ここが根城か(ドーフェルのダンジョン入り口はここです)
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──ここが根城か(ドーフェルのダンジョン入り口はここです)
北城門から歩くこと1時間。
「ここがドーフェルのダンジョンだ」
ようやくジークさんの案内でドーフェルのダンジョンに到達。
ぽっかりと開いた洞窟かと思いきや、人工的な構造物であることは分かる石造りの建造物が並んでいる。これが太古の文明が残したお化け石と同じ、太古の遺産なのだろう。
ちなみに、考古学的ななんとやらは作中では明らかにされません。
よくよく考えたら、こんな地層が積もることを想定して建物を建てるなんて普通はしないし、意味の分からない罠を仕掛ける意味も分からないし、中にいる魔物だけは罠を気にせずに暮らしていけるというところもおかしい。
つまり、あれだ。真剣に考えたら負けって奴。
ダンジョンはダンジョン。考古学的な意味はなし。
大体、地下墳墓とかシェルターとかならともかく、ただ穴掘って、そこに魔物と罠をぶち込みました! じゃ何がしたいのか意味不明すぎるよ。
というわけで考古学的なことは考えずともいい。
考えなければならないのはこれがただの洞窟ではなく、人為的に作られた構造物であるということ。そして、その中には罠がいっぱい仕掛けてあるぞということ。
某考古学者映画のようなお決まりのトラップが待ち構えているから心してかかろう。
「ダンジョンだな。俺に任せてくれよ。罠を見つけるのは得意なんだ」
「罠など適当に踏破すればいいではないか」
オットー君が張り切るのにエーレンフリート君が空気を読まずにダンジョンにひとりで突入していった。おいおい……。
「ちょっと待てよ、兄ちゃん! こういうところには入り口にも罠が……」
と、オットー君が言った矢先にダンジョンの天井から無数の槍が突き出してくる。
「邪魔をするな」
だが、エーレンフリート君はその槍を全て魔剣“処刑者の女王”で薙ぎ払って、無力化した。
何というパワープレイ。それを見ていたオットー君が気絶しかかっている。
「陛下。ここから先は私が先頭に立ちます」
「まあ、任せてやろう、エーレンフリートよ」
「ありがたき幸せ」
そういうわけでエーレンフリート君を先頭にして私たちはダンジョンを進む。
「待て、兄ちゃん! そこの板を踏むと……」
「邪魔だ」
明らかな罠である板を踏んだエーレンフリート君にオットー君が警告を出した瞬間、巨大な斧がエーレンフリート君に襲い掛かったが、エーレンフリート君はそれを粉砕。
「待て、兄ちゃん! そこの像を動かすと……」
「邪魔だ」
エーレンフリート君がうっかりと石像を動かしてしまった次の瞬間、エーレンフリート君めがけて何十本もの矢が飛来したが、エーレンフリート君は全て叩き落とした。
「ま、待て、兄ちゃん! そこの扉を開いたら……」
「邪魔をするな!」
エーレンフリート君が意味ありげな両開きの扉を開いたとき、扉の向こうから巨岩が転がってきたが、エーレンフリート君はそれを殴って粉砕した。
「……もうあの兄ちゃん、ひとりでいいんじゃないかな……」
エーレンフリート君のパワープレイを前にオットー君が落ち込んでしまった。
「小僧。気づいたか?」
「何にだよ?」
「ここには魔物がいない」
オットー君も可哀そうなのではあるが、私もひとつ気づいた。
ここには魔物が出没しないのだ。
ダンジョンの中ともなれば、魔物が山ほどいるはずだ。それが1体もいない。
「確かに……。妙だな。ダンジョンだってのに静かすぎる」
私の言葉にオットー君が頷いた。
「辺境の騎士。ここの調査はしたのか?」
私はジークさんにそう尋ねる。
「調査はした。先ほど遭遇したようなグリフォンや大ムカデが出没するとの情報を得ていた。だが、それが見当たらないな」
「どうやら奴らは生存競争に負けたらしい」
ドーフェルのダンジョンに出没する魔物は先ほどのグリフォンや大ムカデ、そして人狼だ。人狼がここを私たちとの会合地点に指定した点も納得できる。
