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せいぜい頑張ることだ(鍛錬の時間です)

……………………


 ──せいぜい頑張ることだ(鍛錬の時間です)



 錬金術師として訓練するべきことはなにか。


 錬成の成功率を上げるための修行である。


 多くの錬金術をこなしていき、錬成成功率を上げることこそ錬金術師の修行である。実際にどうやるかというと、正直数をこなす以外の方法はない。


 ないのだ。


 錬金術の修行と言っても滝で水に打たれたり、座禅をしたりして、錬成確率が上がるわけではない。ひたすらに錬成し続けることによって、錬成の確率は上がるのだ。


 他に方法はないのだ。


「さ、さ、さ、最近はいろいろとあって大きな仕事があったから、ノルマをこなせたかどうかは微妙なところかなーって」


「なるほど。それはミーナちゃんにゴーレムを作ってあげたりしたからかい?」


「そうそれ!」


 ディアちゃんがどやあとした表情で、ミーナちゃんの方を向く。


 対するミーナちゃんは気まずそうな表情をしている。


「ゴーレムが作れるとは大したものだね。ってことは基本的なポーションぐらいは余裕ってわけだろう。試してみてはくれないかな?」


「は、はい……」


 ディアちゃんは心底自信がなさそうだ。


 そういえばディアちゃんのお店に並んでるポーションって低級のばっかりだったし、基本的にお菓子ばっかりである。例外はゴーレムと装備品ぐらいだね。


 果たしてディアちゃんの錬金術レベルはどれくらい上がっているのだろうか。


「では、中級治癒ポーションを作ってもらおうかな。それぐらいはできるだろう?」


「じ、実を言うとレシピを知らなくて……」


 まだポーションのレシピは揃ってないんだね、ディアちゃん。


「レシピならここにある。素材もここにある」


 おおう。これで逃げ場がなくなってしまったぞ。


「できるね?」


 カサンドラ先生の笑顔が怖い。


「で、できます……」


 ディアちゃんが屈してしまった。


 しかし、大丈夫だろうか。中級治癒ポーションの錬成難易度はゴーレムに比べれば、それほどでもない。だが、ディアちゃんはどことなく自信なさげだ。


「じゃあ、早速始めてもらおうか」


「は、はい……」


 ディアちゃんはおずおずと調合室に向かっていった。


「下ごしらえはゴーレム──ヘルムート君に任せてもいいです?」


「それもディアの相棒だからね。思う存分頼るといいだろう。ただし、調合するのはディアだぞ。ゴーレムに調合はできないからね」


 ディアちゃんが尋ねるのに、カサンドラ先生はそう返した。


 よし。いいそ。ディアちゃん。ヘルムート君に下ごしらえを任せれば錬成確率は上がるからね。これでずっと楽になるはずだ。


「じゃあ、ヘルムート君。準備をお願い」


「了解しました」


 ディアちゃんが告げるのにヘルムート君がレシピ通りに下ごしらえしていく。


「よ、よし! いくぞっ!」


 ディアちゃんは気合を入れて、ヘルムート君の準備した素材を錬金窯に入れていく。


「ぐ、ぐーるーぐーるー!」


 心なしかぐーるーぐーるーにも気合が入っている。


 そしてぼふんと黒煙が──ああ、黒煙が……。


「で、できた?」


 できてない、できてない。


 出来上がったのは紫色をしたどろりとしたおかゆみたいなものである。僅かに離れているこちらまで塩素臭に似た刺激臭が漂ってくる。


「はあ。失敗だな」


 カサンドラ先生がポカリとディアちゃんの頭を叩いた。


「うう。いつもは成功するんだよー。今日だけ特別なんだよー」


「そうかもしれないけれど、いつでも錬成に成功できるようにならないと、いざというときに困るだろう。疫病が蔓延したときとか、魔物の襲撃で重傷者が出た時とかは『たまたま失敗した』という言い訳は通じないぞ」


 そう告げてカサンドラ先生はディアちゃんの頬を包む。


「しっかり修行しないとダメだよ。絶対に成功するようにならないとダメだ。最近はさぼっていたのだろう?」


「さぼってたわけじゃないんですよー。ただ、素材を集めるのに探索に向かったりしてて、そのせいでちょっと錬成する時間はなかったんですよ。街の市場も相変わらずですし、お店で手に入るものも限られますし」


「ふむ。そういうことか……」


 カサンドラ先生が考え込むように顎に手を乗せる。


「暫くは素材に困らないように私の有している素材を上げよう。それから暫くの間の活動資金も。その代わり暫くは修行に励むんだぞ? 分かったかい?」


 あー! このイベントだー!


 がっぽりと素材とお金が手に入るイベントのひとつ! ボーナスイベント!


 このイベントが思い出せなかったんだよな! これで運営が楽になるんだよ!


