一夜目3
しゃがみ込んだ男は声を上げた。
「待て!待ってくれ、俺じゃない!」
『俺じゃない』
どういう事だ?
奴の前に倒れているのは女らしい。
パッと見た印象では奴がこの女を……
……違うという事か?
オレは慎重に男の許へ近付く。
奴はオレと同じ様にツルリとした仮面を被っていた。手には小振りの斧、薪を割るのに使う様な斧を握っている。
見たところ、倒れた女からは血が出ている様子は無い。
「アンタがやった訳じゃ無い、って事か?」
「あ、あぁ……俺じゃない。俺が来た時にはこんなだった」
濡れ衣を着せられずに済んだせいか、男は息を吐いた。
女は絶命している。
夢の中で絶命だの、弁解だの……妙に芸が細かい。
女は仮面を被ってはいなかった。呆気にとられた様な表情。
彼女のものらしい仮面は、その右手が握っている。丁度、顎の部分を摘まんでいた。
自分の仮面、その顎に指を添えてみる。なるほど、このまま上にずらせば仮面は簡単に外れるだろう。
「自分で仮面を外した……」
「みたいだろ?」
『自分の仮面を外してはいけません』
ルールの最初に書いてあった。
「仮面を外すと……まさか」
「……こうなるのかよ!?」
外傷はどこにも無い。
思わず自分の鉈を見る。仮面を集めるって事は……
「なぁ、この娘……本田あさみじゃないか?」
女の素顔をまじまじと見ながら男が呟いた。
「……誰だ?知り合いか?」
「知らないのかよ?KGB84だよ、入ったばかりで一気に人気が出た」
あぁ、アイドル集団の。
「ファンか?」
「いや知ってるだけだけどさ」
まぁ、夢の中の話だ。オレはアイドルには疎いし、目が覚めたら実在はしていないんだろう。
「仮面、獲らないのか?」
「俺が?」
「アンタが先に見付けたんだろ」
オレが促すと男は恐る恐る手を伸ばし、仮面に触れた。
「あ?」
奴の指が触れた途端。
仮面が……いや、本田あさみという女が粉の様に崩れた。
────────