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滅ぼせばよかろう(町興しって難しい)

……………………


 ──滅ぼせばよかろう(町興しって難しい)



「けど、あなたたちって何か町興しでできそうなことってあるの?」


「愚問だな、小娘。我々がいるならば他の街を全て滅ぼし、この街に富を集めることもできる。要はこの街が栄えさえすればよいのだろう?」


「うわっ。何という悪魔的発想」


 ミーナちゃんが尋ねるのにエーレンフリート君が自信満々にそう答えた。


「エーレンフリートよ。私は運命の時──世界が黄昏を迎えるときまでは、この国の茶番に付き合ってやると先ほど約束したのだ。そのような手段は使えぬ。確かにそうするのが手っ取り早かろうがな」


「申し訳ありません、陛下。ですが、我々は何をすれば?」


「私に考えがある。聞くがいい」


 法律には従おうね、エーレンフリート君と言いました。


「ベアトリスク。貴様は被服について才覚を有していたな。それを発揮せよ」


「あら。私は陛下専属のコーディネーターでありますわよ?」


「構わぬ。この無能どもでは街を振興するなどできはしまい。手伝ってやれ」


「畏まりました、我らが主」


 ベアトリスクさんに被服の才能があると知ったのは、彼女が私のドレスを作っているという設定を知っていたからだ。公式設定か、二次創作設定なのかは曖昧なのだが、今日の会話を聞いた限りだと私が纏っているこのドレスや他のドレスはベアトリスクさんが作っていると考えて間違いない。


 ベアトリスクさんとは出発する前にいろいろとコーディネートしてもらって、その時に『新しいドレスをお作りしておきますね』ということを言っていたのだ。


 ちなみに、私のドレス。フリルいっぱいながら上品で、豪華ながら清楚な印象を与えてくれる。怪しいお店の従業員染みた格好していたベアトリスクさんだが、被服に関するセンスはいいと思うね。お嬢様であるミーナちゃんにも負けてないよ。ドレスだけは。


「九尾、イッセン。貴様らも何かできるだろう」


 私は九尾ちゃんたちも特技あるって尋ねました。


「妾は料理が得意ですのじゃ。稲荷寿司にきつねうどん。なんでもござれでありますの。お任せいただければその寂れた食堂とらやらを盛り立てて御覧に入れますのじゃ」


「……鍛冶については心得があります」


 九尾ちゃんは料理、得意なんだ。しかし、メニューのラインナップがザ・狐耳少女って感じだな。私も好きだけど稲荷寿司にきつねうどん。


 それからイッセンさんは鍛冶ができるのか。いい具合に役割が分かれてるね。


「エーレンフリート。貴様は私とともにいろ。傍に控えているがいい」


「はっ。そのご信頼、必ずお応えいたします」


 エーレンフリート君は私と一緒にいることを信頼の証だと思ってるみたいだけど、実を言うと逆なんだ。君は私が見張っておかないと何するか分からないから傍にいてほしいんだ。君、ジークさんにまで武器を抜いてるからね?


 エーレンフリート君は黒髪のイケメンなんだし、看板娘ならぬ看板青年として客引きにでもなんにでも使えそうなんだけど。この子、すぐ『下等な人間どもめが!』とかいうから接客業は絶対に無理。


 それにエーレンフリート君にはちょっと私とやってほしいことがある。


「なあ、もういっそこの街には魔王がいますってのを売りにしたらどうだ?」


「ダメ。それだとルドヴィカちゃんが危ない目に遭うでしょ」


 オットー君が呆れたように告げるのにディアちゃんがそう返した。


 そうそう、魔王いますなんて広告出したら、それは観光地にはなるだろうけれど、魔王を倒して一旗揚げようという人たちが集まってきてしまう。


「私は何人の挑戦も恐れぬつもりだ。何人たりとも私には敵わぬ。だが、あまり死体の山を積み重なっても貴様らはあまりいい気分はしまい」


 戦闘になるといろいろと困るから勘弁してくださいと言いました。


「このことを知っておくのはここにいる人間だけにしよう。他言無用だ。いいな、クラウディア君、オットー君、ヘルミーナ君」


「了解!」


 ジークさんがどう受け取ったのは分からないけれど、とりあえず私の正体が出回る可能性は低くなった。これで一安心?


