二夜目2
待ち合い室の様な部屋を出る。
まず目についたのは梶原 悟と化け物蜘蛛の……粉の山だ。
風が吹いたのか、原形が判別出来無いほど崩れたそれらは、床に薄く積もった雪の様に見えた。
「奥に行こう」
暗く続く廊下に懐中電灯を向ける。
「なぁ、その懐中電灯……電池大丈夫か?」
「そっちのランプはどうなんだ?軽くなった感じはするのか?」
「いや……減らないのかな?」
夢の中だ、その辺りは都合良く出来ている気がする。
こんなので電池切れやオイル切れなんて起こす様なら、部屋毎に家探しをしなけりゃならない。『既定の点数』を集めるのに何日かかるか知れたものじゃないだろう。
「この先に誰かいるのかな……」
「梶原 悟か化け物蜘蛛が通った跡はあるんじゃないか?」
梶原 悟、あの死刑囚が向こうから来たのであれば、二人分の『粉の山』があるだろう。
オレが期待しているのは、梶原 悟ではなく化け物蜘蛛の場合だ。
あの蜘蛛が、何人か餌食にしていたならきっと……
「ぅ!うわっ!」
ユウイチが声を上げた。
くにゃり、と。
そこには男、だったらしい死骸が落ちていた。
『落ちていた』と云う他は無い。
それは人の皮で出来た袋にしか見えなかった。
「……こっちから蜘蛛が来た、って訳か」
「き、気色悪ぃ」
蜘蛛には顎が無く、歯も無い。
獲物の傷に口から消化液を出して内臓を溶かし、それをすする。
この皮袋は蜘蛛の犠牲者だ。
「見ろユウイチ、仮面だ」
皮袋の頭には仮面がまだ着いていた。首のペンダントに表示された数字は『0』
何も解らないうちに喰われたのだろう。
「ユウイチ、仮面獲れ」
「……いいのか?あぁでも気色悪ぃな」
厭そうにユウイチは仮面を手に入れた。
仮面はユウイチが手にするとふっ、と消え、床には僅かばかりの粉が生まれた。
やはり、仮面が処理されると死体は粉に変わるらしい。
オレが仮面を譲ったのは、ユウイチとの点差が開かない様にだ。
点差が開けば要らぬ敵愾心を煽る事になる。
コイツの事は好かないが、今は殺し合う気にはなれない。
……誰も殺したいとは思わないが。
例えば梶原 悟の様な殺人鬼だったなら、戦わざるを得ないだろうし、蜘蛛の様な生き物であれば仮面を剥ぎ獲るのに躊躇はしないだろうが、普通の人間を相手にはしたくない。
この『ムコ』とかいう夢の中での死は、現実に直結しているかもしれないのだ。躊躇って当然だろう。
……もちろん、ただの偶然という可能性は捨て切れないのだが。
今は獣などの獲物から仮面を拾うのが、安全策だ。
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