貴様はその程度か(お見舞いに来ました)
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──貴様はその程度か(お見舞いに来ました)
私が自警団本部に姿を見せると、受付のおじさんが飛び上がった。
「ひゃあ! もう道場破りのような真似はごめんだぜ。あれからみんな自信を喪失しちまって、仕事にならないんだからな」
「あの程度で自信を喪失するとはやる気がないにもほどがある。怠惰な連中め。だが、今回はその用事ではない。ここにジルケが運び込まれただろう。その見舞いだ」
ジルケさんのお見舞いに来ましたと言いました。
「ああ。それはよかった。ジルケ先生も今回のことはショックだったのか落ち込んでる様子でな。流石にプラチナ級冒険者でも、人狼の群れが相手となっちゃなあ」
「そうか。で、ジルケはどこにいるのだ? さっさと喋らなければ、また自警団を全員叩きなおしてやってもいいのだぞ」
「4、4階だ。勘弁してくれよ、本気で」
ジルケさんはどこにいるんですとだけ尋ねました。
しかし、私ってば滅茶苦茶ビビられてるじゃん……、確かに目つきは悪いし、竹刀でばったばったとおじさんたちをやっつけたけど、そこまでビビらなくてもいいじゃないですか……。なんだか私が凄く悪いことをしたように感じるじゃん……。
「ルドヴィカちゃん……。何したの?」
「ここの腐った連中を叩きのめしてやっただけだ。大したことはしていない」
何もしてないよ! と言いました。
「もー。自警団のおじさんたちはおじさんなんだからあんまり苛めちゃダメだよ?」
「いやいや。クラウディアのお嬢ちゃん。俺たちは流石にジークさんやジルケさんには劣るがまだまだ現役だぜ!」
ディアちゃんが私を注意するのに、受付のおじさんがそう告げる。
「では、もう一度相手してやろうか?」
「い、いや、まあ、年だしな……」
そんな見栄を張らないと言いました。
「それよりジルケ先生のお見舞いだろう。誰も来ないから寂しそうだったぜ」
「うむ。それはあまりよくはないな。この程度のことで挫けるなどつまらん」
受付のおじさんがそう告げるのに私たちは自警団本部の塔を登り始めた。
「元気になってくれるかなー?」
「それは貴様の錬成したアイテム次第だな」
ディアちゃんの錬成したアイテムならきっと元気になってくれるよと言いました。
私たちは階段を上っていき、4階に到達した。
「ああ。クラウディア君とルドヴィカ君」
4階の部屋の前ではジークさんが待っていた。
「なんだ。貴様、まだいたのか?」
「彼女はドーフェル市にとってなくてはならない戦力だ。そして、個人的にも彼女には無事であってほしいからね」
ジークさん、お疲れ様ですと言いました。
しかし、ジルケさんもいろんな人に慕われてるな。冒険者ギルドのオットー君然り、この自警団の人たち然り、ジークさん然り。
実はジルケさんはボッチではないのでは? と思ったりする。
「案外、奴も孤独ではないのかもしれぬな」
「ルドヴィカちゃんだってひとりじゃないよ?」
「貴様に何が分かる。王となるまでにともに歩む人間はいれど、王となった時にともに歩む人間はいないのだ。王とは孤独にして、孤高にして、夜空の月のような存在よ」
私はまだボッチ感が抜けきりませんと言いました。
しかし、自分から出た言葉ながら王になるまでってどういうことだ? 私はもう魔王という王じゃないのか? それなのにジルケさんやディアちゃんと一緒にいるのはまだ王になってないってことなのかな?
まあ、いつもの私の中二病的発言なだけかもしれないのでそっとしておこう。
「お月様みたいな存在かあ。確かにルドヴィカちゃんっぽいね」
「どうでもいい。それより冷える前に渡すぞ」
「了解!」
私たちは改めてジークさんの方を向く。
「まだジルケは起きているか?」
「ああ。起きている。鎮痛剤を使っているので少し麻痺しているが、眠れないでいるようだ。寝ている方がよくなるとは言ったのだが。やはり、心残りなのだろう。君たちを置いて、先に下山してしまったことが」
ジルケさん。私のせいで人狼に襲われてそんな心配まで……。
ここはひとつ、元気づけないとね!