「では、ヘルミーナと言ったな。我が配下のものたちに適切な場を用意せよ。さすらば、私の気まぐれでこの街を盛り立ててやる。だが、私が満足しなければそれで終いだ。心せよ。貴様らは施しを受ける立場なのだと」


 ヘルミーナさん、私の仲間の人たちが働けるように手配をお願いします。なるべく問題の起きない職場がいいですと言いました。


「任せといて! いやあ、服飾職人さんに、料理人さんに、鍛冶職人さんが一挙に手に入るなんて、この街の産業も活性化してきそうだね!」


「これでちょっとはドーフェルにも人が増えてくれるといいんだけどな」


 ミーナちゃんがガッツポーズで応え、オットー君が愚痴るようにそう告げる。


 何というか、ここの人たちが心の広い人たちでよかった。私の言ってる偉そうなことの半分くらいは流してもらえていている。まあ、あのゲームは和気あいあいとした雰囲気のゲームだったから、登場人物の心も広いのかな?


「んじゃ、あたしは早速準備にかかるね。明日には準備できると思うけど、あの幽霊屋敷に知らせに行ったらいいかな?」


「ああ。貴様の知らせを待っておいてやろう」


 お返事、期待して待っていますと言いました。


「俺もそろそろ行かないとな。ディアに頼まれてたオオクサノオウの花がまだ十分に集まってないし。全部揃ってから渡すってことでいいよな?」


「うん。急いでないからそれでいいよ」


 オットー君はこの付近の森に詳しく、魔獣の生息地域や薬草の場所などを把握しているという設定だったはずだ。オットー君に頼んでおくと素材が数日で届く。レア素材だと自分で探しに行くことになるけれど、普通の素材はオットー君に頼って大丈夫。


「私も見回りがあるのでそろそろ失礼するが……」


 そこでジークさんがエーレンフリート君たちを見る。


「クラウディア君。君をここに残して大丈夫か?」


 まあ、それは心配になるよね。


 魔王を名乗る人間に、黒書武器を振り回すような危ないのが4名とあっては、ジークさんも安心して見回りに出かけられないだろう。


「案ずるな。害は加えぬ。法という名のままごとには付き合ってやると約束しただろう? それとも私を疑うか、辺境の騎士」


 心配しなくてもディアちゃんには何もしませんよと言いました。


「その言葉、信じせてもらおう。これから長い付き合いになる。信頼関係が大事になってくるだろう。では、また会おう」


 ジークさんはそう告げると出ていった。


 残ったのはディアちゃんと私たち。


「エーレンフリート。ベアトリスク。九尾。イッセン。貴様らは先に帰っておけ。私はこの錬金術師と一対一で話したい」


「ですが、陛下。今は魔王の座を狙う者たちもいます」


「私がそこらの雑魚に後れを取るように見えるか?」


 心配しなくとも大丈夫だよと言いました。


 でも、エーレンフリート君には待っておいてもらった方がよかったかも……。私を狙って魔物が集まっているなら、このドーフェルの街もどれだけ安全か分からないしなあ。かといって、エーレンフリート君を待たせておくと何をするか分からないという。


 私って魔王だし、いざとなったら戦えるはずだ!


 多分……。


「分かりました。それでは失礼させていただきます」


 エーレンフリート君は丁重に礼をすると、ディアちゃんを少し睨み、それから九尾ちゃんたちを連れてお店から出ていった。


「あの、お話って?」


「私は言ったな。貴様の中に光を感じると。朝日のような光だ。私の望む黄昏とは相反するものだ。だが、その力が必要にされるときがあるとしたら、どうする?」


 ディアちゃんって他の人にはない特別な力を持ってるけどこれからどんな風にしていくつもりなのかな? と尋ねました。


「うーん。私ってやっぱり特別なのかな?」


「凡人どもの目は騙されるだろうが、貴様は特別だ。闇を切り裂く光を有している。私を前にしては太陽であろうと跪くであろうが、貴様は抗うかもしれぬ。どのような闇よりも暗く、どのような悪夢より残忍な私の力に貴様は抗うかもしれぬのだ」


 特別だよ。魔王の私だって倒せるぐらい! って言いました。


「へっぽこ錬金術師なのに?」


「優れた人間は歩み続ける。止まることをしない。貴様は愚鈍で、怠惰な人間か? そうであるならば私の思い過ごしだったようだな」


 これから成長していくから大丈夫と言いました。


「そうだよね。人間は成長するものだよね。実を言うとカサンドラ先生──あっ、これは私のお師匠様でこの店の主だった人ね──も私には錬金術の才能があるんじゃないかって。カサンドラ先生は元宮廷錬金術師で、王立錬金術アカデミーの教授でもあった人なんだよ。そんな人が特別だって言ってくれているから、そうかもとか思ってたんだけど」


