二夜目4
二人の言い争いは白熱していてオレ達にはまるで気付かないでいる。
声をかけるべきなのか?
下手に仲裁なんかするつもりで顔を出したらこちらに飛び火した、なんて事もありそうに思える。
まさかこの言い争いがフェイクで、仲裁に来た間抜けを餌食にする罠なんて事は……無いとは思うが。
「……タクジ、どうする?」
ユウイチが小声で訊いてきた。声の調子から『関わりたくない』のが感じられる。
もしコイツらが喧嘩別れするなら、どちらかと組む……難しいな。
どうするか思案していた時。
「このやろう!」
男が持っていた手斧を振り上げた。
「ぁがッ!?」
重く、鈍い音と同時に女の口から変な声が漏れる。
女の脳天から手斧が引き抜かれると、女は膝から崩れ正座する様に尻を着いた。
「このクソが!死ね!死ね!」
男が乱暴に手斧を振り回す。
やがて。
血塗れになった男は肩で息をしながら女の姿を見下ろしていた。
ユウイチを見れば真っ青だ、多分オレも同じ顔をしているだろう。
「……あ」
女を見下ろしていた男が、自分の握る手斧と倒れた女を交互に見やる。
「あ……あ?な……なんで!?」
男は手斧を捨てると、女の両肩を掴む。
「う、嘘だろ?なんでこんな……キ、キョウコ?おい!お……」
男は自分のした事を今気付いた様に、女を抱き締める。
……どれくらい経っただろう。
男は女を寝かせ、手を組ませると。
おもむろに自分の仮面を取った。
「あっ!?」
それはオレが言ったのか?それともユウイチが言ったのか……
仮面を取った瞬間、男はぱたりと倒れた。
「ど、どういう事だ?」
「……さあな」
オレは男に近寄り、その顔を見た。
泣きはらした顔は、絶望に歪んでいた。
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