朝食と出発の準備
結果、酵母は無事っぽい。
レプリカすげーっ!
父上流石!
こんな感じだね、もう。
それじゃあバゲット含めパン作り始めようか。
まぁ、朝食のテーブルに並ぶのは無理だけどね。
だけど簡単なパンはいくつかはすぐに焼いてみようと思ってるけどね。
お、那月手ぇ空いてるね?
粉持ってきてくれない?
2キロもあれば十分だよ。
宜しく〜。
あ、メイビスに肉あげなきゃ。
あいつモンスターになったからこのダンジョン内だったら食事要らないらしいけどきっちり要求してくるんだよね。
レイスとリザードマンはそんなこと要求してこないよ。
いい子だねぇ。
別に前からあげてたし気にしないけどね。
でも前は自分で調達してくることも多かったよな。
俺はレイビスに指定されたカットをした生肉の入ったボウルを持って外に出る。
メイビスはレイスと遊んでいた。
いや、訓練か?
メイビスとレイスはドッグファイトを繰り広げていた。
魔法まで使って。
どうせなので少し観戦する。
思ったよりレイスってはやく飛べるんだなぁ。
直線距離ならメイビスの7割ぐらいの速度が出せている。
つまり時速30強は出せるという事だ。
原付並と。
いいんじゃない?
あぁ、一応言っておくがメイビスは本気ではない。
メイビスは50いかないぐらいで今飛んでいるがこれはかなり長距離飛行が前提の速度だ。
1時間2時間はこれで飛び続けられるだろう。
瞬間最高速度なら前は124キロを記録している。
しかしこの世界で魔法とかスキルを手にしたのでもっと早く、長く飛べることだろう。
是非とも2つの世界で最速の梟を目指していただきたい。
お肉を上げて戻ったら那月がもう生地を作り始めていた。
「お、来たか。
これ何かいれるか?」
那月が視線だけをこちらに向けて聞いてくる。
「そうだね。
バゲットはともかく他のは色々入れてみるか。
えーっとぉ〜、フェンネルシード、コリアンダー、ロズマリー、アーモンド、ラムレーズン、レーズン、ドライフラワー各種、ドライトマトも良さそうかな」
「チョコがないぞ。
あとなんか肉類も」
「チョコレート?
殆ど仕入れてないからこれに使うのは勿体ないんじゃないか?
肉類はそうだなぁ、ソーセージにベーコン、それに。
やっぱりベーコンでいいな。
胡桃で燻したのがあるからな」
「それ確か失敗したとかいってたよな」
「いや、でも使えるよ。
胡椒と岩塩が相性悪いけど他にも使えるスパイスはあるしね」
「胡椒と塩使えないのは結構大問題だぞ。
あぁ、チョコはやめておいて。
パンに入れてもいいけどそれならスプレッドあるから」
「私物か?」
「そう、私のおきにのやつなの」
「いいねぇ、俺はこっちには持ってこれなかったものが多すぎてな。
料理関係はまだいいんだが、個人的な酒や食材はない。
あと衣服や道具が足りなすぎるな。
手入れや直しのできるやつもいないしな。
あぁ、あと武器や装備もだな。
狙撃銃も短機関銃も刀も弓もシールドも投げナイフも、更には防弾チョッキも特殊繊維防護服も戦闘着もない。
こんな危なそうな世の中だってのに今はまともな武装が無さすぎる。
もう少しでいいから手に馴染んだ武器と装束があればいいんだが」
「私はそっちの方はさっぱりだからな。
まぁ、いつかみたいにいくつもの民間の軍事企業相手に喧嘩ふっかけたり、国レベルの武装集団に報復だとしても全面戦争したりしなけりゃなんでもいいさ。
あの時はほんと心配してたのに結局半分近く現地で遊んでただけだったよね」
「いや、普段行けない所だったしね。
あれは楽しまなきゃとおもってつい、な」
「はいはい、別に私はお前がすぐ死ぬとは思っちゃいないさ。
だが心配なもんは心配なんだよ。
だからお前、こっちでも無理しないでくれよ」
「りょーかいっと」
こんなふうに軽口を叩いたり愚痴を言い合ったりしながらパン生地を数種類作る。
あとは適温に置いておけばいい。
手の空いた俺達は朝食を用意する。
まぁ、まだ作ってあるのがあったのでほぼ並べるだけだ。
それももうこの1食分が限度だろう。
2皿程余りそうだが3人での食事となると少しばかり足りないだろう。
昼はしっかり作ろうかな。
昨日と同じテーブルに朝食の用意ができたのでダンジョン機能でパオラを見てみる。
流石に起きたようだ。
那月が用意したジャージの上下に着替えている。
少し大きめのようだが十分だろう。
部屋に行きさっさと顔を洗わせ口を濯がせ髪を軽く整えてから昨日と同じ椅子に座らせる。
パオラの近くにはちょっと朝にしては重いものがあるが昨日の様子からして食べきれるだろう。
ドリンクはそれなりに高いオレンジジュースを出しておいた。
本当は朝だし絞りたてがよかったけど生のオレンジがそんなになかったので却下した。
ちなみに那月はエスプレッソマシンで入れたカッフェにスチールミルクを入れたカップッチーノ。
ミルクがかなり多めの割合だがこれでいいらしい。
俺はカモミールティーだ。
オレンジの在庫がもっとあってフレッシュジュースが作れればそっちにしたんだけどね。
俺と那月はまず1口飲み物を口につけてから小さくて甘めのクロワッサンに手を伸ばす。
ああ、イタリアでコルネットくださいと言うと日本のよりかなり大きいのがドーンと来るから注意してね。
あとカスタードだったりチョコやジャムの味付けしたのも普通にあるよ。
これは小さいしプレーンだけどね。
目の前のハーフエルフは悩む素振りも見せずカツレツをフォークで突き刺した。
それ衣もチーズ使ってバターで揚げ焼きしたミラノ風だよ、重くない?
