能無しではないようだな(錬金術の師匠)
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──能無しではないようだな(錬金術の師匠)
私たちはピアポイントさんたちとともにドーフェルのダンジョンを出て、ドーフェルの街を目指して帰路に就いた。
すっかり暗くなりかけている。
「貴様らはどこで暮らす?」
「あのダンジョンを根城にしようかと。まずは街の周囲を視察しておきます」
ピアポイントさんが最初に敵対していたのが嘘のように忠実だ。
そのことに不満そうなのがエーレンフリート君である……。
どうも忠実な私の部下ポジションをピアポイントさんにとられつつあると思っているのか、露骨にピアポイントさんを睨んだり、私の背後のポジションを維持しようとしたりしている。もっと仲良くしてくれないかな。
「エーレンフリート。今のピアポイントは敵ではない」
「ですが、この者は陛下の命を狙ったのです」
「それはお前も同じであろう」
あれ? 私、なんか変なこと言っちゃったぞ?
「そ、それはそうですが……。このエーレンフリートめ、陛下に敗れ、それ以後は陛下のために忠誠を尽くすと誓いました。それを犬ころごときに……」
「犬ころとはなんだ、蝙蝠め。私も陛下の力を知って忠誠を誓った」
ほらー。喧嘩しないで―。
「そろそろお店につくよ。みんな、今日は疲れただろうからお茶でも飲んでいって!」
ディアちゃんだけが癒しです。
「あっ。鍵開けっ放しだ。誰も閉めてきてくれなかったの―?」
「いや。確かに出かける前に鍵は閉めたが」
ディアちゃんが扉を開いて告げるのにジークさんがそう告げる。
え? ジークさん、ディアちゃんのお店の合鍵持ってるの? ディアちゃんのお店はディアちゃんの自宅でもあるわけだし、もうそれは同棲しているのも同じでは? ジークさんとディアちゃんってそこまで進んでるの?
きゃー! 大人の関係だー!
「辺境の騎士、確かに鍵は閉めたのだろうな?」
「閉めた。……物音がする。警戒してくれ」
ロマンティックな雰囲気にはなりませんなー。
もう人狼は降伏しちゃってるし、危険はそこまでないと思うのだけれど、万が一という場合もあるし、ここは警戒していこう。
「我々が先行します」
「うむ。任せた」
ピアポイントさんが告げるのに私は彼に任せた。
「陛下! 私は、私は!?」
「貴様は私の傍に控えておれ。信頼しておるのだぞ?」
エーレンフリート君は子供じゃないんだから。
「はっ! 陛下の信頼にお応えします!」
この子はちょろすぎてちょっと心配になる……。悪い人に騙されそうな……。
「人間の女の臭いがします。錬金術師と思われますが」
「ふむ?」
ディアちゃんはここにいるしな。
「あー! 分かったー!」
ディアちゃんはそう告げるとお店の中に駆け込んだ。
「待て! 待たないか、この小娘! 中には危険があるやも──」
私が制止したのも虚しく、ディアちゃんはお店の中に飛び込み──。
「カサンドラ先生!」
私たちが追いかけてお店の中に入ると、そこには30代ほどの女性がいた。
濡れ羽色の髪をポニーテイルにして纏めており、褐色の肌にブラウンの瞳。そして、パンツスーツ姿のナイスな女性だ。
「わー! カサンドラ先生だー!」
「マジだ! お久しぶりです!」
ミーナちゃんとオットー君が相次いでお店に入っていく。
「やあ。久しぶりだね、皆。元気にしていたかい?」
ああ。この優し気な女性はカサンドラ先生だ。
ディアちゃんを孤児院から拾って、錬金術を教え、立派な錬金術師に育てた人。元宮廷錬金術師であり、元王立錬金術アカデミーの教授という立派な人。
今はちょっと早い引退をして、お店をディアちゃんに任せている。
「ディア。少し大きくなったかな?」
「えへへ。3センチ背が伸びたんですよ」
こうしていると本当に親子のようだ。
「でも、今日はお客さんが多いようだね」
そう告げてカサンドラ先生が私たちを見る。
「この街の騎士をしているジークフリート・フォン・シュタウフェンベルクです。お久しぶりになります、カサンドラ教授」
「カサンドラ教授はやめてくれないかな。もう私は王立錬金術アカデミーの教授じゃないんだ。引退した身だよ」
ジークさんが畏まって挨拶するのに、カサンドラ先生が苦笑いを浮かべた。
「ですが、終身教授のお立場であるかと」
「まあね。アカデミーからお呼びがかかれば王都に行かなきゃいけない身だ。今更、そんなことはないと思うが」
終身教授で滅茶苦茶偉い人だよね? 凄くない?
