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作れ(装備はちゃんと作らないと意味がないよ)

……………………


 ──作れ(装備はちゃんと作らないと意味がないよ)



 商店街での用事はほとんど終わったので、ついでにベアトリスクさんのお店を覗いてくことにした。商店街と言っても片手で数えられる程度しかお店がないのだからしかたない。これが地球ならいわゆるシャッター街だ。


「ベアトリスクさんのお店ってすっごくお洒落だよね」


「私の配下の店だからな。当然だ」


 確かにいい店構えだよねと言いました。


 だが、今日は来店中なのか、表に馬車が止まっている。なにやら豪華な馬車で上客の予感を感じさせる。ベアトリスクさんのお洒落なドレスを求めて、とうとう遠方からリッチなお客がやってきたのだろうか。


「ねえ、ねえ。ルドヴィカちゃん。気になるから覗いていいかな?」


「構わんだろう。貴様のような存在は空気にすらならん」


 多分、ベアトリスクさんも気にしないと思うから入ってみようと言いました。


「お邪魔しまーす」


 私たちがベアトリスクさんのお店に入ると──。


「これがわたくしですの! 信じられませんわ!」


 縦巻きロールで金髪碧眼の絵にかいたかのごとき、いかにもなお嬢様が煌びやかなドレス姿で鏡の前に立っていた。


 あまりにも、あまりもなお嬢様すぎて口があんぐりになりそうになった。


「お美しいですわ、お嬢様」


「ええ、ええ! これまで着ていたドレスがボロ雑巾のようですわ!」


 ベアトリスクさんが微笑んでお客さんと思しきお嬢様の相手をしているのに、その絵にかいたようなお嬢様はきゃーきゃーと歓声を上げている。


「お嬢様は胸のボリュームを気にされていたようですが、それでしたらそのドレスをお勧めしますわ。それでしたら胸のボリュームを上げて見せることができますから。それにお嬢様は素材がよろしいので、ドレスに負けない煌びやかさをお持ちだと自負なさってください。心の中に美への疑いがあると、それが表に出てしまいますからね」


「分かりましたわ。それにしてもこれならば今度こそは夜会でヴィルフリート様の視線を引き付けることができますわあ。これはお代よ。今度頼むときはウェディングドレスかもしれないわ。受けとっておいて頂戴」


「ありがとうございます、お嬢様。またのお越しを。そして、恋の成就を祈っております。あなたに良縁がありますことを」


 お嬢様のお連れの人がベアトリスクさんにずっしりとした革袋を手渡すと、ベアトリスクさんは中身を確認することもなく、そう告げてお嬢様を見送った。


「あら。あなた方もドレスを?」


「い、いえ。私はちょっとウィンドウショッピングを……」


 そのお嬢様が去り際に、ディアちゃんに視線を向けるのに、ディアちゃんは視線を泳がせた。ディアちゃんの今の財力ではベアトリスクさんのドレスを買うのは厳しい!


「まあ、あなたのような田舎娘ではね」


 そう告げてお嬢様はクスリと笑った。


 あっ。ちょっとムカッてきた。


「私の連れに何か用事でもあるのか?」


 私はそう告げてお嬢様を見る。


 背丈は私の方が上。それにお連れの人も外面だけならエーレンフリート君の方が上だ。文字通りの上から目線でちょっと威圧してくれよう。


「な、なんでもありませんわ」


 私とエーレンフリート君の威圧を前にお嬢様は逃げ出した。


 ……これでベアトリスクのお店のお客が減ったら立派な営業妨害だよな。


「まあ、陛下。いらっしいませ」


「うむ。貴様の店は繁盛しておるようだな」


 ベアトリスクさんがそんなことを気にせずに挨拶してくれるのに、私はきょろきょろとお店の中を見渡しながら告げた。


「ええ。成金ども──もとい、上流階級のお客様を確保できていますわ。ですが、この国の貴族や豪商たちもなかなか因習から逃れられないようですわね。新しいデザインのドレスを考えても、なかなか受け入れられませんわ」


「ほう。どのようなものだ?」


 ちょっと興味あるな。


「陛下のサイズでご用意させていただいていますのでご試着なさってみます?」


「いいだろう。準備しろ」


 私が告げるのにベアトリスクさんが私の手を引いて試着室に連れて行く──。


「どうですか。九尾のドレスにインスピレーションを得て作ったナイトドレスなのですが。なかなかよきものではありませんか?」


 ……。


 これ、ドレスというよりもはや布。


 スリットは太ももの上の上まで切れ、紐パンという漫画やラノベでしか見たようなことがないファンタジーなものが見えている。その上、上半身も例の『童貞をエリミネイトするセーター』並みに開きに開き切っている。


