この程度とはな(儲からない)
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──この程度とはな(儲からない)
翌日、私、エーレンフリート君、ジルケさんの3名は早朝から冒険者ギルドの前で待ち、カウンターが開くのを待った。私たちも午前7時くらいに来たのに、もう5人くらいいるのだからびっくりさせられる。
今日はパーティーの届け出と魔物素材の換金を行うのだ。そして、お昼までには受付でやるべきことを終わらせるのである。
待ち時間が長すぎて、話にならないんだもん! これが一番苦痛だぞ!
「本日の受付を開始します」
今なら分かる。オットー君の気持ちが。
依頼を受けたり、成功させる度に数時間も待たされていたら仕事にならない。もっと窓口を増やしてもらうか何かしてもらわないと、嫌になってくるよ。
このドーフェルにも立派な冒険者ギルドが欲しいなあ。
そして、待つこと4時間。
「次の方どうぞ」
もうお昼過ぎちゃったけど、いいよ、いいよ。私の初報酬で今日はごちそうを食べるんだから。今日はお祝いだぜ。
「自由依頼の達成とパーティー編成の申し出だ」
私はエーレンフリート君が抱えてきたバッグを手渡し、パーティー編成の用紙を置く。それから全員分の冒険者ギルドカードもきちんと。
「ポチスライム山岳亜種が30匹。狼が20匹ですね。全部で900ドゥカートです」
うんうん。儲かっ──てない。
あれだけ頑張ってたったの900ドゥカートなの? そんなもんなの?
これでは全然稼げてない! チャレンジャーってオットー君とミーナちゃんに言われていたのはそういうことだったのか! 畜生!
「後ほどこれを持って銀行に行ってください」
30分ほど待たされて私たちは小切手をもらった。
「それからパーティー編成を受け付けます」
そして、受付嬢のベルティルデさんはパーティー編成の書類を神経質に見つめる。
それから1時間。
「問題ありません。パーティー編成を受け付けました。では、またどうぞ」
ふへー。やっと終わり。
「冒険者ギルドとは不便なものだな」
「……ここのギルドは小さいから」
私がため息をつくのにジルケさんがそう告げた。
「貴様は普段どんな依頼を受けているのだ?」
「……討伐依頼とか。自由依頼より稼げるよ」
冒険者として先輩のジルケさんに何が儲かるのか聞いてみよー!
「討伐依頼とはどのようなものがある?」
「……街道に出没するポチスライムゾンビを討伐してほしい。洞窟に住み着いたリッチーを討伐してほしい。農場を荒らす大陸大猪を討伐してほしい。とか……」
意外とあるな。この間、エーレンフリート君と覗いたときには全然だったのに。
「とりあえず農場からだな。これが一番儲かりそうだ」
だが、あいにくのところ、今日依頼を受け付けてもらうのは無理そうなのでまた明日。今日はお腹ペコペコだからお昼を食べに行こう。
「昼に行くぞ、ジルケ、エーレンフリート」
「はっ。畏まりました」
そして、私たちは大衆食堂“紅葉亭”へ、ゴー!