だが、どうやら人狼たちは他の魔物たちを追い出して、ここを自分たちの根城に変えてしまったらしい。どうりで先ほどはあれだけの魔物による歓迎を受けたわけだ。
「この調子ならば人狼たちを殺し尽くせば、ダンジョンを無力化できるな」
人狼たちに帰ってもらえば、ダンジョンを危険視しなくて済むねと言いました。
「そうであるといいのだが」
「私の言葉を疑うのか?」
ジークさん、他に何か心配なことがあるんですか? と尋ねました。
「ダンジョンの魔物はダンジョンコアを破壊しなければ永遠に湧き出すという。それを持ち帰れるかどうかにかかっているのだと思う」
ダンジョンコアか。
確かにそれを破壊した記憶はある。
しかし、人狼たちが待ち構えているダンジョンでその最深部に眠っているというダンジョンコアを破壊したりできるのだろうか。そこはかとなく疑問だ。
とは言え。
私は周囲を見渡す。
ミーナちゃんが緊張した面持ちで杖を構え、オットー君はいつでも矢をつがえられるようにしている。ジークさんとジルケさんもそれぞれ武器を構えている。
それに対して私の四天王は武器は収めたまま、余裕たっぷりで前進している。
私自身も魔剣“黄昏の大剣”は収めたままだ。正直、魔剣“黄昏の大剣”は大きすぎてあちこちに引っかかるので邪魔。
つまり9名中5名が余裕。
エーレンフリート君も武器を抜いてはいるけれど、罠を壊して回っているだけだ。
……これは最深部に乗り込んで、ダンジョンコアゲットできちゃうんじゃ……。
そして、そうなるとますますゲームの進行がカオスに……。
「陛下。どうやらこの先に人狼どもがいるようです」
エーレンフリート君が扉の前でそう告げる。
「面白い。武器を構えろ、諸君。盛大に歓迎してもらおう」
警戒していこうねと言いました。
「それでは」
エーレンフリート君が扉を蹴り破る。
「き、貴様ら、魔王ルドヴィカと四天王か!」
確かに人狼がいた。
しかし、2名。
あれ? もっといっぱいいなかったっけ?
「どうした。戦わないのか?」
「ピアポイント様から案内するように言われている。こっちだ。罠だと思うならついてこなくてもいいが、どのみち行きつく先は同じだぞ」
戦わないの? と尋ねると人狼はそう告げて武器を置き、私たちに手を振った。
「どうなさいますか、陛下?」
「面白い。私を招き入れようというのならば、招かれてやる。興味があることだしな」
戦わなくて済むならそれがいいですと言いました。
「こっちだ」
人狼たちはダンジョンの奥へと私たちを案内する。
……あっさり信じちゃったけど、本当はこれって罠なんじゃ……。ダンジョンの奥底にはやばい魔物がいて、それに襲わせるとか、罠が発動して落とし穴とかで奈落の底に真っ逆さまとか、人狼の大群に囲まれるとか……。
いやいや。今更疑うのはやめよう。ここは信頼の心で……。
と、思いながらもさりげなくエーレンフリート君を先頭に立たせ、オットー君とミーナちゃんは後方に下げておく。何かあっても一番に罠にかかるのはエーレンフリート君だから安心だな。……ごめん、エーレンフリート君。
私たちがドーフェルのダンジョンの奥を進むこと20分。
開けた空間に出た。
ここはあれだ。ボス部屋だ!
「来たな、魔王ルドヴィカ」
そして、私たちを迎える人物──ならぬ人狼が。
「貴様、名を名乗れ」
お名前は? と尋ねました。
「“白銀の人狼”。ピアポイント。真魔王四天王の一角だ」
ああ。やっぱり探索マップボスだ。
しかし、真魔王四天王ってエーレンフリート君が言っていた奴かな?
「貴様もディオクレティアヌス程度の相手か? ならば、戦う価値もない。失せろ」
お仲間を倒しちゃってごめんなさいと言いました。
「何を。ディオクレティアヌスなど我々の中では一番の小物だ」
なにそのテンプレ的なセリフ。
「それよりもディアはどうしたのよ、ディアは!」
そこでミーナちゃんが声を上げる。
そうだよ。ここまで来たのはディアちゃんを助けるためだよ。ディアちゃんはどこ?