間違いなく朝起きて最初に食べるものじゃないよね。
こいつの胃はバケモノか!?
という俺と那月の視線は感じないらしい。
ちなみに頑張って面白い形にカットしたレモンは無視された。
そしてそのまま大口開けて1口に頑張って収めて頬張っている。
詰まるんじゃないかと思われたがちゃんとゆっくり咀嚼してうっとりした顔をしている。
ほんと、美味しそうに食べるよね。
うん、こっちとしても嬉しいよ。
ただ最初はそこにあるオレッキエッテとかニョッキとかアーティチョークのオムレツとかさぁ。
……やっぱり全体的にやっぱ重め?
「ご馳走さま」
那月が俺にそう言って席を離れる、前に手首を掴んで引き止める。
「ちょっと話すことがあるから待ってくれる。
パオラもね」
パオラは本当によく食べた。
昨夜もよく食べたが初対面の那月と話したりどうやって作るのか聞いたりしていた上、俺達も結構食べていたから気になってはいなかった。
だが朝起きて30分もしない内に俺と那月が2人で食べた量より更にたくさん食べられるとは思わなかった。
もしやこの世界の人は朝辛いとかないのだろうか。
体は覚醒と同時にフル稼働しているのだろうか。
そんな疑問を抱いた程だ。
そんなパオラは俺の台詞を聞いて遂に来てしまったか、みたいな悲愴な表情を浮かべるが1杯の冷たい紅茶を勢いよく飲んで覚悟はできた!といった視線を送って来る。
ちょっとどういう思考をしたのかよく分からない。
一晩寝てみて今の状況を冷静に確認出来てはいるのだろうが、俺とは思い違いがある様に見えてならない。
「今日の予定なんだけどね。
パオラを家まで送っていこうと思うんだ。
ついでに街も少し見てみるつもり。
あ、那月はここで待っててね。
ちょっと店を整理して欲しいし。
どうかな?
2人共?」
「私は行かない方がいいのか?
それともやることがあって残るのか?」
那月が隣りのパオラに目をやってからこちらを向き直して答える。
質問の内容は足でまといとかじゃないよね?ということである。
「あぁ、外に出るのは少し待って欲しいのも確かだがそれ以上にここで色々出来るのは那月だけだからね、頼みたい事があるんだ」
「そっか、ならいいぞ。
任せろ」
軽く腕を振り上げて自らを指し微笑する那月。
言動はカッコイイ系だが俺的には可愛くて仕方ない。
基本頼りになるイケメン的な言動をすることが多いが、ふとした時に可愛くて守りたくなっちゃう美少女が出てくるので心臓に悪い。
まぁ、最近は守ることなんてまずないけどな。
ほんと強くなって。
「私の家は郊外にある。
最初にそこに行ってもらいたい。
その後私と一緒なら街にも入りやすいだろう」
パオラが提案してきた。
元々そう誘導するつもりだったが随分積極的である。
多少嫌がってもゴリ押しするつもりだったので尚更そう思ってしまう。
料理が効いたのかな?
