そんなもので喜ぶな(新装備が完成しました)
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──そんなもので喜ぶな(新装備が完成しました)
私はエーレンフリート君とジルケさんとともにディアちゃんのお店を訪れた。
予定ならばディアちゃんが新装備の錬成に成功しているはずなのだが。
「あ、いらっしゃい、ルドヴィカちゃん! それにジルケさんにエーレンフリートさんも! ジルケさんはもう怪我は大丈夫なんですか?」
私たちがお店に入るとディアちゃんが歓迎してくれた。
「……治った」
「そっか! それはよかったです!」
ジルケさん。本当に私以外だとあまりしゃべらないな……。
「それはそうと装備はちゃんと錬成できたのだろうな?」
「ばっちりだよ。今、ミーナちゃんたちが受け取りに来るところ」
ディアちゃんがそんなことを告げた時、扉の開く音がした。
「ちわー。ディア、何か渡したいものがあるんだって?」
「げっ。ルドヴィカがいるじゃん」
オットー君が尋ね、ミーナちゃんは私の方を見て嫌そうな表情を浮かべた。オットー君は軽装装備のいつもの恰好で、ミーナちゃんは午前中のドレス姿からいつもの動きやすい服装へと着替えている。
「何か不都合でもあるのか?」
「別にー。誰かさんのせいであたしの考えてた計画がぽしゃっただけだし」
滅茶苦茶根に持たれている……。
けど、本当に観光で町興しした方が確実だから。ブランド作りはミーナちゃんが考えているほど簡単にはいかないって。
「フン。私に敗北したのがそれほどまでに悔しいか。品格も才能もない下等な者にはさぞ悔しいことだろう。だが、私のやることに間違いはない。貴様の提案は失敗する。そして、私の提案は成功する。それだけの話だ」
観光案もなかなかいいものだよと言いました! 言いました!
何なの! 仲直りがしたいのに魔王弁のせいで余計に和解から遠ざかってるじゃん!
「むう。好きに言ってればいいし。あんたの案が失敗したら、損するのはあんたじゃなくてあたしたちなんだからね」
ミーナちゃんがそう告げてそっぽを向いてしまった……。
これって仲直りとかできるのかなあ。滅茶苦茶嫌われてしまっているぞ。私って人に存在を認識されないことには慣れてたけれど、人と喧嘩したことって経験ないんだよね。だからどうやって関係を修復すればいいのか分からない!
相手の機嫌を直してもらうにはどうしたらいいんだろう。どうやったらミーナちゃん機嫌を直してくれるんだろう。
「好きに言っているといい。私は貴様らがどうなろうと気にもかけん。せいぜいこの辺境の地で足掻くといいだろう」
私は開発計画にあんまり口出しするつもりはないから頑張って! と言いました。
ダメだ……、魔王弁がインストールされている状況では、仲直りどころか、まともなコミュニケーションすら取れない……。
「好き勝手に言ってくれちゃって! あたしたちだってあんたのことなんかしらないんだから! ばーか! どっかいっちゃえ!」
ああ。とうとう完全に決裂した……。
悲しい。ディアちゃんの友達だから一緒に仲良くなれないかなと思っていたのに。
「貴様、陛下に対して馬鹿などとは……!」
「放っておけ、エーレンフリート。負け犬の遠吠えだ」
エーレンフリート君、私が悪いからと言ったはずなのに語尾に余計なことがつく。
なんなの。私の言語野はそこまでミーナちゃんと仲良くなりたくないの?
「落ち着いてよ、ミーナちゃん。ルドヴィカちゃんは口は悪いけどいい子だから」
「ディアは黙ってて!」
ディアちゃんが仲介しようにもミーナちゃんは激おこ状態だ。
これ以上、私が喋ると面倒くさいことになるので黙っている。
「それよりみんなの新しい装備が出来たんだ。装備してみてよ」
これをそんなことで流すディアちゃんもなかなかだが、この場合は確かに新しい話題に移った方がいいので、ナイスアシストである。
「まずオットー君に“風の弓”」
「おお。すげー軽いな、これ。作るの大変だったんじゃないか?」
ディアちゃんがオットー君にレッサーグリフォンの素材から作られた弓を手渡すのに、オットー君はワクワクしながらそれを受け取った。
「どうかな?」
「いい感じだと思うぞ。後は実際に使ってみなくちゃなんとも言えないな。でも、この弓なら、どんな獲物でも仕留められる気がするぜ」
“風の弓”は基礎攻撃力18で、風属性の追加ダメージが+4というなかなか強力な武器だ。同じ風属性の魔物にはあまり効果はないが、その他の魔物にはそれなり以上の効果を上げるのだ。作っておいて損はない。
ただ、これを装備していざ挑むだろうドーフェルの山のボスは風属性のレッサーバシリスクなんだよね……。ゲームの製作陣も随分な意地悪をするものである。
「ミーナちゃんにはこれ。依頼にあった“琥珀の杖”だよ」
「わあ。ディアの作ったものなのになかなかいいじゃん!」
「失礼だなあ」
ミーナちゃんの依頼達成!
