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これで私も下賤な身か(冒険者登録完了です)

……………………


 ──これで私も下賤な身か(冒険者登録完了です)



 翌日。


 私たちは偽造された書類を手に冒険者ギルドを訪れた。


 朝一で来たのに受付カウンターにはもう行列が……。


 今日は金曜日で土日は冒険者ギルドは休みなので、今日を逃すと月曜日まで待たなければならない。というか、土曜日は午前中だけでも開けようよ、冒険者ギルド……。


「本日の受付を開始します」


 午前9時きっかりに受付カウンターが開き、受付嬢の“ベルティルデ・バウマイスター”さんが仕事を始めた。警備用ゴーレムが起動し、マジックタイプライターが駆動音を立てて起動する。


 警備ゴーレムはディアちゃんのヘルムート君やミーナちゃんのリーヌス君とは違って、ごつごつとしたいかにもなゴーレムだ。


 既に私たちの前列には6名の人物が。


 最悪、ひとり当たり2時間かかるとなると、間に合うのかどうか……。


「陛下。やはり蹴散らした方が」


「待つのだ、エーレンフリート。待つのも仕事のうちだと思え」


 私だって長々と待つのは嫌だよ。けど、待たなきゃ始まらない。


「次の方どうぞ」


 待つ、待つ、待つ。


 1時間、2時間、3時間が経過していく。


 待つのは辛い。でも、待たなければ。


「次の方どうぞ」


 6時間経つこと、ようやく私たちの番が回ってきた。


「必要な書類を持ってきたぞ。冒険者登録をせよ」


 私とエーレンフリート君は書類を差し出した。


「確かめさせていただきます」


 そう告げてベルティルデさんは真剣に書類を見つめ始めた。


 こっちは冷や汗ものである。何せ、偽造した書類なのだ。それがばれてしまってはどうなることか分かったものではない。最悪、自警団に通報されて逮捕ということもあり得る。あの偽造書類屋さんは自信満々だったけれど、どうなることやら。


「確認しました」


 オーケーでありますように。オーケーでありますように。


「冒険者カードを発行します。冒険者カードには有効期限がありますので、有効期限にお気をつけてご利用ください」


 おお。ついに私も冒険者に!


 冒険者ギルドのカードには氏名と生年月日が記されている。私はぴちぴちの15歳だ。


「それではこれからの冒険者ギルドでの活躍を期待しております」


 ベルティルデさんはそう告げて話を終わらせた。


「よし。では、早速依頼を受けるぞ、エーレンフリートよ」


「はっ。何を受けましょうか?」


「何にしたものかな」


 依頼の内容を見渡す。


 “大陸ニンジン50本納品お願いします!”


 “オオクサノオウ100本納品お願いします!”


 “お化け屋敷に本当に幽霊がいるのか確かめて!”


 ……明らかに武器を振り回してどうこうする私たちには向いていない依頼ばかりだ。最後の依頼に至っては、私たちのプライベートに干渉することである。


「自由依頼というものもあるようです、陛下」


「自由依頼?」


 エーレンフリート君が告げるのに私はそちらの方を見る。


「なになに。“特定の魔物の駆除で報酬あり”っと」


 ポチスライム──5ドゥカート。


 野良犬──15ドゥカート。


 ポチスライム山岳亜種──10ドゥカート。


 狼──30ドゥカート。


 その他、エトセトラ、エトセトラ。


「ほう。これはいいな」


 武器を振り回して、魔物を倒した数だけ報酬ゲット。


 これは私たちにぴったりの依頼だ!


「よし。これからはこの依頼を受けるぞ、エーレンフリートよ」


「畏まりました、陛下」


 今は取り急ぎ討伐してほしい魔物もいないようだし、この自由依頼で稼ぐとしよう!


……………………


……………………


 早速やってまいりました、ドーフェルの山!


「しかし、ルドヴィカもちゃんと冒険者になれたんだな」


「当たり前だ。この私を誰だと思っている。魔王ルドヴィカだぞ」


「いや。その魔王だから登録できたことに驚いているんだけどな」


 まあ、そうですよね。


 普通の魔王は冒険者に登録したりはしないだろう。というか普通の魔王って何するんだろう? わかんないや。


「今日は私たちでパーティー組んだんだから張り切っていきましょう!」


 そう告げるのはミーナちゃんだ。


 今日は私、エーレンフリート君、オットー君、ミーナちゃんでパーティーを組んでいる。エーレンフリート君は嫌そうな顔をしていたけれど土地勘のあるオットー君たちがいる方が心強い。私は方向音痴な故。


