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追っ手の気配

……………………


 ──追っ手の気配



 私たちはトトトとドーフェルの森を進み、お化け石を目指す。


 だが、何か心臓を引っ張られるような感触を覚える。


「エーレンフリート。気づいたか?」


「はっ。微弱ではありますが、この地方にはいないはずの魔物が存在しますね」


 やっぱりか。


 これって私のせいなのかな。各探索マップごとに出てくる魔物は固定されているはずなんだけど。私が考えなしに魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を振り回したせいだろうか。ううむ。生態系を破壊してしまったという罪悪感を感じる。


 だけど、そこまで強くないみたいだし、サクッと倒してしまおう。


 ディアちゃんは樽爆弾をゲットしたけれど、相変わらずみんな初期装備のまんまだし、レッサーグリフォン先生レベルの敵がお化け石に陣取っていたら、苦戦するだろう。私が招いたことでもあるし、責任はちゃんと取ります。


「奇妙な感覚だ。何かいるぞ」


 ジークさんも気配を感じたのかそう告げる。


 ちなみに、レッサーグリフォンのときもジークさんがパーティーにいれば、お化け石のあるマップに入る前に警告してくれる。私は何も警告しませんでしたが。ディアちゃん、役立たずで申し訳ない。


「でも、レッサーグリフォンはディアが倒したんだろ?」


「私じゃなくてルドヴィカちゃん。一瞬だったよ。ずばーってなって、どかーん!」


 ディアちゃんの語彙が幼稚園児レベルにまで低下している。


 まあ、私もずばーってやって、どかーんと吹っ飛んだとしか表現できないけど。もっと頑張れ、元大学生!


「なあなあ、あんたも黒書武器使ってるよな? 最初に森に入った時に出くわした野良犬たちを倒したのって、あれ黒書武器だろ?」


「貴様、陛下に対して馴れ馴れしいぞ、小僧。身の程をわきまえろ」


 オットー君が興味津々という具合で尋ねてくるのを、エーレンフリート君が睨む。


「構わん。下等な人間どもに礼儀などもとより期待してはおらぬわ。それも浅ましい冒険者とあっては何を期待できようか」


 知り合いだから礼儀とかはいいよと言いました。


「私の黒書武器は魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”。世界に永遠の黄昏をもたらすものにして、人類が目にする最後の輝きよ。その力は強大なりて、これを扱えるのは私のみ。他の凡夫どもでは振るうことすらかなうまい」


 私の黒書武器は強いけれど、やっぱり呪いとかあるから危ないよと言いました。


「へえ。でも、黒書武器って憧れるよな。呪いとかあるんだろうけど、そこがカッコいいというか。伝説の武器でもあるし、冒険者ならやっぱり憧れるぜ」


「だよね! その呪いってのが如何にも強い武器ですって感じだし、クールだよね。私も黒書武器が欲しいなあ」


 ……この世界では呪いというのは中二病のファッション的存在でしかないようだ。


 というか、ミーナちゃんとオットー君も仲いいよね。同じ冒険者仲間だからかな?


「黒書武器は危険だ。そう簡単に手を出そうとするものではないよ」


 ここでジークさんが警告。


 ジークさんの警告はもっともだ。黒書武器はその高威力な性能と引き換えに呪いをもたらすのだ。エーレンフリート君の。魔剣“処刑者の女王(ブラッディ・メアリー)”なんかは使用者のHPを吸い取って攻撃力にする武器だし。この現実となった世界では、そんな呪いは致命的なものであるだろう。


「その通りだ。黒書武器を扱えるのは一部の選ばれた者たちのみ。凡人どもはその呪いのためにまとも扱うことすらできはしまい。まして、貴様らのような凡人以下の存在に黒書武器が扱える由もなし。諦めることだ」


 黒書武器は呪いがあるからそう簡単には使えないと言いました。


「ええー。ずるいー。ディア、あたしたちにも黒書武器作ってよ!」


「無理言わないでよ、ミーナちゃん。私、黒書武器の作り方なんて知らないから」


 無茶苦茶言うミーナちゃんである。


 そもそも黒書武器は錬金術では作れない。黒書武器を手に入れるには、ボスモンスターからのドロップを狙うか、宝箱から入手するかのいずれかだ。


 黒書武器が悪魔の呪いを受けた武器であることを考えるならば、悪魔とかにかかわりのないディアちゃんがそれを作れるはずもなく。だが、黒書武器そのものの強化だけは、ディアちゃんでもできるんだよなあ。


「いずれは貴様らの手にも黒書武器が手に入るやもしれぬ。だが、そのときはその呪いと対面することだ。黒書武器の呪いに囚われてその一部となるか、それとも黒書武器の呪いを乗り越えられるか……。まあ、貴様らでは無理であろうな」


