アンデッド達と歴史と昔語り
木々の間にパオラの家が見えて来た時、いや、それ以前からおかしな感じがした。
生き物がいないのだ。
魔物、霊、獣、鳥、そして虫さえも感じ取れなかった。
そして木々は風に揺れながらも木漏れ陽は微かで、森は静まり足元の草花もこうべを垂れて、ただじっと時が過ぎるのを待っているようだった。
そんな不気味な気配を感じながらも到達したパオラの家、その屋根の上では白い梟と黒い梟が隣合って止まっていた。
白梟は放っておいて新顔の黒い梟をよく見る。
名前
年齢 0
種族 シャドーソウルビースト
魔力C 闘気F 霊力C
筋力 F
耐久 E
敏捷 D
精神 C
器用 D
幸運 E
特殊 D
スキル
闇属性 風属性 夜目 霧化 影移動 魔力吸収 追跡 気配遮断 毒
この迷宮の領域の外で簡単に表示が出たってことは仲間、正確には迷宮に身内として認められたモンスターだと言うことが昨日読んだ本の知識でわかる。
ヴィオラ達のこの手の能力値は閲覧できていないし。
メイビスと共に目の前までやってきており、黒い方が少し小さいぐらいなのだが輪郭というか、物体として安定しておらず揺らめいたり黒い靄が吹き出していたりする。
興味深く観察しているとメイビスが俺に知らせてくる。
曰く、この黒梟はここら辺にいた魔獣や動物を狩って死霊魔法で作り上げた自分の下僕である。
具体的には五十体程の生き物の血肉と魂全てを使って作った。
自分以上に陽光が嫌いな夜行性だがまぁ我慢させてる。
少し狩りをさせて見たところまあまあ使えるはず。
何故、迷宮から仲間扱いされてるかは定かではないがまあ発生の由来だと思う、とのことであった。
最後の意味はメイビスという迷宮所属者が完全に新しいモノとして生み出したからだと言いたいのだ。
元々死に損ないで俺が変質させているけれど意思、精神、魂はそれ以前からあったヴィオラとはそこが違う。
とりあえず、まだまだ少ない部下が一匹増えたと思えばいいだろう。
迷宮を本格的に始動させるならあと百体程は最低でも欲しいところだ。
あ、丁度いい。
俺も死霊魔法みたいに『生死』の権能でモンスター作って見るか。
パオラの家の辺りは他人が近づくこともほぼないみたいだし。
よーし、ちょっと皆離れといてね。
それじゃあ、えーっと、こうかな?
「冥界接続」
おぉ。
俺の目の前に地面に穴が空いた。
丸い様々な色の光の玉が思い思いの軌道で湧き上がって来るのはなかなか面白い光景だ。
今回はそれなりに心の清らかそうな者、それもこの地域に縁ある者を呼ぼうとしたんだが、どうかな?
まず第一に自意識はあるかな?
おっ、幾人かは俺に喋らないけど思考を発して来たね。
あー、なるほど君達知りあいなのか。
うんうん、いやぁあんまり良い知り合いでもないし、死に方もねぇ。
それでも問題はなさそうだね。
よし、君達は雇用決定ね。
他のは、あぁ、動物や魔物の霊か。
うーん、まぁこちらに対する敵意は無いのは確かだねぇ。
感情は伝わってくるけど細かい思考までは至ってないのかな。
まずは俺の手足となる、戦闘に使うモノが欲しいという事を思念で伝える。
積極的に使い潰すつもりはないが結構な犠牲は出るだろう。
それでも良ければ第二の生も受け入れ、俺の群れで愉快な闘争の時を過ごすといいさ。
あれぇ、皆いいの?
えーっとそれじゃあ、元人間の魂が十四。
獣の魂が十一。
魔物の魂が二十三、なかなかかな?
無事皆と雇用契約(ほぼ奴隷宣言)が結べたところで俺の霊力と魔力を放出し与えていく。
メイビスも少しだけ手伝ってくれた。
ほんとに少しだけだなぁ。
そうすれば迷宮で生み出したレイスと似たようなしっかりと安定した霊体になった。
本当は肉や土、などの器を与えてもいいんだけどこの数を一気に作るのは面倒だったのだ。
あとからオプションで追加もできるので気にする事もないだろう。
俺の周囲に今現れた豪奢な服を着た五人のレイスとそれに付き従う九人のレイスが揃って跪く。
その更に周りには犬、狼、山猫、熊、餓鬼、人魚が控え、すぐ上の低空を大小様々な鳥たちが音もなく浮かんでいる。
全員飛べるだろうけれど、生前の感覚でいるから地に足つける奴等が多いな。
取り敢えず反抗の兆しや感情は感じられない。
成功と言っていいのかな?