「いらっしぃませなのじゃ」
いつも通りに九尾ちゃんが出迎えてくれる。
「主様。依頼の方はどうでしたかの?」
「話にならん。別の方法を考えなければならん」
九尾ちゃんが尋ねるのに私がそう告げて返す。
「あらあら。それでしたら今日はゆっくりされるといいのですじゃ」
九尾ちゃんはにししと笑うと厨房に引っ込んでいった。
「しかし、冒険者というのは本当に稼げる仕事なのか?」
「……ピンキリ。稼げる人は上手く稼ぐ。稼げない人は稼げない」
「むう。何か仕組みでもあるのか?」
稼げる人は稼げるってコツでもあるのかな。
「……いい依頼を勝ち取って、その依頼主と懇意になる。次からは優先していい依頼が回ってくるようになる。私も自警団の依頼をこなして、自警団から優先して依頼を受けていた。けど、今は自警団も依頼が少ない」
なるほど。コネを作るのか。
コネという意味ではオットー君もディアちゃんから素材採取を任されていたりして、繋がりを保っている。私たちも金持ちの依頼主をゲットできれば、報酬ががっぽがっぽというわけにはいかないだろうか。
しかし、この街でお金持ちというと……。
「あの成金の娘の家しかないな」
そう、この街一番のお金持ちはミーナちゃんの家である。
ハーゼ交易はこの街一番の会社である。というか、まともな会社はハーゼ交易しかない。なので、自然と街のお金持ちもハーゼ交易に限られてくるわけである。
「ハーゼ交易は依頼を出すのか?」
「……出している。車列の護衛依頼や、魔物の駆除依頼。けど、やっぱりみんなハーゼ交易の羽振りがいいことは知っているから、依頼はすぐに取られる」
「むう」
みんな考えることは同じというわけか。
そりゃそうだよね。お金持ちと接点を作るのが冒険者の成功の秘訣なら、誰だってミーナちゃんの家と懇意になりたがるよね。まして、まともな依頼の少ないこのドーフェルの田舎町ではそういうことになる。
「仕方あるまい。今は卑しく、地道に依頼をこなすだけだ。それ以外の解決方法はない。明日には大陸大猪の討伐クエストを受けるぞ。他のものにとられないように朝一で並ぶことにする。いいな?」
「畏まりました、陛下」
エーレンフリート君は相変わらず即座に同意してくれた。
ジルケさんはどうかな?
「……私たちのパーティーのクエスト達成率が高くなれば、ハーゼ交易の方から声をかけてきてくれることもある。今は目の前のことに集中しよ」
おっ? そういうアプローチの方法もあるのか。
では、頑張ってクエストを達成していかないとな!
「では、次に受ける大陸大猪の討伐は確実に達成するぞ。この仕事に我々の将来がかかっているやもしれぬからな」
「はっ。全力で殲滅して見せましょう」
ということで、私たちはお昼ご飯を済ませて、もう一度冒険者ギルドにいったが、時間内にクエストの受注はできなかったため、明日に受注することになった。
これからバリバリ依頼をこなして、ハーゼ交易からの信頼を得ないとね!
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クエスト受注手続き完了!
受注までに3時間もかかった……。
だが、受けてしまえばこちらのものである。
農場を荒らす大陸大猪! 今日が貴様の命日だ!
と、身構えたものの、農場は平穏そのものである。
「おい。本当に大陸大猪は出たのか?」
「へえ。出ました。そりゃあ、山のように大きなイノシシがうちの農作物を食らい尽くしていったんです。このまま連中に畑を荒らされたら、仕事になりません。どうか連中を討伐してください、冒険者の方々」
私が尋ねるのに農場主の人がそう答える。
「うむ。いつ頃、そのイノシシどもは出没した?」
「夜中です。夜中に畑が騒がしくなって覗いたらいたんですよ」
夜中かあ。夜まではまだ10時間ほどあるよ。
「エーレンフリート。昼間の見回りは我々が行う。貴様は夜中の見回りを行え」
「畏まりました、陛下」
エーレンフリート君は吸血鬼だし、夜の方が都合がいいだろう。
私とジルケさんは昼間の見回りを行う。
「……ふたりっきりだね」
「そうだな。私と貴様だけだ」
今回はエーレンフリート君も留守番なのでジルケさんとふたりっきりだ。
「……ルドヴィカって好きな人とかいる?」
「いや。そういうものはいないな」
おっ。ガールズトーク?