 黒書武器はこれから手に入るかもしれないけれど気を付けてと言いました。


 そもそもデメリットが大きな黒書武器に頼らなくても、それぞれに適した高威力の武器はあるのだ。むしろ、黒書武器はデメリットが大きすぎて、普通に使用するのには向いてない。ディアちゃんの錬成する普通の武器を地道に強化して戦う方が、最終的には理にかなっているというものだ。


 確かに私の黒書武器であるは魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”は理論上は邪神さんを10ターンキルできるかもしれないけれど、もし相手のデバフを食らったりすれば、デメリットが生じる10ターンを超えるかもしれない。そう考えるならば普通の武器を強化して使っていくのが得策である。


 ……そして、そもそも2周目という概念が消えたであろうこの世界では、私やエーレンフリート君たちがドロップする最強レベルの黒書武器は手に入らないはずである。私がディアちゃんと敵対したりしない限りは。


 ここまで来てディアちゃんたちと敵対とかしたくない! 確かに私は魔王弁と中二病が言語野にインストールされてて、不愉快な存在なのかもしれないけれど、ディアちゃんのことを友達だと思っているんだよ!


「いいなあ。黒書武器。私も呪われた杖とかあればいいのに」


「やめておきたまえ。黒書武器の呪いは君たちが考えているほど生ぬるいものではない。あれは正真正銘の悪魔の呪いがかけられているのだ」


 ミーナちゃんがぼやくのにジークさんが大人の対応。


 おっと。その呪われた黒書武器をポチスライム相手に振り回して大喜びしてた馬鹿野郎がここにいますよ。


「ふむ。確かに何かいるようだな。私が前に出よう」


「任せても?」


「これもまた私の戯れよ」


 お化け石が近くなるのに心臓が引っ張られる感覚が強くなってきた。


 でも、心臓が痛いわけでもなければ、呼吸ができないわけでもない。なんというか奇妙な違和感を感じ取っているだけである。


 エーレンフリート君が言ったように大したことがない相手なのかも。


「──いるな」


 私の予感が確信に変わった。


 お化け石の上に立ち誇るのは一頭の竜。


 いや、正式な竜ではない。飛竜──ワイバーンだ。


 その鱗の色が青であるからにして、これはレッサーワイバーンだろう。3番目に解放される探索マップ“ドーフェルの大洞窟”の中ボスだ。もっともこのワイバーンはネームド魔物ではなく、有象無象の魔物のようだけれど。


「カカッ! みつけた、みつけた! 魔王を僭称する小娘を見つけた!」


 そのレッサーワイバーンは甲高い声でそう告げる。


「魔王を僭称する、だと?」


「そうだ! 魔王には我が主“ディオクレティアヌス”様こそ相応しい! お前のような小娘が魔王を名乗るのは不愉快!」


 私が眉を歪めるのにそのレッサーワイバーンはそう告げる。


「フン。そのディオクレティアヌスとやらがどこの愚か者かは知らぬが、この魔王ルドヴィカに抗うとは己の死を早めるだけと知れ。そして、そのくだらぬ下等な愚か者の使い走りよ。死ぬ前に何か言い残すことはあるか?」


 ディオクレティアヌスさんは知らないけど、攻撃は勘弁と言いました。


「愚か者はお前だ、小娘! ディオクレティアヌス様は偉大なるグレートドラゴン! お前のような人間の身ではない! 真に偉大なるお方はあの方だ! お前は死ぬ! お前は殺される! それは確実!」


「私に挑戦するとは面白い。だが、くだらぬ。グレートドラゴン? グレートドラゴンなど魔王の座を奪い時に何十頭も切り殺してくれたわ。私の敵ではない」


 ディオクレティアヌスさんって強いの? と尋ねました。


「不敬! 不敬! ディオクレティアヌス様こそ真の魔王! お前は僭称者! その罪を死を以てして償うがいい!」


「やってみろ」


 話し合いましょうと言いました!


「死ね、偽物の魔王!」


「魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”」


 もう話し合えるような状況じゃない。やらなければやられる。


「この私を僭称者や偽物と呼んだことを後悔しながら死ぬといい。貴様は今から、本物の魔王の手によって葬り去られるのだからな」


 悪く思わないでくれよ。先に喧嘩を売ってきたのは君だからねと言いました。


 それと同時に空間の隙間から抜き取った魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を横薙ぎに振るう。2メートル余りの巨大な刀身から波動が放たれ、それがレッサーワイバーンを襲う。レッサーワイバーンのHPは500程度。魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”の基礎攻撃力でも十二分に葬り去れる。


