獣でも体を洗う〈ここに露天風呂を建てよう〉
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──獣でも体を洗う〈ここに露天風呂を建てよう〉
「お待ちしておりました、陛下」
私たちが城門を潜ると、早速ピアポイントさんが出迎えてくれえた。
「用事は分かっているな、ピアポイント」
「はっ。ご案内いたします」
実を言うとハーゼ交易を出た時に、外で待っていたエーレンフリートに出会って、ピアポイントさんへの伝言を頼んだのだ。エーレンフリート君がクエストをどうしたのかは分からないけれどね。ジルケさんだけで行かせていないよね?
「それではついてこい」
私はハインリヒさんとディアちゃんとミーナちゃんにそう告げる。
本当ならばついてくるのはハインリヒさんだけでいいんだけど、ディアちゃんとミーナちゃんも興味を出しちゃって、一緒にいくことになった。
まあ、その方が話も弾むしいいかな。
エーレンフリート君は再びクエストに出かけちゃったし、護衛はピアポイントさんだけだ。ピアポイントさんも魔槍“世界樹の枝”が使えるし、人狼だし、魔王軍の人たちが今、私のことを暗殺しようと試みても上手くはいくまい。
いざとなれば私も魔剣“黄昏の大剣”を手に頑張ろう。
そうならないのが一番いいんだけど。
そして、私たちはピアポイントさんと数名の人狼さんと一緒にドーフェルの山の麓の森を進んでいく。まだ道路とか未整備なので、歩きにくいぞ。
「おおっと!」
ほら、早速ハインリヒさんがこけそうになってる。
「うわっ!」
って、ディアちゃんもか。ディアちゃんも最近は探索に行ってないと見たね。
ディアちゃんもレベル上げていかないと、いざという時、邪神さん倒せないよ。
今度、ディアちゃんを探索に誘うとしよう。レベル上げだ。
「それにしてもまだドーフェルの山の封鎖は続いているのですかね」
「ああ。そのようだな。ディア、治療薬はまだできんのか?」
ハインリヒさんが額の汗をハンカチで拭いながら尋ねるのに私はそう尋ねる。
「もうちょっと! もうちょっとで完成なんだよ! あと1、2日でできると思う」
「期待せずに待っておくとするか」
ディアちゃん、頑張れ! と言いました。
「それにしても随分と森の深くにあるのですな」
「その方が秘湯という雰囲気がでるだろう?」
すいません、適当言いました。
「なるほど。大自然を感じながら、温泉に浸かる。いいですな」
まあ、納得してもらえたようなのでそれでいいか。
「ピアポイント。そろそろか」
「はっ。ここになります」
ピアポイントさんが立ち止まって目の前の指さす。
目の前にはこつこつと湧き出る湯気の立ち上る泉が。泉の水は川に流れており、そのまま湧きすぎた分は排出されて行っている。
「おお。この湯加減はちょうどいいですな。少し熱いぐらいですが、機材を通すことを考えるならばこの程度がちょうどいいでしょう。これはいいものです」
「貴様、温泉の開発にかかわったことがあるのか?」
妙に専門的なハインリヒに私がそう尋ねる。
「ええ。ここではないですが、温泉開発にかかわったことがあります。その時の泉源の温度もこの程度でしたよ。ここから女湯と男湯にわけるのですからちょうどいいでしょう。これ以上熱すぎると調整が必要になりますしね」
へー。私は温泉のことはさっぱり分からないよ。
「あつっ! こんなに熱くて大丈夫なの?」
「これぐらいがちょうどいいのだよ」
ミーナちゃんもお湯を手を入れてみるのにハインリヒさんがそう返した。
「私はここら辺の温度がちょうどいいかなあ」
ディアちゃんはお湯が流れていっている川に足をつけている。
「足湯というのもありだな」
「足湯とは?」
ハインリヒさんが尋ねるのに私は足湯の説明をする。
その間、ディアちゃんたちはぱちゃぱちゃと川で遊んでいた。楽しそうだ。私も混ざりたいところだが、まずはハインリヒさんに温泉計画について説明しなければならない。
温泉卵とかあってもよさそうだし、温泉卵が作れるだけの泉源を探したり、日帰りのお客さんのための簡易休憩所を準備したり、泊りのお客さんのためには朝風呂や夜景が楽しめる温泉を準備したりしなければならない。
そういうことをハインリヒさんとあれこれ相談しながら決めていく。
そして、何より露天風呂という概念について教えなければならない。
この世界には露天風呂と言うというものがない。それもそうだろう。城壁の外は魔物の襲撃があるかもしれない危険地帯なのだ。
そんな場所で露天風呂など作ろうものならば、魔物に餌を与えるようなものだ。
だが、大丈夫!