「うわーん! ありがとう、カサンドラ先生-!」


「こらこら。もう子供じゃないんだから」


 ディアちゃんが涙目でカサンドラ先生に抱き着くのに、カサンドラ先生がよしよしとディアちゃんの頭を撫でてやる。こうしていると本当に親子って感じだ。


「ディアとカサンドラ先生は本当に仲がいいよな」


「そだね。ちょっと妬けるぐらい」


 オットー君とミーナちゃんもディアちゃんたちを微笑ましく見守っている。


「しかし、修行をするのならば需要は必要であろう?」


 ここで私が発言。


「確かに売れないポーションを作っても仕方はないかな」


「では、出来たポーションは我々が買い取ろう。無論、他にそのポーションを買い取る人間がいなければ、であるがな」


 カサンドラ先生が告げるのに私がそう告げて返した。


「それはありがたいが……。君はポーションを商っているわけではないのだろう?」


「当たり前だ。ただ、いつか利用する価値があるやもしれぬし、貴様らは錬金術師として修業をするためのポーションを作らなければならない。だが、その在庫が完全に捌けるという保証もない。ならば、我が買い取ってやろうというのだ」


「……そちらのメリットは?」


「私は冒険者を始める」


 私がそう告げるのにオットー君とエーレンフリート君が愕然とした。


「へ、へ、陛下! 何も冒険者などという卑しい職業に就かれなされずとも!」


「卑しいってなんだよ、卑しいって! けど、あんた本気か?」


 エーレンフリート君が大慌てで尋ね、オットー君もまじまじと私を見る。


「本気だ。私の実力をこの街のならず者どもに見せつけておかなければな。それに、ただポーションを溜め込んでも仕方あるまい?」


 ポーションを消費するために冒険者やります! と言いました。


 うん。完全に目的と手段が逆転している感じすらあるよね。


 けど、別に目的は逆転してはいないのさ。


 私はお金を稼がなければならない。それも大金を。何故かというとこのドーフェル市を私にとって住み心地のいい街にするために!


 そのためにはお金は必要。だけれど、九尾ちゃん、イッセンさん、ベアトリスクさんは手に職のある人たちだけれど、私とエーレンフリート君は黒書武器をぶんぶん振りまわすぐらいしか能がない。


 ならば、ならばである。


 いっそ、黒書武器をぶんぶん振りまわしていても成り立つ、冒険者をやってみてはどうだろうかとね。私は考えたわけなのだよ。


 我ながらナイスアイディア。冒険者になれば自然とポーションも使うだろうし、お金も稼げる。街の周囲の魔物の討伐依頼を請け負っておけば、街の周辺の安全も確保できて、観光客がじゃんじゃんやってくるという寸法である。


 ポンコツの私にしては考えたプランだと思う。


「ルドヴィカちゃん。冒険者やるの?」


「ああ。力試しにな」


 この街のためだよと言いました。


「なら、私、頑張ってポーション作るね!」


「うむ。せいぜい励むがいいわ」


 頑張ってね! と言いました。


「し、しかし、陛下とあろう方が冒険者など……」


 エーレンフリート君は受け入れがたいようである。


 しかし、ここは納得してもらわなければ。


「エーレンフリートよ。私の決定が不服か?」


「い、いえ。そのようなことは。ですが、冒険者などとは……」


 冒険者ってそんなに蔑まれるような職業なの? なんだか反社会的勢力に加わるかのごとき扱いを受けているのだけれど。オットー君も冒険者なんだよね?


「そもそも貴様は何故冒険者にそこまで反対するのだ」


「冒険者なのですよ。この世界の最下層の職業であり、もっとも卑しい職業です。そんなものになるのはろくでなしと相場が決まっております。精神異常者や前科者、それか金銭的に問題を抱えている者、そういうものが冒険者になるのです」


 ……そこまで冒険者の扱いって酷かったっけ?


 オットー君も冒険者だし、ミーナちゃんも隠れて冒険者やってるし。そもそも私はエーレンフリート君の挙げた金銭的問題を抱えている者なんだよな。


「ちょっと、兄ちゃん! 何を滅茶苦茶言ってくれてるんだよ! 冒険者は誇り高い職業なんだぞ! それは危険だってあるし、依頼の報酬が割に合わなかったりするけれど、それでも冒険者だって立派な仕事なんだからな!」


「何を。騎士にもなれず、兵士にもなれず、その日暮らしの生活を送っているのが冒険者であろうが。不定期な収入しかなく、死んだり、怪我をしても、補償も何もない。貴様ら冒険者は所詮は権力者の都合のいい犬だ!」


「な、なんだとー!」


 ああ。エーレンフリート君が完全にオットー君に喧嘩を売っている……。


「でも、スリルはあって楽しいよ?」


 そこでミーナちゃんがそう告げた。


「そうだ。私が求めるのはスリルだ。この退屈な田舎町の暮らしには飽き飽きする。人生には刺激が必要である。冒険者が底辺? 結構。私はそのようなことは気にせぬ。この世界の覇者である私が何故そのような風評に煩わされなければならないというのだ」


 刺激が欲しいので冒険者やるんだよ、エーレンフリート君! と言いました。


「そうでありましたか。流石は陛下です。では、私めもお供させていただきます!」


 何が流石なのかよく分からないよ、エーレンフリート君。褒めるところがなかったら別に無理して褒めなくてもいいんだよ?


「では、早速冒険者ギルドに向かうとするか」


「あ。待って。冒険者登録っていろいろ書類いるよ?」


「何。問題はないだろう」


 ちゃんとこの街に引っ越せてきたのだ。そこら辺の書類はちゃんとしてるはず──。


……………………

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