そうなら嬉しいな。
レイスとリザードマンは那月と一緒にお留守だ。
機動性も違うし見た目もね。
一緒って言っても2体にはダンジョンの入口を守って貰うんだけどね。
那月にはこのレプリカの確認を主にしてもらう。
バールの方はまだ殆ど見れてないし残りの食材の確認もしてもらいたい。
きっとかなりあるよな。
使い切れるといいんだけど。
こっちの世界で人間の部下を作れば食事もするかもだがモンスターだとまず食事をしないからな。
娯楽の為だけに食べるのが悪いとは言わないがそれにしてもそれなりの金がかかってるし、フォークもナイフもスプーンも使えないんじゃなぁ。
その上、味の感じ方も同じとは思えない。
どうしたものだろうか。
それは帰ってから考えるとしてまずは街だな。
パオラはリザードマンのシャルルの様子を見にいった。
その後着替えて1時間せず出れるらしい。
俺も1時間で用意を整える。
まぁ、そんなに時間かかることないけどね。
那月と皿洗いしながらやっておいて欲しいことやこの後どうして行くかを話す。
ついでに昼食のお弁当。
というかサンドイッチを作る。
20分程しか発酵させないタイプの生地でパンを焼いておいたのだ。
ちょうど食べる直前にオーブンに入れて今はだいぶいい色になっている。
艶のある綺麗なきつね色…少し手前ぐらいだ。
まだ白っぽさが目立つ。
縦は30センチはある大きめのコッペパンみたいな形だ。
まぁ、形だけの話であってコッペパンより表面の硬い部分が厚めでふんわりとした感じはさほど感じない。
それでもバゲットやクッペと比較すると柔らかい、いや、優しく脆い? まぁ、そんな感じの家のパニーノ用のパンだ。
そのパンに横からナイフで切れ目を入れる。
いや、実際は横からと言っても斜めに入ってるのだけれども。
そして切れ目から開いてオイルを少し垂らし再び、今度は開いた部分がカリッとするように焼く。
変に水分が多かったり柔らかいと、時間がたった時に食感が悪くなったり、味が変に馴染んだりせず、素材自体の味が楽しめるからな。
中身は今回は簡単なフレッシュハーブのサラダ、甘みと旨みを凝縮した長細めのドライトマト、グリルしたズッキーニ、炭火で焼いた赤パプリカ、塩味の強めなアンチョビ、普通に加熱した自家製のハム、イタリアで買った普通よりお尻側の肉を使った生ハム、スライスレモンやタイムや変わり種でアーモンドが入った鯵のマリネを用意した。
ソースやクリームもバジル、トリュフ、トマトがベースの3種が常備してある中で使えるだろう。
ああ、チーズを忘れていたね。
モッツァレラに焼いたスカルモッツァ、あとは仕入れたばかりだったカマンベール・ド・ノルマンディ、それに少し馴染みがないかもしれないがテストゥン・アル・バローロの計4種で行こう。
世界中で大量に作られているカマンベールだが本家大元はフランス、ノルマンディ地方で作られるカマンベール・ド・ノルマンディ。
無殺菌乳で作られ味に深みがあり、熟成がすすむと表皮の白かびが赤茶けてきて香りがましてくる。
色んな所で個性を出したものも売っているが是非一度は本家のこれを食べた方がいいと思うね。
テストゥン・アル・バローロはバローロの種子入りのワインの絞りかすにテストゥンという硬いチーズを漬けて更に熟成させたチーズだ。
最初は牛乳100%ののみの呼称だったが今は牛乳と羊乳の混乳もある。
今回使うのは混乳の方だ。
もちろんアルコールは抜けているが熟成したしっかりとした複雑で深みのある赤ワインの風味があり、漬けて熟成したことによりセミハード程には軟らかくしっとりとして混乳の良さも上手に引き出されている。
表皮に着いた絞りかすを時折摘むのも実にいい。
まぁ今回はパンに挟むんだけどね。
20分かけずしてかなりの量が出来た。
大きなバスケットにめいっぱい入れてこれは俺が持っていくことにする。
残りはここに置いていけばいい。
あぁ、色々入れたり形変えたりして焼いたパンも全て置いてくよ。
いや、つまみながら行ってもいいな。
それじゃあ大体は置いてくってことで。
それと荷物なんだけどね。
パオラに魔法について聞いてたんだよ。
そしたら俺の持ってる空間魔法の最初に覚えるのが格納できる自分専用の空間を作るやつだと知った。
それでさっき練習したら案外すぐ出来たんだよ。
容量はかなり大きいと思う。
しかし中は時間が普通に流れてて空気によって酸化とかの劣化、更には微生物の繁殖もあるってことが判明した。
よって殆どの食材や料理はダンジョンの機能、いや、ダンジョンマスターに付与される機能の収納庫に入れることにする。
こちらは状態固定だからね。
ものによっては魔法の格納の方がいいかもだがその手の物はレストラン自体に置くとこが設置されているものが多いし持ち運ぶことも少ないだろう。
ちなみに空間以外もいくつかの魔法が使えた。
しかしまだまだなので今度しっかり練習したい。
コアルームの本棚に開いてないけれどそれっぽいのも入っていたことだしね。
服装はゆとりのあるパンツだと森は面倒だがまぁなんとかなるレベルだと思うので下はそのまま。
上のジージャンは脱いで膝上まであるちょっとしたコートのようなものを着る。
もちろんそんな厚くないやつね。
雨避けで少しぐらい藪の中にも入れる丈夫なものだ。
またしても全身黒一色だが気にしてはダメだ。
そして現金が欲しいので今嵌めてるのとは別に銀の指輪を持っていく。
道中狩りをして足りなかったらこれを売るのだ。
これで準備はいいだろう。
さあ行こうか。
おいでメイビス。
レイスとリザードマンも1階まで着いておいで。
パオラとシャルルも準備良さそうだね。
あ、レイスの名前付けなきゃね。
さっきまで考えてたんだよ。
「『ライラ』ってのはどうだ?
夜って意味があるんだ。
他にもワインを意味することもあるんだが」
大袈裟にうなづいてくれている。
それでいいみたいだ。
「それじゃこれからよろしくね、ライラ。
まずは俺がいない間ダンジョンを頼むよ」
そう言って頭を撫でる。
それじゃ行こうか。
那月もここまででいいからね。
ついて来ちゃダメだよ。
「さぁいこうか、ロングティアへ!」