「ベアトリスクよ。単刀直入に言おう」


「はい、陛下」


「これを着る奴は痴女だ」


 私は思ったままを初めて口にした。


「まあ、酷いですわ。女性の魅力を最大限に引き出しているとおっしゃってください」


「似合っているよ、ルドヴィカちゃん! なんというかえっちいね!」


 ベアトリスクさんは不本意だという表情をしているし、ディアちゃんは褒めてるんだか何だか分からないことを言っている。


「エーレン。あなたもなかなかいいと思うでしょう?」


 ベアトリスクさんがそう告げて、エーレンフリート君の方を見る。


 ……エーレンフリート君は完全にこちらに背中を向けていた。


「エーレンフリート」


「私は何も見ておりません、陛下っ!」


「何が見えるというのだ?」


 エーレンフリート君は何を見たのだろう……。


 パンツか? パンツが見えちゃったのか? でも、これって下に別に下着付けてるから見えても大丈夫なパンツだぞ。エーレンフリート君が恥ずかしがるから、私まで何だか恥ずかしくなってきたじゃないか。


「ベアト! 陛下にそのようなものを着せるんじゃない!」


「もう。エーレンってば、思春期の坊やみたいなこというんだから」


 思ったけれどエーレンフリート君は吸血鬼で、九尾ちゃんは妖怪なわけだけど、ベアトリスクさんとイッセンさんは何なんだろう。


 でも、それを今更聞くのもな。下手に正体を聞いちゃうと関係がぎくしゃくしそうなので向こうから明かさない限り知らないでいいだろう。


「ベアトリスク。私のドレスを持ってこい。着替える」


「はい、陛下。しかし、陛下にもご理解いただけないとは残念ですわ」


 この痴女ドレスはよほどの人じゃないと売れないと思うよ。


「ああ。そうだ。ベアトリスクよ。この錬金術師の小娘でも作れそうな防具のレシピはないか? いつまでもこの粗末極まりない服では赤子が歩くのを見るような気分になる」


 ベアトリスクさん。ディアちゃんがほぼ初期装備のままで不安だから、何かちょうどいい防具のレシピないかなと尋ねました。


「酷い。私だって防具作ったよ。これこれ!」


 そう告げてディアちゃんがレッサーグリフォンの羽根から作った帽子を見せる。


「それぐらい気休めにしかならん。この間のレッサーワイバーンの素材も残っているだろう。それで何か作って見ろ。それから武器もな」


 グリフォンの羽根帽子は回避力がアップしたりはするのだけれど、正直心もとない上に今のところディアちゃんしか装備できてない。なので、レッサーワイバーンの素材も使って何か作ってみようと言いました。


「うーん。あいにく、錬金術師が作れるようなレシピはありませんわ。職人通りの防具屋を覗いてみられてはどうでしょう?」


「そうするか。邪魔したな、ベアトリスク」


「いえいえ。陛下ならばいつでも歓迎いたしますわ」


 ……その歓迎というのは先ほどのような痴女ドレスを着せることじゃないよね?