ここには人狼さんたちが臭いをつけて、外敵を寄せ付けないようにしているのだ。後はここに至る道のりにも同じことをしてくれれば、この森に暮らしているポチスライムや野良犬に襲われることはないだろう。
露天風呂、いけるぞ!
「なるほど、なるほど。景色を楽しみながら湯に浸かるわけですな。ですが、それでは覗かれる心配があるのでは?」
「当然、覗きについても考える。柵を作ったり、私有地として立ち入り制限をしたりなどすればよかろう。それぐらいのことは自分で考えろ」
正直、いい案は思い浮かびませんと言いました。
「そうですな。ここに柵を作るとなると、これぐらいの高さで……」
ハインリヒさんが計算に入ったので、私もディアちゃんたちのところに向かう。
「ルドヴィカちゃん。本当にここにお風呂作るの?」
「そのつもりだ。全く不可能なことでもあるまい」
ディアちゃんが尋ねるのに私ができるかもしれないよと言いました。
「ふうん。でも、外でお風呂に入るってちょっと恥ずかしいね」
「見せて見苦しいものでもあるのか」
「裸は誰だって見られたら恥ずかしいよー」
私が告げるのに、ディアちゃんがけらけらと笑った。
「それにしても本当に温泉なんかで町興しになるのかね」
「私の提案を疑うつもりか?」
ミーナちゃんが愚痴るように呟くのに私がまだ心配? と尋ねる。
「疑うってわけじゃないけど、これまでもずっと温泉はあったわけだし、それが今になって状況が変わるのかなって思うじゃん?」
まあ、確かにドーフェルにはこれまでもずっと温泉はあったわけだ。それが今になって温泉を目玉にして、どうにかなるのかって言われると疑問なところ。
「これまでは温泉のPRをしてこなかっただろうが。それに露天風呂というような名物もなかった。これまでの温泉には計画性がなかったが、これからの温泉には計画性を持たせる。それによって町興しを成功させるのだ」
これまでの温泉はただあるだけだったから、これからの温泉はもっと効能とか露天風呂とかディアちゃんのハーブ石鹸とかをアピールして、集客するよと言いました。
「PRかー。ディアがお金出してくれるんだよね?」
「そうそう。宣伝費ね。うちのお店の宣伝も兼ねて!」
ディアちゃんが順調に投資しているようで何よりです。
「本当にお客さん、来てくれるかな」
「私たちにできることをするだけだよ。街中のお店とかも充実させていかないと」
ミーナちゃんがのんびりと告げるのに、ディアちゃんがガッツポーズでそう告げた。
「そうだぞ。できることをせずに結果だけ期待するようではならん。自分ができることを最大限行ったうえで期待というものはするものだ」
私たちもできることをやっていこうと言いました。
「そだね、できることをしなくちゃ。私はお店の誘致をしよっと。温泉の開発計画を見せれば、少なくとも1、2店舗ぐらいはお店は増えるはずだし」
ミーナちゃんはそう告げて立ち上がった。
「私も頑張ってレッサーバシリスクの毒の治癒ポーション、作らなきゃ」
そう告げてディアちゃんも立ち上がる。
「せいぜい足掻くがいいだろう」
ふたりとも頑張ってねと言いました。
「ルドヴィカ様。これはいいものを手に入れられました。早速土地を購入して、開発を始めたいと思います。ところで宿泊場所はやはり城壁内がいいでしょうか?」
「ふむ。治安を考えるならば城壁内だが、往路を考えるとな……」
ここまでそれなりに距離があったしな。
「ここには休憩所を設け、宿泊施設は城壁内にするといいだろう。見張りには私の部下をひとり貸してやる」
「いやあ。助かります。流石はルドヴィカ様!」
なんかいい感じに乗せられてない、私?
まあ、これで観光がにぎわうなら文句はないけれどさ。
さて、私もそろそろ冒険者ギルドに寄って、エーレンフリート君から状況を聞かなきゃね。今日のクエストはどうなってたかな?
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