「ば、馬鹿な……」


 レッサーワイバーンは真っ二つになって地面に落下した。


「身の程を知れ。この愚か者めが。貴様が正しい側に忠誠を誓っていたならば、もっと長生きできただろうがな。そのちゃちな脳みそにそこまでの期待はできぬか?」


 真っ二つにしちゃってごめんねと言いました。


「こ、これは危険……。ディオクレティアヌス様でも危険……。これはただの小娘などではない……。これは正真正銘の──」


「魔王だ」


 私はそう告げて介錯のつもりでレッサーワイバーンの首を刎ね飛ばした。


 ……ポチスライムも野良犬も『ワンワン』としか吠えなかったから抵抗がなかったけれど、相手が自分たちにも分かる言葉で話し、それを殺すって結構なストレスになるな。これからは可能な限り、エーレンフリート君に任せよう。この子、何もしてないし。


「うわあ……。今のってワイバーンだよな? 俺の見間違いじゃないよな?」


「確かに今のはワイバーンだった。だが、レッサーワイバーンだな」


 オットー君が私の所業にドン引きしているのに、ジークさんが冷静にそう告げた。


 流石は騎士。魔物の区別はお手の物だね。頼りになるんじゃないかな。


 ラスボスが何故かパーティーに同行しているせいで目立たないけれど、ジークさんは本来ならば第一線の主戦力だ。その次はミーナちゃんかオットー君かで迷うとところ。


「他愛もない。この私から王座を奪おうというのにこのようなちんけな魔物を送り込むなど。ディオクレティアヌスとやらも部下に恵まれぬのか、それともどうしようもない愚か者かのいずれかだな。下らぬ」


「恐らくは両方でしょう。ディオクレティアヌスなど所詮はトカゲ。頭も足りなければ、取り巻きにも碌な者はおりませぬ」


 元は同僚だろうにエーレンフリート君が凄いディオクレティアヌスさんをディスっている。私の言っていることも大概だけどさ。


「ほら。ルドヴィカちゃんは凄いでしょ。ずばーってなってどかーんなんだよ」


「本当ね。レッサーワイバーンとは言えど、飛竜種を一撃だなんて」


 ディアちゃんが我が事のように自慢し、ミーナちゃんが頷く。


「それにやっぱり黒書武器はカッコいいわね!」


「だよな!」


 ミーナちゃんとオットー君は黒書武器は危ないものだと学習してほしい。


「錬金術師の小娘。そこのトカゲの残骸を拾っておけ。何かの役に立つだろう」


「了解!」


 レッサーワイバーンは鱗や爪、牙をドロップする。それも装備の材料になるぞ。


「それから機械油を忘れないようにっと」


 ここに来た目的はミーナちゃんのためにゴーレムを作るためだからね。


「森が少し静まったが、やはり何か異変が起きているような気配だな」


 ジークさんは森を見渡しながらそう告げる。


「エーレンフリートよ。貴様は何か感じるか」


「脆弱極まりない魔物の気配しか感じません。あの騎士が臆病すぎるのかと」


 まあ、四天王の中で最強の君ならば大抵の魔物は大したことないだろうけどさ。


「しかし、風が囁いているな。これは先ぶれであると。いずれはそれなりの力を持った者がここに乗り込んでくるだろう。だが、私の覇道を邪魔するのであれば叩き切るのみ」


 レッサーワイバーンは偵察みたいだったからそう遠くないうちにはやばい魔物たちが来るねと言いました。


 風の囁きなんて聞こえてないです。


「そうであるならば迎え撃ちましょう。このエーレンフリートめにお任せを」


「そうだな。貴様を私の手元に残しておいたのは万が一の場合に備えてだ。私の期待に背くような無様は晒してくれるな」


「はっ」


 エーレンフリート君だけは接客もできないし、手元に残しておいたのだが、それは別にエーレンフリート君が社会不適合者というわけだからだけではなく、エーレンフリート君が四天王の中では最強であるからでもあるのだ。


 魔王ルドヴィカの潜むお化け屋敷(ラスダン)の魔王ルドヴィカ戦の前に戦うのが、このエーレンフリート君だ。その黒書武器である魔剣“処刑者の女王(ブラッディ・メアリー)”も強力なことならが、相手の受けたダメージを少量ずつ吸収していき、HPを回復するという反則的なスキルのおかげでエーレンフリート君には苦労させられたよ。


 その苦戦したエーレンフリート君も今や味方。であるならば、心強い味方になってくれるはずだ。これは期待せざるを得ない。


「だが、私が相手してやるのも一興かもしれぬな。ディオクレティアヌス。どれほどの愚か者なのか見定めてみようではないか」


「陛下のお言葉のままに」


 私の言葉にエーレンフリート君が跪いて頷く。


「では、帰るとしようぞ。やがて人間たちにとっては危険な時間になる」


「ルドヴィカちゃん。森の出口はそっちじゃなくてこっち」


……………………

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