「実はお見舞いの品があるんですよ。ジルケさん、食べ物は食べれます?」
「ああ。その点で制限はない。しかし、消化のいいものがいいだろう。彼女は今、体力を回復させている最中だ」
ディアちゃんが告げるのにジークさんが頷く。
「それならばっちりですよ! 消化にいい薬草粥を準備しましたから!」
「そうか。それならばシュラーブレンドルフさんも喜ぶことだろう」
ディアちゃんが自信満々なのにジークさんが微笑んだ。
「では、あまり騒がないようにね。彼女はまだ医者から安静にしているようにと言われているから。寝ているようなら起こさないように頼むよ」
「はい!」
そう告げてジークさんが扉を開き、私たちが中に入る。
「ルドヴィカ……?」
ジルケさんは起きていた。
塔の窓は開かれ、そこからは月が僅かな輝きを放って浮かんでいる。
「貴様が運び込まれたと聞いたから来てやったぞ。感謝しろ。私は私についていけぬ弱者は捨て置くのだが、貴様はまだまだ成長の見込みがありそうだからな」
お見舞いに来ました。体のぐらいはどうです? と尋ねました。
「……私はまだ弱い。昔から弱いまま。本当に成長するの……?」
そう尋ねるジルケさんの表情には見覚えがあった。
私だ。
日本で暮らしていた時の私はいつも自信のない表情をしていた。自分の弱点が、自分の短所が見えてしまい、そのことで嫌われるのではないかと心配し続ける表情をしていた。今のジルケさんの表情はかつての私そのものだ。
「なんだ。私の見込み違いか? 貴様ならもっと上を目指せると思ったのだがな。貴様に上を目指す意思がないのならば捨て置くのみだ。私は進み続ける。どこまでも。貴様もそういうものに憧れたのではないのか?」
ジルケさんは強いから自信を出して! と言いました。
だが、ダメだ、私の魔王弁ではまるで励ましになっていない。ジルケさんの心にひび割れを生じさせるだけだ。ここはディアちゃんと選手交代した方がいいのかもしれない。
「……私は付いていくよ」
そこでジルケさんがそう告げた。
「……弱かった私は昔の私。今の私は違う。あなたとともに歩みたい……」
ジルケさんは小声ながらはっきりとそう告げた。
「それでこそだ。そうでなければ私が友として選んだ価値はない。ともに歩め、ジルケ。私が王となるその日まで」
「……うん」
これからも仲良くしましょうねと言いました。
「あのー。いいかなー?」
そこでディアちゃんがおずおずと声を上げる。
「ジルケさんにおかゆ作ってきたんだ。滋養にいい薬草粥。よかったら食べてください。私、ジルケさんがプラチナ級冒険者だってことも知らないでついて来てもらっちゃってたし、そのお礼にでもなればなと思って」
ディアちゃんはそう告げてまだ温かいおかゆを取り出す。
「……ありがと。でも、プラチナ級冒険者とかは気にしないで。私が好きについてきただけだし、これからもそうだから……」
ジルケさんはそう告げてディアちゃんに微笑む。
「ありがとうございます! では、これはよければ召し上がってください!」
ディアちゃんも笑みを浮かべると、ジルケさんが横になっているベッドのサイドテーブルにおかゆの入れ物を置く。
「……ルドヴィカ」
「なんだ?」
「……食べさせて?」
おっと。思いもよらぬリクエストが来ましたよ。
まあ、ジルケさんが怪我しちゃったのも、回りまわって私のせいだし、それぐらいはお安い御用ですよ。スプーンもちゃんとついてるしね。
「ほら、口を開けろ」
「あーん」
わざわざ冷まさなくともおかゆはちょうどいい温度になっている。
私はジルケさんの口の中におかゆを運んだ。
「美味いか?」
「……美味しい。お餅が入っているのがいい……」
ああ。お餅入りのおかゆなんだ。いいよね。美味しいもんね。
「ほら、口の中を空にしたら口を開けろ。さっさと食って、さっさと戦えるようなれ」
「……うん」
私はそれからジルケさんのお口にせっせとおかゆを運ぶ作業を続けた。
……これって意外に疲れる。
「おのれ……。人間ごときが陛下の看護を受けるなど……!」
背後からはエーレンフリート君の恐ろしい声がしたが聞こえない振りをした。
「少しは気力を取り戻したか?」
「……うん。ありがとう……」
「礼ならそこの錬金術師の小娘に言え。この薬草粥を作ったのはそこの小娘だ」
お礼はディアちゃんに言ってあげてねと言いました。
「それでは我々はそろそろ行くぞ。早く気力と体力を取り戻し、再び上を目指せ。そうすれば私は貴様とともに歩んでやろう」
「……早く元気になるよ」
私の言葉にジルケさんがサムズアップした。
「ではな」
私はそう告げると部屋から出た。
「ジルケさん。元気になってくれるかな?」
「奴はあれぐらいで挫ける人間ではない。私の見込み違いではない限りはな」
ディアちゃんが空になったおかゆの入れ物をもって呟くのに私はジルケさんは強い人だからきっと大丈夫だよと言いました。
「それならいいけどね。私は明日の朝から装備品錬成を始めなくちゃ。ちゃんと成功するといいんだけどなあ。失敗したらジルケさんたちの苦労が無駄になっちゃう」
「貴様にもそれなりに期待はしているのだぞ」
ディアちゃんならきっと大丈夫と言いました。
「そういわれたら期待に応えざるをえませんね。まあ、任せといて!」
ディアちゃんはそう告げると足早に自宅に戻っていった。
「さて、我々も帰るか、エーレンフリート。今日の貴様は非常に役に立っていたぞ」
「ありがたき幸せ」
エーレンフリートも今日は頑張ってくれてありがとうと言いました。
「私の覇道にあの者たちがついてこれるかどうか。楽しみだな」
私はディアちゃんたちがこれから強くなってくれるといいなと言って、お化け屋敷への帰路に就いたのだった。
ああ。私も今日は七草粥が食べたいなあ。
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