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変わりつつあるゲーム

……………………


 ──変わりつつあるゲーム



 ディアちゃんとドーフェルの森に行ってから1日が過ぎた。


「ぐーるーぐーるー♪」


 ディアちゃんは今日も絶好調で調合に励んでいる。


「ディア。今日は何を作っている?」


「ジークさんの依頼で治癒ポーションを10本ね。ジークさんが言うにはこの付近に魔物の群れが現れて、それを追い払うのに自警団の人たちにも出てきてもらってるんだって。でも、どうしてこんなに何もない街に魔物が来るのかなー?」


 ……それは私から魔王の座を奪おうとしている魔物の集まりでは。


 私の朧げな記憶によれば、確かに序盤に魔物の群れが現れて、ジークさんがポーションの大人買いをしていくイベントがあったはずだ。まさかそれが街の中に魔王がいることの伏線だなんて気づきもしなかったけれど。


「ジークとやらで魔物は相手にできるのか?」


「ジークさんはここら辺で一番強い騎士だからきっと大丈夫! ジークさんに相手にできない魔物はいないよ。どんな魔物でも一撃でノックアウトしちゃうから」


 私の質問にディアちゃんは熱を込めてそう語る。


「ひょっとして貴様、その辺境の騎士とやらに惹かれているのか?」


「ええっ!? そ、そんなことはないよ?」


 ディアちゃん、顔真っ赤で分かりやすいです。


 エーレンフリート君も外面はイケメンではあるんだけど、中身はポンコツだし、その点ジークさんは外も内もイケメンなのでディアちゃんが惹かれるのも分かるというものだ。ジークさん、アンケートで結構人気高かったしね。


 しかし、ジークさんルートの攻略は難しかったはずだぞ、ディアちゃん。ジークさんってああ見えてそれなりに繊細だから、探索パートで好感度を上げて、依頼を成功させて、特殊イベントをこなして、初めてルートに入るのだ。


 けど、ディアちゃんがその気なら私は応援するよ!


「ところで、ルドヴィカちゃん。お願いがあるんだけど」


「なんだ?」


 お願いって何だろう?


「ゴーレムのヘルムート君が便利だからもう1体作ろうと思うんだ。それに新しく作った装備がどれくらいのものか確かめてみたいし。だから、一緒に探索に付き合ってくれないかな? 忙しいなら諦めるけど……」


 そう告げてディアちゃんが私を見る。


 ここは正直に言うとジークさんとかオットー君とかミーナちゃんを誘ってほしい。この3人は主要人物だし、今からレベルを上げておかないと後で苦労することになる。


 魔王である私のレベルを上げてもしかたないので、ディアちゃんには心苦しいのだが、他の3人を誘ってほしいところ。


「おはよー、ディア。依頼の品、できてる?」


「ディア。依頼の素材取ってきたぞ」


 そんなことを考えていたらミーナちゃんとオットー君がやってきた。


「いらっしゃい! ミーナちゃんの依頼の品はできてるよ。クッキーの詰め合わせだね。オットー君も依頼ありがとう。これはお礼の疲労回復ポーション」


 ディアちゃんはテキパキとミーナちゃんとオットー君に応対する。


「ディアよ。この者たちに探索は手伝わせてはどうだ。そのため日ごろからに馴れ合っているのだろう?」


 ディアちゃん、このふたりを誘ってみたらどう? と言いました。


「そっか。ミーナちゃん、オットー君。これから暇?」


「ん。暇と言えば、暇だな。何のクエストも受けてないし」


 ディアちゃんが尋ねるのにオットー君が肩をすくめてそう告げる。


「私も暇かな。会社の仕事もないし。ディア、何か面白いことでもやるの?」


「探索に付き合ってもらえないかなって思って」


 ミーナちゃんが告げるのに、ディアちゃんはそう告げた。


「素材なら俺が取ってくるぞ?」


「ゴーレムを作るための素材なんだ。多分、オットー君には分からないと思う。粘土質の土と硝酸、機械油、水銀って言ったら分かる?」


「それはちょっと分からないな……」


 オットー君は魔物素材と薬草などの素材は取って来てくれるが、他の素材は頼めないのだ。鉱物などの素材は自分たちで採取するしかない。ゴーレムに必要な素材は鉱物ばかりで、オットー君には頼めない。


「でも、大丈夫なのか? ジークさんから依頼受けてるんだろ?」


「そっちの方は大丈夫! オットー君が素材取って来てくれたし、バンバン作れるよ。もう6本作ったから残り4本。あっという間だね。私も素材採取にいくから、残り4本も納期までには絶対に納められるよ。ヘルムート君もいるしね」


