午後
「大丈夫か?随分しんどそうだが……早退するか?」
「いえ……大丈夫ですよ課長」
「無理そうなら言ってくれよ」
朝方、夢見が悪くて調子が良くない、などと世間話に話してはいた。
昼飯から戻ったオレの顔を見てその事を思い出したのだろう、課長が気を遣って言った。
体調が悪い訳では無い。
知らない顔、いや忘れていた顔の男女が、オレの夢の中で死に、その同じ夜に現実でも死んでいた。その偶然に気分が悪くなっただけだ、そんな事で早退なんかしていられない。
偶然……?
……偶然だ。
見た覚えの無い人間が夢に出てくるなんて普通にあるだろう?
それは通りすがりだったり、居もしない恋人役だったり、昨日はたまたま死体役だった。それだけの話だ。
オレはデスクに向かい、午後の仕事に取り掛かった。
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調子が良くないと言い訳をして同僚との飲み会を断る。
社員寮の晩飯を食った後、自室でテレビをつけた。
『本田あさみ』の追悼番組が急遽組まれたらしい。似た様な顔の娘達が涙を浮かべながらインタビューに答えている。
チャンネルを変える。
『本田あさみ』
『本田あさみ』
『本田あさみ』
『一家惨殺犯、急死』
梶原 悟、だったか?
死因は『心不全』
テレビでは惨殺された3人の家族が微笑む写真。次いでまた護送車に乗せられた男の顔。
キャスターが専門家にインタビューする。
『そうですね、例えば呼吸、私たちは普段意識して呼吸をしていませんが、これは脳からの信号で横隔膜を動かしています。しかし心臓の場合』
オレは興味も無く上滑りする話をぼんやりと聴いていた。
(『本田あさみ』と『梶原 悟』か……)
偶然同じ夜に死んだ縁も所縁も無い二人。
共通点は同じ死因、そしてオレの夢でも死んでいる事……
(馬鹿げている)
今日何度そう思っただろう。
偶然だと打ち消しては、何かの拍子に二人の死に顔がフラッシュバックする。
呑み干したビール缶を握り潰し、早々に布団に潜り込む。寝てしまえば気分も変わるだろう。そうして数日経てば忘れているさ……
目を開けると暗い部屋。
オレは病院の待ち合い室にある様な長椅子にどっかりと座っていた。
(この長椅子……)
頭を上げれば、所在無さげに立つ……
……ユウイチ?
部屋の壁には蛍光色に光る『ルール』
そしてカウンター。
【00】
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・
・
【120.00】
「……嘘だろ?」
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