轟雷を唸らせるもの(新兵器投入)
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──轟雷を唸らせるもの(新兵器投入)
方向音痴な私はディアちゃんたちに導かれて、硝石の採取できる洞窟までやってきた。時刻はまだお昼から1時間程度が過ぎたぐらいであり、時間的な余裕はばっちりだ。
暗くなるとゲームでは強制的に自宅に戻っていたけれど、夜の探索ってのはできないのかな? でも、夜の森をうろうろするのってのもぞっとするな。特に空にお天道様が昇っている間ですら方向音痴になる私には……。
「ここに硝石があるんだよ。オットー君は知ってた?」
「ん。まあな。矢に火薬をつけるときにはここの硝石を使うから」
ディアちゃんが自慢げに告げるのに、オットー君がそう告げて返した。
「へー。なんだ、みんな知ってたんだ。私はこの間知ったのになあ」
ディアちゃんが不服そうな顔でそう告げると、洞窟に足を踏み入れた。
「ワン!」
「ワン!」
そして、洞窟に入るなり、ポチスライムの大歓迎を受けた。
数は6、7体はいるだろう。塵も積もればなんとやらで、この数になってくるとそれなりの連携をしなければならない。
まあ、私の魔剣“黄昏の大剣”なら一振りすれば全滅だろうけど。
けど、あれっていろいろと物騒だし、悪目立ちするからあんまり好きになれないんだよね。頼りになる武器ではあるんだろうけど、今の私には過ぎた道具です。
「ここは任せて!」
そこでディアちゃんがそう告げると、ディアちゃんはショルダーバックに手を突っ込んでなにやら巨大なものを取り出した。
「樽爆弾!」
おお。ディアちゃん、レシピを購入したばかりか、既に作成に成功していたのか。
「いっけー!」
ディアちゃんは樽爆弾を蹴って転がすと、ゴロゴロと樽爆弾はポチスライムの群れに向けて突進していく。ポチスライムたちは何が起きているのか分からず、ぽかんと転がっていく樽爆弾を眺めている。
そして、次の瞬間、樽爆弾が大爆発した。
洞窟に振動が響き、爆発とともに生じた炎がポチスライムたちを飲み込む。
「うわあ! 何あれ! ディア、何したの?」
「えへへっ♪ ルドヴィカちゃんの教えてくれたお店で買ったレシピで作ったんだ。実際に使うのは初めてだったから私もびっくりだけどね」
ミーナちゃんが大興奮で尋ねるのにディアちゃんはそう告げて返す。
樽爆弾のレシピは硝石、硫黄、木材の3種類だ。レシピそのものは5万ドゥカートもぼったくられるが、素材の調達そのものは難しくない。硝石と硫黄はこの洞窟で採取できるし、何ならよろず屋グラバーでもそれなりの値段で売ってるし、木材は街の市場で5ドゥカート程度で売っている。
そして、ゲーム中盤になるとほぼ消耗品として、市場でいくらでも手に入る。樽爆弾はディアちゃんの大切な武器なのだ。
しかし、ディアちゃんが樽爆弾をゲットしたなら戦力的にはかなり向上したはず! これならば無事に邪神討伐の道筋が描けてきたぞ!
「ディアも立派な錬金術師になってきたな。そんな凄い爆弾作るなんて」
「えっへん! どんどん褒めてくれていいよ!」
オットー君は先ほどの話を聞くに、爆弾そのものの存在は知っていたけれど、それをここまで巨大なものにすることは思いつかなかったようだ。
「それでは硝石の採取っと。樽爆弾にも使うから多めに採取しよっと」
ディアちゃんは洞窟の壁面をトントンと叩くとそこから出てきた硝石をガラス瓶に入れて、ショルダーバックの中に放り込んでいった。
……硝石ってあんな感じに採取するものなのかな?
「よし。硝石ゲット! 後は水銀と機械油だね」
「機械油とはこの森にあるものなのか?」
「お化け石のところで採取できるんですよ。ルドヴィカちゃんに前に教えてもらったんです。ね、ルドヴィカちゃん!」
ジークさんが怪訝そうに尋ねるのに、ディアちゃんが自慢げに告げた。
「戯れに教えてやっただけだ。勘違いするな」
もはや魔王弁というかツンデレに近い発言を吐き出し始めたな、私。
「水銀の場所も分かっているのか?」
「はい。前にルドヴィカちゃんと一緒に採取しに来て、それでゴーレムを作ったんですよ。ヘルムート君って言うんです。可愛いですから、ジークさんも一度会いに来てくださいよ。歓迎してくれると思いますよ!」
ヘルムート君は誰が来てもむすっとしてるだけだろうけど、ディアちゃんはジークさんを依頼以外でお店に誘ういい機会を手にしたね。このまま関係が進展するといいけど。
……恋愛かあ。
前世の私は恋人どころか友人すらもいなかったから、何とも言えない。けど、好きな人がいるって言いうのはちょっと羨ましくもある。私にもそういう風に特別に思える人ができたら、人生楽しいのかもしれない。
そう思って私はエーレンフリート君に視線を向ける。
エーレンフリート君は外面だけは本当に完璧だ。整った顔立ちに手入れされた黒髪、吸血鬼らしい真っ赤な瞳。
これで中身がポンコツじゃなければなあ……。
まあ、中身のポンコツ具合は私もいい勝負なのでお似合いなのかもしれない。
「? どうされました、陛下?」
「なんでもない。気にするな」
私の視線に気づいたのか、エーレンフリート君が怪訝そうな表情をする。
私の恋はいつか時間が出来た時に考えよう。目下の目的はディアちゃんに邪神討伐に必要な“錬金術師、至高の奥義”である“賢者の石”を錬成させることができるようにしなければ。これから復活する邪神ウムル・アト=タウィルが倒れなければ、世界は壊れてしまう……ということになっているのだから。
実際のところ、ゲームをやっている分には最終探索マップである禁忌のダンジョンが解放されすらしていない状況であっても、個別エンディングは迎えられる。邪神とはいったいなんだったのかと言いたくなる話である。
だが、邪神討伐後の個別エンディングはまた変わっていて、ジークさんならばなんと結婚することができるようになる。邪神を討伐していないと、ジークさんが常連になったお店でディアちゃんがお仕事を続けるだけのエンディングだ。
それならばどうあっても邪神には倒れてもらわなければならない。
それに今はゲームというより現実だ。復活した邪神が大人しくしているとも思えない。ここは世界平和のためにも邪神討伐を!
