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それぞれのドーフェル市

……………………


 ──それぞれのドーフェル市



「いらっしゃいませですのじゃ、主様。お食事ですかの?」


「このような場所で食事をするつもりはない」


 今はお腹減ってないからといいました。


 そう、今日のお昼は既にディアちゃんのお弁当を食べているのだ。


 フルーツサンドに、BLTサンドに、甘めの卵焼きに、一口ハンバーグ。ディアちゃんは錬金術の才能ばかりではなく、料理人としての才能もあるようである。どれも美味しかった。私は大学生時代はひたすらコンビニ弁当だったよ……。


「しかし、香ばしい匂いがするな」


「おや。お気づきになられましたかの。さっそく妾のレシピを試しているのですじゃ」


 この懐かしい香りはお出汁の匂いではないだろうか。


 もしかして、さっそくきつねうどん作ってるのかな?


 う、うーん。さっき食べたばかりなのにお腹が空いてきてしまったぞ。


「ところで、九尾よ。店はあまり繁盛しておらぬようだが」


「まあ、妾が来てまだ1日目ですからの。これからですじゃ。妾の料理はなかなかの好評であるようですのじゃ。人間たちを堕落させるには、生活に不可欠な食から手を付けるのが一番とは言ったものでありませぬか」


 そう告げて九尾ちゃんはにししと笑った。


「九尾さん。お客さんですか?」


 私たちがそんな会話をしていたとき、厨房の方から男の子が姿を見せた。


 10、11歳くらいかな? まだ小学生って感じの子だ。あどけない表情をしていて、九尾ちゃんの後ろから顔を出した。


「妾の主様じゃ。紹介しておきますかの。こちらの小僧はヘルマン・ハルダー。店主のハインツ・ハルダーのひとり息子ですじゃ」


「は、初めまして」


 九尾ちゃんが紹介するのに男の子が頭を下げる。


 この子がヘルマン君か。確かにあのゲームのキャラクターの顔をしている。


 ヘルマン君は看板娘ならぬ看板少年で、注文を取ったりしてくれる。大衆食堂に来て、一番会うのはヘルマン君だ。店主であるハインツさんは厨房で料理に専念しているので、新しい料理のレシピが完成したときぐらいしか会わない。


「フン。私の配下の世話になっているようだな。礼のひとつぐらい言ったらどうだ」


 九尾ちゃんがお世話になっていますと言いました。


「あ、すみません。お世話になっています!」


 飲食店の従業員さんらしく言葉ははきはきしてる。


「だが、私の配下をいつまでもこのような貧相な店で働かせておくわけにはいかぬ。それは私への侮辱に等しい。看板くらいどうにかならないのか?」


「看板ですね。でも、街の人はみんなここが食堂だって知っているのでいいかなって」


「よくない。品格を疑うぞ」


 看板を綺麗にしたらお客さんがいっぱいくるんじゃないかなと言いました。


「我が配下を貸し出してやっているのだ。看板を立て直すぐらいの金は余裕で手に入るであろう。そうなったらまっさきに看板を立て直し、その存在を世に知らしめよ。自分たちから何かをしなければ、衰退していくだけだぞ。貴様は座して死を待つのか?」


「が、頑張ります!」


 看板綺麗にするお金は多分九尾ちゃんが稼いでくれるから、それでお店の宣伝になったらいいよねと言いました。


「さて、小僧。貴様は九尾の料理を食したか?」


「はい! とっても美味しかったです! とくにきつねうどんっていうスープパスタがとっても美味しいんですよ。麺は今までのパスタにないような食感で、油揚げっていうのがまた美味しいんです。スープも優しい味でたまらないです」