「それじゃあ、これはお代ね。振りやすくて魔力がみなぎってくる感じがするよ」
「満足してもらえたならなによりだよ」
ディアちゃんはレシピらしいメモと幾分かの現金を受け取っていた。
「これから腕試しに行かないか? 早速この弓を使ってみたいんだ」
「賛成。あたしもこの杖でどんな魔術が繰り出せるか試してみたい!」
意外と血の気が早いなオットー君とミーナちゃん。
「ディアも一緒に行こうぜ」
「ごめんね。肝心の私の杖はまだできてないんだ。また今度ってことで」
あれ? ディアちゃんの“それなり錬金術師の杖”ってまだできてないの?
「そうか。そうであれば用はない。いくぞ、エーレンフリート、ジルケ」
「はい、陛下」
それじゃあ、また今度完成したら呼んでねと言いました。
「しかし、陛下。お気づきですか?」
「そうだな。些か街の中に違和感を感じる」
え? どうしたの? って尋ねました。
「この間のものたちの生き残りでしょう。ここで戦うと陛下があの辺境の騎士と約束なさった法を守るということがふいになってしまいます。ここは城壁をでるべきかと」
「先ほどの小僧と小娘の件もあるしな。付いてこい、エーレンフリート」
人狼に街中で襲われちゃうの!? と驚きました。
そういえば人狼は人間に擬態できるんだった。それがあると不味い。
ゲームでは街中で魔物に襲われることなんてなかったけれど、今はもうゲームじゃない。現実だ。そういうことが起きてもなんらおかしくはないのだ。
私を狙っているならば確かに街中で乱戦になるのを避けるためにも、ここは一度街の外に出た方がいい。ちょうど、オットー君とミーナちゃんも城壁を出ることだし、彼らが危ない目に遭うのを避けるためにも同行するべきだ。
「何? あんたらもついてくるわけ?」
で、ミーナちゃんの後ろから城壁を出たら、滅茶苦茶ミーナちゃんに睨まれた。
「貴様らのためだぞ。感謝しろ」
「そんな適当なこと言って。大体、ドーフェルの森のどこに危険が──」
ミーナちゃんがドーフェルの森に足を踏み入れたとき、狼の雄たけびが聞こえた。
来たな……!
「な、何よ、今の……」
「引っ込んでいろ。貴様らでは相手にならん」
ここは私たちに任せてと言いました。
「むかつく! 私たちも戦うから! オットー!」
「こいつの試し撃ちがまだだしな」
だが、ミーナちゃんもオットー君も逃げる様子はない。
「エーレンフリート。そこの下等な存在が死なないようによく見ておけ。私は私に従わぬ愚か者どもに裁きを下す」
「畏まりました、陛下」
私が指示を出すのに、エーレンフリート君が動く。
「来るぞ──」
私は森の中に向けて引き抜いた魔剣“黄昏の大剣”を振るった。剣先から波動が生じ、木々が一気に薙ぎ倒されて行き、人狼の悲鳴が聞こえる。
だが、まだまだだ。
「まだ来るぞ、エーレンフリート。派手に歓迎してやれ!」
「イエス、マイマスター!」
森の中から人狼たちが飛び出してきて、私たちに牙を向ける。
「駄犬が。躾けてやろう」
私は無我夢中で魔剣“黄昏の大剣”を振るう。人狼の胴体が真っ二つに切り裂かれ、頭が弾け飛び、手足が飛び散る。うう、グロテスク……。
「ファ、ファイアーボール!」
「これでもくらえ!」
ミーナちゃんたちもエーレンフリート君に守られながらも戦闘を行っている。火球が人狼に命中し、矢が人狼に刺さる。
だが、大した効果はなさそうだ。人狼はそもそも終盤の探索マップであるドーフェルのダンジョンに出てくる魔物だからね。今のミーナちゃんたちでは歯が立たないだろう。
「この陛下に忠誠を誓わぬ愚か者どもめ!」
エーレンフリート君も魔剣“処刑者の女王”を振るって人狼たちをなぎ倒している。流石は四天王最強。こういう時には頼りになる!
「……私も戦う」
そう告げてジルケさんも参戦。
ジルケさんはこの間のお返しとばかりにハルバードを振るい、迫りくる人狼をばったばったと薙ぎ倒していく。エーレンフリート君にはまだまだ及ばないが、ジルケさんもいるおかげでオットー君とミーナちゃんも安全だ。
「数が減ってきたな。この程度か」
ようやく終わりそうと言いました。
「ですが、街の方ではまだ動きがあるようです」
「なんだと」
エーレンフリート君が告げるのに私がドーフェルの街の方を見る。
ドーフェルの街の方からは悲鳴が響き始めていた!
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