「安心しろ。あの者に危害は加えていない。むしろ、あの者には感謝している」
「感謝だと?」
「そうだ。あの者は我らが一族を襲っていた病を癒してくれた」
ピアポイントさんはそう告げると、ついてこいというように私たちに手招きする。
その先で見えた光景は──。
「あなた! すっかりよくなったのね!」
「ああ。嘘のように頭がすっきりする。生まれ変わったようだ」
抱き合う人狼の夫婦。
「お母さん、お父さん! もう痛くないよ!」
「よかったなあ。よかったなあ!」
喜び合う一家。
「はい。口を開けて。甘いですから安心して飲んでくださいね」
人狼たちの開けている口に、ポーションを流し込んでいくディアちゃん。
……なにこれ?
「我らが一族は狂人狼病という病に襲われていた。全身が鋭い痛みに襲われ、やがて正気を失ってしまう病だ。我々にはそれを治すすべがなかった。我々人狼には錬金術師というものが存在しないのだ」
私が疑問に感じていることに気づいたのかピアポイントさんが語り出す。
「だが、あの錬金術師は狂人狼病の治し方を知っていた。ポーションを持っていたのだ。狂人狼病に有効なポーションを」
え? ディアちゃん、いつの間にそんなレシピ買ってたの?
「あ。ルドヴィカちゃーん! ジークさんたちにミーナちゃんたちもー!」
ディアちゃんが私たちに気づいて手を振ってくる。
「貴様、いつの間に人狼の病を治療するレシピなど有したか?」
「ルドヴィカちゃんが前にくれたレシピでポーション作ってみたんだよ。そしたら、人狼の長老さんがこれは狂人狼病に効くポーションだって匂いで分かったの。世の中、どんな風に動くのか分からないものだよね」
ディアちゃんはうんうんと頷いている。
ああ。あの時の行商人から買ったポーションのレシピか!
何が万病に効くエリクサーのレシピだよ! 人間じゃなくて人狼用じゃん!
だが、普通ならまるで価値のなかったポーションもこうして役に立ったわけだ。本当に世の中どうなるのか分からないものだな。
「これであの錬金術師の安全は確認できたな」
「ああ。やるつもりか?」
「そうでなければ面白くあるまい」
ええー……。ここまで友好的なのにやるの? って尋ねました。
「いいだろう。全力で屠ってくれる。だが、貴様が私に恭順を誓うのであれば、生かしておいてやってもいいのだぞ?」
「私には魔王になるという野望がある。その野心のために戦わせてもらう」
どうにかして戦闘は避けられませんかねと尋ねたんですが……。
「そこまで言うのならば」
やりたきゃやってやるよ! と逆切れしました。
「魔剣“黄昏の大剣”」
私は作中最強の黒書武器である魔剣“黄昏の大剣”を抜く。
「魔槍“世界樹の枝”」
ピアポイントさんが取り出したのも黒書武器。
やはりというかドーフェルのダンジョンの探索マップボス“白銀の人狼”がドロップする魔槍“世界樹の枝”だ。
あれも攻撃力はかなり高かったはず。油断はできない。
「行くぞ!」
ピアポイントさんが一気に加速して私に迫る。
「温い」
私は間一髪で魔槍“世界樹の枝”を受け止める。
あぶねー! 危うく串刺しにされるところだった。
「まだまだっ!」
ピアポイントさんは私に連続攻撃を仕掛けてくる。
「温い。温すぎるぞ、ピアポイント。その程度か?」
お願いだから魔王弁の私は挑発するのをやめて。そんな余裕ないから!
「その割には攻撃が見えてこないようだが、魔王ルドヴィカ。貴様こそその程度か」
こっちはそっちの攻撃を受け流すだけで手一杯だよ!
「加速」
こうなれば私も速度で応じるしかない!
