四夜目6
現れた女は、20代くらいだろう……
仮面を被っていないのは自分が上位者であると解らせる為か。
だとしたら、配列がぐちゃぐちゃになり続ける顔は?
単にこちらへ不快感を与える為では無いだろう。
いちいち鼻につく仕草を見れば、自己顕示欲の強いタイプに思える。
そんなタイプの女が、気色悪がらせる為だけにあんな小細工をするものだろうか。
(顔を、覚えさせない為か!?)
「……何をしに来たんだ?」
「あら、解るでしょ?ルールを……一部でも読み解いた貴方なら」
女は歪み続ける顔でクスクスと笑う。
「手前ぇ!」
最初の衝撃から立ち直ったユウイチが、持っていた手斧を投げ付けた!
ぶぅん!と音を立てた手斧は、しかし女の腹を素通りして後ろの壁に当たる。
「ホログラムってヤツかよ!?」
「……いえ、夢なんですから」
「せっかちね。まぁ、『ムコ』には丁度いいけど」
面白そうにオレ達を窺う女に、オレは訊いた。
「オレ達を処分しに来たのか?」
「まさか。ルールを一つ無効果されたくらいで、そんな勿体無い真似はしないわ」
勿体無い……?
「そうね、通告、と謂えばいいかしらね」
女はまた足を組み直し、髪を払う。
「今後、貴方達は他の人達に出逢わない様にしてあげる。蟲だの獣だのと遊ぶといいわ、仮面を集めるのに不自由はしないでしょ?」
「仲間を増やされたくない、って訳か。ルールを削りたくないからだな?」
「まぁね、それをされるとこっちの思惑が……駄目にはならないけど、遅くなるのよ」
そう言うと、女の姿がぼやけ始める。
「お!おい!お前の名前は!?」
引き留める為にそう訊いたのだが。
女は消えてしまった。
消える際、不愉快そうな表情をした様に見えたのは……気のせいだっただろうか?
部屋が元の様に暗くなる。
「な……なんだアイツ!?」
「変ですね?名前くらい教えてくれても良さそうなのに」
確かに。ああいう自己顕示欲の強そうなヤツなら、訊かなくても自己紹介くらいしそうな気がする。
この夢を視せる事の何が目的なのか、そんな事は喋るはずも無いだろうが、自己紹介をしないというのが引っ掛かった。
あの不愉快そうな表情。顔のパーツが散らかっていても判る程に。
名前を訊かれたのがそんなに嫌だったのか?
(有名人……という訳じゃ無さそうだが)
「しっかしよ、アイツどうやって俺達に夢を視せてんだ?」
「さぁ……魔法、とか?」
「ユミちゃんよぉ、そりゃ無ぇだろ」
まぁ、魔法なんてさすがに……
……魔法?
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