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この私を疑うというのか?(海老天うどんと疑い)

……………………


 ──この私を疑うというのか?(海老天うどんと疑い)



 ハーゼ交易での用事を辛うじて終えた私たちは、ちょっと早めながら午後の用事のために昼食を食べるため今日も大衆食堂“紅葉亭”を訪れた。


 あの馬車はお化け屋敷(自宅)に置いてきた。あれは目立ちすぎる。


「おい。どうしてくれるんだ!」


「そ、そんなこと言われても……」


 いつもなら九尾ちゃんが『いらっしゃませなのじゃ』と出迎えてくれるはずが、今日は男の人の怒鳴り声が響いている。何が起きているの?


「虫だぞ、虫! このパスタの中に虫が入ってたんだ!」


「もし間違って食って腹下してたらどうするつもりだったんだ、ええ!」


 見るからにならず者ですという感じの男性2名がヘルマン君に噛みついている。


 ああ。こういういちゃもんをつけてお金を取ろうって詐欺だな。厨房はハインツさんと九尾ちゃんが仕切っているのに虫なんて入るはずがないし。


「貴様ら」


「なんだ。お前。俺たちは大人の話をしてるんだよ。小娘は引っ込んで置けよ」


 ちょっとと声をかけるのにならず者2名が睨んできた。こわっ!


「陛下。すぐに首を叩き落としてやります」


「待て。ここは九尾の縄張りだ。奴に任せる。九尾、見ているのだろう?」


 私はここは九尾ちゃんの働いているお店だからと言って周囲を見渡す。


「はい、主様。ちゃんと見ておりますのじゃ」


 そして、どこからともなく九尾ちゃんが現れた。


「この愚か者どもを処理しろ。この国の法律に引っかからないようにな」


「鍋にしてしまえば証拠は残りませぬよ?」


「こんな下等な食材は食欲が起きぬわ」


 にししと九尾ちゃんが笑うのに、私は人肉料理は勘弁……と言いました。


「そうですかの。でしたら、適当に捻ってやりますのじゃ」


 九尾ちゃんはそう告げるとならず者2名の前に割り入った。


「お客様。少しばかし興奮しておられるようですの。興奮のし過ぎは体によくありまんのじゃ。落ち着かれるといいでしょうぞ」


「あ、ああ。そうだな……」


 そう告げて九尾ちゃんがならず者2名を見つめるとならず者2名は急に静かになった。


「とりあえず、店も迷惑をこうむったことですし、払うものを払っていただけると助かるのですがの。どうですじゃ?」


「そうだな……。迷惑料を払わないとな……」


 そう告げるとならず者2名は懐から革袋を取り出し、九尾ちゃんに差し出した。


「それでは気分転換がてら、隣の隣町まで行かれるとよいかの。もう戻って来てはならぬのじゃよ? 分かったかの?」


「分かった……」


 ならず者2名はそう告げるとぼんやりした表情で食堂を去っていった。。


「流石だな」


 何したの、九尾ちゃんと尋ねました。


「幻術でしたらお任せですのじゃ。まあ、あの愚か者どもも隣の隣町に着くころには飢えて死んでおるですかの。生き残っても戻ってきませんし、安心ですのじゃ。これで法に触れずに問題を解決しましたの」


 ええー……。


 あれって催眠術か何かだったの? つまりあのならず者2名は有り金全部九尾ちゃんに渡して隣の隣町まで歩いて行ったってわけ? それは途中で飢え死にしかねないよ。


 これは本当に法に反していないのだろうか。私は訝しんだ。


「それで主様は昼食ですかの?」


「そうだ。午後から用事がある」


「それではお席にどうぞなのですじゃ」


 九尾ちゃんはそう告げて私とエーレンフリート君をテーブルに案内してくれた。


「すみません。九尾さん。本当なら僕が対応しなければいけなかったのに」


「いいのじゃよ。あれぐらい赤子の手を捻るようなものじゃ」


 ヘルマン君が頭を下げているのに九尾ちゃんが笑って返している。


 まあ、少なくとも職場では大人しくしてくれているらしい。一番の問題児であるエーレンフリート君が私と一緒だから、他の四天王が問題を起こすとは考えにくいんだよな。みんななんだかんだで、他の人とやっていける社交力があるし。