「で、今日の目的は?」


「ディアに頼まれて大陸ドクダミの採取。そっちは?」


 ミーナちゃんが尋ねるのにオットー君が私たちに尋ねる。


「自由依頼だ。適当に魔物を狩る」


「おお。チャレンジャーだね」


 私がそう告げるのに、ミーナちゃんがそう告げて返した。


「魔王って魔物の味方じゃないのか? 魔王が魔物を狩るっておかしくないか?」


「私に従わぬ魔物は部下ではないのでな」


 魔物が私に従ってくれるわけではないんですよと答えました。


「まあ、一緒に来てくれるなら心強いし、歓迎するぜ。ドーフェルの山でいいよな?」


「うむ。そうだな」


 というわけで私たちはドーフェルの山に向かう。


 オットー君は私たちがついて来てくれると心強いと言っていたが、私たちとしてもオットー君たちがついて来てくれるのは心強いのだ。何せ、私は病的なまでの方向音痴だからな。自慢じゃないけど、ひとりで森に入ったらドーフェルの森でも遭難する自信があるぞ。それぐらいには方向音痴だ。


「大陸ドクダミってドーフェルの山で採取できたっけ?」


「ああ。群生地がある。麓の付近と中腹の付近だ」


 ミーナちゃんとオットー君がそんな会話をしていたときだった。


 ドンという音が背後からして、私たちはびっくりして背後を振り返る。びっくりしたと言っても私の内心がびっくりしただけで、外面は平静そのものであったけれどね。


「ジルケ?」


 現れたのはジルケさんだった。


「……冒険者登録したの?」


「うむ。済ませてきたぞ。それがどうかしたのか?」


 ジルケさんが尋ねるのに、私がそう告げて返す。


「……パーティー、組んで」


「貴様とパーティーを組めというのか?」


 え? 私とパーティー組むの? と尋ねました。


「……うん。ダメ?」


「よかろう。ただし、私は私の歩みで進むぞ。付いてこれぬなら置いていく」


 私のペースでのんびり進みますけどいいですかと言いました。


「……構わない。一緒にパーティー組もう」


 というわけでジルケさんがパーティーに加わった。


「では、我々は成金の小娘たちと行動をともにしながら、手あたり次第に魔物を狩る。ポチスライムだろうと何だろうと生かして帰すな。鏖殺だ」


「……分かった」


 とりあえず、目についた魔物はやっつけましょうと言いました。しかし、妙な形で伝わった上に了解がとれてしまったぞ……。大丈夫なのか……。


「では、行くぞ」


「ルドヴィカ。山の麓はそっちじゃなくてこっちだ」


……………………


……………………


 ドーフェルの山の麓に到着。


 さて、ディアちゃんのポーションのためにもここは張り切っていくぞ。


「ワン!」


 早速ポチスライム山岳亜種が現れた。


「魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”」


「キューン!」


 私が物騒極まりない黒書武器を抜くのにポチスライム山岳亜種が逃げようとする。待て、私の10ドゥカート。大人しくここで討伐されるんだ。


「一刀両断」


 ジルケさんが逃げようとするポチスライム山岳亜種に回り込むと、ハルバードを振るって、ポチスライム山岳亜種を一掃する。


 流石はジルケさん。頼りになる!


「素材は採取しておけ。討伐の証になる」


「畏まりました」


 エーレンフリート君がぽいぽいとポチスライム山岳亜種の素材をバックに放り込んでいく。……エーレンフリート君のバッグもディアちゃんのバッグのように無限に物が入るのだろうか。謎だ。


「おっと。早速、大陸ドクダミ発見だ」


 オットー君たちの方は目的を達成しつつある。


「集めるのは大陸ドクダミだけか?」


「いや。ディアから集めた素材は錬金術に使えるものは全て買い取るって言われてるから、中腹までで集められる素材は集めるつもりだ。ただし、山頂にはいかない」


「何故だ?」


 ん。山頂に何かあったっけ。


「レッサーバシリスクがでるんだよ。奴の毒を食らうと大変なことになる。だから、ディアがレッサーバシリスクの毒の治療ポーションを作るまで冒険者ギルドはドーフェルの山の山頂への立ち入りを禁止している」


「ふむ」


 ディアちゃんのポーションが大活躍するチャンスだね。


 冒険者の人もこぞって買いに来るだろうし、ディアちゃんはポーション作りで修行になるし、いいこと尽くしだ。


 けど、オットー君に素材の調達を依頼しているということは、カサンドラ先生からもらった素材じゃ足りなかったのかな?


「あの錬金術師の女が渡した素材では足りなかったのか?」


「いや。カサンドラ先生の用意してくれた素材はまだ届いてないんだってさ。随分な量があるから運ぶのに時間がかかるらしい。4、5か月くらいはかかるっていってたかな」


 え? そんなにかかるの?