それじゃあ、まずは挨拶からだね。
「やぁやぁ、まずは応えてくれてありがとうと言わせてもらうよ、我が下僕諸君。
これからは俺の望みが君たちの願いとなる。
覚悟し、歓喜するといい、願いは高く、傲慢なる支配者気取りの滅殺だ」
「偉大なる主の思うがままに。
その願い、我等と共にあることでしょう」
間髪入れずに答えてくれたのは貴族風の一人の人型レイス。
「名は?」
「生前はコスタ・ジェラルド・ロングティアと名乗っておりました。
海獣王の通り名の方が平民には知られておりましたが」
ふーん、ここら辺の貴族家の祖先かぁ。
後ろの奴等はそれに付き従う軍人と友人と御用商人。
さっきはそこまで思考を拾えなかったけど、なかなか使える奴等じゃないかねぇ。
「パァーオーラー?
彼の名前に聞き覚えは?」
ちょっと、話しかけられてビクッとするのやめてよ。
傷つくでしょうが。
「ひっ、あ、いや。
……そのぉ、ジェラルド様といえばコスタ家の四代目当主で中興の祖と言われる方です」
たった一日でだいぶ丁寧な話し方が身についてきたなぁ。
怯えた態度で台無しだし、貴族的な上流の言葉とはまた別だろうけれど。
「四代目で中興ねぇ、今は何代目?」
「十三代目ですが入れ替わりが激しく、ジェラルド様が亡くなってまだ六十年程です」
六十年後に中興の祖って言うか普通?
まぁそこは今はいいか、言葉の違いがあるし。
よし、それじゃあ迷宮に帰るか。
その間に情報交流と性能チェックもしよう。
成程なるほど。
元領主とその他違う分野の元人間の話を聞けたお陰で歩きながらかなり情報が集まった。
特にこのファルデーニャ王国と言う島国の内情と実態、そして各地の都市やダンジョンの情報はすぐにでも欲しかったところだったのだ。
情報が古いがそれでも使えそうなことの方が多いし背景を知っておくことも重要だからなぁ。
一先ずまとめて置こうか。
この島国はファルデーニャ王国。
王家一つ。
公爵家一つ。
侯爵家三つ。
伯爵家三つ。
子爵家七つ。
男爵家九つ。
この内七つの家は宮廷貴族とでも言うべき国政や外交の家で領地は持っていない。
国土と言うか島の大きさは聞く限り九州以上北海道以下。
気候や地形にそこまで偏りはないがダンジョン周辺は侵食されていて話は別。
特に東には三つのダンジョンにより人外魔境と化した大峡谷と大森林があるという。
古くは国全体が魔竜の住む鉄の島と呼ばれていたそうで、各地に竜と言う魔物やその眷属がおり、良質な鉄鉱石が産出されていた。
しかしこの世界では鉄は魔法道具の製造にはあまり向かず、世界各地に生息する魔物由来の素材がそこそこ優秀なこともあり需要は低く、万にも満たない原住民と流刑にされた政治犯が仲良く(?)暮らしていた。
そんな状況が一変したのは九十八年前のこと。
聖光歴666年大陸各地の聖教の上位神官の幾人かが同時に神の言葉を聞いた。
内容はこの島の中央付近に神の試練の塔、ダンジョン『聖光の塔』を神が直々に創ったというもの。
内容はそれだけだった。
攻略しろとも、異教徒を入れるなとも、聖地にしろとも言われなかった。
しかし態々神が創り世に知らせたダンジョンを放って置くことなど出来ない。
最初攻略に乗り出したのは俗世における聖教の頂点に位置する神聖サルヴァトーレル王国の聖王(国王)の息子、時の第三王子だった。
王子は神の声を聞いた神官の内、それぞれ戦闘と怪我の治療に特化した二人の神官と自身の従者、幾人かの賛同する貴族の子弟達を連れこの島に入り中央部を目指した。
中央部は山岳地帯となっており、また東西を分ける山脈があった。
聖光の塔があったのは山脈の中でも一際高い白と黒のマーブル模様が特徴の岩石の山、その東側の麓だった。
王子達は周囲の竜の眷属を追い払いそこに大規模な拠点を築いた。
それが今日聖教の聖地の一つである、塔に至る光の都ルーメンの興りだ。
それから王子達は塔に挑み続けた。
毎日、太陽が登り、それが月に代わるまで塔に挑み続けたという。
拠点の整備や衣食住の手配は王子の連れた従者や家の伝手を使い貴族の子弟達が主体となって行っていた。
そして遂に一年後には塔の十階層を攻略した。
