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謎の呼び出し

……………………


 ──謎の呼び出し



 翌日。


 今日も朝からベアトリスクさんにドレスを選んでもらうと、朝食のために食堂に向かった。ちなみに昨日のドレスは土埃は付いていたものの、裂けた様子は欠片も見当たらなかった。魔王身体能力半端ない。


「おはようございます、陛下」


 食堂では相変わらずエーレンフリート君が先に来ていて挨拶してくれた。


 君、吸血鬼なのに朝強いよね?


「エーレンフリート。人間の時間に合わせるのは苦痛か」


「まさか。生まれて500歳程度の吸血鬼ならばまだしも我々始祖吸血鬼ともなれば、人間と同じように朝を心地よく感じるものです。なので、今日も陛下にお供させていただきます。よろしいでしょうか?」


「許す」


 エーレンフリート君は本当に凄い吸血鬼なんだな。


 ……私が魔王辞めるって言ったら殺されそうな感じすらする。


 でもね! 私だって好きで魔王をやってるわけじゃないんだよ。たまたま転生した先が魔王なだけであって、望んで魔王になったわけじゃないもん。それに今時、天皇陛下ですら譲位するのに魔王が譲位できないって酷くない?


 いや、譲位しようと思えばできるけど、その時は食べられるし。


 それにエーレンフリート君を初めとする四天王のみんながあれだけ私が宣言した『世界に黄昏をもたらす!』という野望を実行せずに、中途半端なところで魔王辞めますって言ったら、激怒しそうな気がしなくもないのだ。それこそ殺されるレベルで。


 困った。いずれは解決しなければならない問題ながら、解決策がない。


「主様。朝食ですのじゃ」


 私がそんなことを考えながら席に着くと、九尾ちゃんが声をかけてきた。


「ほう。今日は薬草粥か」


「はいですじゃ。些か季節外れではありますが。、昨日、主様も薬草粥を作りに行かせたそうですし、少しばかり興味がわいたのではないですのかの?」


 目の前には香ばしい匂いを放つ薬草粥が置かれていた。梅干しも添えられている。


 うん。完璧だ。


 では、早速いただきます。


「うむ。悪くはない」


 美味しい! ちゃんとお餅が入ってるし、お出汁の味が染みてる。これはお腹に優しいものだと脳に訴えかけている。はあ、たまにはこういう優しい味がいいね。九尾ちゃんの料理はどれも美味しいけれど。


「よくやった、九尾。褒めて遣わす」


「ありがとうございますですのじゃ」


 ありがとう、九尾ちゃんと言いました。


 私はその後、梅干しなどを合わせながらおかゆを楽しんだ。ひとり暮らしを始めてからは自炊なんてせずにコンビニ弁当と飲むゼリーとかエナジードリンクで食事を済ませていたから、こうしてできたての温かい料理が出てくるのは本当にありがたいです。


「さて、エーレンフリート。今日の予定は?」


「はっ。先ほどヘルミーナという小娘が午前中に会いたいとの申し出をしてきました。午後からは錬金術師の小娘がちゃんと装備を錬成できているのか確認に向かうことになっております。それからあのジルケという女の見舞いをと」


「ふむ」


 ミーナちゃんの用事って何だろう。


 街の開発の話……をわざわざ私に言いに来るはずがないし。


 そりゃ私は観光推しでミーナちゃんは農業推しだけど、そのことでわざわざただの一市民に過ぎない私の意見を求めるということがあるだろうか。


 ハーゼ交易は大きな会社だし、そのご令嬢であるミーナちゃんは私の意見など無視していいわけで。もちろん、私としても意見を通すためにディアちゃんに投資先のおすすめをするつもりではあるけれどね。


 となると、ますますミーナちゃんに呼び出される意味が分からない。


 何かミーナちゃんの気に障るようなことでもしたかな? 思い当たる節がない。


「そのヘルミーナという小娘は何の用件かは告げていたか?」


「いいえ。陛下相手に無礼極まりない態度。切り殺して参りましょうか?」


「構うな。あのような成金の小娘に礼儀など期待してはおらん」


 ダメ、ダメ。エーレンフリート君、ステイと言いました。


「数分ぐらいならば時間を割いてやってもいいだろう。あのものも私の影響力を知って、助力を乞うているのかもしれぬ。弱者が現状から抜け出そうと足掻いているのであれば、少しばかりは見学してやろうという気になるものだ」