「それからエーレンフリート。いつまで壁を向いている」


「……お着替えになられましたか?」


「とっくに着替えたわ、戯け」


 エーレンフリート君は本当に思春期の子供のようだった。


……………………


……………………


 ベアトリスクさんに勧められたので、職人通りの防具屋さんを覗いてみることに。


 ……しかし、エーレンフリート君が挙動不審だ。


 さっきから私の斜め後ろといういつものポジションからディアちゃんの背後に行ったり、戻ったりしている。


 さては、やっぱりさっきパンツ見たな。気にしてないけど。


「エーレンフリートよ。貴様も私の配下ならばしゃんとしろ。私の品格が疑われるであろうが。私は下着を見られたぐらい気にせぬ」


「申し訳ありません、陛下!」


 やっぱり見たんだね。


「それからいくら貴様が欲情しても私の血はやらんぞ。そこの錬金術師の小娘のものもだ。勝手に眷属を増やされては管理に困る」


 吸血鬼は発情すると血が吸いたくなるらしいけど、それって食欲と性欲が同時に来るってことなのかな。意外と大変そうだな、吸血鬼って……。


「でも、吸血鬼ってカッコいいよね。がおーって感じで」


 ディアちゃん。それは動物園のライオンだよ。


「貴様ごときが吸血鬼に憧れるなど一千万年早いわ。貴様には脆弱な人間の体が似合いよ。歳を取り、衰え、病で果てていく身が貴様には似合いだ」


 ディアちゃんは普通に生きた方がいいよと言いました。


「ま、それもそうだよね。永遠に生きるってのも大変だ。この14年生きてきただけでも大変だったのにさ。それが何百年も続くんじゃあ、苦労の連続だよ」


 そうだよね。ディアちゃんは最初は孤児院の子で、それから一生懸命、錬金術の勉強と修行をして、カサンドラ先生からお店を継いだんだよね。苦労の連続だ。


 私は友達以外は何不自由しない現代日本の生活を送ってきたからまるで想像できないが、大変だったんだろうなあ。


「でも、吸血鬼になって永遠に生きてたら永遠に醤油煎餅が食べ続けられるんだよね? それはいいよね?」


「貴様は阿呆か」


 この子は苦労しているのかしてないのか分からないよ……。


「さて、防具屋さん。あんまり用事がないから覗いてないんだよね」


「怠慢だな。どの店も日々品ぞろえを変えている。貴様が上を目指すのであれば、常に風の囁きに耳を貸すことだな……」


 お店はいろいろと品揃えが変わるから定期的に覗こうねと言いました。


「そうなんだ。でも、私には風の囁きは聞こえないなあ……」


 変なこと言ってごめんねー!


「とにかく、覗いてみよっと。こんにちはー!」


 ディアちゃんがそう告げて防具屋さんの扉を開ける。


「ヘイ! 装備品は持ってるだけじゃ意味はないぞ!」


 ……RPGによくあるセリフで出迎えてくれたのはおじさん1名。


 髭がもっさりしてて、そしてマッチョ。そのムキムキの筋肉が洋服から溢れ出ようとしているかのようだ。もの凄く男臭い男性である。


「もー。それは知ってるよ、ザームエルさん」


「いやあ。なんだかこのセリフを言わないと落ち着かなくてな。アッハッハッ!」


 この鎧職人の人はザームエル・ゾイゼンホーフェルさん。


 40代のナイスミドル。頼りない鍛冶職人のマイスターであるフランク・フェルギーベルさんと違ってバリバリ現役の職人さんだ。防具のレシピなんかはここで購入することが多くなると思う。本屋やよろず屋グラバーでも扱うけれど、品ぞろえも価格も、ここが最安値かつ充実している。


 何かレシピがないか聞いてみるといいよ、ディアちゃん!


「しかし、錬金術師のクラウディアちゃんが防具屋に何の用だい。防具ならうちはこの街一番の品揃えだけれど、クラウディアちゃんが装備するにはちと重いぞ?」


「確かにこんな鉄の鎧を纏ってたら動けなくなっちゃうよね」


 鉄の鎧は最終的にアダマンタイトの鎧にまで進化し、ジークさんの防具になるのだが、今は関係ない話だ。


「そのですね。防具を作りたいからレシピを教えてもらえないかなって思って」


「クラウディアちゃんが防具を作るのかい?」


「ええ。探索も危険だってことが分かりましたからね」


 探索マップもドーフェルの森が解放されたみたいだし、本格的に装備を整えていかないと途中の雑魚魔物にもやられちゃうよ。


「素材は何がある?」


「レッサーワイバーンの鱗、爪、牙ですよ」


 ザームエルさんにディアちゃんが所持しているアイテムのリストを告げる。


「それならこのレシピだな。レッサーワイバーンのスケイルアーマーがお勧めだな。ワイバーンの鱗の素材が十二分に発揮できるぞ。その他、必要な素材として革ひもと獣の革が必要になるが、それならお買い得の値段で全部売っておこう。レシピ含めて全部で100ドゥカートだ!」


「買います!」


 ほら、他のお店は安いんだよ。よろず屋グラバーがぼったくりだって分かるでしょ?


「毎度あり!」


 ザームエルさんはそう告げるとレシピと革ひも、獣の革を包んでくれた。


「えヘヘッ。これで装備も整っていくね」


「作らねば意味がないぞ」


「もちろん作るよ!」


 ディアちゃんもそろそろ依頼で忙しくなってきたから装備品を作るのもちょっと大変になってくるかもしれないね。まあ、それでもディアちゃんの場合はヘルムート君がきちんとサポートしてくれるだけ恵まれているよ。


「後は武器だね。武器も揃えないと」


「そうだな。私の配下の下に向かうがいい。あの男ならば知っていよう」


 というわけで次は鍛冶場を目指すことになりました。


……………………

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