……世界平和のために戦う魔王ってどうなんだろうね?
「水銀ゲットー!」
そんなことを考えている間に、ディアちゃんが水銀をゲットしてガラス瓶に収めて、ショルダーバックの中に放り込む。
このガラス瓶。数は無制限で、錬成する必要もなく、必要があればいくらでも使えるのだ。これがファンタジーの世界というものなのだろうか。
「後は機械油だね」
「うむ。手早く済ませよ。じきに我々の時間がやってくる」
時刻はお昼を過ぎて3時間。このままだと帰り道は暗くなってしまう。
そんなことを考えていたときに野良犬の群れが森の茂みから飛び出してきた。
「わっ! 敵だ!」
ミーナちゃんが大急ぎで“見習い魔女の杖”を構え、ファイアーボールを叩き込む。
「きゃん!」
1体の野良犬は炎に包まれ悲鳴を上げたものの倒れてはいない。
「オットー君。援護を頼む」
「任せてくれ、ジークさん」
そこでジークさんがついに参戦した。
ジークさんは腰から長剣を抜く。“騎士の剣”だ。
初期装備の中では一番攻撃力が高い。確か基礎攻撃力25だったかな? ポチスライムも野良犬も大抵は一撃で仕留められる。
このドーフェルの森は仲間との連携も大事にしなさいということを教えてくれる先生なのだ。レッサーグリフォンも装備を強化しないとボスには勝てないよということを教えてくれる先生である。流石はチュートリアルの探索マップ。
「はあっ──!」
ジークさんが剣を振るうと野良犬の1体が真っ二つになってお亡くなりになった。
しかし、ジークさんは腰に2本の剣を下げている。もうひとつは使わないのかな?
「所詮、あれも下等な人間ですな。陛下を脅かす者ではないでしょう」
「エーレンフリート。人間の何がもっとも恐ろしいと思う」
「……群れることでしょうか?」
人間がどうしてこの魔物の溢れる大地でやってこれたのか。
「人間は成長するからだ。昨日よりも、今日よりも、明日よりも人間は強くなる。奴らを甘く見るな。手痛いしっぺ返しをくらうことになるぞ」
「はっ。流石は、陛下。人間と言えど甘くは見られないのですね」
当然だよ。ディアちゃんはこの初期メンバーで魔王ルドヴィカを討伐するんだから。
「いくぞっ!」
ジークさんが前衛として野良犬を相手にしている間にオットー君が矢を放つ。
オットー君の弓は“なりたて冒険者の弓”。これも初期装備である。基礎攻撃力は10程度。クリティカルがでないと野良犬を仕留めることは難しい。
「きゃん!」
矢を受けた野良犬が悲鳴を上げて、倒れる。
ちなみにこのゲームにはフォーメーションがあり、前衛と後衛に分かれることができる。3名編成のパーティーなのでそこまでの自由度はないけれど、前衛はダメージを引き付けてくれるし、後衛はそれを支えられる。
今の状況だとジークさんが前衛でオットー君、ミーナちゃん、そしてディアちゃんが後衛になるだろう。オットー君は前衛を務められるだけのHPがあるが、ミーナちゃんは魔術師なだけあって前衛には向いてない。ディアちゃんは装備次第でどちらもいける。
なので、パーティーメンバーを選ぶときは慎重に。
バックアタックを受けると前衛と後衛が逆転してしまうこともあるのでそれにも注意しよう。時間経過で入れ替わることはできるけれど、その数ターンを生き残ることが重要になってくる。いろいろと錬金術アイテムを駆使して戦おう。
え? 私の今のポジション?
傍観者じゃないかなあ。
「樽爆弾!」
そして、オットー君に続いてディアちゃんが樽爆弾を投げつける。
……いやさ。ゲームでもディアちゃん、樽爆弾投げつけてたし、驚くべきことではないんだろうけれど、あの細腕で重たそうな樽爆弾をひょいと投げつけられるのが不思議でたまらない。ディアちゃん、どれだけ腕力あるの。
樽爆弾は落下の衝撃とともに炸裂し、野良犬たちを吹き飛ばす。
これで野良犬の群れは全滅だ。
「後は機械油だけだね」
「お化け石っていったいなんだっただろうな?」
ディアちゃんが気合を入れてそう告げるのに、オットー君が首を傾げる。
実際にゲーム中では何の説明もなかったので謎である。
「急がないと暗くなっちゃう」
ディアちゃんはそう告げて歩みを速める。
お化け石で機械油を採取してドーフェルの森を出るころには夕刻だろう。
急がないといけないね。
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明日からは1日1回更新になります。