 エーレンフリート君は忠誠心はぴか一なんだろうけど、社交能力はちょっと。


「?」


 私がそんなことを思いながらエーレンフリート君を見ているとエーレンフリート君が首を傾げていた。黒髪に赤目のイケメンなのに中身は残念だ。


 まあ、そこが可愛くもあるのかもしれない。なんだかんだでエーレンフリート君を連れ回すのを楽しんでるからな、私。


 なんだかんだでエーレンフリート君は楽しい人間なのだ。すぐに噛みつくところとかも、私のことをどうにかよいしょしてくれるところとかも、戦闘では飛び切り頼りになるところとこかも。全てにおいてエーレンフリート君は楽しい。


 男友達、とは違うんだろうけど、私の中ではエーレンフリート君は友達だ。これからも仲良くしていきたいものである。


「エーレンフリートよ。私についてこい。どこまでも」


「はっ。陛下のためならば地獄だろうとお供いたします」


 これからもよろしくね、エーレンフリート君と言いました。


「さて、エーレンフリートは何も食べないとして主様は何になさいますのじゃ?」


「そうだな。海老天うどんをもらおうか」


「畏まりましたのですじゃ。食後に甘味はいかがですかの?」


 デザートか。確かに甘いものが食べたくなる。


「では、みたらし団子を。ふたつ、頼む。ひとつは持ち帰り用に包め」


「おや? どうされるのですかの?」


「何。あのジルケという女の見舞いにと思ってな。私が見舞いに行ってやるだけでも十分だが、手土産のひとつぐらいはあった方がよかろう」


 九尾ちゃんが何やら意外そうな顔をするのに私はジルケさんのお見舞いに持っていくよとだけ言いました。


「主様。失礼かもしませぬが、少し変わられましたかの?」


「私が変わっただと?」


 不味い。私の中身が魔王ルドヴィカからボッチになっているのがばれた!?


「何を言っている、九尾。陛下に対して無礼であろうが。陛下は変わってなどおられぬ。私たちが忠誠を誓った陛下のままだ。貴様はそれを疑うというのか?」


「エーレンのいうこともですがの。前の主様は人間のことなど本当に歯牙にもかけておられぬお方でしたような……」


 不味い、不味い、不味い。


 不味すぎるぞ。ディアちゃんたちの付き合いは戯れで済ませていたけれど、確かに私は魔王としては人間のことを気にしすぎている。『ちょっとお戯れすぎです、魔王様』と言われても仕方のない状況だ。


「何。人間と言うものに興味がわいただけだ。奴らがどのような営みを送っているのか、にな。そうでなければ私が下等な人間ごときに関わるものか。敵を知れば、おのずと戦い方は分かる。そういうものであろう?」


 ちょっと人間に興味が出てと言いました。


「おお。流石は主様ですのじゃ。既に人間たちとの戦いのことも視野に入れておられるとは。この九尾め、失礼なことを言って申し訳ありませぬ」


「気にするな。確かに変わった面もある」


 セーフ! 助かった!


 ……しかし、今の発言ではいずれ人類と戦争をすることは確定事項になってしまったのでは? セーフなようで全くセーフじゃない気がする。Safeだと思ったらKeterだったでござるという事態にならない? 大丈夫?


「では、後でみたらし団子をおひとつお包みしておきますのじゃ」


「うむ」


 まあ、これは後であやふやにしてしまおう。


 ……できるのかなあ、あやふやに。


 エーレンフリート君とか『人類殺すべし、慈悲はない』って感じだし、温厚だと思ってた九尾ちゃんもあんな感じだし、私自身が『世界に黄昏をもたらすのだ(ドヤッ)』って言っちゃっているので、相当難しいぞ。