「肩書を振りかざす人間に碌な者はいない。実力が伴わねばな。貴様の才能を見抜いたのだから、そのカサンドラとやらには実力があるのだろう。せいぜい頑張って、その期待に沿うことだな。師の機嫌を損ねたくはないだろう?」


 カサンドラ先生凄いよね。だから、その期待に応えて頑張ってと言いました。


 実際にカサンドラ先生は凄い人なのだ。齢16歳で宮廷錬金術師になり、それから王立錬金術アカデミーで教壇に立ち、この世界の錬金術を30年は未来に推し進めたと言われるほどの天才的な人物なのである。


 で、そのカサンドラ先生はディアちゃんの義理の母親でもある。ディアちゃんは母親も父親も分からない孤児院の育ちという泣ける立場だったのだ。


 そしてオープニングシーンで孤児院を訪れたカサンドラ先生がディアちゃんに錬金術の才能を見出し、弟子にして育てて、自分が宮廷錬金術師を辞めてから商っていた錬金術店を引き継がせるところから物語は始まる。


 ディアちゃんが凄いのはそのカサンドラ先生でも成功させられなかった賢者の石を錬成できるところ。邪神討伐にはその賢者の石が必要なのだ。


 だから、ディアちゃんは特別な存在なのです。


「でも、正直、自分が特別だなんて思えないんだよね。それは特別になるために努力はしているよ? けど、私はカサンドラ先生みたいな天才でもないし、並外れた力があるわけでもないし。ルドヴィカちゃんが言うような特別じゃないと思うよ」


「自分を卑下するのはやめろ。この私が断言するのだ。貴様には闇を引き裂く力があるのだと。まだこの店を始めてどれくらいだ? せいぜい数週間だろう。カサンドラとやらに拾ってもらってからも数年程度のはずだ。それぐらいで自分の価値を判断するな」


 まだまだこれからだから頑張ってて言おうとしました。


「貴様は光を持っている。これから蘇るだろう漆黒にして混沌の邪神ウムル・アト=タウィルをその光によりて倒すのは貴様だ。我が予言を信じるか?」


「う、うにゅる・あとあと?」


 うん。言いにくいよねこの邪神の名前。クトゥルフ神話から取ったらしいけれど、別にグロテスクな代物でもない。ヴェールを被った巨人として姿を見せることになっていて、これを放置すると世界が滅びるとか。


 これを倒すのは物語の最終目的──となっているんだけど、ラスボスは私、魔王ルドヴィカなんだよね。邪神さんは噛ませ犬だろうか。


「でも、私、ポチスライムすら倒せないよ?」


「戯け。それは錬金術の力を使っていないからだろう。貴様は錬金術師だぞ。錬金術で錬成したものを使って戦うのが錬金術師だぞ」


「ケーキで戦うの!?」


「貴様は馬鹿か?」


 違うよ、ディアちゃん! 錬金術には戦闘に向いたものもあるから!


「轟雷をもたらすもの──樽爆弾のレシピは持っていないのか?」


「あれ? そんなの作れるの? けど、ちょっと物騒だね」


「魔王と対等に会話ができているのに爆弾ごときに怯えるでない、この愚か者め」


 このディアちゃんはお菓子系レシピばっかり揃えちゃったんだろうな。後々、レア素材をゲットするのに遠征したりしないといけなくなると、戦わなきゃいけないし、けどディアちゃんの細腕では剣は振りまわせない。


 そこで爆弾です!


 基本は樽爆弾。それから高性能樽爆弾に進化し、さらには超高性能樽爆弾になったり、小型樽爆弾になったりする。錬金術系のゲームで錬金術師が使う武器と言ったら、やっぱり爆弾だよね。ザ・錬金術って感じがする。


「今からレシピを買いに行くぞ。支度をしろ」


「了解! なんだかルドヴィカちゃんってカサンドラ先生みたい」


 そう告げてディアちゃんがはにかむように笑った。


「下らぬことを言うな。私は魔王ルドヴィカ。黄昏をもたらす者。ちょっとばかり秀でたぐらいの凡人と一緒にするでない」


 カサンドラ先生はもっと立派な人だよって言ったんです。


「それじゃ、レシピがあるのは商店街かな?」


「ああ。心当たりがある。この魔王ルドヴィカは全てを見通している」


 場所は知っている。けど、本屋さんじゃないんだ。


……………………

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