「ところで、そちらのお嬢さん方は?」
カサンドラ先生が私たちの方を見て、そう尋ねる。
「私はルドヴィカ・マリア・フォン・エスターライヒ。ディアの友にして、この世界に黄昏をもたらすものだ。この名前を魂魄に刻み込んでおくがよい」
ルドヴィカといいます。どうぞよろしくと言いました。
そして、私が名乗ったのと同時にエーレンフリート君たち四天王やピアポイントさんたちが一斉に跪く。き、気まずい……。
「エスターライヒ……? エスターライヒ王室の関係者かい?」
「貴様がそれを知る必要はない」
追及は勘弁してくださいと言いました。
「カサンドラ先生。ルドヴィカちゃんはね。まお──」
「ディアー!」
あぶねー! ディアちゃんが危うく私の正体を言いそうになるのをミーナちゃんがブロックした。思いっきり背中を叩いたせいで、ディアちゃんが涙目になってる。
「まお?」
「マ、マオって猫を飼ってるんだよ。黒い猫。幸運の猫だよ」
「そうかね」
この世界では黒猫は幸運の猫なのか。
実家にもいたなあ、黒猫。お腹がだいぶ出てて、鍵尻尾の。
「それはそうと、ディアの友達なら歓迎しないとね。上がってお茶でも飲んでいってはくれないかい。それに──」
カサンドラ先生の視線がディアちゃんに向けられる。
「どうしてこんな夜遅くまで大勢で出歩いていたかも聞きたいしね」
「ア、アハハ……」
ま、不味い。
ディアちゃんがここでカサンドラ先生に追及されてしまうと、私が魔王だということが自動的に判明する。そうしたら王立錬金術アカデミーの終身教授であるカサンドラ先生もローベルニア王国に報告する義務が生じるだろう。
私は助けを求めてエーレンフリート君を見る。
「陛下。始末しましょうか」
うん。君に期待した私が馬鹿だったね。君はちょっと素直すぎるよ。
ピアポイントさんもディアちゃん誘拐して狂人狼病治してもらいましたとは言えないし、黙り込んでいる。イッセンさんたちも様子見って感じだ。
ここはジークさんの機転に期待するしかない……!
「ルドヴィカ君たちは最近、ここに越してきたので、交友を深めるために少しばかり遠出を。予想外にピアポイントさんという方も越してこられて、思いがけず遅くなってしまいました。ご心配をおかけして申し訳ない」
流石はジークさん。これで疑われることはないはずだ。
「ふむ。まあ、そういう事情だったなら仕方ないね」
カサンドラ先生もジークさんを信頼しているのか疑うことなく受け入れてくれた。
そこでエーレンフリート君がジークさんを睨んでいる……。君は自分が役に立てなかった度に人に嫉妬しているのかね。もうちょっと心を広く持とうよ。
よし。エーレンフリート君にはこれから内面を磨いてもらおう。そうすれば、私にべたぼれのイケメンが出来上がるぞ。やったね!
……自分で言っておきながら凄い恥ずかしい。エーレンフリート君のことを異性として思うとどういうわけか恥ずかしくなる。
まあ、エーレンフリート君が内面もイケメンになっちゃったらそれはそれでがっかりだし、それにその時には別の女性に恋してるかもね。
私は所詮、目つきの悪くて、魔王弁の女だから。
「それじゃあ、夜も遅いし、引き留めるのも悪い。歓迎はまた今度、ケーキでも焼いて待ってるよ。ルドヴィカちゃんもディアのことをよろしくね」
「フン。言われるまでもない」
お任せあれと言いました。
というわけで、私たちはディアちゃんのお店から退去。
それぞれの帰路に就こうかという時、ミーナちゃんが私の手を引っ張った。
「何だ、小娘」
「その、ありがとう。ディアのこと助けに行ってくれて。なんだか感じの悪い奴だって思ってたけど、私の間違いだったみたい。あんた、いい人だよ」
ミーナちゃんはそう告げて恥ずかしそうに笑った。
「気にするな。私の戯れだ」
「素直じゃないな、本当に」
ミーナちゃんとはこれで仲直りできたのかな……?
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