だ!


「恐らくは足音に反応しているのだろう。少しばかり刺激してやるとするか」


 いいことを思いついたので試してみる。


「魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”」


 私が魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を抜くと、心臓の引っ張られる感じが強くなった。近づいてきているぞ。


「そら、大人しく表に出てくるがいい!」


 私は魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を地面に突き刺すとそこに魔力を解放した。地下で轟音が響き、エーテルが駆け抜けていくのが分かる。


 って、まずっ! 温泉が近くにあるのに!


 私はそっと背後を振り返ると、温泉は何事もなかったかのようにこんこんとお湯を湧き出させていた。ほっと一安心。


 ではなく、ミドガルドシュランゲの相手をしなければ。


 今のエーテル属性の攻撃でダメージは入ったはずだ。ここで逃げるか、それとも表に出てきて襲い掛かってくるか。私の想像だとミドガルドシュランゲとかいう大層な名前の付いた魔物が取りそうな行動は──。


「陛下、出ました!」


 表に出てくる、だ!


 ミドガルドシュランゲが私たちの前で地面からぬらぬらした鱗を晒して地表に出てくる。太さはドラム缶ほどで、長さはどこまでも長い。口からはぽとぽとと毒液が滴り落ちており、地面が毒液に触れてじわあっと溶けている。


 これは無理。生理的に無理。


 これ、噛みつかれたら絶対死ぬでしょ? こんなに大きな蛇とか恐怖以外の何者でもないよ? 冒険者ギルドの人たちが大慌てしたた理由が今になって分かったよ!


「エーレンフリート、ジルケ。一気に片を付けるぞ」


 生理的に受け付けないのでなるべく急いでやっつけましょうと言いました。


「畏まりました、陛下!」


「……分かった」


 ミドガルドシュランゲが先ほどのエーテル属性の攻撃を叩き込んだ私を目標にしているのにエーレンフリート君とジルケさんがミドガルドシュランゲの両脇に回り込む。


「シャーッ!」


「貴様の相手は私だ、ミミズ」


 ミドガルドシュランゲが威嚇しながら、エーレンフリート君とジルケさんの方向を向こうとするのに私が魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を構えた。


「よそ見をしているとかば焼きになるぞ?」


 私は魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を振る。


 剣先から生じた波動がミドガルドシュランゲを捕らえて、叩き切る。


 なんだ。でかいだけで呆気なかったな。


「陛下、まだ生きているようです」


「なんだと」


 ミドガルドシュランゲは切断面が蠢くと、そこから新しい体を生やしていき、それが元の体と繋がる。そして、まるで何事もなかったかのように私たちを再びその毒の牙で威嚇し始めたのだ。


 ちょっと! それは反則でしょ!? 再生持ちとかずるいよ!


「私とジルケがいくら切ったところで、これでは意味はないだろう。エーレンフリート。貴様ならばやれるな?」


「お任せを」


 エーレンフリート君の魔剣“処刑者の女王(ブラッディ・メアリー)”ならば、相手のHPを吸収してしまうので再生能力を奪えるかも……!


「ジルケ。貴様は私とエーレンフリートの援護だ」


「……分かった」


 私とジルケさんはエーレンフリート君のためにミドガルドシュランゲに隙を作るべく、周囲でミドガルドシュランゲを牽制しつつ、攻撃を仕掛ける。


 巨大な蛇がのたうち、うねうねと体をくねらせる。


 おえっぷ。蛇は苦手だ……。


「ジルケ、仕掛けるぞ」


「……うん」


 ミドガルドシュランゲの注意をエーレンフリート君から離すために私たちは同時に攻撃を仕掛ける。ミドガルドシュランゲの胴体が切断され、輪切りになるのだが、やはり傷は瞬く間に回復されてしまう。


「はああっ!」


 だが、そこでエーレンフリート君が攻撃。


「シャーッ!?」


 エーレンフリート君の攻撃で、ミドガルドシュランゲが明らかにダメージを受けた。やはり回復能力持ちには吸収攻撃が効くようだ。完全なただの思い付きだったけど、我ながらナイスアイディアである。


「このまま一気に畳み込むぞ、エーレンフリート」


「はい、陛下!」


 私は魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を振り回してミドガルドシュランゲの毒牙のある頭部を抑え込み、ジルケさんはハルバードでミドガルドシュランゲの体を抑え込み、エーレンフリート君がミドガルドシュランゲの巨体を切り刻む。


 ミドガルドシュランゲは身の危機を感じたのか逃げようとするが、ここまで暴れておいてそうはいかない。私は魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”でミドガルドシュランゲの頭を地面にピン止めするように串刺すと、その動きを封じ込めた。


「エーレンフリート。そのままやれ!」


「畏まりました!」


 エーレンフリート君はミドガルドシュランゲを切り刻んでいく。


 ミドガルドシュランゲの動きが鈍くなっていき──。


 ぼふんと音を立てて、素材だけの存在になった。


「討伐完了、だな」


 ふうと私が息をつく。


「しかし、このような場所にミドガルドシュランゲが出没するとはおかしいですね」


 エーレンフリート君が魔剣“処刑者の女王(ブラッディ・メアリー)”を仕舞いながらそう告げる。確かにゲームではこんな場所で、こんな大蛇と戦った記憶はない。


「もしや、魔王軍の仕業か?」


 思いつくのは魔王軍が私への嫌がらせで、この蛇を放ったということ。


「それはあり得ません。このようにミドガルドシュランゲは回復能力を持ち、獰猛な魔物です。魔王軍の幹部──それも今の我々を欠いた幹部たちでは扱えないでしょう」


「そういうものか」


 怪しいと思ったんだけどなあ。


「何はともあれ、討伐は完了だ。明日の朝に報酬をいただきに行くとしよう」


 もうとっくに冒険者ギルドは閉まってるだろうし、明日朝一で並んで、報酬を受け取りに行くとしよう。朝一で並ばないと報酬を受け取れるのが昼過ぎになるというのが悲しいところだ。英雄でも扱いが変わりないとは悲しいものだ。


 ミドガルドシュランゲなんて化け物倒したんだし、優遇してほしいよー。


……………………

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