 そう告げてディアちゃんは自慢げにヘルムート君を指さした。


「この子、ゴーレムなの? あたしゴーレムってもっとメカメカしい感じだって思っていたんだけど。この子はそういうのなくて可愛いね!」


 そう告げてミーナちゃんはカウンターの内側に入り込むとヘルムート君を掲げた。


「認識名称ヘルムートです。マスターのご友人ですか?」


「喋ったー!」


 ヘルムート君がむすっとした表情で告げるのにミーナちゃんが目を丸くする。


「ゴーレムが喋るのがそこまで珍しいのか。無知な娘だ。所詮は辺境の地だな。これぐらいのことで大騒ぎするとは。ゴーレムは人間の仕事を代替するために生み出されたのだ。人間との会話ぐらい平気で行う」


 ゴーレム喋るのって最初は驚くけれど、次第に慣れるよと言いました。


「ええー。でも、やっぱり凄いよ。私の周りでゴーレム使ってる人なんていないし、この子って人間の子供みたいに可愛いし。よろしくね、ヘルムート君!」


「ひょおをひっぴゃらないでくらひゃい」


 ミーナちゃんがヘルムート君の柔らかほっぺを引っ張りながら告げるのに。ヘルムート君がさらにむすっとして応じた。


「もっと笑った方が可愛いぞー。ほらほら、笑顔、笑顔」


「もう。ミーナちゃん。ヘルムート君をいじめないでよね。その子おかげで錬金術がとっても捗っているんだから」


 ミーナちゃんが無理やりヘルムート君を笑わせようとするのにディアちゃんが、ミーナちゃんの手からヘルムート君を取り上げた。


「ごめん、ごめん。でも、よかったら私にもゴーレム作ってくれない? この子って絶対に人気者になれるよ。私の会社で雇うから作ってくれないかな?」


「むむ。そうだね。確かに今の仕事はヘルムート君で大丈夫ではあるし、ミーナちゃんがどうしてもっていうなら作るよ」


「どうしても!」


 あれま。依頼発生だ。


 けど、ゴーレムを作って欲しいなんて依頼あったっけ? ゴーレムは全部自分用で、他の人のために作った記憶はないけれど……。


 そもそもゴーレムが手に入るのが物語中盤の資金に余裕が出来て、それでいて人手不足の時に作るって感じだからな。こんなに序盤の序盤でゴーレムがいるのはおかしいのだ。そのせいでゲームの流れが変わってしまったのかも。


 これでいいのかどうかは分からないけれど、少なくともディアちゃんの錬金術レベルは上がりそうだ。難しいゴーレム錬成に2度成功すれば、経験値がぐんっと得られるだろう。ミーナちゃんの依頼はナイスだよ。


「それじゃあ、ミーナちゃんのゴーレム作りのためにレッツゴー!」


「わー!」


 ディアちゃんが告げるのに、ミーナちゃんが歓声を上げる。


「でも、このゴーレムって何ができるんだ?」


「調合を手伝ってくれるよ。ヘルムート君のおかげで錬成の成功率も大きく上がってるし、一日にいっぱい錬成できるしね」


 オットー君が自分より遥かに小柄なヘルムート君を見下ろして尋ねるのに、ディアちゃんがヘルムート君の頭を撫でながらそう告げる。ヘルムート君はいつものメトロノームのように首を左右に振りながらそれに応じていた。


「へえ。便利だな。戦闘用には作れないのか?」


「うーん。どうだろうね。こんなに小さいから無理かも」


 いやいや。ディアちゃん、この子は戦闘にも向いているよ。小柄だけどハンマーを武器に戦うし、樽爆弾だって使えるからね。それでいてHPも高いし、探索用に育てるといろいろとメリットがあるな。


 もっとも、ゴーレムのエンディングを迎えるルートはなかったので、ゴーレムと探索に出かけて好感度を上げてもしょうがないんだけど。ハーレムエンドを目指すならば、ゴーレムたちはおうちに留守番だ。


「それじゃ、ついでに俺もディアに依頼いいか?」


「何かな? 何かな?」


 オットー君が告げるのにディアちゃんが口を傾げる。


「それがな。なんでも最近は変な魔物がでるって噂だろ? 俺も用心のためにポーションを準備しておきたいんだ。俺はソロの射手だから、気配遮断ポーションがあれば便利なんだけど、ディアの店で扱ってるか?」


「気配遮断ポーション。うーん。そのレシピはないかな。すぐには用意できないけれど、数日待ってもらえたら準備するよ」


「じゃあ、1ヵ月で頼む。俺って弓専門で後はダガーが使えるだけだから、なるべく魔物には感づかれない方がいいんだ。気配遮断のポーションがあれば助かるよ」


 気配遮断ポーションか。


 文字通り隠密(ステルス)状態になれるポーションだ。バックスタブが取りやすくなって、戦闘を優位に進められる。ゲームではディアちゃんが服用するだけで全員に効果があったけど、ゲームが現実になった今どうなるんだろうね。


 まあ、オットー君には必須の品だろう。彼ってソロで冒険者やってるし、戦闘スタイルは弓矢で相手を一撃で仕留めるって戦闘スタイルだから。ディアちゃんのポーションがあれば、オットー君も助かるんじゃないかな?


