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お役所仕事か!(冒険者登録は大変です)

……………………


 ──お役所仕事か!(冒険者登録は大変です)



 冒険者ギルド・ドーフェル支部。


 何と言うか、酒場みたいな建物だ。


 西部劇に出てきて、ここで荒くれ者と保安官が撃ち合いする感じの。


 こ、ここにもやはり荒くれ者とかいるんだろうか。


 いや、今の私にはエーレンフリート君もいることだし、怯えることはない!


 いざ、冒険者ギルドへ!


 私は扉を開いて、中へと入る。


 さあ、荒くれ者よ。かかってこい!


 …………。


 何も襲い掛かってはこなかった。


 なんというか、市役所を連想させる。筆記台があって、そこで冒険者と思しき大人しい人々が一生懸命カリカリと筆を動かしている。ひとつしかない窓口にはそれなりの長さの列が。これは待たなければならなさそうだ。


 しかし、拍子抜けだな。もっとこう『お嬢ちゃんが冒険者なんてはえーぜ!』とか絡んでくる冒険者とかがいるイメージだったんだけど。みんな他人に構っている暇がないらしい。何と言うか本当に拍子抜け。


「エーレンフリート。あそこに並ぶぞ」


「あそこに並ぶのですか?」


 私が告げるのにエーレンフリートが怪訝そうな顔する。


「陛下を待たせるとは不届き千万。追い散らしてやりましょう」


「やめよ、エーレンフリート。法には従うと言っただろうが」


 エーレンフリート君、マジでやめてね!


「待つのもまた一興よ。待ってやろうではないか」


 というわけで待つ。


 しかし、オットー君とミーナちゃんに言われていたことがある。


「ここの受付は時間厳守で午前9時から午後5時までできっかり閉まるそうだ。それまでには何としても冒険者登録を終わらせなければならぬ。でなければ、また翌日に出直しだ。何度も来るというのも退屈な話であろう」


 冒険者ギルドは時間厳守。


 時間が過ぎたら即閉まる。受付中だったら応じてくれるけど、新規のは1分たりとて遅れるとダメになってしまうのです。


 というわけで何としても冒険者登録を時間までに!


「次の方」


 カウンターの方から酷く冷たい声が聞こえてくる。


「依頼達成だ。報酬をくれ」


「しばらくお待ちください」


 しばらく……。


「では、これを持って銀行へ、どうぞ」


「はあ。ありがとよ」


 2、2時間くらいかかった……。


 午前10時から並んでるから既に正午だ。


 お昼も食べずにならんでいなければならないとは……。


「次の方どうぞ」


「依頼を受けたい。この依頼だ」


「受注手続きが完了しました。では、どうぞ」


 ひとり。


「次の方どうぞ」


「冒険者登録をお願いします」


「書類に不備があります。登録はできません、またどうぞ」


 ふたり。


 3、4、5、6……。


「陛下。やはりここは切り払ってやりましょう!」


「落ち着け、エーレンフリート。我々の時間は悠久だ。急ぐ必要などない」


 とは言え、私も焦りが隠せなくなりつつある。


 今、午後4時。閉まるまで残り1時間しかない。


「次の方どうぞ」


「冒険者ギルドサイコー! 冒険者登録させてくれ」


「では、書類をどうぞ」


 ようやく私たちの前に人まで順番が回ってきた。


 い、今、午後4時30分。残り30分で前の人、終わるかなあ……。


「書類持ってきたぞ! やっぱ冒険者ギルドサイコー!」


 やけにテンションの高いおじいちゃんだな。


「コブラベルクなんて都市はありません」


「オーケー。この書類が気に入らないんだな。もっといいの持ってまた来る」


 お。あっさりと前の人が終わったぞ。


「次の方どうぞ」


 受付にいたのは黒髪に眼鏡の向こうに神経質そうな目をした女性だった。


「冒険者登録をしたい」


「では、書類をどうぞ」


 え? 書類?


「む。どのような書類が必要なのだ?」


「現在の身分を証明できる身分証明書と出生証明書です」


 ……やばい。


 私は現在の身分を証明しようがない。出生証明もしようがない。何といっても魔王なのだ。それに加えて私には100年前の人疑惑がかかっているのだ。


 エーレンフリート君もダメだ。吸血鬼の身分証明書なんてあるはずない。


「で、では、書類を揃えてまた来る」


「またどうぞ」


 ダメじゃん! 冒険者登録できないじゃん!


 冒険者登録がこれまで面倒な仕事だとは思わなかった。ゲームや小説だと一瞬で終わるからな。だけど、よくよく考えれば身分証明になるのも作るわけだし、これぐらいの書類はいるのかな。会員カードを作るときにも免許証とかいるしな。


 しかし、困った、困った。


 このままでは冒険者登録できないし、ディアちゃんのポーションも買い取れない。


 冒険者登録せずに勝手にやる?


 多分、ダメだろうな。依頼じゃないとお金は発生しないし、魔物の死体の山が積み重ねられるだけで終わりだ。そこから素材を採取して市場で売るとか? うーん。相場が分からないからいくらで売ったらいいのかも分からないしな。


 それに市場も市場でお店を開くための書類がいるだろうし!


