一夜目1
夢だ。
今自分は夢を視ている。それが解っている。
覚醒夢とかいうやつだ。
オレの目の前には『ルール』と記された文言が壁に書かれている。
薄暗い部屋の中、その文章だけが緑の蛍光色に光っていた。
辺りを見回す。
小学校の教室?懐かしい机が並んでいる。が、その部屋には窓が無く、黒板も教卓も無い。机にはセットなはずの椅子も無かった。
教室の様に見せ掛けているだけで、四方の壁は石造り。
(……妙な夢だな?)
夢なんて大抵周りの景色は雑なものだ。以前見た事の有る様な、それでいて現実とは何かが違う。
暗い部屋には取り立てて目を惹くものは無い。
……オレは自然『ルール』に目がいった。
【ルール】
『自分の仮面を外してはいけません』
『仮面一枚に付き1点です』
『規定の点数を集めればムコは終了です』
『他者と協力する場合、時間でペナルティが累積します』
……なんだこれは?
ルールと謂いながら書かれている文章は穴だらけじゃないか。
規定の点数って……いくつだよ?
協力するとペナルティ?時間で累積?
……だいたいムコってなんだ?
思わずオレは顔に左手を当てた。
硬質なツルリとした手触り。仮面か?被っている感覚が無かったのは夢だからなのだろう。
その時気付いた。
右手に何か持っている。
意識してはいなかったが、左手で顔に触れたのはそのせいか?
右手に目をやる。
鉈……?
刃渡りが4~50cmは有りそうな大振りの、鉈。
……なんだこの夢?
目の部分だけ開いた仮面に鉈。
いつの時代の映画だよ。頭ハゲて無いだろな……あ、生えてた。
自分の姿を見下ろすと、動き易そうなツナギに、首から何かぶら下げている。
ペンダント……と謂っていいのか?装飾の無い板状のそれにはデジタルな『0』が浮かび上がっていた。
(点数表示?自分の仮面は点にならないって訳か)
つまり誰かの仮面を、それも複数集めろという事……らしい。
仮面を獲られたら負けのゲームってことなのか?
その為に鉈を使えと?
いや、夢だからアリなのかもしれないが、こんな夢を視ている自分って……
普段表に出ない破壊衝動の発露、とか?
(なんだか危険人物みたいじゃないか。オレはそんな……)
頭を振る。
部屋の中は暗い。灯りになるものは無いかと見れば、机の一つ、カバンを掛けるフックに懐中電灯。
(……妙なところで現実的なんだな)
夢なのだから真っ暗闇でも大丈夫な気がするが、フックから懐中電灯を外して手に入れる。
他にめぼしいものは無い様だ。
取り敢えず部屋を出よう。そう思い、引戸を開けて暗い廊下へ足を踏み出した。
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