調べる
その言葉は、この本は外れだったかもしれないと、半ば諦めた時オレの目に飛び込んできた。
『犬神憑きの術は、中国由来の蠱毒をアレンジしたものと思われ』
蠱毒……?
『因みに夢という文字は蠱毒を操る術者の姿を象ったものと』
夢!?
オレは本棚に戻すと、受付へPCを借りに歩いた。
検索ワードを打ち込んではメモを取り、新たなワードを打ち込む。
取ったメモを読み返し、考える。
そうして練った文章を書き起こした。
(これなら)
あの女の企みを潰す事が、いや、妨げになれば。
PCで匿名掲示板にアクセス。書き込んだ。
893:タクジ
『ムコ』に取り込まれている全員へ。
今夜は寝るな!
これは蠱毒だ。オレ達は蠱毒の材料である毒蟲の役回りをさせられている。
知らない者に説明すると蠱毒とは百匹の毒蟲を壺に入れ喰い合いをさせる。生き残った一匹を呪術の触媒に使うというものだ。
となれば仮面を集めて得る規定の点数は『99』となるだろう。
『ムコ』は夢が壺の代わりだ。『ムコ』に漢字を当て嵌めれば
『夢蠱』
となるのだと思われる。
この状態から脱するには壺から蟲が逃げればいい。つまりオレ達が寝なければ術者の計画は潰れる。
明日は日曜日。今夜一晩眠らずにいるには都合がいいはずだ。
全員は無理でも一人でも多くの参加を願う。
────────
オレは打ち込み終わると、一つ大きく息を吐いた。
(無理だろうか?)
人それぞれに都合がある。明日用事があって眠らない訳にはいかない者もいるだろう。
しかし、夢という壺から多数の逃亡者が出れば、主催者の計画は少なくとも一からやり直しになるはずだ。
『夢蠱』は覚醒夢だから寝不足感が溜まる。そのせいで今まで誰も徹夜などしていないと思う。気が付かなければ壺から出れない仕組みなのだ。
寝不足感、カウンター、ペナルティー……
これらはオレ達の思考を鈍らせ、夢から逃げる方法を考えさせない為のものなのだ。
これで『夢蠱』から抜けられれば……
……だが、不安は残る。
抜けられるのか?
────────