 あー。どうしようー。


 九尾ちゃんに頼んで書類を偽造してもらう? いや、九尾ちゃんでも見たことのない書類は偽造のしようがないか。となると、本当に打てる手はなくなってくるぞ……。


「エーレンフリートよ。何かいい手はあるか。法に触れぬ方法で」


「はっ。法に触れぬとなると難しいですが、ばれなければ大丈夫という言葉もありますので、深夜に私が霧になって内部に忍び込み、冒険者登録を済ませてしまうというのはどうでしょうか? それぐらいしか、思い浮かびません」


「うむ。それも手のひとつだな」


 だが、冒険者ギルドが身分証明書などの写しを準備していたら偽造がばれる。


 やっぱり打つ手なしか。このままニートするしかないのかなあ……。


「お嬢ちゃん。困ってるのか?」


 そう話しかけてきたのは、さっき私たちの前の列にいたおじいちゃんだ。


「うむ。少し書類のことでな」


「それなら俺の知り合いにいい奴がいる」


 おっと。この話はギルドの受付嬢さんには聞かれない方がいいのでは?


 って、時間が来たためか、とっくに受け付けは閉まっていた。しめしめ。


「これやる。よろず屋グラバーの隣。行ってみろ」


 おじいちゃんはそう告げて私に1枚のチラシを手渡した。


「ふむふむ。“冒険者ギルドの書類なら!”」


 “どう見ても本物な”。“実際、登録が許可される”。“奥ゆかしい”。


 ……日本語が少し奇妙だ。


 “安全安心”。“目的不問”。“即発行”。


「これは本当なのだな?」


「本当、本当。行ってみるといい。このお店、いいところ」


 そう告げるとおじいちゃんは私からチラシを回収して去っていった。


「エーレンフリートよ。行ってみるか」


「はっ。陛下のお心のままに」


 というわけで、私たちは書類偽造のためによろず屋グラバーの隣にある店に行くことにした。思えば、あのおじいちゃん、冒険者登録を受付拒否されてた気がするんだけど、大丈夫なのかなあ……。


……………………


……………………


 やってきました路地裏。


 よろず屋グラバーの隣には確かに不審なお店が。


 よろず屋グラバーも大概怪しいお店なのだが、ここはさらに怪しい。看板は出てないし、陳列棚すらない。閉店しているお店に見えるだろう。


「エーレンフリート、行くぞ」


「はっ」


 私たちは決意を固めてお店の扉を開く。


「いらっしゃいませ」


 私たちが扉を潜ると暗闇から声がした。


 よくよく目を凝らすと、暗がりの中におじさんが立っている。


「貴様、冒険者ギルドの書類の偽造を引き受けているそうだな」


「はい。クエスト達成書類から身分証明書までなんでもござれです」


 私が尋ねるのに、そのおじさんは小さく笑ってそう告げる。


「ならば、身分証明書と出生証明書の偽造を頼もうか。ふたり分だ」


「はいはい。畏まりました。ですが、一応前金として5万ドゥカートをいただきますがよろしいですか?」


「いいだろう。エーレンフリート、渡してやれ」


 私が指示を出すのにエーレンフリート君が財布から5万ドゥカートを店主に渡す。


「それでは希望をお聞きしましょう。出生場所はどこがいいですか?」


「エスターライヒ共和国の首都にでもしておいてくれ」


「はいはい。エスターライヒ共和国首都ヴィーナと」


 店主ははいはいと言うように書類を作っていく。


「そっちのお兄さんは?」


「私の陛下と同じ場所にしろ」


 エーレンフリート君も同郷ということになったな。


「お名前は?」


「ルドヴィカ・マリア・フォン・エスターライヒ──いや、ルドヴィカ・ヴァイスとせよ。それでよいな」


 下手にエスターライヒなんて名乗ったら、疑われる。トラブルはごめんだ。


「訳ありのようですね」


「貴様が知る必要はない」


 深くは関わらないでと言いました。


「へえ、へえ。あたしらは書類を作るだけ。宣伝通りに目的不問です」


 そう告げると店主はカリカリと筆を走らせる。


「そっちのお兄さんは?」


「そうだな。エーレンフリート・ヴァイスとせよ」


 デア・フリートランデルなんて名乗ってたら、こっちも疑われる。


「異論はないな、エーレンフリート?」


「はっ。ありません、陛下」


 エーレンフリート君とは一族のようになってしまったが、まあ異論はないようだ。


「では、今書類をご準備しますので、しばらくお待ちを」


 カリカリカリカリと店主は書類を記し、ポンポンと印鑑を打つ。


「はい。出来上がりましたよ、お嬢さん、お兄さん。これで冒険者ギルドの受付を潜り抜けられること間違いなしね」


 なんだか怪しいなあ。本当に大丈夫なのかな。


「エーレンフリート」


「はっ」


 私が告げるのにエーレンフリート君が魔剣“処刑者の女王(ブラッディ・メアリー)”を抜き、その剣先を店主に対して向ける。


「ひ、ひいっ! 秘密厳守! 秘密厳守ですよ、うちは!」


「結構だ。我々のことについてひとつでも漏らしたら命はないと思え」


 秘密は守ってねと言いました。


「では、行くぞ、エーレンフリート。明日、出直しだ」


「畏まりました、陛下」


 というわけで、私たちは偽造書類を手に入れた。


 あわよくば、この書類がギルドの審査を通りますように……。


……………………

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