今日は唯一の異性であるエーレンフリート君もいないし、羽目を外しちゃおうって考えなのかな。私もジルケさんのガールズトークには興味があるよ。
「……けど、あの錬金術師の子とは仲良さそう」
「あれは特別な光を得たものであるからな。その成長は見守らねばならん」
ディアちゃんは主人公だからと言いました。
「……私は特別じゃない?」
「貴様も特別だ。私と分かり合える部分を有している。そして、貴様にもまた光が宿っている。ないがしろにするつもりはない」
ジルケさんも主要キャラクターだし、同じボッチ仲間だし特別だよと言いました。
「……嬉しい」
ジルケさんが満足そうにそう告げる。
「貴様には特別な人間はいないのか?」
ジルケさんの好きな人とかも教えてよと尋ねました。
「内緒」
「くだらん」
それじゃあんまりだよと答えました。
まあ、私も好きな人を言ったわけじゃないしなあ。
ディアちゃんは特別だけど恋愛感情とは別の観点からの好きであって、ジルケさんも恋愛感情ではない。私は百合の花を咲かせるつもりはないのですよー。
けど、異性で好きな人と言われるとな……。
ここでエーレンフリート君が思い浮かんでしまう私である。エーレンフリート君を異性として見るのはどうなんだろう。そもそも私が好きですって言ったらエーレンフリート君はどういうリアクションをするんだろう。
恐れ多いですというリアクションは容易に想像できる。実は自分は別に好きな人がいるのでというのも想像できる。陛下は異性として見ておりませんというのも想像できる。つまり断られるパターンだけでは簡単に想像できるってこと。
「ジルケ。貴様、エーレンフリートのことをどう思う?」
私はジルケさんにそう尋ねる。
「……格好いい人……?」
ジルケさんから見るとそう見えるんだ。
こ、これはエーレンフリート君のことジルケさんに取られちゃったり。
いや、取られちゃったりも何も、私とエーレンフリート君の間には何もない。主従関係があるだけだ。それを取られるとかいうのは傲慢だぞ。
エーレンフリート君がジルケさんと一緒がいいというのなら、私は喜んでエーレンフリート君のことを祝福してあげないといけない。それが私にできることだ。
けど、ちょっと寂しいかな……。
「……あと、ちょっと偉そう……?」
あ。ジルケさんもやっぱりそう思うんだ。
確かにエーレンフリート君は傲慢と言うか、上から目線だよね。私以外の人に関してはことにその傾向が顕著だ。何かあれば『下等な人間どもめ!』だもんね。ジルケさんがそう思うのも間違いではないよ。
けど、世の中俺様系男子が流行ったりするし、偉そうというのはそこまでのデメリットにはならないのではないだろうか。
「ジルケ。あいつが好意を伝えてきたらどうする?」
ぎゃー! エーレンフリート君がジルケさんに興味があるって言ったらどうする? って尋ねるつもりがまんまに変換されたー!
「……え。ちょっとない……」
……自分で聞いておいてなんだけど、それはエーレンフリート君が可哀そうだよ。
「ジルケは好きな男はいるのか?」
「……そういうの、考えたこともなかった。けど、好きな友達はいる……」
「ほう?」
私かな? 私のことかな?
「どんな奴だ?」
「……とっても強くて。少し偉そうで。それでいて私の気持ちを分かってくれる人。私の生まれて初めての友達……」
わ、私のことだよね? 私のことだよね?
はあ。感動してしまった。
ボッチ人生21年の私がついに相手から好意を持たれて、友達ができるなどとは。
だが、これはルドヴィカ因子と私本来の因子のどっちが強いんだろう?
ジルケさんと友達になれたのは間違いなくルドヴィカ因子だ。魔王的行動力でジルケさんとは友達になれたと思っている。けど、その後のフォローは私のボッチとしての因子が強いんだろうとは思っている。
相反する二面性。ジルケさんはルドヴィカとしての私が好きなんだろうか。それとも私のボッチとしての立場が好きなんだろうか。
そんなことは流石に聞けないよね。ジルケさんも意味分からないだろうし。
「しかし、大陸大猪とやらは見当たらないな」
「……基本的に夜行性。昼間に出没することは稀。無駄足かも……」
「そういうものか」
地球のイノシシが夜行性だったかどうかは覚えてないけれど、ゴミ捨て場を荒らすイノシシなどの野生動物はほとんど暗視カメラで撮影されていた気がする。やはり害獣としても人の気配がすると畑でもゴミ捨て場でも荒らしにくいのだろう。
「しかし、昼間に出没する可能性が皆無というわけでもない。こういう時に魔物を使役していると便利なのだがな」
番犬ポチスライムとかがいたら、鳴き声で敵の接近を知らせてくれそうだが。
「……魔王だけど魔物の味方はいないの?」
「あいにくな。ポチスライムに忠誠の何たるかを教えても覚えていやしまい」
ポチスライムたちは野生を捨てて、人間に飼われるような連中だしな。
「……変なの」
「魔王とはこういうものだ、小娘」
ジルケさんが笑うのに私もちょっと笑った。
さて、お昼まで見張りをやったらお昼ご飯を食べて、午後に備えよう。
だが、真の切り札はエーレンフリート君だ。
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