「それじゃ、まずはレシピを手に入れないとね。本屋さんにあるかな」


「本屋で扱っている程度の簡単なレシピだ。単純すぎるレシピに過ぎん。さっさと買い揃えるがいい。それぐらいの金もあらぬとは言うまい?」


 本屋さんに安く売ってあるよと言いました。


「では、先に本屋さんに出発!」


「おー!」


 ディアちゃんが告げるのにミーナちゃんとオットー君が声を上げる。


「ルドヴィカちゃんも時間ある?」


「私の時間だと?」


 え? 私もついていく流れ?


「私は魔王ルドヴィカ。時間すら私の前にはひれ伏すだろう。時間があるかなど愚問である。私は常に時間というものに振り回される下等な人間たちと違って、時間すらも超越しているのである。その私に時間はあるかだと? 愚かな」


 今、暇だから手伝ってもいいよと言いました。


「本当にお前、えらそーだよな。魔王って本当なのか?」


「貴様! 小僧、陛下のお言葉を疑うつもりか!」


 あっ。オットー君がエーレンフリート君の地雷踏んだ。


「おい。あんたには関係ないだろ。俺はそっちの偉そうな女の子のほうに話してるんだぜ。それに魔王だって言ったけれど、魔王っぽいところ見せてもらってないしさ」


「死にたいようだな、小僧。ならば、私がその首を刎ね飛ばし、貴様を陛下の前に跪かせてくれようではないか。魔剣“処刑者の女王(ブラッディ・メアリー)”」


 案の定、エーレンフリート君がキレて黒書武器を抜いたよ。


「やろうってのか」


「勝負にすらならぬわ。貴様は陛下に盾突いたことを後悔して──」


 エーレンフリート君が本気でオットー君に斬りかかる前に私はエーレンフリート君の襟をぐいっと引っ張った。


「やめよ、エーレンフリート。下らぬことだ。そのような盲目の者に我が力を見通すことはできまい。だが、教育してやることはできる」


 エーレンフリート君、私がやるから黙って見ててねと言いました。


「魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”」


 そして、私はその物騒な黒書武器を空間の隙間から引き出す。


 この空間の隙間が何なのかは分からない。ディアちゃんが持っているショルダーバックと同じような現地の代物なのかも。こんな巨大な剣を持ち歩くのは無理だし、便利ではあるけれどできれば私もディアちゃんみたいな可愛い感じのバックが欲しかったな……。


「ああ! それってグリフォンを吹き飛ばしたのだ!」


「え? グリフォンってドーフェルの森にすみ着いていた赤毛の奴か?」


「そうそう! ルドヴィカちゃん、あれでグリフォンを吹き飛ばしちゃったんだよ」


 オットー君が驚きの表情で告げるのに、ディアちゃんがまるで自分のことのように自慢げにそう告げたのだった。


「マジかよ。すげえな……。ドーフェルの森の赤毛のグリフォンと言ったら、人食いグリフォンだって恐れられていたのに」


「あんなもの小鳥にすら劣るわ」


 まぐれで勝てましたと言いました。


「ほらほら。あのグリフォンの羽で帽子を作ったんだよ。どうかな?」


 ディアちゃんは防具職人さんからレシピを買ったらしく、グリフォンの赤毛の羽が綺麗に添えられた帽子を手にして、被って見せていた。


 グリフォンの羽根帽子は回避力アップの他に風系統の魔術への耐性がつく。それから何も被っていないよりも防御力は上がるのだ。流石にただの帽子ではあるので、鉄の兜みたいには防御力は上昇しないけれど。


「わー。ディアがお洒落してるー。明日は雪かな?」


「ミーナちゃん。酷い!」


「冗談、冗談。似合ってるよ、ディア」


 この子たち、本当に仲いいな。


 私も言語野に魔王弁と中二病がインストールされてなければ混ざりたいのだけれど。


「それで、本屋に行くのだったな」


「そうそう。気配遮断ポーションのレシピを買わなくちゃ」


 私が告げるのに、ディアちゃんがコクコクと頷く。


「あれは安いものだ。貴様のちゃちな蓄えでも買えるだろう。行くか?」


「レッツゴー!」


 私が告げるのにディアちゃんが右腕を振り上げる。


「それじゃ、私たちもついていくね。最近街の雰囲気が良くなったって聞くし、この街で商売している身としては見逃せないよね」


「俺も食堂に珍しい料理がでるようになったって聞いたなあ」


 おや。私の仲間たちが頑張っているおかげかな?


「街の様子を見ながら本屋さんに行こうか。レシピが分かったら、集めるべき素材も分かるし、探索もその後でいいよね」


 というわけで、私はディアちゃんたちと一緒に本屋さんへ買い物に。


……………………

本日は2回更新です。

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