 おお。流石は飲食店の従業員。ちゃんと味を見ているね。


「九尾よ。今はきつねうどん程度か?」


「後は稲荷寿司ですじゃ。なんともこの店の仕入れは貧相で和食を作ろうにも、いろいろと材料が足りませぬからの。せめて、味噌でもあれば変わってくるのですのじゃが」


 味噌か。私の自宅(幽霊屋敷)にはあったけど、この食堂にはないのか。


「ちなみに九尾よ。近々褒美としてあの光を有するかもしれぬ錬金術師に何かを作らせる。欲しいものはあるか?」


「褒美ですかの。嬉しいですじゃ。ならば、上等な味噌を所望いたします。そうすれば主様の料理にも、この食堂の料理にも使えますのじゃ」


「忠義なことだな。褒美であるぞ?」


「妾にとって主様を喜ばせることは何よりの褒美であります故」


 九尾ちゃんは尽くしてくれる系女子だね。悪の四天王とは思えないよ。


「では、そのように手配しよう。望むものが手に入るとよいな」


「まあ、あのぼけっとした錬金術師の作るものですからの」


 私が告げるのに、九尾ちゃんがけらけらと笑った。


 そこで私は気づいたのだが、ヘルマン君の視線がずっと九尾ちゃんを向いている。ただ興味があるだけとは思えない視線だ。これはもしかして……。


「小僧。我が配下に何かの興味があるのか?」


「い、いえ。そういうわけじゃないです、はい」


 ばればれだぜ、少年。


 まあ、九尾ちゃんが13歳くらいの外見年齢だから、ヘルマン君には年上のお姉さんに映るんだろうね。それも可愛いお姉さん。憧れる気持ちは分かるよ。


 だけど、九尾ちゃんはその外見年齢の数百倍の年齢だからね。それにうっかり近づこうものならば酷い目に遭うかもしれないよ。九尾ちゃんも法に従うっていう私の宣言は聞いているだろうけど、法に触れずに酷い目に遭わせる方法もあるし。


「やめておけと忠告しておいてやろう。貴様のためだ」


 九尾ちゃんには注意してねと言いました。


「は、はい……」


 少年、初恋とは儚いものだぞ。


「では、次に向かうか。次はイッセンだな」


「はっ。イッセンめは街の鍛冶場で働いております。ご案内しましょう」


 というわけで、私は再びエーレンフリート君に連れられて、イッセンさんの働いている鍛冶場に向かった。


 鍛冶場は職人通りに位置している。ここも商業地区の再開発で発展していく場所だ。最初は素人の鍛冶職人さんと防具品を売っている防具屋さんがあるだけの侘しい場所である。発展していくと、鍛冶職人さんのレベルも上がり、紡績職人や大工職人、染め物職人などが進出してくるんだけど。


「鉄を打つ音が聞こえますね。イッセンのものでしょう」


「そのようだな」


 よく分からないけど分かっている振りをしました、はい。


 私たちは空き家の目立つ職人通りを進み、鉄の音がする方向を目指す。


 すると看板が目に入った。“鉄の魂”という看板が目に入った。鉄を打つハンマーと炎が描かれた紋章も目に入る。


「ここだな」


 私はそう告げて扉を開いた。


「いらっしゃいませ」


 私が扉を開くとまだ若い青年が出迎えてくれた。


「貴様、名はなんという?」


「えっ。フランク・フェルギーベルです。この“鉄の魂”のマイスターを── 一応はやっています。ほとんど肩書だけですけど」


 この人もゲームの時には登場したな。


 武器のレシピや武器の強化に必要なレシピは彼から手に入れるのだ。もちろん、お安くはない。さらに最高の武器を作るにはこの“鉄の魂”のマイスターであるフランクさんからの依頼を達成させなければならない。


「実際に鉄を打っているのは誰だ?」


「少し前までは親方が打ってたんですけど、持病の関節炎を悪くして、引退しちゃったんです。だから、今鉄を打っているのは私と──」


 フランクさんの視線が奥の工房の方を向く。


「ハーゼ交易から紹介のあったイッセンさんと言う方が精力的に取り組まれています」


「なるほど」


 イッセンさんはもう第一線で働いているのか。流石だな。


「奴の仕事ぶりはどうだ?」


「とても熱心に仕事されております。腕前も親方以上に優れているようでして、あれが鉄を知り尽くしているっていうんでしょうね。今は包丁を作ってもらっているんですが、あれが完成したらきっと凄い切れ味に違いないですよ」