その時王子達は再び神の声を聞いたという。
その内容は伏せられたが、その後王子は塔から白髪白眼の美姫を連れて帰り、彼女を娶りこの島に国を興した。
それがこのファルデーニャ王国だ。
王子は岩山の拠点とは反対、西側に広がる平地に王都セシリオを開いた。
そして部下を島の各地に派遣しそれぞれ治めさせた。
コスタ侯爵家はこの時に王子の元従者が興した家だ。
その後王子は塔に入ることを禁忌とし塔の周辺を封鎖した。
しかし数年後塔で万を超える魔物の氾濫が起き、一転してどのような身分のものだろうと塔に入ることを許可、むしろ推奨し始めた。
たとえ異教徒であろうと黙認するまでに。
ここまでがこの国のこと。
なかなかに興味深く、なかなかに腐った臭いのするお話だ。
さてさてどこまでが史実でどこからが妄言だろうか。
まぁそれを調べるのは後でゆっくりだ。
もうひとつコスタ侯爵家、それも中興の祖ジェラルドについても少しまとめて置こうか。
初代、興りは先の通り。
その後の約三十年も特に言うことは無い。
経済的なことや街の立ち位置については街に戻って商人に聞いた方がいいだろうし。
まぁそんなこんなで四代目、今はレイスになってるジェラルドが当主になった頃、ひとつの戦争が起きた。
相手はファルデーニャ王国から南東に位置する大陸の三カ国から成る連合軍。
聖教含め宗教を排斥している国々で徹底的な無神論者達だった。
いくつかの聖教を国教とする他国から援助を受けてはいたが、もとよりその三カ国は強豪でいくら同じ聖教を信じてはいても目を付けられることを恐れて、積極的な支援や友軍の進撃はなかった。というか色々かこつけてごねられた。
連合軍は上陸と内陸の都市の鎮圧も行ったが、特に力を入れたのが海軍による港の破壊及び封鎖による流通や通商の破壊だった。
島の南に位置し連合軍の本国に比較的近いロングティアも大部分が破壊された。
今の白い街並みはその後に新しく築いたものだという。
そこで動いたのが領主ジェラルドだった。
国軍や私設騎士団を引かせ、幼少期から東の領地との境にあるダンジョン『海獣の巣』に通い、魔法で従えた海の魔物達を嗾けた。
人魚と鳥人は指揮官を特殊能力で襲撃。
大海蛇や巨蟹は戦艦自体に傷をつける。
小型の海獣や魚型の魔物は海に落ちた者の急所を穿ち喰らう。
そしてロングティア周辺の掃討後、海獣に乗り国を一周するように進軍した。
五千を超える従魔を的確に動かし、野生の魔物も利用して最終的には連合軍の艦隊の二割を沈没させ、五割に前線では支障をきたすまでの損害を与えた。
何より沖合にあった旗艦を拿捕、敵の総大将である連合の盟主国の王子でもある将軍を捕虜とした。
その後連合軍から停戦を申し出があり、捕虜の引渡しと賠償金の支払いが発生する和平交渉が成された。
戦後ジェラルドは多額の恩賞を受け取った。
しかし彼は従魔の大半を失い、手傷を負った事もあり二年ほど身体を壊し床に伏せていた。
そんな彼が回復したきっかけは新しく建築された城から見た海の一風景だった。
或る日の夕陽に染まる海から身を躍らせる島喰い鯨とその特徴的な大きな顎に咥えられた、かつて己の従魔で最も強く巨大だった魔物と同じアビサルシーサーペントの姿だった。
ダンジョンで、それも一体しか見つけられなかった珍しく強大な魔物。
それを圧倒的な力で反撃を気にすることなく捕食する古の魔物。
再び海と海獣の魔力に取り憑かれ瞬間だった。
その後は内政を行いながらも再び従魔集めに奔走したそうだ。
……お前もまぁなかなかな人生送ったんだなぁ。
そうしみじみと本人を前に呟いてしまう程だ。
そんな会話をしながらも数時間、日が沈むだいぶ前に俺のダンジョンにたどり着いた。
レイス達と黒梟は浜辺で太陽を浴びてうだっている。
妖精二人組はこれでもかとはしゃいでいる。
そして……再び連れてこられたパオラが遠い目をしていた。
ちなみにシャルルはパオラの家に置いてきている。
ライラが迎えに一階層に来ているのも見えるが人数がかなり増えて驚いている。
これは再びの自己紹介かな、そう思いながら軽い足取りで迷宮の入口、海辺の洞窟へ皆を引き連れて入っていく。