「畏まりました。では、午前中はハーゼ交易へ」


「うむ」


 ミーナちゃんが何か私に頼みたいことがあるのかもしれないから、一応話を聞くだけ聞いてみようと言いました。


「さて、では行くとするか」


「陛下。ハーゼ交易まで行かれるのでしたら馬車を準備しましょう。徒歩で行ってはあの守銭奴どもに舐められるかもしれません。既に奴らは陛下を侮辱しております。これ以上の侮辱はこのエーレンフリートめが許しません」


「馬車。そうだな。準備しておけ」


 うちに馬車なんてあったっけ?


 うーん。今からレンタルしてくるのかな。どうせハーゼ交易の社屋も市内だし、歩いて行った方が早いと思うんだけどな。


「では、主様。お茶とコーヒーとどちらになさいますかの?」


「そうだな。茶を頼む」


 おかゆにはやっぱりお茶だ。コーヒーは合わない。


 しかし、エーレンフリート君は出ていったものの、どこから馬車を出すんだろう。


 かぼちゃとネズミで?


 まさかねー。魔王がそんなファンシーなことしないよねー。


……………………


……………………


 馬車。


 それは確かに馬車だった。


 少し埃被った豪華な車体と──骨の馬が引く馬車だ。


 骨の馬だ。馬のスケルトン。


「これがそうなのか」


「はっ。何かありましたらと準備しておきました」


 ねえ。これで公道を走ったらいろいろと都市伝説が生まれるんじゃないかな。都市伝説というか伝説ですらないな。実話だな。


「エーレンフリート。これで外は走れん」


「やはり車体のデザインが古いでしょうか……」


「そういう問題ではない」


 馬だよ! 馬! スケルトンなお馬さんじゃ外は走れないよ!


「ああ。馬ですね。それは理解しておりますのでご安心を。九尾」


「ほいっ!」


 エーレンフリート君に呼ばれた九尾ちゃんがお札を投げるとスケルトンなお馬さんが黒毛の凛々しいお馬さんに変貌した。おおー。その手があったか。


「車体の方はこれでよろしいでしょうか?」


「些か粗末なものだが、これでいいだろう」


 馬車とか乗るの初めてだからよく分からないやと言いました。


「では、参りましょう、陛下」


「うむ」


 私はエーレンフリート君に促されるままに車体に乗る。


 車体はちょっと埃被っていたけれど、立派な造りだった。昔、某公共放送でやってた番組だと日本に赴任する各国の大使の人たちは、天皇陛下にその国の元首からの書状を持って挨拶に行くときに馬車か車かと選べるらしい。その番組では馬車が人気だと言っていた。その番組に出てきた馬車にこの馬車はそっくりだ。つまり豪華。


 やがてガラガラと馬車が走り始める。


 結構揺れがある。車とは違うな。だが、これも情緒があっていいのかもしれない。


 私は窓から外を眺める。


 街を知らない馬車が走っていくのに子供たちが興味深そうな視線を向けてきている。この街で子供を見かけるのは珍しい。どこもお年寄りばっかりの限界集落染みた街だからな。子供は街の宝。健やかに育ってほしいです。


「お化け屋敷の馬車だー!」


「お化けが乗ってるぞ!」


 ……怒るよ?


 さて、子供たちの言葉なんて気にしない、気にしない。心を広く持とう。


 というか、この世界の学校はどうなっているんだろう?