 イッセンさんって鍛冶が得意っていうの本物だったんだな。


 私とエーレンフリート君ときたら、何の特技もないのにさ。


「仕事場を覗かせてもらうぞ」


「え? イッセンさんが仕事中なのでなるべく静かにお願いしたいのですが……」


「フン。たわけたことを抜かすな。あれは私の配下だ」


 なるべく静かにしますと言いました。


「イッセン。仕事の調子はどうだ?」


「はっ。我が主。鉄を鍛えるというのは落ち着きます」


 私が尋ねるのにイッセンさんがそう告げた。


 イッセンさんは赤熱した鉄をハンマーで力強く叩いている。


 鍛冶のことはよく分からないけど、凄そうだ。ゲームだとカンカンカンって音がしてるだけだったからね。こんな鉄の熱気も、鉄が鍛えられていく迫力も感じなかったよ。リアルになるとどれも凄いな。


 ……これだけ周りがリアルな分、ディアちゃんの錬金術が木べらで掻き混ぜるだけというのが気になるところである。


「ふむ。満足しているようならばよい。あの小娘もちゃんとしたところを紹介したようだな。貴様が満足していないようならば、あの小娘を締め上げねばと思っていたが」


「ご配慮、感謝いたします」


 ミーナちゃんもいいところを紹介してくれて安心したよと言いました。


「ところで、貴様。近々、あの錬金術師の小娘に命じて何か作らせるつもりだが、何か欲しいものはあるか? 何、日ごろの私への貢献に対する褒美だと思え」


「……よろしいのですか?」


「構わぬ。何なりと申してみよ、イッセン。もっとも、あの小娘に貴様の望むものが作れるかは分からぬがな」


 ディアちゃんでは作れないものもあるかもよと言いました。


「そうでしたら、醤油煎餅をいただけないでしょうか?」


「醤油煎餅か」


 あるんだよね、このゲームに醤油煎餅。


 そこまで難易度の高くないレシピで、お手軽に作れたはずだ。ディアちゃんがそのレシピを持っているかどうかは分からないけど、なかったら50ドゥカート程度で買えるし。


「今日の昼に九尾のいる食堂で食事をしたのですが、きつねうどんで故郷の味を思い出してしまい、醤油煎餅が食べたくなってしまったのです。よろしければ醤油煎餅を」


「分かった。伝えてやるとしよう」


 イッセンさんって日本人じゃないと思うんだけど、きつねうどんと醤油煎餅が故郷の味って日本だよね……? というか、この世界に日本と言う国家は存在するのだろうか。


 ここはローベルニア王国。人名はドイツ語系が中心で、建物も南ドイツな雰囲気を発している。だが、架空の国家だ。人々は醤油や味噌に慣れ親しんでいるし、米だって食べている。パンとかも食べるけれど。


 まあ、そこら辺はメイド・イン・ジャパンのゲームだからということなのだろう。


「仕事に励むのだぞ、イッセン。期待しているからな」


「はっ」


 イッセンさんはまた黙々と仕事に戻った。


 しかし、エーレンフリート君がアップルパイで、九尾ちゃんが味噌で、イッセンさんが醤油煎餅か。見事に食べ物ばっかりになったな。


 ベアトリスクさんは違ったリクエストがあるかもしれないし、まあ食べ物だけでも問題はないだろう。むしろ、下手に高級商品をリクエストされると、ディアちゃんが作れないという状況になってしまう。


 これはあくまでディアちゃんの収入源作りであり、ディアちゃんの錬金術師としてのレベル上げのためだから、最初は簡単な依頼で。


 後々レベルが上がってきたら、街も発展するだろうし、それまで頑張ろう!


……………………

本日の更新はこれで終了です。


いかがだったでしょうか?


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