 私が魔王辞めて普通の女の子になります! ってのが相当なハードルなことに加えて、魔物と人間の最終戦争を止めることも相当なハードルなのでは。


 とは言っても、魔物たちは魔王である私に絶賛反乱中で、魔物と人間が戦争になるような団結力は欠片もありませんがね。思えば邪神討伐後、いきなり魔王ルドヴィカが喧嘩売ってきたときに、四天王以外に従っている魔物がいなかったのはそういう事情なのかな。魔物にハブられる魔王とはいたたまれない。


 ポチスライムぐらいは脅せばついて来てくれそうだけど、ポチスライムの軍団を引き連れた魔王とはへなちょこにもほどがある。それにポチスライムの連中、負けそうになったら絶対寝返るぞ。実際に人間に飼育されてるからね。


 ……となるとだ。我々はこの四天王と私だけで人間に喧嘩売るの?


 いやいやいや。そりゃ、ゲームの魔王ルドヴィカは世界を脅かす邪神とは何だったのかってぐらい反則的な強さのラスボスだったよ。エーテル属性の全体攻撃に、自分のバフかけて魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”で殴りまくってくるやべー奴だから。


 けど、それが国を相手にして勝てるかというと……。


 相手は軍隊なわけでしょ? 無理無理かたつむりの観光客!


「エーレンフリートよ。正直に答えろ」


「はっ。なんでありましょうか、陛下」


 私はエーレンフリート君に尋ねる。


「私は人間の軍隊と戦って勝てると思うか?」


 おお。珍しくシンプルに私の言葉が出た。


「もちろんです、陛下。そのことは陛下がついこの間、竜種を撃滅されたことからも明らかです。竜種をただのトカゲにしてしまう陛下に人間の軍隊など相手は務まりません」


 あー。そうだった。私、一応ドラゴン倒してたんだった。


 正直、あの時は何が何だか分からなくて、とにかく魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を振り回してた感じがするんだが、一応はドラゴンを倒してたんだよな。この世界のドラゴンは国の軍隊を脅かすレベルであって、それを単騎で殺すというのはつまり……。


 やっぱりSafeじゃなくてKeterじゃないですかー! やだー!


「だが、弱者を踏み躙るのもつまらんな。もっと張り合い甲斐のある相手でなければ面白くない。この間の豆腐以下の竜種などいくら襲い掛かって来ても、退屈なだけだ。だが、人間たちはその竜種以下。戦う意味があるのだろうか」


 人間苛めると困るのでやめよ? と言いました。


「なるほど。そういうことだったのですね」


 ん? エーレンフリート君は何を納得したのかな?


「あの錬金術師の小娘やジルケという女に関わっているのは、連中を戦い甲斐のある者にして楽しもうと考えていらっしゃるのですね。このエーレンフリートめ、そこまで考えが及びませんでした。申し訳ありません」


 おっと。エーレンフリート君が壮大な勘違いをしているよ……。


「フン。確かに見どころは多少はある者たちだが、私の敵ではない」


「そうですか……。陛下を満足させられる相手が現れるとよいのですが」


 いや。この間のドラゴンの件でも寿命が縮んだのにあれ以上とか勘弁。


「お待たせしました、海老天うどんとなります」


 私がエーレンフリート君とそんなことを喋っているとヘルマン君が大きめの海老天が乗ったうどんを私の前においてくれた。


「でかいエビだな。海のものか?」


「いいえ。湖で取れるんです。大きいのはもっと大きいそうですよ」


 淡水環境下でそんなにでかいエビが育つのだろうか。


 まあ、いいや。食べよ。


 うん。美味しい!


 海老天はちょっとお汁を吸ってしんなりしているのと、サクサクの部分が残っているのとでまさにうどんの天ぷらって感じだ。お汁の味を吸っているのも美味しいし、サクサクしているのも天ぷら本来のお味で美味しい。


 しかし、本当に日本にある海老天そのものだな。味といい、大きさといい。実は海の魚も取れたりはしないだろうか……?


