一夜目6
「他に何か無いか?」
机の引き出しを順繰りに開けていく。
書類らしい紙束があるが湿気っていてインクがにじんでいた。暖炉があるが燃やせるとも思えない。
寒い訳じゃ無いが、暖炉に火を入れれば明るさに少しは気が休まるだろうと思ったのだが、薪の類いも無かった。
ふと、机の上にあるインク壷、その脇にペーパーナイフを見付けた。
(切れるものじゃないが、取っておくか)
「なぁ……そろそろ出ようぜ」
「あぁ」
廊下に出ると壁のカウンターは【62】となっていた。
(ユウイチと会ってから一時間近く経つのか)
この数字が0になった時、何が起こるんだ?未だに仮面は手に入れていない。他人を襲いたい訳じゃ無いが、明かりを探す為にタイム・ロスをしたのは痛い。
「あんまり明るいもんじゃ無いな、ランプってのは」
ランプを上げたり下げたりして光量を確認するユウイチ。
その言い草に少しイラッとくる。誰の為に時間を潰したと思ってるんだ。
……ぅわああぁぁぁ……
「何だ!?」
それは廊下の向こう、曲がり角の奥から聴こえてきた。
「行くぞ!」
「お、おいマジかよ!?」
オレは曲がり角に向けて走った。
角で足を止め、壁越しに覗く。
蜘蛛!?
人の背丈ほどにもなる蜘蛛が男を押さえ込み、牙を打ち付けていた。
「ぁああぁぁ……」
倒れた男が仮面越しにくぐもった呻きをあげる。
「……ぅ、あ、あれじゃあ助からないぞ」
追い付いたユウイチがそう言ったが、オレは蜘蛛に向かって走り出した。
鉈を振り上げて蜘蛛の頭に叩きつける。
ガツッと堅い音がして鉈が弾かれた。指が痺れる。
鉈の刃は運悪く仮面に当たってしまったのだ……仮面?
仮面だ!蜘蛛の頭に被せる様な形で仮面が貼り付いている。
蜘蛛は牙を男から外すとオレにのし掛かってきた。
「ぅ、うわっ!?」
蜘蛛の口許に付いた小さな腕の様なものの先、二本の牙がオレを刺そうとする。
足を滑らせたオレは鉈を盾に、蜘蛛の牙をかわす。
二度、三度と牙が振るわれる。のし掛かられて思う様に身動きがとれない。
くそっ!
(駄目か……?)
ヂイィィィ……!
突然、蜘蛛が悲鳴を上げ、仰け反る様に身悶えした。
その隙になんとか脱け出す。
「ちくしょう!死ね!死にやがれ!」
ユウイチが手斧を蜘蛛の胴体と腹の間に叩きつけるのが見えた。何度も。何度も。
体勢を立て直したオレも蜘蛛を滅多切りにする。
……気がつけば、蜘蛛は解体された様にバラバラになっていた。
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