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調理師が迷宮主になるまで

冷たく固い床の上で横になっていた俺は飛び上がるように起き上がった。


生きて、る?


いやまて、皆は?


俺の、店、は…


……おいおいその前に何処だここは?

全体を見渡しても周りに人の気配はない。

立ち上がり部屋を調べてみる。

立つ時に気づいたが体が結構痛い。

それと真新しかった衣装も汚れている。

白を基調にしているため煤っぽいのが目立つけど焦げてる所はないのは嬉しい。

しっかり洗えばまだ使えるだろう。


部屋はそれなりに大きい。

俺の店の第一ホールぐらいある。

ってことは三十、二十だったから六百平方メートルぐらいかな?

まあ、そこまで気にすることでもないか。

あと結構太い柱が二本立ってるんだが。


この柱の装飾は……いや、やっぱ知らんわ。

似てるかなと思ったけどよく見たら全然違った。


しかしこの部屋…おかしすぎる。

基本の材質は石材だろうがこれも見たことの無いものだ。

まぁここまではいい。

俺の知らない石材など世界中を探せばいくらでもあるだろうからな。

青みが強くて個人的には好きな感じだがそれもあとにしよう。

問題は窓も扉も見当たらない事だ。

どこかに隠し扉でもあるのだろうか?

だとしてもデコイもないもないのか?

それに窓や扉以前に切れ目が、繋ぎ目がない。

床はタイルや長板、ブロックでもいいがそれらが見当たらない。

一枚岩の床とか聞いたことない。

天井はかなり高い。

恐らく四メートルは超えているだろう。

そして空気穴や採光窓も見当たらない。

一体ここの空気の循環はどうなっているのだろうかと言いたいレベルで隙間がはい。

密室どうこうの前に密閉空間である。

酸欠、窒息は出来れば避けたい死に方のひとつなのだが……。

いや、空気が淀んでる感じはしないなぁ。

一旦保留にしておこうか。


家具もあるが全て同じ石造りだ。

これは流石に床にくっついてるわけでは無さそうだが、空っぽの本棚、細かい意匠が入った長テーブル、かなりゆったりとした椅子、その前のテーブルの上には皿やナイフやフォークといった食器、食具が並んでいる。

このセットが九人分。

ちなみセッティングはされていない。

無造作に並べられているだけだ。

あぁ、あとグラスもある。

丸みのあるボウルで飲みがかなり狭まっているタイプ、簡単に言うとブルゴーニュタイプで統一されている。


このように会食の準備のような光景が向かって右側にあるわけで、部屋全体は2本の柱で大体3等割されているのだが、左側には先程の本棚やらまたタイプの違う椅子やらが置かれている。

見たところ広々としているが一人用といった印象を受ける。

右の長テーブルは9人用意があったのにだ。

どうせならこちらも暖かい暖炉を壁に設置してそれを半円状に囲うようにソファーを幾つかの置いてくれればいいのに。

まぁ、ここで言っても仕方の無いことだが。

それに今のここにいるのは俺ただ1人なのだしね。


そして2本の柱の間、この空間の真ん中に唯一謎石材以外の材質のものがある。

透明度が高いバスケットボール大の水晶玉だ。

人口水晶やクリスタルガラスとかではなく本物の水晶なら世界最大とは行かなくともトップクラスにランクインするのは間違いないサイズだ。

しかも驚くべきは完全に無色透明な事だろう。

ここまでの透明感は人工物でもギリギリ出せるか否か、と言ったところだと思う。

残念ながらそこまで鉱物や宝石に詳しいわけではないのだけれども。


が、しかし、しかしだ。

俺の本能がこの水晶玉を拒んでいる。

なんというか触ったらダメだと体は分かっているようだ。

前にもこのような事があった気がするのだが何故か思い出せない。

ちなみに頭的には一番怪しいので調べたいと思っている。

だけれども、……そんな感じだ。


仕方ない、この水晶玉も一旦保留にしよう。

この部屋はだいたい分かったからまず整理しようか。


空調正常。

温度、湿度共に適当。

光源らしきものなし、しかし目視可能。(もはや意味不明)

食料なし。

水なし。

便所なし。

内部からの破壊ほぼ不可能。

脱出まず不可。



………あははっ!

さ〜て何日で死ねるかなぁ〜。


いやいや、マジで死ぬだけじゃん。

どうしてくれんのよこれ。


それにこの状況簡単に言うと誘拐、監禁、放置、だよな。

それがまずおかしいんだよ。

俺を誘拐する理由が分からんし、何よりあの時店には父上から紹介された警備の人や、馬鹿みたいに強い兄弟達がいた。

一万歩譲って店を爆発、炎上出来たとしても、さらに銃やら爆弾やら毒ガスやらに対応出来る人がいた中、俺を殺さずに連れ去る?