一気に私が加速し、ピアポイントさんの動きが相対的に遅く感じられる。
ピアポイントさんの繰り出してきた魔槍“世界樹の枝”を私は横に飛びずさって回避すると、その魔槍“世界樹の枝”に向けて思いっきり打撃を繰り出した。
「ぐうっ……!」
私の狙い通り、ピアポイントさんの手から魔槍“世界樹の枝”が弾き飛ばされ、それが地面に転がる。私はそのままダッシュで魔槍“世界樹の枝”の下まで走り、それを足で押さえる。
「どうやらここまでのようだな、ピアポイント?」
武器を失くしたらもう戦えないだろう!
「まだだ。まだ爪と牙がある。そして、人狼としてのプライドがある!」
「ほう。そのプライドとやらは同胞たちを放り出してもいいというものか?」
あなたが死んじゃったら人狼の人たちどうなるんです! と言いました。
「それは……」
「大人しく私に跪け。そうすれば貴様と貴様の一族の命運を保証してやる」
仲間になってくれたら危害は加えませんよと言いました。
「それしか道はないのか」
「ないな」
これ以上戦うのはやめましょうと言いました。
「分かった。降伏する。ただし、一族の者の命は本当に保障してくれるのだな?」
「無駄な殺戮などせぬ。私はそれほど暇ではない。だが、ただ飯食らいを養っておくのもなんだな。貴様らもドーフェルの発展に寄与せよ」
せっかくだから一緒にドーフェルの街を盛り上げません? と言いました。
「何をすればいい」
「あの街の自警団は貴様らも知っただろうが、まるで役に立たん。貴様らが自警団の代わりに街の周囲と街の中を警備しろ。人狼の臭いがするならばポチスライムのような頭の悪い魔物でも近づきはしまい」
自警団を手伝ってくださいと言いました。
本当に今回の件では自警団は全く役に立ってない!
九尾ちゃんたちの話によれば、街中で派手に暴れまわっても自警団が出動した気配はなく、あっさりとディアちゃんを攫われたらしい。自警団はいったいなにをしてたんだい。街の外でも揉め事が起きていても、出動しないし!
……まあ、自警団のおじさんたちが出動しても犠牲者が増えただけかな……。おじさんしかいないもんね、自警団。
というわけで、人狼の皆さんに自警団の代わりをやってもらおう。
観光地は治安が大事。
物価が安いことや、観光名所があることも求められるけれど、やっぱり治安が悪いと観光客は来てくれない。
最近ではちょっと街がにぎわい始めただけで、行商人の振りをしたならず者や大衆食堂に出没したようなならず者が現れるのだ。これから街が発展していけば、もっと多くの治安問題に悩まされることだろう。
これもゲームがリアルになったからだね。リアルという名の悪意。
これを解決して、さらには街の周辺の魔物も追い払って、街を観光地にしていこうではないですか。きっと成功するぞ!
「では、これより我らが人狼の一族は魔王ルドヴィカに忠誠を誓う」
「よろしい。その忠誠には報いよう」
頑張ってくれたら甘いものとかサービスするよと言いました。
「さて、では地上に戻るとするか。その前にこのダンジョンのダンジョンコアを破壊しなければならなかったな」
「それならばここに」
私が告げるのに、ピアポイントさんがすっと黄金色に輝く宝石を取り出した。
これがダンジョンコアか。魔物を生み出すもののわりに綺麗なものだなあ。
「破壊しても構わぬのか?」
「はっ。人狼の一族はダンジョンコアによらず家族を作り子を育みます故」
つまりあの気持ち悪い大ムカデとかだけ消えてくれるわけか。便利!
「では」
私はダンジョンコアをピアポイントさんから受け取ると感触を確かめるために握ってみた。すると、バリンという音が……。
「砕けたな」
「砕けましたね」
ちょっと握ったつもりが、ダンジョンコアはバラバラになっていた……。
「錬金術師の小娘。これは何かに使えるのか?」
「うーん。多分、何かに使えると思うよ?」
ダンジョンコアって何かの錬成に使った気がするけど思い出せない。
「なら、貴様にくれてやる」
私はそう告げて砕けたダンジョンコアをディアちゃんに手渡した。
「それでは帰るぞ。もうここに用はない」
「魔王ルドヴィカ陛下。出口はそちらではなく、こちらです」
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