 唯一の不満点はうどんをフォークで食べなければならないということ。相変わらずパスタ扱いのこれをずずずっと啜って食べることは許されておらず、パスタのようにフォークでくるくると巻き取ってお上品に食べなければいけないのだ。


 ……うどん、食べた気しないなあ。


 そんな不満を覚えながらも早速七味唐辛子などを使って変わった味も楽しみつつ、私はうどんを完食。美味しうございました。


「デザートになります」


 私がうどんを食べ終えたころに、ヘルマン君がデザートのみたらし団子を持ってきてくれた。嬉しいことに串はふたつだ。


 ひとつひとつは小ぶりながら、しっかりと琥珀色の美味しそうなタレがかけられている。ちなみに串ひとつにつき4つの団子だ。カロリーがちょっと心配になるね。


「エーレンフリート。ひとつやろう」


「陛下のものをいただくなど恐れ多い……」


「やると言っているのだ。素直に受けとれ」


 カロリーを分散させるためにエーレンフリート君にもひとつあげることにした。


「貴様、甘き誘惑を好んでいるだろう。これは貴様の望むようなものだ」


「はっ。では、ありがたくいただかせてもらいます」


 エーレンフリート君は甘党だよねと言いました。


 私はエーレンフリート君に串をひとつ渡すと、彼が食べるのを待った。


「あの、陛下は召し上がらないので?」


「気にするな」


 エーレンフリート君のリアクションが見たいんだよ。


「それでは僭越ながら先にいただかせていただきます」


 エーレンフリート君はそう告げるとみたらし団子を丁寧にひとつ口に運んだ。


「どうだ。美味いか?」


「はい。この何とも言えない食感とタレの癖になる甘さが合わさって大変美味です。人間たちは下等ではありますが、このようなものを作らせれば才能を発揮するのですね」


 エーレンフリート君の反応が面白いと思ったら、これって外国の人に日本の食べ物食べさせてリアクション見る番組に似てるからだ。


 ……エーレンフリート君には今度手に入ったら納豆に挑戦してもらうかな。


「人間というのもいいものであろう」


 私もそう告げて、みたらし団子を口に運ぶ。


 うん。文句なしにみたらし団子だ。もちもち感とタレの香ばしい甘さが合わさって、エーレンフリート君の言うように絶品である。あるといくらでも食べてしまいそうなので、先にエーレンフリート君に譲ったのは正解だったな。


 食べたものが胸に行くタイプならいいのだが、どうにも(ルドヴィカ)はそんな体質ではない気がするのだ。この貧相なお胸のボリュームからして、あまり将来には期待できない。仮に100年生きていたとしたらとっくに成長する時期は過ぎてる。


 この世界では健康に生きたい。環境は整っているのだ。


 適度な食事。適度な運動。適度な睡眠。


 徹夜でゲームして朝から飲むゼリーで済ませたり、徹夜のせいで食欲湧かなくてエナジードリンクで昼食を済ませたり、夜はコンビニ弁当という食事からはおさらばだ。これからは規則正しく、健康な食事を心がけるぞ。それから運動も。


 健康な生活をしていると精神的にも健康になるしね。


 ……魔王になっているのに健康志向ってどうなんだろう。


「主様。お包みしましたのじゃ」


「うむ。勘定を」


 私たちは清算を済ませると、九尾ちゃんに包んでもらったみたらし団子を持って、自警団本部を目指した。ジルケさんはまだあそこに入院しているだろう。


 しかし、ここにまともな病院はないのだろうか?


 そもそも、あのゲームで病院を作ることってあったっけ? なんだか記憶があやふやだが、病院を誘致した記憶はない。


 まあ、そもそも切断した腕がポーションで元通りになる世界だ。錬金術師さえいれば、病院なんていらないのかもしれない。風邪とかの病気になったときにどうするのかは謎だけど。あのゲームで風邪とか引く人いなかったからな……。


 でも、治癒ポーションで外傷は治せるんだし、体の中も同じように治癒できるポーションがあっても不思議ではない。病気に有効なポーションもあるだろう。


 病院があればあるに越したことはないのだが、この世界にそもそも病院という概念が存在するのかどうかすら謎だからな。とにかく問題は錬金術で解決って世界だから、医療は未発達という可能性もありえる。


 病気はしないようにしないとな。何があるか分からない。


 それはそうと自警団本部に到着した。


 ジルケさんの病室を訪れよう!


……………………

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