 ネット注文で2、3日後にはお届けだった私には理解できない物流の遅さだ。致命的に物流が遅い。これはいろいろと困るのでは……。


「役に立たんな」


「そういうなよ。あの人はディアの恩人なんだから」


「貴様らも慕っていたようだが?」


 そういえばカサンドラ先生とオットー君、ミーナちゃんってどういう関係なんだろ。


「カサンドラ先生には勉強を教わっていたからな。冒険者の修行を始めてからはポーションをサービスしてもらったりしてたし、俺の恩人でもある」


「あたしも勉強習ってたよ。それからあたしが冒険者をしていることをお父様に内緒にしてくれてて、あたしにポーションおまけしてくれたんだ」


 へえ。カサンドラ先生って本当にいい人だな。


「…………」


「…………」


 私たちがカサンドラ先生の話題で盛り上がっているのにジルケさんとエーレンフリート君が私たちの方をじっと見つめてきている。こういう時には意気投合するんだから。


「私にとっては貴様等が特別な者たちだぞエーレンフリート、ジルケ」


 機嫌を損ねてもらっても困るので持ち上げておこう。


「……ありがと」


「ありがたきお言葉」


 実際にジルケさんにエーレンフリート君は特別だ。


 ジルケさんはディアちゃんの次にできた友達で、私とだけ友達。ボッチ同士分かり合えるものがある。エーレンフリート君はいつも私の冒険について来てくれて、戦闘面では頼りになるイケメンだ。


 ふたりとも特別な存在です。


「では、引き続き魔物狩りだ。この魔王ルドヴィカに従わぬ者たちに鉄槌を」


 私がそう告げたとき狼が群れで現れた。しめしめ、30ドゥカートが群れを成してやってきたぞ。全部やっつけてしまおう。


 私は魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を構えて、横に薙ぎ払う。


 剣先から生じた波動が狼の群れを全滅させた!


「エーレンフリート。素材を回収せよ」


「はっ」


 ……なんかエーレンフリート君に悪いな。次は私が素材拾いやろう。


「結構いろいろと素材があるなあ」


「オットーは錬金術の素材分かるの?」


「ディアとカサンドラ先生とは長い付き合いだからな」


 私たちが狼の群れを薙ぎ払っている間にオットー君たちは素材採取。


「貴様ら。聞きたいことがあったのだが」


「なーに?」


 私が尋ねるのにミーナちゃんが振り返る。


「貴様ら、学校はどうなっている? どこで学問を学んでいるのだ?」


 疑問だったのはいつミーナちゃんたちが学校に行っているのかってこと。


 ディアちゃんも、ミーナちゃんも、オットー君もまだ学校に通っているべき年齢だ。大衆食堂のヘルマン君もだ。それなのに誰も学校に行っている様子を見せていない。


「学問なんて大それたものは学ばないぜ。文字の読み書きと計算を教会で教えてもらうだけだ。ディアみたいに錬金術師とか専門職に就くなら、カサンドラ先生みたいな人にいろいろと教えてもらうけどな」


「私は経済学と経営を学んでいるとこ。家庭教師の先生からね。マナーとかも覚えなきゃいけないし、やになって逃げだしてきてるってところもあるよ」


 そうだったのか。


 道理でみんな学校に行っている様子が見られなかったわけだ。


 けど、教育の大切さを知っている身としては改善──しなくてもいいか。私も学校に通わなければならなくなったりしたら大変である。魔王学校に通うとか完全に漫画やラノベの展開である。


「フン。貴様らのような下等な存在に教育など必要ないな」


「お前って本当に引っかかる言い方するよなあ。冒険者は剣を振るって、矢を放ってが仕事だぜ。学問なんて食べられる野草と薬草の見分け方だけで十分だ」


 ごめん。オットー君。そこまで勉強するべき環境でもないよねって言ったんです。


「陛下。そのような者たちに構わず、狩り続けましょう。このまま狩り尽くしてやろうではないですか。この付近の魔物たちの魂魄に陛下のl恐怖を刻んでやらねばなりません」


「そうだな。狩るぞ、エーレンフリート」


 というわけで私たちはハンティングを継続。


 ジルケさんがハルバードを振るい、エーレンフリート君がが魔剣“処刑者の女王(ブラッディ・メアリー)”を振るい、私が魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を振るう。狼もポチスライム山岳亜種もあっという間に全滅だ。


「そろそろ暗くなる。戻るか」


 午後4時頃に採取と狩りを終えて、ドーフェルに帰還。


 集めた魔物の素材は明日冒険者ギルドで換金しよう。


 ワクワク。いくらになるかな?


……………………

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