 ディアちゃんはカサンドラ先生からいろいろと教わっているだろうが、他の子たちは学校に行っているのだろうか。王立錬金術アカデミーなんてものもあるぐらいだから、この国──ローベルニア王国も教育の重要性は理解してそうだけど。


 今度、ディアちゃんに聞いてみよう。


 そして、ガラガラと馬車に揺られること10分程度。


「陛下。到着いたしました」


「うむ。ご苦労だった、エーレンフリート」


 馬車で10分。歩いて15分くらいの距離にハーゼ交易の社屋がある。


 立派な社屋だ。


 6階建てほどの高層建築で、表面は赤レンガの赤褐色の色をしている。窓は広々としており、古いヨーロッパの街並みにあっても不思議ではない素朴さだ。正門を潜った玄関の前には前庭があり、大陸マホガニーが植えられている。


 こんな立派な建物の会社が私などに何の用事なのだろうか。


 正直、全く思い浮かばない。ミーナちゃんと特別親しいわけでもないし、私が大富豪だというわけでもないし。


 まあ、ここまで来たことだし、話ぐらいは聞いておくか。


「行くぞ、エーレンフリート」


「はっ」


 私たちは馬車を置いて玄関に向かう。


「お待ちしておりました、ルドヴィカ様」


 私たちを出迎えてくれたのは、ミーナちゃんがディアちゃんに頼んで作ってもらっていたリーヌス君だった。むすっとした表情の彼が頭を下げて、私たちを出迎えてくれる。その服装は他の社員の人たちが着ているような白いシャツと黒いベストと紺色のズボンの事務服で、サイズが合うものがなかったのか、少し袖や裾が長い。それがまた可愛い。


「ヘルミーナ様がお待ちです。どうぞこちらへ」


 そう告げるとリーヌス君はトタトタと社屋の奥に進み、階段を上り始める。


 私たちもリーヌス君についていって、階段を上っていく。今の私には魔王体力があるので、階段を上るのも余裕だ。いい運動になるぐらいである。日本にいた時の私は慢性的な運動不足で、ひいひい言ってたけれど。


「こちらになります」


 やがて、リーヌス君は4階のフロアのある部屋の前で立ち止まり、部屋の扉を開いた。


「ヘルミーナ様。ルドヴィカ様がお着きなられました」


「ありがと、リーヌス君」


 部屋ではミーナちゃんが待っていた。いつもの動きやすい服装ではなく、私と同じようなドレス姿だ。今日は冒険には出かけないのかな。


「では、ようこそ、ハーゼ交易へ。来てくれてありがとね。ちょっと座って待ってて。すぐにお父様が来るから」


「フン。そもそも何の用だ?」


 何の用事なのかな? と尋ねました。


「街の開発について。お父様があなたの案に興味があるって。ちなみにあなたが魔王なのはお父様には話してないから、安心して……というか、安心するのはこっちか。あなたも魔王だって名乗らないようにね」


 街の開発について、か。


 私、そんなに大したこと言ってないぞ?


 大衆食堂で話した内容だけだと『ただドーフェルの環境はいいので、これを売りに観光を推し進めよう。農業はあんまり儲からないと思うよ』程度のことだったんだけどな。そこのどこにミーナちゃんのお父さんは惹かれたんだろう?


「お茶になります」


 私がそんなことを考えいるとリーヌス君がお茶を持ってきてくれて、私とエーレンフリート君の前においてくれた。


「ディアは凄いよね。こんなに可愛くて賢い子を錬成しちゃうなんて」


「ヘルミーナ様。現在、職務中です」


 ミーナちゃんがお茶を置いたリーヌス君を抱きしめるのに、リーヌス君が平坦な口調で不満を表明していた。ゴーレムにはお給料は支払われるのだろうか。


「あれは私が見込んだ錬金術師だからな。あれには特別な光がある。朝日のような光だ。夜の闇を引き裂き、世界に明日をもたらす光だ。もっともこの私のもたらす黄昏に勝てるかどうかは分からないがな」


「なんというかルドヴィカちゃんってポエミーだね。詩人とか目指してるわけなの?」


 うぐ。悪いのはこの魔王弁なんだよ。どう喋っても尊大になるか、ポエミーになるかの二択なんだよ。だから勘弁して。


「いやあ。お待たせして申し訳ない」


 暫くすると部屋に壮年のおじさんが入ってきた。


……………………

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