ありえない!

出来るわけがない!

それに俺だって吹っ飛んで炎にぶち込まれようともそう簡単に意識を手放したりなんてしない。

何をどうしたらそんなことになるってんだよ。



でも実際今俺はこのわけのわからんとこにいる。

あぁ、なんなんだよ、畜生が!













あれから五日ぐらいたっただろうか。

あぁもう頭が働かねぇし、くそ痛えし。

ダメだ、やばいわぁ〜。

水、水を。

腹も減った、よな?

もうホントだめ、ムリ。

いろいろよくわかんなくなってきてる。


でも、そうだなぁ

とびきりうまいもんがくいたいなぁ

あといいさけも……


ブォン!


う、ん?

いまなんか、まあ、もうわからんや

あとはしづかに…死ぬだけ、か


ックっ、ふふふっ。

わらえて…くる…ねぇ






更に二日後






バリッ

「っざっけんなっ!」


冗談じゃねぇ。

誰が脱水アンド餓死してやるか。

死因のワーストトップじゃねぇかよ。


あ〜、今ので張り付いてた唇裂けたし、肌はガサガサパリパリだし、指先の感覚ないし、目も開いたけど痛いし、白っぽくてほとんど見えないし。

どうせならあいつらと酒飲んで、いい女と笑って死にたいし、死んだら灰にして埋めてその上に綺麗な花咲く樹を植えて欲しいし。


大体なんなのさ。

やっと自分の店を持ってこれからだってときにさあ。

やっとの事で掴んだ夢をさぁ、その瞬間に燃やしてくれなくてもよくないかなあ。

しかもこんなよくわかんない所で一人でこんなに苦しんで死ぬとかとっても嫌なんですけどねぇ。

俺まだ二十三だよ。

確かに夢叶えたけどさぁ、あくまであれは第一歩ってやつでしょ。

もう少し長生きしたいわけですよ。


はぁ、まじふざけんなよ。


ったく何処の誰の仕業だよこれは。

こんな舐め腐ったことしてくれたやつはよぉ。

ころすわ。

たとえなにがあろうとも。

俺がこのまま死んでも魂だけで呪い殺してやるわ。


あー、あぁ〜〜、、アーッ!

畜生っ、もうテンションもおかしいし、体痛いし、やっばっ、なんか涙出てきたわ。

あぁ、あ、みず、水が。


全くよくこんな状態で涙が出るわ。

マジでなんで出てるんだろう。

普通枯れるよね。

あ、でも涙のおかげか目の前がよく見えるわ。

めちゃくちゃ目ェ痛いけどね。


おうおう、あの愛しの水晶ちゃんが見えるじゃないの?

全くなんだって……、うん?

愛しの水晶は冗談だけどなんかあの水晶玉に対する嫌悪感やらなんやらが湧いてこないねぇ。

あーれー?

あのヤバい感じがあったからずっと遠ざけてたんだけど。


全くかんじない、よね?

遂に本能やら警戒意識も枯れ果てたのかな?

クフッ。

まぁもうなんでもいいか。

それじゃぁちょっとみてみるかな。


さてと、立てるか…なっと、無理そうだねぇ。

なんとか体は動くけど足に力が入らない。

仕方ない這いずりまわるとするか。


ガタッ


おーおー痛いねぇ。

ちょっと椅子から落ちるのはキツかったね。

体のことを考えると横になった体勢がいいんだろうけどうしてもなんか飲みたい、食いたいと思ったらテーブルから離れられなくてね。

ずっとすわってたわけだね。


よ、い、しよっとっ。

足引きずって腕で歩いてる感じだけど。

あ〜なんかもうめっちゃ軋むし痛いしだな。









あ〜〜〜っ、やっと着いた。

もう腕パンパン。

うん、そんなことないね。

ふふふっ。

あ〜改めて見るとなんでこれがそんなに悪いものに思えたんだろうねぇ。

今台座の上にはある水晶玉がちょうど顔の高さなんだけど、やっぱりこんな近くでも嫌な感じはしない。

むしろ冷たくて気持ちよさそうだ。

今のこの体でそんなに繊細な冷たさが感じられるとは思わないけれども。


それじゃあ、早速触ってみようか………

腕があがんねー。

うーわマジかよ。

仕方ないからこのまま額で触れるしかないか。


うわぁーなんか緊張するな。

すぅ〜〜、はぁ〜〜。

……よしっと。

それじゃあ。


コツン!








彼の兄弟は普通ではありません。

もちろん彼自身も。

何より父上が。


ちなみに兄弟の中には姉妹も含んでおりますのであしからず。

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